ベンチャーとイノベーション奮闘記 楽しんで突破する力 (幸田博人)の書評

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ベンチャーとイノベーション奮闘記 楽しんで突破する力
幸田博人
日販アイ・ピー・エス株式会社

ベンチャーとイノベーション奮闘記 楽しんで突破する力 (幸田博人)の要約

グローバルで戦うために日本の起業家に必要なのは、才能や能力そのものではなく「ミッション」と、それを循環させるスタートアップエコシステムだと幸田博人氏は述べています。Justice・Avenge・Revenge・Challenge(JARC)は、失敗を挫折で終わらせず、学習と再挑戦へ変換する分析フレームです。エコシステムの本質は、失敗の蓄積と共有によって成功確率を高めていく点にあります。

起業家の共通点のJARCとは?

本書に出てくる起業家の皆さんは、4つのキーファクターとなるスタートアップ魂を持っているという共通点がある気がします。それはJustice・Avenge・Revenge・Challengeです。(幸田博人)

グローバルで戦うために、日本の起業家には何が必要なのでしょうか。この問いに対して、ベンチャーとイノベーション奮闘記 楽しんで突破する力が提示する回答は、能力や才能の話ではありません。本書が真正面から扱っているのは、起業家個人の内面にある動機と、それを受け止め、循環させるスタートアップエコシステムのあり方です。

著者の幸田博人氏が示すJustice・Avenge・Revenge・Challenge、いわゆるJARCは、起業家の心構えを情緒的に語るためのスローガンではありません。起業家がなぜ動き、失敗をどう次の行動へ接続していくのかを、構造として整理した分析フレームです。

同時にこれは、日本のスタートアップエコシステムがどこで滞り、どこを耕せば循環が回り出すのかを見極めるための、実践的な視点でもあります。

「スタートアップエコシステム」の役割は成功の再現ではなく、失敗の蓄積と共有にあります。多くの挑戦が失敗に終わることを前提に、その経験が個人の中に閉じず、周囲へと渡っていくことで、結果として成功の確率がわずかに引き上げられる。この「確率を少しだけ押し上げる構造」こそが、エコシステムの本質です。

JARCが示唆的なのは、失敗を単なるマイナスとして扱わない点にあります。Justiceという問題意識が挑戦の起点となり、Avengeとして経験が学びに変換され、Revengeとして既存の構造に再び挑み、Challengeとして次の実験へ進む。この循環が回り続けることで、失敗は次の挑戦を生む資源になります。

日本のスタートアップエコシステムの課題は、才能や資金の不足ではなく、この循環が途中で止まり、失敗が「評価の終点」になってしまうことにあります。

Justiceとは、社会課題に正面から向き合おうとする使命感です。なぜこの問題は置き去りにされているのか、なぜ理不尽な構造が疑われることなく続いているのか。その小さな違和感に目を逸らさず、「見過ごせない」と感じ続けることが、起業という行動の出発点になります。ここで問われているのは強い正義感ではなく、関心を手放さない持続力です。

Part1で語られる伊達公子氏の再チャレンジの物語は、このJusticeを端的に示しています。それは単なる現役復帰や再起の成功談ではありません。一度第一線を離れたあとも、「自分はなぜここまで来たのか」「何に挑み続けたいのか」という問いと向き合い続け、「それでもこのテーマから降りない」という選択を重ねていった過程そのものです。

伊達氏は「チャレンジ&スマイル」をモットーに行動を続けた結果、引退後も自分の可能性を広げることができたと語っています。

エコシステムが健全であるとは、このJusticeを持つ人が孤立せず、何度でも場に戻れる状態を指します。 Avengeは、失敗から学び直す力です。ここで言うアベンジは攻撃性ではなく、軽視された経験や悔しさを自己否定にせず、「次はより良い形で試す」という知恵へ変える態度です。

日本では、このAvengeが芽を出す前に、挑戦者が場から外れてしまうことが少なくありません。本書は、再チャレンジを個人の美談ではなく、エコシステム全体の責任として捉え直しています。

Revengeは、変えられなかった構造に再び向き合う力です。過去の失敗に対する「このままでは終われない」という感情が、事業を前へ押し出す現実的なエネルギーへと転換されていきます。描かれているのは整った成功談ではなく、違和感を抱えたまま挑戦を続ける姿です。その生々しさが、Revengeを実体のある推進力として浮かび上がらせます。

