百戦錬磨 (ハロルド・ジョージ・メイ)の書評

百戦錬磨
ハロルド・ジョージ・メイ
時事通信社

百戦錬磨 (ハロルド・ジョージ・メイ)の要約

経営者にとって「グッドハート」を持つことは重要です。正しいことを行い、人を大切にし、情熱と集中力を持って仕事に取り組むことが、優れた経営者の資質です。「グッドハート」を持つリーダーは、長期的な視野で会社と社員を守り成長させます。このようなリーダーシップが、成功する企業を築く鍵となります。

経営者に必要なことは、グッドハートを育むこと

私にはプロ経営者としてのモットーが1つあります。それは「自分が創り出した会社ではないので、何があっても絶対に会社をつぶさない。お預かりしている間により良い状態にして、確実に次にバトンをつなぐ」ということです。 (ハロルド・ジョージ・メイ)

「百戦錬磨」という言葉は、多くの戦いや経験を積んできた者の強さや確かな技術を指します。本書の著者、ハロルド・ジョージ・メイ氏は、まさにその言葉にふさわしいプロ経営者で、彼のアドバイスから経営者は多くの学びを得られます。外資企業と日本企業、計6社を渡り歩いた経験と豊富な知識を持つ彼は、特異な視点からリーダーシップやビジネスについて私たちに教えてくれます。

プロ経営者の役割は単なる会社の運営だけではありません。短期的に企業を復活させ、成長させることが求められます。そして次の経営者に良い状態で経営を引き継ぐことが重要です。メイ氏は、これを実現するための具体的な戦略と実践方法を本書で詳述しています。

著者の経営のスタイルは、カラフルで楽しい仕事環境を作り出すことです。職場に創造性を取り入れ、新しいアイデアを歓迎する文化を育てることが重要です。定期的なブレインストーミングセッションや、オープンなフィードバックの機会を設けることで、社員が自由に意見を出し合える環境を作ることで、会社は成長すると言います。

著者自身もさまざまなアイデアを生み出し、社員と共にそれを実践し、売上を高める努力を続けています。例えば、TVの天気予報番組に無料で露出するためにリプトンの船を浮かべたり、空港にタカラトミーのガチャガチャのスペースを設けて、インバウンド客の小銭でお土産需要を作り出すなど、そのアイデア力と行動力から私たちは売上アップの方法を学ぶことができます。

社長になるために必要な特徴は、第一に図太い神経を持っていること、くよくよ悩まない楽天的な性格であること、行動力と熱意がありタフであること、他の人を巻き込むのが上手いこと、あらゆる角度から物事を見られること、他の人の意見も聞き頑固ではないこと、社交的であること、結果主義であることだと思います。

社長になるためには、図太い神経、楽天的な性格、行動力と熱意、他者を巻き込む力、あらゆる角度から物事を見られる視点、社交性、結果主義など、さまざまな特徴が必要です。

しかし、それ以上に重要なのは「グッドハート」を持つことが重要だと著者は言います。正しいことを行い、人を大切にし、情熱と集中力を持って仕事に取り組むことが、優れた経営者としての資質を形成します。「グッドハート」を持つリーダーは、長期的な視野を持ち、会社と社員を守り、成長させることができるのです。このようなリーダーシップが、真に成功する企業を築き上げるための鍵となります。

日本の経営者に必要なこと

グローバル化が進み、日本企業が国際競争力を維持するためには、実績で評価される欧米型経営の要素を取り入れる必要があると思います。

ビジネスには、良い時も悪い時も必ずあります。会社をリードする経営者が自信に溢れ元気でいることで、組織全体に良い風を吹かせることができます。しかし、自信満々に大きなことを言い過ぎると、いずれ下り坂になった時に矢面に立たされ、「あの社長になってからダメになった」などと内外から批判されることがあると著者は指摘します。

経営者が顔を出し、自分の言葉で会社の未来を語ったり、有事の際に声明を出すことが少ないのは、どんなに調子が良い時でもその状況がずっと続くわけではないと理解しているからです。しかし、ダメになった時のことを常に考えすぎて、必要な時に前に出てこなかったり、社員を励まし奮い立たせることができなければ、その経営者はリーダーとして全く機能していないと言えます。

顧客だけでなく、従業員、投資家、ステークホルダー、パートナーに対して、自社のビジョンや目的を積極的に説明することが重要です。良いことも悪いことも包み隠さず発信できるリーダーが、強い組織を作り、支持される会社を築くのです。

経営者は、成功と失敗の狭間で常にバランスを取る必要があります。成功している時には、自信を持ちつつも謙虚さを忘れず、社員やステークホルダーとの信頼関係を築くことが大切です。失敗している時には、自分の過ちを認め、迅速に対応策を講じることで、再び信頼を取り戻す努力をしなければなりません。

日本の企業では、結果に対する甘さがあると感じます。赤字を数年連続で出していても、株価が下がり続けても、大きな経営の判断ミスがあっても、社長が交代することなく続行される企業は少なくありません。これは、企業文化や経営体制に起因する部分も大きいですが、グローバル化が進む中で、国際基準を取り入れ、経営者の競争力を高めるべきだというのが、著者のメッセージになります。

日本企業が国際競争力を高めるためには、以下のような欧米型経営の要素を取り入れることが必要です。
①実績に基づく評価
経営者や管理職は、実績に基づいて評価されるべきです。業績が悪化した場合には、経営陣の交代も視野に入れるべきです。

