コロナ後の時代の書評。スコット・ギャロウェイが予測するGAFAの中で勝ち残るのはどこか?


Background photo created by natanaelginting – www.freepik.com

コロナ後の世界
著者:スコット・ギャロウェイ
出版社:文藝春秋

本書の要約

今回のコロナパンデミックの中でGAFAの存在感が増しています。競合各社がロックダウンで守勢に回る中で、人々はますますGAFAでお金と時間を使うようになったのがその理由です。今後GAFAはお互いの領域を侵食し合いますが、ギャロウェイはアマゾンが勝者になる可能性が高いと言います。

GAFAがコロナ禍でも強い理由

新型コロナウイルスのパンデミックによって、GAFAをはじめとするビッグテック企業全般がますますパワフルになっています。彼らは巨額のキヤッシュを貯め込んでいるので、ロックダウン(都市封鎖)で他の企業が困窮して守勢に回らざるをえないときに、攻勢に出られるからです。(スコット・ギャロウェイ)

GAFAのスペシャリストであるスコット・ギャロウェイが、コロナ以降のGAFAの動きについて予測しています。コロナ後の世界に書かれているGAFAの近未来について、今日は紹介したいと思います。(スコット・ギャロウェイの書評はこちらから

まずは、コロナ禍という不況下の中でのGAFAの動きを振り返りたいと思います。ほとんどの企業が従業員を自宅待機させ、レイオフ行っている会社もある中、フェイスブックはインドの通信最大手ジオ・プラットフォームズに57億ドルを出資し、動画サイトであるGIPHYの買収を発表するなど攻勢をかけています。4社の株価はこの4月以降高騰し、ナスダックの株価を史上最高値の水準に押し上げています。

今後しばらくは、ビッグテックによる企業統合の動きが続くとスコット・ギャロウェイは言います。パンデミックがはじまったころ、グーグルとフェイスブックがデジタルマーケティングの60%をコントロールしていましたが、おそらく70~80%までシェアが高まると著者は予測します。特にeコマースの売上が急増しており、アマゾンの株価は連日過去最高値を更新しています。食料品もオンラインでの購入に大きくシフトしているため、その恩恵をアマゾンが受けているわけです。

アメリカの緊急経済対策は追加分も含めて3兆ドル規模ですが、その対策から最大の恩恵を受けるのは、アマゾンとウォルマートの2社になりそうです。この2社が受け取るであろう莫大な資金に加えて、アメリカ政府は彼らと競合する企業の98%に閉鎖を命じました。感染拡大防止のためですが、これは両社の株主にとって、信じられないくらいに有利なシナリオです。緊急経済対策をギャロウェイは「アマゾンとウォルマートの株主法」と揶揄しています。

この20年ほどでGAFAは、もはやユーティリティ(電気・ガス・水道などの公共サービス) のように、人々の生活に欠かせないものになりました。スマホを持たず、SNSを使わず、GAFA抜きで生活することは、いまや電気や水道がないのと同じです。

人は何かを調べたければ、検索市場シェア90%以上のグーグルで検索をします。また、世界中の裕福な人々は、iPhoneやMacBookなど何らかのアップル製品を持っています。アップルの手元資金は約2500億ドル(2017年)、デンマークのGDPとほぼ同じです。

そして、12億人が毎日フェイスブックとのかかわりを持ち、ユーザーは一日50分をフェイスブックに費やしています。さらに、全米の52%の家庭がアマゾン・プライムを利用しています。いまや、創業者のジェフ・ベゾスの資産は約1385億ドルと、世界第一位になっています。

GAFA4社+マイクロソフトの時価総額は、今年の5月に東証1部約2170社の合計を上回ったというニュースがこの5月に流れましたが、アメリカのIT企業の勢いはこのコロナ禍の中で、ますます強まっています。

顧客の数が増えれば増えるほど事業の価値が高まり、顧客にとって便益が増すことを「ネットワーク効果」と呼びます。GAFAはネットワーク効果をてこにして、強固な独占状態を作りました。その結果、新しい企業が市場を開拓できる余地がなくなりました。

GAFAは競合他社との差別化や世界展開、AIによるデータ活用などにより、世界の覇権を一気に握りました。 彼らはネットワークをテコに、わずか20年で独占状態を作り出しました。さらに最近では、巨大な資本力を武器に、優良ベンチャー企業をM&Aし、4社が独占状態を作っています。これにマイクロソフトやネットフリックスやアリババやテンセントが加わり、多くのベンチャー企業がこれらの会社の支配下に置かれるなど独占の弊害も表面化しています。

20年前、アメリカでは起業から1年以内のスタートアップ企業の割合は全体の15%でした。しかし、その数は減り、現在では七%に届きません。テクノロジー・デバイスやソーシャルメディア、サーチエンジン等の技術革新が激しい分野で、新しいスタートアップ企業は、資金を調達することができず、起業が難しくなったのです。このようにGAFAの支配が強力になることで、私たちははイノベーションが起きない時代を生きざるをえなくなりました。

GAFAがもたらしたデメリットは、イノベーションの行き詰まりだけではありません。社会の分断という問題もあります。フェイスブックの投稿は、時に対立と激怒を煽ります。白人至上主義者、科学否定論者、気候変動否定論者などの、実社会では無視する人も少なくない主張が、ソーシャルメディアで炎上し、スポットライトを浴びます。アルゴリズムが必要以上に記事を拡散させ、対立構造やフェイクニュースを生み出しているのです。彼らはここから広告収入を得るために、滞在時間が長くなる記事を拡散し、世の中の分断化を進めていることを忘れないようにしましょう。

GAFAの中の勝ち組はどこか?