Challengeは、未知の市場や前例のない領域に踏み出し続ける態度です。これは無謀さではなく、不確実性を前提に、小さく試し、学び、修正し続ける姿勢を意味します。再チャレンジとは一度のやり直しではなく、挑戦を更新し続けるプロセスそのものです。

スタートアップエコシステムが成熟しているとは、このChallengeが特別視されず、自然な選択として受け止められている状態だと言えるでしょう。

失敗を排除するのではなく、失敗が次の挑戦に再利用される構造。それこそがエコシステムの核心であり、本書はそのことを、理論ではなく具体的な語りによって示しています。ここから本書は、さらに現場に近い視点へと進んでいきます。

Part2で紹介されるスタートアップの事例は、教科書的な成功物語ではありません。資金繰りの苦労、技術開発の壁、市場への浸透の難しさといった、起業の現実が率直に語られています。

ドローンとAI解析を組み合わせて森林の価値を可視化しようとするDeepForest Technologiesの取り組みや、最新テクノロジーによって人々の健康に貢献しようとするアガサの挑戦は、いずれも華やかな成果より先に、日々の小さな壁との格闘があることを示しています。

重要なのは、これらのスタートアップが「儲かりそうだから」事業を始めたわけではない点です。自然との共生、健康で豊かな人生といった、明確な社会的使命が、彼らの行動の軸になっています。この使命感こそが、思うように進まない局面でも踏みとどまり、試行錯誤を続ける原動力になっています。

ただし同時に、本書は使命感だけでは事業は続かないという現実から目を逸らしません。特に、アガサ代表の鎌倉千恵美氏による「ミッションを実現できる楽しさと、サービスを提供し続けていく責任の重さ」という言葉は、理想と経営の間にある緊張関係を象徴しています。 そこで浮かび上がるのが、ベンチャーキャピタルの役割です。

スタートアップエコシステムが起業家に必要な理由

「スタートアップエコシステム」は失敗の経験を基盤として僅かな成功を生み出すためのネットワークです。

Part4で語られるVCトップたちの言葉からは、彼らが単なる資金提供者ではなく、起業家と伴走するパートナーであることが伝わってきます。インキュベーション投資の重要性、地方発スタートアップへの支援、エネルギー革命を見据えた長期投資やグローバル展開。これらはすべて、VCが短期的なリターンを追う存在ではなく、失敗と挑戦の蓄積から次の成功確率を高めていく、エコシステムの一部であることを示しています。

本書が提示する最も重い問いは、「スタートアップエコシステムの重要性は理解されているのに、なぜ日本では十分に機能していないのか」という点です。資金調達環境は改善し、スタートアップへの注目度も高まっています。それでもなお、米国や中国と比べると、挑戦の連鎖は限定的です。その背景には、再チャレンジへの不寛容さに加え、大企業とスタートアップの接続の難しさがあります。

かつてスタートアップだった企業が成長したメガベンチャーは、初期の失敗と試行錯誤、そして事業をスケールさせる知恵の両方を知っています。

彼らがハブとなり、大企業のリソースとスタートアップの機動力を結びつけることで、失敗の経験が組織間で共有され、エコシステム全体の成功確率が高まっていくのです。 そして全編を通じて繰り返されるのが、「楽しんで突破する力」という言葉です。

スタートアップの道は、困難の連続です。本書が言う「楽しむ」とは、苦労を軽視することではありません。失敗から学び、次の一手を考え続ける姿勢を保つという、極めて実践的で持続的な態度を指しています。再チャレンジを果たした人々や、現場で奮闘する起業家たちの姿は、その意味を具体的に示しています。 。

スタートアップエコシステムは、一部の起業家や投資家だけの世界ではありません。社会課題に関心を持ち、何かを変えたいと願う人すべてが、失敗と学習を共有するネットワークの一部として関われる場です。幸田氏が本書を通じて描いているのは、理論としてのエコシステムではなく、それを動かす人間の姿そのものです。

日本の起業家は確実に増えています。彼らが世界と戦うスピード感を手に入れるためには、起業家個人の努力だけでなく、失敗を資産として扱い、僅かな成功を次につなげていくエコシステム全体の成熟が欠かせません。

本書では推薦図書として、このブログでもお馴染みのアダム・グラントによる『GIVE & TAKE』やJ.D.クランボルツの『その幸福は偶然ではないんです!』なども紹介されていますが、それもまた、失敗を乗り越え、チャレンジを続けることが重要だという本書のメッセージと響き合っています。

本書はご恵贈いただきました。

最強Appleフレームワーク


 

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