アシュアランス ステークホルダーを信頼でつなぐ
デロイト トーマツ グループ
日経BP
アシュアランス ステークホルダーを信頼でつなぐの要約
アシュアランスは単なる情報の信頼性確保にとどまらず、企業の持続的成長と社会全体の発展を支える重要な基盤となっています。経営者は、アシュアランスを戦略的に活用することで、グローバルマーケットでの厳しい競争を勝ち抜き、企業価値の向上と社会的責任の遂行を両立させることができます。
デロイト トーマツ グループが提案するアシュランスとはなにか?
アシュアランスとは、企業が開示する情報(数値だけでなく内部統制等の定性的情報も含む)の信頼性について独立した第三者が検証手続を実施し、報告書等の成果物を発行する行為を幅広く指すものとする。(デロイト トーマツ グループ)
グローバル化とDXの急速な進展により、企業経営の舵取りは、かつてないほど複雑化しています。ITの進化、地政学リスクの増大、気候変動に対する危機感の高まりなど、様々な要因が絡み合い、経営者は困難な意思決定を迫られています。
こうした事業環境の激変は、ビジネスのブラックボックス化を招き、ステークホルダー間の情報の非対称性を拡大させています。その結果、日本社会全体の不確実性が増大し、企業間の信頼関係構築がより一層難しくなっているのです。
このような状況下で、経営者が取るべき重要な施策の一つが、「アシュアランス」の活用です。アシュアランスとは、企業が開示する情報の信頼性について、独立した第三者が検証手続を実施し、報告書等を発行する行為を指します。これは単なる数値データだけでなく、内部統制などの定性的情報も含む幅広い概念です。
アシュアランスを取得することで、経営者はステークホルダーに対して情報の非対称性を解消し、信頼を獲得することができます。これは競合他社との差別化を図る上で極めて有効な手段となります。さらに、グローバルマーケットにおいて、互いに信頼できる相手であることを示し合うことで、社会全体の持続的な成長にも大きく貢献することができるのです。
かつては、よく知っている安心できる取引相手とのみビジネスを行えば十分だった時代もありました。しかし、グローバル化やDXの進展により、取引相手と直接顔を合わせる機会は減少し、互いの匿名性が増しています。こうした不確実性に満ちたビジネス環境において、企業が持続的な成長を遂げるためには、革新的な製品・サービスの導入や、サプライチェーンの変革による新たな企業との提携など、これまでにない領域へのチャレンジが不可欠となっています。
しかし、こうした「新たな領域」への展開には、当然ながら大きなリスクが伴います。経営者にとっては、新たに導入しようとしている製品・サービスの信頼性や、新たな提携先企業の信頼性に不安を感じることも少なくないでしょう。
この不安を解消する手段がなければ、経営者は「新たな領域」へのチャレンジに躊躇してしまい、結果として企業の成長機会を逃してしまう可能性があります。 ここで重要な役割を果たすのが、アシュアランスです。第三者からのアシュアランスを取得することで、経営者は自社の情報開示の信頼性を高め、ステークホルダーからの信頼を獲得することができます。
これは、新たな取引先や提携先との関係構築を円滑にし、「新たな領域」へのチャレンジを後押しする強力なツールとなります。 さらに、アシュアランスの取得は、経営者自身が受託責任を果たしていることを説明する手段としても有効です。不確実性の高い環境下において、経営者が適切にリスク管理を行い、企業価値の向上に努めていることを客観的に示すことができるのです。
ITのアシュアランスサービスには、様々な種類があります。これらは企業や組織のITシステムやセキュリティの信頼性を確保し、第三者による客観的な評価を提供するものです。
・SOC(System and Organization Controls)
企業が他社にサービスを提供する際の内部統制に関する保証業務です。例えば、クラウドサービス提供会社が自社のシステムやセキュリティ対策が適切であることを証明したい場合に利用します。SOCレポートは、サービスの利用を検討している企業に安心感を与えます。
