THE ALGEBRA OF WEALTH 一生「お金」を吸い寄せる 富の方程式
スコット・ギャロウェイ
ダイヤモンド社
THE ALGEBRA OF WEALTH 一生「お金」を吸い寄せる 富の方程式の要約
スコット・ギャロウェイは、経済的自立を「資産からの受動的所得が消費支出を上回る状態」と定義します。この目標に向けて、著者は「富=フォーカス+(ストイシズム×時間×分散投資)」という方程式を提示します。経済的自立は、単なる金銭的な達成ではなく、人格の向上と思考・行動の一致によって実現できると説きます。
長期的に資産を増やす富の方程式とはなにか?
富=フォーカス+(ストイシズム╳時間╳分散投資)(スコット・ギャロウェイ)
ニューヨーク大学スターン校のスコット・ギャロウェイ教授は、経済的自立の本質を鋭く定義しています。それは単なる高収入の獲得ではなく、十分な資産の形成にあるとしています。具体的には、資産から生み出される年間の受動的所得(パッシブインカム)が、望ましい消費支出(バーンレート)を上回る状態を指します。
著者は経済的自立を実現するための方程式として、「富=フォーカス+(ストイシズム×時間×分散投資)」という公式を提示します。投資はできるだけ早く始めることが効果的ですが、年を重ねてからもでも遅くはありません。
ギャロウェイ教授は、持続可能な富の形成のために、4つの本質的な要素を挙げています。ストイシズム、フォーカス、時間、そして分散投資―これらの要素を適切に組み合わせることで、真の経済的自立を実現できるのです。
著者は、「富を築くことは経済活動だけでなく、人格形成を含む全人格的なプロジェクトだ」と説きます。その中核となるのが、ストイシズムという生き方の哲学です。 現代の消費社会では、欲しいものがあふれ、それらがまるで必需品のように感じられます。広告は私たちの欲望を刺激し、過剰な消費へと誘います。そんな時代だからこそ、ストイシズムの考え方が重要になってきます。
ストイシズムが重視する「勇気」「知恵」「正義」「自制」という4つの美徳は、単なる心構えではありません。これらを実践することで、私たちは人格を高め、周囲との健全な関係を築くことができます。そして、そのつながりこそが、資産を築き、守るための重要な基盤となるのです。
著者は、このように考え方と行動を一致させることが、経済的自立への確かな道筋になると指摘します。つまり、富の形成とは、お金を増やすだけでなく、自分自身を成長させ、周囲との関係を深める総合的な営みなのです。
経済的自立を築くには、数十年にわたる努力が必要だ。こうした努力は、フォーカスなくして維持できない。
フォーカスについて、著者は興味深い視点を提示します。フォーカスとはNOということであり、重要なことにフォーカスすることです。
一般的によく耳にする「情熱を追求せよ」というアドバイスに対して、著者は異なるアプローチを提案します。むしろ自分が得意とする分野を見極め、そこに集中的に取り組むことで、結果として情熱が育まれていくという考え方です。これは単なる理想論ではなく、現実的な成功戦略といえます。
また、早い段階からのネットワーク構築の重要性も強調されています。人的なつながりは、キャリアの発展において決定的な役割を果たすことが多いためです。 時間という要素については、著者は「真の通貨」という印象的な表現を用いています。特に注目すべきは、時間がもたらす複利効果への着目です。
この効果は金融資産の運用に限らず、習慣の形成や人間関係の構築など、人生のあらゆる領域で作用します。長期的な視点で見たとき、時間の複利効果は驚くべき力を発揮します。
しかし同時に著者は、現代社会における時間の浪費についても警鐘を鳴らします。特にソーシャルメディアを「歴史上最大の富の破壊者の一つ」と位置づけ、若者たちが貴重な時間を失っている現状を厳しく指摘しています。
著者は、全体の8割をパッシブ投資に、残りの2割をアクティブ投資に振り分けることを推奨しています。この配分は、安定性と成長機会のバランスを考慮した結果といえます。
