まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書 (阿部幸大)の書評

vintage teal typewriter beside book

まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書
阿部幸大
光文社

まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書 (阿部幸大)の要約

筑波大学人文社会系助教の阿部幸大氏は、アカデミックライティングに新しい価値をもたらす指針を本書で提示しています。論理的なパラグラフ構造を用いて引用、批判、主張を組み立てることで、説得力のある論文を執筆できます。著者のアプローチは、研究成果を社会に還元する架け橋となり、執筆者に新たな視野を開きます。

アーギュメントには引用と批判が欠かせぬ理由

論文とは、あなた個人の主張を提出し、それを論証する責任を負う、そういう場なのだ。(阿部幸大)

人文学系の論文執筆における阿部幸大氏の新しい視座は、アーギュメント(執筆者の主張)の本質的価値に焦点を当てています。氏は「論文とは、アーギュメントを論証する文章である」という基本定義を示した上で、そのアーギュメントに求められる価値について、明確な指針を提示します。

アカデミックな価値の追求こそが、論文のアーギュメントに求められる本質的要件です。この要件は、単なる形式的な基準ではなく、研究の独自性と学術的貢献を保証する重要な指標となります。アーギュメントがアカデミックな価値を持つということは、その研究が学術的な議論の発展に寄与し、新たな知見を提供することを意味します。

著者の指摘によれば、アーギュメントの価値判断は「アカデミックな価値の有無」という一点に収斂します。これは、論文執筆において極めて重要な指針となります。なぜなら、この基準が明確であることで、執筆者は自身の主張の方向性を見失うことなく、研究を進めることができるからです。

論文におけるアーギュメントの重要性は、それが単なる事実の列挙や情報の整理を超えた、知的探求の成果であることに由来します。アカデミックな価値を持つアーギュメントは、既存の研究に新たな視点を提供し、学術的な議論を深化させる力を持ちます。 このような視点は、論文執筆の実践において具体的な指針となります。

他人の意見を引用しないかぎり自分のアーギュメントにアカデミックな価値があるということを示すことが構造的に不可能であるためだ。

論文執筆では、自身のアーギュメントがアカデミックな価値を持つかどうかを問い続けることが重要です。この問いは研究の方向性を定める羅針盤となり、学術的な価値を持つ議論を構築する土台となります。

引用と批判は、その価値を生み出すために不可欠な要素です。引用は議論の土台を築き、批判は新たな視点を提示し既存の知識を更新します。これらが揃わなければ、論文は単なる知識のまとめにとどまり、学問的な貢献を果たすことは難しいでしょう。

さらに、「なぜその対象に惹かれるのか」「なぜ重要だと感じるのか」という自問が研究を深める鍵となります。これにより、研究対象の意義を明確にし、自身の主張を支える基盤が強化されます。

引用と批判、そして自己省察を組み合わせることで、論文は単なる情報の集積を超え、学術的価値を備えた成果へと昇華するだけでなく、世の中とのつながりをつくります。この問いを追い続けることで、知の世界に新たな貢献を果たす論文が生まれるのです。世界と研究をリンクさせることが、良質な論文によって可能になります。

また、アーギュメントの価値を正確に言語化することも執筆者には求められます。言語化のプロセスを通じて、アーギュメントの学術的意義がより明確になり、その説得力も高まります。これは、論文の質を高めるための本質的な作業となります。

アーギュメントのアカデミックな価値は、研究分野における新規性や独自性とも密接に関連します。既存の研究を踏まえつつ、そこに新たな知見を加えることで、アーギュメントは新たな学術的な意義を獲得します。この過程で、執筆者は自身の研究が学術的議論にどのように貢献するのかを明確に意識する必要があります。

さらに、アーギュメントの価値は、研究の方法論とも深く結びついています。適切な研究方法に基づいて導き出されたアーギュメントは、より強固な学術的価値を持つことになります。

パラグラフ・ライティングが論文のクオリティアップにつながる!

