SHIFT解剖 究極の人的資本経営 (飯山辰之介)の書評

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SHIFT解剖 究極の人的資本経営
飯山辰之介
日経BP

SHIFT解剖 究極の人的資本経営 (飯山辰之介)の要約

SHIFTの人的資本経営は、「ヒトログ」で社員の価値観や成長意欲を可視化し、一人ひとりに最適なマネジメントを実現しています。450項目におよぶデータを活用し、給与・やりがい・人間関係を軸に個別対応。さらに、成果と報酬の関係を数式で明示し、評価の透明性を徹底。多様な人材を活かす文化と制度が連動することで、持続的な成長と納得感ある組織づくりを可能にしています。

SHIFTの人的資本経営の凄みとは?

社員が生き生きと生産性高く働くことができれば、どんな企業であろうと活性化し、業容も業績も拡大していくはず。そこまでは分かっても、いざ戦略や戦術を描こうとすると、とたんに輪郭がぼやけていく。機械やプログラムではない、人間というままならない存在を対象とするがゆえの難題が人事、人材戦略には付きまとう。(飯山辰之介)

人的資本経営への注目が高まる一方で、多くの企業では人事施策と経営成果をどう結びつけるかという課題が顕在化しています。理念としての重要性は理解されつつも、実際に企業価値と連動させて運用するための“方法論”が見えにくいのが実情です。

特に「制度的可塑性が低い」「業績や成果との相関が見えにくい」といった難題は、経営者や人事責任者にとって大きな悩みの種となっています。

人材戦略は、重要であるにも関わらず、経営の中でもっともコントロールが難しい領域です。社員は機械でもテクノロジーでもなく、一人ひとり異なる価値観と背景を持つ人間だからです。それ故、戦略として描こうとすると途端に輪郭がぼやけ、成果につながるまでのロードマップが不透明になりがちです。

しかし、人的資本を経営資源として正しく捉え、それを組織文化として根づかせることができれば、それは一過性の施策ではなく、持続的な競争優位として機能します。理想論として語られがちなこのテーマを、実務レベルで実装している企業はまだ少数派です。そうした中で注目すべき存在が、株式会社SHIFTです。

飯山辰之介氏のSHIFT解剖 究極の人的資本経営は、このSHIFTという成長企業の取り組みを軸に、人的資本を経営戦略に組み込み、制度と文化、さらには業績との接続点をどう築いているのかを多角的に分析しています。本書の価値は、理念のみのアプローチだけでなく、徹底した実務視点を取ったことにあります。いかにして「人材マネジメント」が「企業の持続的成長」と整合するのかを、SHIFTの現場のリアルを通じて示している点が秀逸です。

SHIFTの人的資本経営には、「制度」「文化」「人間理解」の三位一体のアプローチが明確に存在します。単に制度を整えるだけでなく、それを社内の価値観と結びつけ、社員一人ひとりが自律的に動ける環境をつくる——その設計思想が全社に共有されていることが、同社の大きな強みと言えるでしょう。

なかでもSHIFTの人材戦略を象徴するのが、「部下の給与を上げることが上司の仕事だ」というシンプルで力強い哲学です。この言葉に、SHIFTの人的資本経営の本質が凝縮されています。 同社では、給与が感覚や年功で決まることはありません。

「給与は投資である」という丹下社長の考えのもと、将来の価値創造への投資として給与体系が設計されています。従業員の貢献度は、単なる主観や印象で測られるのではなく、成長に基づいた数式によって定量的に評価されます。

具体的には、個人のアウトプットが単価、LTV、テイクレートなどの経営指標とどう結びついているかを明らかにし、その数値をもとに報酬が決定されます。

言い換えれば、SHIFTでは給与が可視化できるインセンティブとして機能しているのです。 この仕組みによって、社員は「どんな行動がどのように評価につながるか」を明確に理解し、リスキリングなど自分に正しい投資ができるのです。

上司と部下は、KPIや成果目標について日常的にすり合わせを行い、成果と報酬を接続する対話を重ねています。感情や空気で評価される曖昧さがないからこそ、納得感が生まれ、自律的な行動が促されるのです。 人的資本を計測できるものとして捉え、マネジメントできる対象として、経営や制度に組み込みます。このアプローチにより、SHIFTはブラックボックス化しがちな人材評価の領域を可視化し、誰もが理解し、チャレンジできるようにしたのです。

