クックマートの競争戦略――ローカルチェーンストア・第三の道(白井健太郎)の書評

クックマートの競争戦略――ローカルチェーンストア・第三の道
白井健太郎
ダイヤモンド社

クックマートの競争戦略(白井健太郎)の要約

競争戦略の核心は、他社との差別化にありますが、多くの企業が他社の模倣や業界の成功事例をそのまま取り入れることで、同質化が進みます。結果、店舗の個性が失われ、利益が減少することになります。同質化による「付け足し」の戦略は業務量を増やし、生産性を低下させます。これにより、最終的に価格競争に陥ることになります。

静岡のローカル食品スーパーのクックーマートとは?

食品販売の世界は、ローカルスーパー、大手スーパーに加え、コンビニ、ドラッグ、ネット販売など、ありとあらゆるプレーヤーが参入して、あたかも「どつきあい」「バトルロワイアル」の様相を呈しています。争いが嫌いな私は「うわあ、競争するのはイヤだなあ」と思ってしまいました。(白井健太郎)

東三河〜浜松地域で展開するローカルスーパー「クックマート」は、1店舗あたりの平均年商が約27億円に達し、大手を上回る支持を集めています。この成功の背景には、デライト社の2代目社長、白井健太郎氏のリーダーシップがあります。

クックマート(デライト)の特徴的な競争戦略は、他のスーパーマーケットとは異なります。店舗の平均売場面積は300坪と小さいながらも、年商27億円を実現しています。これは一般的な食品スーパーの約2倍に当たります。また、12店舗の年間来店客数は1000万人を超えています。

クックマートは、生鮮食品にフォーカスし、高品質な商品をリーズナブルな価格で提供することで、来店頻度と購入点数を増やし、高い売上を実現しています。また、効率的な商品陳列や顧客ニーズに合わせた商品ラインナップにも注力しています。

競争戦略の本質は、「他社との差別化を図ること」にあります。しかし、多くの企業が他社を模倣し、業界のベストプラクティスや成功事例をそのまま取り入れることで、同質化が進み、店舗の個性が失われると、利益の減少に繋がります。このような状況では、「付け足し」の手法により業務が増加し、生産性が低下する傾向にあります。結果として、競争が価格のみに焦点を当てた「安売り競争」へと進むことになるのです。

競争優位を獲得するために、クックマートはやらないことを選択します。同社はスーパーの生命線である、チラシやポイントカードの販促活動を行っていません。また、ネットスーパーをやらずにリアル店舗に集中する、深夜営業をしないといったトレードオフを選択します。これにより、従業員が楽しみながら働けるようになり、クックマートが地域の活気が集まる場所に変わっていったのです。

ネットスーパーを行わず、リアル店舗に集中することで、顧客は商品を直接見て触れ、スタッフと直接コミュニケーションを取ることが可能になります。これにより、顧客と従業員の信頼関係が築かれ、従業員は商品知識の向上や質の高い商品の提供に注力することができます。結果的に顧客は満足度の高い買い物体験を得ることができます。

深夜営業をしないことは、従業員の労働環境の改善にもつながり、仕事とプライベートのバランスを取るのに役立ちます。これは、サービス品質の向上にも影響を与えます。

浮かび上がってきたコンセプトが「リアル×ローカル×ヒューマン=地域の活気が集まる場所」でした。

「生鮮」「ローカル」「人間」という三重のナマモノが複雑に絡み合うことで、クックマートは、独特な世界を形成しています。それを著者は「魔境」と表現しています。この魔界が同社の競争優勢になっているのです。

クックマートの競争優位とは?