では、この4社の中で生き残るのはどこなのでしょうか?この答えを多くの人は知りたいはずです。GAFAの中で、アップル以外の3社は20%強の成長率を維持しています。しかし、現在の事業を続けていくだけでは永遠に成長することはできないので、必然的にお互いのビジネス領域を侵食していきます。

例えば、グーグルや、フェイスブックを親会社に持つインスタグラムは、アマゾンの領域であるショッピングに参入しています。また、フェイスブックは、その投稿が消費者の購買欲をかきたてることで、商品を検索するグーグルやアマゾンから、マーケットシェアを奪っています。そして、アマゾンは検索エンジンとしてグーグルに次ぐ第二位で、扱う商品の数は最大です。他にも新たな成長戦略として、フェイスブックは仮想通貨のリブラを計画し、アマゾンは輸送業に参入しつつあります。イノベーションの継続が成長のカギとなるために、GAFAは次々に新たな分野に進出し、ぶつかり合うようになったのです。

GAFAは様々な分野で食い合っていますが、アマゾンと重なるときは、たいていの場合アマゾンが勝つのです。

著者はこの4社の中で、勝者になるのはアマゾンだと指摘します。例えばクラウド・ビジネスの分野では、AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)の存在感が圧倒的に増しています。AWSは世界のクラウド事業におけるシェアが32%でトップで、2位のマイクロソフトのシェアは17%にすぎません。

新型コロナで在宅勤務をする人が一気に増えましたが、仕事のためにクラウドを通じてデータをやり取りすることが多かったはずです。これもAWSに多大な利益を与えます。最近ではAIを搭載したアマゾン・エコーが家庭の中で存在感を示しています。アメリカではエコーのシェアが約7割を占め、他者を引き離しています。アップルのiPhoneやMacBookとアマゾンエコーの闘いが始まっているのです。

今回のコロナ禍は「変化の担い手(Change agent)」というよりも、「促進剤(accelerant)」としての側面が強いとギャロウェイは述べています。長年、苦境に陥っていた映画館やデパートは、もう臨終寸前にまで追いやられました。ハイブランドやセレクトショップも、ショッピングモールから撤退せざるを得ません。

GAFAはパンデミックでもパワフルとなり、全体の70~80%の企業は弱体化するでしょう。つまり、格差がさらに拡大することになります。どの業種でもトップから2つ、3つまでの企業はリカバリーできるでしょうが、あとの企業は”間引き”されるのを待つのみ。危機を乗り越えた巨象は、競争相手がいなくなったので、ゆっくりたっぷりとエサの葉っぱを食べられるのです。

外出自粛は多くのリアル店舗に悪影響を及ぼしています。ビジネスから競合が撤退する中で、GAFAは存在感を増しています。今回のパンデミックにより人々の行動はオンラインにシフトし、GAFAの売り上げが高まり、利益を新たなビジネスに投資することで、より強くなっていきます。

“NEXT GAFA” はどこから生まれる?

パンデミックの後でも成長を期待できる”NEXT GAFA”と言われる企業も力を増しています。ギャロウェイはGAFAのライバルはアメリカの企業ではなく、中国のBAT=検索エンジンの百度(バイドウ)、IT企業の阿里巴巴(アリババ)、SNSの騰訊(テンセント)の3社だと述べています。

「今や、インターネットは2つある」と言われます。2つとは、西洋のインターネットと、中国のインターネット「Great Firewall」です。しかし、現在のところ、中国の企業がアメリカに入ってくる様子はありません。アメリカを成長市場と見ていないわけではなく、中国政権とアメリカが、非常に外国人嫌いで、愛国主義的だからです。

BATとGAFAに主戦場は、アメリカではなく、東南アジア、アフリカ、インドになりそうです。中国は、GAFAのような企業を初めは迎え入れ、その後、知的財産を盗んでから追い出し、真似して起業した国内企業で利益の大半を獲得するというビジネスモデルを選択しています。それは、国同士が結ぶ、ありとあらゆる貿易協定に違反しています。

中国では国が中心となって個人データの収集を進めており、それは確かにBATの巨大なポテンシャルとなっています。しかし同時に、アメリカやヨーロッパが、国民の自由やプライバシーを重んじることもアドバンテージです。この違いは今回のパンデミックへの対処法でも明白なものとなりました。今後のプライバシーに対する考え方がどうなるかによって、GAFAとBATの闘いは左右される可能性が高いのです。今回のTikTokのマイクロソフトによるM&Aの動きも、中国のネット統制とプライバシー保護がアメリカで問題になったことが発端です。

では、GAFAやBATに続く企業はどういったものになるでしょうか。ギャロウェイは次に勝者は、テクノロジーとイノベーションをヘルスケアに投資し、応用する人だと考えています。ヘルスケアの進化は時間の節約につながり、病院での待ち時間や、治療にかかった時間を、他のことに使えるようになります。

今、大半の人がコスト節約に重点を置きますが、ビッグウィナーとなるのは、時間を節約してくれる企業です。アメリカで今、最も多くの投資を獲得しているビジネスは、動画配信のストリーミング・メディアです。もちろん豊富な動画コンテンツが魅力なのですが、それ以上に人々がストリーミングを利用する理由として大きいのは、余計なCMを見なくて済むからです。

テレビを視聴せずにネットフリックスだけ見ていると、一年間で300~400時間も節約できるという調査もあります。もし、スマート・カメラとAIがあれば、ヘルスケアの時間短縮は簡単にできます。時間を有効活用し、私たちの生活をより有意義にしてくれるテクノロジーが次の時代のキーワードになりそうです。

Loading Facebook Comments ...

コメント

タイトルとURLをコピーしました