パラグラフは論文執筆においてもっとも重要な単位である。

パラグラフ・ライティングは、論文執筆において散漫なアイディアを構造化し、膨大な文字数へと組み立てるための基盤となる技術です。初学者にとって、アイディアを出し切った後に「これ以上どうやって文字数を埋めればいいのか」と感じるのはよくある悩みです。そんな時に役立つのがパラグラフという単位です。

論文全体を一つのまとまりと考えるのではなく、テーマごとに分割された20〜30程度のパラグラフの集合体と捉えることで、執筆の負担を軽減できます。各パラグラフは「トピックセンテンス(主題)」「サポートセンテンス(具体例やデータ)」「コンクルーディングセンテンス(結論)」の三つの要素から成り、議論を明確に展開する小単位として機能します。

パラグラフが短すぎる場合は情報やデータを追加し、逆に長すぎる場合は複数のパラグラフに分割して焦点を絞ることが重要です。また、具体例や先行研究の比較を加え、抽象的なアイディアを掘り下げることで内容を充実させられます。こうした作業を重ねることで、自然に文字数を増やしつつ質の高い論文が完成します。

パラグラフ・ライティングを活用すれば、論文執筆は圧倒的なタスクではなく、少しずつ着実に進められる具体的な作業へと変わります。

パラグラフの抽象度の上下運動がなるべく滑らかなU字に近づくのが理想だ。それはつまり、飛躍がないということである。

「コンクルージョンはイントロダクションよりも高い位置にある」という発想は、論文執筆における結論の意義を再考するうえで非常に示唆に富んでいます。この考え方を具体化した「The Uneven U」のモデルは、コンクルージョンというセクションを単なる締めくくりではなく、新たな知的高みを示す場として位置づけられます。

イントロダクションは、読者に論文全体の方向性を示し、興味を引くための重要な部分です。ここで提示されるのは主に論文の「問い」や「目的」です。

しかし、コンクルージョンは単なるその「問い」の答えではありません。それ以上に、読者が論文を読み終えた後に、新たな視点や深い理解を得られるように設計されるべきなのです。つまり、イントロダクションで示された問いが水平面で議論されるのではなく、論証を通じて次第に高まった「議論の結晶」として提示されるのが理想です。

各パラグラフが短すぎる場合には情報量が不足している可能性があり、これが議論の深さや専門性の不足に繋がると指摘します。また、パラグラフが多すぎる場合には、議論が散漫になり、焦点が定まらない問題が生じます。こうした問題に対して、既存の学術論文をモデルとして分析し、そこからパラグラフの構造や抽象度を比較・調整するという実践的な解決策を提示しているのです。

さらに、本書の意義は、アカデミックライティングを単なる技術的スキルとしてではなく、知的な探求のプロセスとして捉えている点にもあります。先行研究の要約にとどまらない、独自の議論を展開する力を養うための具体的なステップは、執筆者の思考力を鍛える実践的な指針となっています。このプロセスを通じて、論文執筆は単なる文字数を埋める作業ではなく、自分の主張を研ぎ澄ます知的活動として位置づけられるのです。

本書のもう一つの優れた点は、アカデミックライティングを技術的なスキルとして体系的に教えている点です。初学者が陥りがちな「先行研究のまとめ」にとどまる執筆から脱却し、自分の議論を組み立てる力を養うための実践的なステップが示されています。これらのステップは、論文執筆の各段階で必要となる具体的なスキルを、理論と実践の両面から丁寧に解説しています。

阿部氏の著書は、人文学系のアカデミックライティングに新しい価値をもたらす指針となります。論理的なパラグラフ構造を用いて引用、批判、主張を組み立てることで、説得力のある論文を執筆できます。

著者のアプローチによって、研究成果を社会へと還元するための架け橋が築かれ、執筆者に新たな可能性の扉が開かれます。質の高い論文を書くことで、著名なメディアやジャーナリズムで取り上げられる機会が増え、執筆者は自らのビジョンやパーパスを社会に広く訴えることができるようになるのです。

本書は、初学者はもちろん、中級者以上の研究者にとっても、自身の文章をより洗練させるための有効な手引きとなります。

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この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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