クックマートはチラシによる販促を行わず、そのコストを節約して店頭の活気に注力しています。実店舗の魅力を最大限に引き出すことで、顧客に楽しい買い物体験を提供し、競合他社との差別化を図っています。

長年、チラシによる「指示・命令」に慣れた組織が急に「自分で気づき、考えろ」と言われてもすぐにはできません。会社の仕組みが「チラシありき」になっているからです。チラシがなくても店が機能するためには、そのための仕組みや組織文化と「気づき、考える人々」が必要なわけです。しかし、それは一朝一夕に作れるものではありません。よって、チラシは止めたくても止められないのです。

本部がチラシなどで販売戦略を主導すると、現場の従業員は学ぶ機会を失いがちです。彼らは自ら商品を選んで提案することが難しくなり、成長のチャンスを逃すことになります。また、売れ残りの場合には「本部のせいだ」と他責にする傾向も見られます。自分が良いと信じる商品を選んで全力で販売することができれば、お客様に自信を持って推薦できます。

一方で、強制された商品は売る意欲が湧きにくいものです。 従業員が自分の判断で商品を選び、それが売れなかった場合には、その経験から学びや反省が生まれます。失敗の原因を分析し、次回の発注でより精度の高い選択をすることができるようになります。このように、自分で考え、行動することが商売人としての成長につながります。自らの選択による経験は、価値ある学びとなり、従業員の成長を促します。

クックマートでは、現場の従業員に大きな裁量が与えられており、それぞれの専門分野を持つ多様な「名手」たちが活躍しています。

例えば、「肉仙人」や「フルーツ王子」、「クックマートのさかなクン」、「接客の神」、「地元のグルメ王」など、個性豊かで独自の技能やセンスを持つ人々が、社内で高く評価され、尊敬されています。ローカルの普通な人々(マイルドヤンキー)が活躍し、各自の得意分野での専門性を磨くことで、売り場が元気になるのです。

デライトには「楽しんでる人最強説」という言葉があって、何事も「己を知り、楽しんでる人にはかなわない」「楽しんでる人は無敵モードにある」と考えています

(顧客が)楽しむ、(従業員が)楽しませるという経営理念を社員全員が実践することで、クックマートに活気が生まれ、競争優位性につながります。

人間関係が苦手でも、野菜や魚との対話が得意な人もいるように、人間はそれぞれ異なり、自分に合った居場所が存在するというのがクックマートの考え方です。無理をしない、自然体で働くマイルドヤンキーと越境者である著者のコラボが、クックマートの競争優位性を生み出しているのです。

大手チェーンのようにローカルな食品スーパーが、効率と合理性を過度に追求すると、店舗から活気が失われてしまいます。「いちば」のような活気ある場所から、「しじょう」つまり単なる交易場へと変貌し、買い物の楽しさが失われてしまうのです。

クックマートは、ポイントカードやネットスーパー、深夜営業、チラシといった一般的な手法に頼らず、独自のコンセプトで売り場の活気を追求しています。その結果、顧客にとって魅力的な買い物体験を提供し、競争力を高めているのです。

デライトが会社組織(従業員向け)として目指していることを一言で表現すると、「仕事を通じて人生を楽しめるプラットフォーム」。分解すると、「待遇・環境がよくて(衛生要因)」×「楽しさ・成長もある(動機付け要因)」ということになります。 これは、実は顧客向けのコンセプトである「リアル×ローカル×ヒューマン=地域の活気が集まる場所」と「ウラ・オモテ」の関係になっています。

デライトは、地域社会との結びつきを重視し、地域活性化に貢献することを目標にしています。従業員が楽しみながら働き、成長することで、地域に新たな活気をもたらし、人々が集う場所になることを望んでいます。

デライトが目指しているのは、「仕事を通じて人生を楽しむプラットフォーム」です。これは、従業員にとっての待遇や働く環境の向上、楽しみながら成長する機会の提供を重視しています。従業員が満足し、充実した働き方を実現することで、地域に活気を与え、つながりを深めることができます。

クックマートは実店舗の活気が武器であるため、チラシに依存する必要はありません。 顧客は商品だけでなく、店舗の雰囲気やスタッフとの対話、直接的なサービスを求めています。これからも実店舗の強みを活かし、顧客にとって魅力的な買い物体験を提供していくことが求められます。


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