・ISMAP(政府情報システムのためのセキュリティ評価制度)
日本政府が設けた制度で、政府機関がクラウドサービスを調達する際のセキュリティ基準を定めています。ISMAPに登録されたクラウドサービスは、政府の求める高いセキュリティ水準を満たしていることが保証されます。これにより、政府機関はより安全にクラウドサービスを導入できます。
・AUP(合意された手続)業務
依頼者、報告書の利用者、そして監査人の三者が事前に合意した特定の手続に基づいて行われます。監査人はこの合意された手続を実施し、その結果を報告します。例えば、特定の取引や会計処理の正確性を確認したい場合などに利用されます。
・その他の認証系業務
例えば、プライバシーマークは、個人情報保護に関する認証です。企業が適切に個人情報を管理していることを示すマークで、消費者からの信頼獲得に役立ちます。また、
ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)認証は、組織の情報セキュリティマネジメントが国際基準に適合していることを証明するものです。 これらのアシュアランスサービスは、それぞれ異なる目的や対象を持っていますが、共通しているのは信頼性の確保です。
企業はこれらのサービスを利用することで、自社のITシステムやセキュリティ対策の信頼性を客観的に示すことができます。これは取引先や顧客との関係構築に役立つだけでなく、自社のリスク管理の向上にもつながります。 近年のデジタル化の加速に伴い、これらのアシュアランスサービスの重要性はますます高まっています。企業は自社のニーズや状況に応じて、適切なサービスを選択し、活用していくことが求められます。
このように、アシュアランスは単なる情報の信頼性確保にとどまらず、企業の持続的成長と社会全体の発展を支える重要な基盤となっています。経営者は、アシュアランスを戦略的に活用することで、グローバルマーケットでの厳しい競争を勝ち抜き、企業価値の向上と社会的責任の遂行を両立させることができます。
広告投資におけるアシュアランスとは?
メディア・オーディットの役割は広告投資の不透明さを解消し、投資利益率を可視化し、投資効率の改善に役立つ「広告の売り手ではない、第三者からの助言」を得ることにある。
私の古巣の広告会社でも、アシュアランスが求められています。実は、広告投資は企業のブランディングや、マーケティングにとって重要な経営判断の一つになっています。しかし、その効果測定や投資効率の評価は容易ではありません。そこで注目されているのが「メディア・オーディット」です。
メディア・オーディットとは、広告の売り手ではない第三者機関が広告投資を客観的に評価する仕組みです。その役割は主に以下の3点です。
・広告投資の不透明さを解消する
・投資利益率を可視化する
・投資効率の改善に役立つ助言を提供する
欧米では多くの企業がメディア・オーディットを実施し、その投資効果を明らかにしています。報告会には、マーケティング部門だけでなく、経営層やファイナンス部門、購買部のスタッフも参加するのが一般的です。これにより、広告宣伝費の聖域化や情報の不透明化を防ぎ、株主や投資家への説明責任を果たすことができます。
複雑化するメディア環境において、広告効果を安定させるためには、多様なメディアへの「分散投資」が重要です。新聞、テレビ、オンライン動画など、人々のメディア接触は多様化しています。客観的なデータに基づいて、ロジカルに露出を調整していく必要があります。
ただし、広告媒体投資において大きな変更を行うと、失敗するリスクも高まります。そのため、以下のようなアプローチが考えられます。
・過去の実績や競合の状況を踏まえた、基本に忠実な媒体投資
・新たな可能性を見据えた、チャレンジ枠としての広告投資
これらを明確に分けて継続的に運用することで、安定性と革新性のバランスを取ることができます。 メディア・オーディットを活用し、客観的なデータに基づいた広告投資の最適化を行うことで、持続可能な広告投資利益率の改善につながります。