②透明性の確保
経営の透明性を高め、ステークホルダーに対して誠実な情報開示を行うことが重要です。これにより、企業の信頼性が向上します。

③リーダーシップの強化
経営者は、強いリーダーシップを発揮し、社員を鼓舞し、会社のビジョンを明確に伝えることが求められます。

④革新と柔軟性
市場の変化に迅速に対応できる柔軟な経営体制を整え、革新を促進する文化を築くことが重要です。

外資系企業と日本企業の両方で働いた経験から得た多様な知識とスキルは、著者の仕事の引き出しを豊かにし、さまざまな業務に対応する力を養いました。この経験は、異なる文化や経営スタイルを理解し、それらを効果的に活用するための貴重な財産となったのです。

日本企業が今後も世界で競争力を維持するためには、多様な能力を持つ人材を採用し、広い視野で新しい市場や領域に挑戦することが必要です。新卒採用や終身雇用制、年功序列といった従来のシステムを見直し、多様なバックグラウンドを持つ人材を受け入れることで、企業は新たな視点や革新的なアイデアを取り入れることができます。

ブランディングと広報が重要な理由

メイ氏は、経営においてブランディングがいかに重要であるかを強調しています。企業のブランドは、単なるロゴやスローガンではなく、顧客との信頼関係を築くための基盤です。効果的なブランディングは、企業の価値観やミッションを明確にし、顧客に共感を与えます。以下著者のブランディングに関する幅広い知見を紹介します。ここから経営者やブランドマネージャーがブランディングを行う際に、留意すべき点が学べます。

ヒット商品が一つ出ると、その商品を基にさらなる新商品を展開するブランド・エクステンション(拡張)を行います。ブランドを利用して同じカテゴリーのラインアップを広げることは自然な流れですが、その次のステップとして異なるカテゴリーの商品にまで同じブランド名を使うことは慎重に検討するべきです。

失敗すれば元のブランドまで傷つける可能性があり、ブランドを拡張しすぎると統一感がなくなり、そのブランドならではの長所が薄れてしまいます。どこまでを広げて、どこで線を引くのかは実は難しい判断です。

ブランド・マネージャーは次々と新しい展開に心を向けがちですが、ブランドに必要な名前やロゴなどの商標登録がきちんとできているか、必要な商品区分や国における商標登録は済んでいるかを確認することが重要です。登録作業が抜け落ちていて思わぬ痛い目に遭うことはよくあります。著者自身も何度もひやりとする体験をしてきたと言います。

ブランドの未来に向かって突き進むだけでなく、基本的なことの再確認、歴代のブランド・マネージャーが必要な商標登録をすべて済ませているはずと過信せず、自らチェックすることが大切です。 さらに、商標登録には更新が必要ですが、その更新を忘れてしまうことがあるのでこれも注意が必要です。

商標登録の作業は法務担当者が手伝ってくれますが、ブランドのリスクを予見し、アクションを起こすのは法務担当者ではなくブランド・マネージャーの仕事です。人気商品になると権利を侵害したコピー商品が出てくることがありますが、それらの対策も怠ってはならない業務の一つです。知財戦略が重要になる中で、ブランディングと知財を統合することをブランドマネージャーは忘れないようにしましょう。

ブランドには商品のブランド、商品グループのブランド、企業ブランドの3種類があります。例えば、著者が社長をしていた新日本プロレスの場合、選手一人ひとりがブランドであり、ユニット(グループ)としてのブランドがあって、さらに新日本プロレスという団体は企業ブランドです。

企業ブランドは各商品ブランドを守る「家」のようなものであり、人気の変動や競合の台頭など、環境の変化からしっかりと全員を守らなければなりません。つまり各ブランドだけでなく企業ブランドも極めて重要で、総合的なブランド力を向上させることが必要です。  

メイ社長自身もブランドの一部として、新日本プロレスでの動画やイベントなどでの積極的な露出を含め、さまざまな活動を行ってきましたが、日本の経営者はこの姿勢を見習うべきです。

広報活動も経営の重要な要素です。著者は、広報活動を通じて企業の透明性を高め、ステークホルダーとの信頼関係を築くことが必要だと述べています。広報は企業のメッセージを外部に伝えるだけでなく、内部のコミュニケーションを円滑にする役割も果たします。これにより、社員全員が企業の目標に向かって一丸となって働く環境が整います。その際、メディアに対して自ら仕掛ける攻めの広報を心がけるべきだと言います。

パブリシティの良いところは、有料広告とは違い、テレビや新聞、雑誌など第三者が「ニュースバリューがある」と判断して報道するため、消費者からするとその情報は客観性があり信頼度が高くなります。パブリシティの効果や影響力は非常に大きいのです。コミュニケーション戦略というとすぐに広告展開することを考えますが、無料のパブリシティを行うことで、コストを削減し、利益を上げることができるのです。

商品開発の担当者が広報に信頼を寄せ、いち早く情報を提供し協力を仰がなければ広報は活きてきません。情報が早い段階から広報に伝わると、商品が誕生する最初の企画会議やデザイナーの苦労などをドキュメンタリーのようにカメラで追って記録を残しておくことができます。

広報部はPRのエキスパートであり、良い商品を世の中に広めたり企業のブランド力を上げるのが広報の役割です。それを全社員が理解すれば成果は上がり始めます。広報部と物づくりの現場の連携がうまく取れるよう、各部署に広報の努力や宣伝効果の大きさを数値で知ってもらい、両者を結びつける働きかけが必要です。 

メイ氏の豊富なビジネス経験と異文化理解を通じて、経営者やリーダーは日本企業の課題やその解決策を学ぶことができます。本書は、リーダーシップや経営に興味を持つ人々にとって、非常に示唆に富んだ一冊であり、強くおすすめしたいと思います。

プロ経営者であるメイ氏のリーダーシップと実践的なアドバイスを知ることで、経営を改善するヒントを得ることができるでしょう。さらに、メイ氏の経験から得られる洞察は、多くのビジネスパーソンにも役立つはずです。


この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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