パッシブ投資に重点を置く理由は、市場全体の長期的な上昇トレンドを活用するためです。個別の銘柄選択やマーケットタイミングに頼るのではなく、市場全体の成長の恩恵を受けることで、より確実な資産形成が可能になります。
インデックスファンドなどを通じた幅広い投資は、リスクを分散させながら、市場平均的なリターンを確保する効果的な方法です。 一方、2割のアクティブ投資枠は、より高いリターンを追求する機会を提供します。
この投資戦略の核心は、時間の力を味方につけることにあります。複利効果を最大限に引き出すには長期的な視点が不可欠です。短期的な市場の変動に一喜一憂するのではなく、時間の経過とともに資産が成長していく過程を信頼することが重要です。
著者は、この分散投資戦略を単なる資産運用の手法としてだけでなく、富の形成における本質的な要素として位置づけています。適切な分散投資は、予期せぬリスクから資産を守りながら、着実な成長を可能にする基盤となるのです。それは一朝一夕の成果を求めるのではなく、時間をかけて富を育てていく賢明なアプローチといえるでしょう。
人とのつながりが重要な理由
私たちの究極の目標は、豊かな人間関係に恵まれた人生を楽しむことであり、銀行口座に多くのお金を残して死ぬことではない
ギャロウェイ教授は、本書の最終章で富の本質的な意味を鮮やかに示しています。究極の目標は単なる金銭的な成功ではなく、豊かな人間関係に恵まれた人生を送ることにあります。
銀行口座に多額の預金を残して死ぬことが目的なのではない―この明確な指摘は、現代社会における富の追求の本質を問い直すものです。 人生における真に意味のあるものは、すべて他者とのつながりにあるという著者の指摘は、現代社会において特に重要な意味を持ちます。誰かを支え、愛する能力、そして誰かに愛されたいという思い―これらは単なる感傷ではなく、人生の本質的な価値を形作るものです。
著者は、たった一人では大きなことは何も成し遂げられないという現実を踏まえた上で、人とのつながりの重要性を説きます。 その実現のための具体的な道筋として、著者は段階的なアプローチを提示します。
まずは自分の得意分野、すなわち人がお金を払ってくれるような仕事を見つけ、そこに真摯に打ち込むことから始まります。この努力の過程で重要なのは、単なる作業の繰り返しではなく、本気で打ち込める分野を見出すことです。
著者は富の形成プロセスを、独特の比喩で表現します。家計の収支を黒字にし、その余剰を投資に回すことで「資本の小隊」を形成する。それはやがて「師団」となり、最終的には私たちが眠っている間も働き続ける「軍隊」へと成長していく。この比喩は、資産形成の複利効果を実感的に理解させてくれます。
この成長過程において重要なのは、二つの基本原則です。一つは分散投資による予期せぬリスクへの備え、もう一つは時間の持つ力への深い理解です。特に「時間は自分が思っているよりも速く進む」という認識は、早期からの行動の重要性を示唆しています。
しかし、これらの経済的な戦略は、あくまでも手段であって目的ではありません。その真の目的は、私たちがより早く人生で最も大切なもの―愛する人々―と充実した時間を過ごせるようになることにあります。経済的自立は、この本質的な豊かさを実現するための土台なのです。
著者は特に「今この瞬間」の大切さを強調します。経済的な自由は、愛する人々と現在を共有する余裕を私たちにもたらすものでなければならないのです。
本書は、富の形成を通じて実現すべき本当の価値について、私たちに深い洞察を与えてくれます。それは単なる投資指南書を超えて、充実した人生を送るための実践的な知恵の書となっています。著者の示す方程式は、経済的成功と人生の本質的な価値の追求を見事に結びつけ、持続可能な豊かさへの道筋を照らし出しているのです。
巻末の参考文献には、このブログでもおなじみの著者であるジェームズ・クリアーやレイ・ダリオ、カル・ニューポートなどが紹介されています。
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