上場企業の財務諸表が監査を受けるように、広告投資もまた適切な評価と監査を受けるべきです。それが、より効果的で透明性の高い広告活動につながるのです。広告会社もそのために監査機関にデータを提供し、協力することが今後は今以上に求められるはずです。
アシュアランスが現代の経営に必要な理由
歴史を振り返ると、人類は、信頼をベースにしながら、お互いの協力関係を構築し、成長を成し遂げてきた。歴史は繰り返すものであり、日本企業が、今後の持続的な成長を見据えて、新たな領域でのチャレンジを躊躇なく進めていくには、ステークホルダーに信頼を示す、そして、ステークホルダーと信頼でつながっていくことが、極めて重要になってくる。
古代の文明では、異なる集落や部族間の交易が、信頼関係の構築から始まりました。相手の善意を信じ、公平な取引を行うことで、互いの利益を最大化することができたのです。中世になると、商人たちは遠隔地との取引を拡大し、信用状や為替手形といった信頼を担保する仕組みを発展させました。これらの仕組みは、見知らぬ相手との取引を可能にし、国際貿易の基礎を築きました。
産業革命期には、株式会社制度の発展により、投資家と企業の間の信頼関係が重要性を増しました。投資家は企業の将来性を信じて資金を提供し、企業はその信頼に応えるべく事業を拡大しました。この相互信頼の仕組みが、近代資本主義の発展を支えたのです。
ビジネスの世界でも、多国籍企業の台頭により、異なる文化や価値観を持つステークホルダーとの信頼関係構築が不可欠となりました。 そして現在、デジタル革命の時代を迎え、私たちは再び信頼の重要性を再認識しています。インターネットを介した取引やコミュニケーションが日常となる中で、サイバーセキュリティや個人情報保護など、新たな形での信頼構築が求められています。
このように、歴史は確かに繰り返します。しかし、それは単なる回帰ではなく、時代に応じた形で信頼の重要性が再確認される過程なのです。日本企業が今後の持続的な成長を見据えて新たな領域でのチャレンジを躊躇なく進めていくには、この歴史的な教訓を活かすことが重要です。
具体的には、ステークホルダーに対して信頼を示すだけでなく、ステークホルダーと信頼でつながっていくことが極めて重要になってきます。これは、単に良好な関係を維持するだけでなく、企業の競争力そのものを左右する要素となるでしょう。
例えば、投資家に対しては、透明性の高い情報開示と責任ある経営姿勢を示すことで信頼を獲得できます。従業員に対しては、公正な評価制度や充実した福利厚生、キャリア開発支援などを通じて信頼関係を構築できます。取引先や提携企業とは、公正な取引慣行や長期的視点に立った協力関係の構築が信頼につながります。 さらに、地域社会や環境に対する責任ある行動も、幅広いステークホルダーからの信頼獲得に寄与します。
SDGs(持続可能な開発目標)への取り組みや、ESG(環境・社会・ガバナンス)経営の推進は、現代における信頼構築の重要な要素となっています。 このような多面的な信頼関係の構築は、企業が新たな挑戦を行う際の強力な後ろ盾となります。
未知の領域に踏み出す際、ステークホルダーの支持と協力があれば、リスクを最小限に抑えながらイノベーションを推進することができるのです。 また、グローバル市場での競争においても、信頼は重要な差別化要因となります。文化や価値観の異なる相手との取引において、信頼できるパートナーとしての評価は、ビジネスの成功確率を大きく高めます。
日本企業が持続的な成長を実現するためには、歴史から学んだ信頼の重要性を現代に適用し、ステークホルダーとの強固な信頼関係を構築することが不可欠です。この信頼関係こそが、不確実性の高い世界で新たなチャレンジを可能にし、イノベーションを推進する原動力となるのです。
不確実性が増大する現代のビジネス環境において、アシュアランスの重要性は今後さらに高まっていくことが予想されます。経営者は、この変化を先取りし、積極的にアシュアランスを活用することで、企業の競争力強化と持続的成長を実現することができるでしょう。アシュアランスは、未来志向の経営者にとって、もはや避けて通れない重要な経営ツールとなっているのです。
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