そして重要なのは、これは単なる人事制度の刷新にとどまらず、SHIFTという企業文化そのものを再構築する取り組みにほかならないということです。 評価が透明になれば、社員の期待も行動も変わります。

報酬の背後にある評価ロジックを全員が理解している組織は、成長のゴールを明確にでき、社員が自走できたす。SHIFTの人的資本経営は、まさにそれを体現しています。

従業員一人ひとりの貢献度と給与が正しく結びつき、これが社員の納得感を高め、不平不満を減らします。

さらに特筆すべきは、SHIFTが“エリート幻想”に陥らず、いわゆる99%の人々に光を当てていることです。

丹下社長はこう語ります。「僕は1%の天才よりも、その他大勢の、99%の人たちに関心がある。天才にしか興味がないなら、コンサルティング会社でも立ち上げればいい」。

SHIFTでは、学歴や職歴といった従来のラベルに頼らない採用を徹底しています。元警察官、看護師、俳優、トップコンサルタント、さらには引きこもり経験者まで——バックグラウンドは驚くほど多様です。にもかかわらず、そうした“バラバラな人材”が、組織の一員として有機的に機能している。この事実こそ、SHIFTが人的資本経営を文化レベルで実装している証左と言えるでしょう。

その土台となっているのが、同社が独自に開発した適性評価「CAT検定」です。単なるスキルや経験の有無ではなく、SHIFTという組織で成果を出せるかどうかという“素養”に焦点を当てた設計が特徴です。これにより、従来なら採用の対象外とされたかもしれない人材が、戦力として活躍するチャンスを得ています。 人材の活用においては、評価の透明性も極めて高い水準にあります。

SHIFTは、役員陣が年間1,200時間を割いて評価会議を実施するという徹底ぶりで、「ヒトログ」により450項目を超える人材データを管理・活用しています。感覚や印象に頼るのではなく、データに基づいて「どこにズレがあるのか」「どうすれば機会を最大化できるのか」を緻密に検証し続けているのです。

SHIFTの強み「ヒトログ」とは?

「給与」「やりがい」「人間関係」の3項目だ。

SHIFTの人的資本マネジメントを支える重要な考え方のひとつが、「ヒトログ」という仕組みです。丹下社長によれば、社員が会社を辞める理由は大きく分けて「給与」「やりがい」「人間関係」の3つに集約されるといいます。

そこでSHIFTでは、社員一人ひとりがこの3つに対してどんな価値観を持っているか、何にモチベーションを感じるかを可視化し、それに応じた制度やマネジメントを行っています。

ヒトログでは、約450項目について、社員本人の満足度や重要度、上司の評価が記録されており、それぞれの項目に関連する具体的なデータも表示されます。 たとえば「給与」なら現在の年収や将来の希望年収、評価などが一覧化され、「やりがい」では仕事に対する志向性や、3年後・5年後の成長イメージが矢印で示されます。

自分がゆっくり成長したいのか、急成長したいのか、それとも今の状態に満足しているのかが明確に分かるようになっているのです。

「人間関係」の項目では、社内イベントへの参加状況やメンタルの状態などもグラフで可視化され、社員の心のコンディションまで把握できるようになっています。

大切なのは、「社員が何を大切にするか」は人それぞれ異なるという前提に立っている点です。そのため、全員に同じ制度を当てはめるのではなく、個々の価値観や働き方に応じて柔軟に対応する、個別最適な人事・マネジメントが設計されているのです。

これが、SHIFTのカルチャーに深く根づいた「個を活かす」という視点です。 現実には、異なる業界や経験を持つ人材を束ねるのは簡単ではありません。就いてきた仕事も異なれば、性格やスキルもまったく異なる人たちを統制ではなく設計で束ねています。

SHIFTの人的資本経営において、もう一つ注目すべきポイントが「社員に成長を促す仕組み」の設計です。同社の人材育成は、単なる研修や勉強会にとどまらず、評価制度と密接に結びついています。なかでも象徴的な制度が、独自のキャリアアップ資格「トップガン(TG)」です。

トップガンは、SHIFTが独自に設計した社内資格制度で、職種やスキルレベルに応じて「TG7」から「TG30」まで12種類のランクが用意されています。それぞれがITリテラシーや専門知識に関する試験に紐づいており、社員はこの制度を通じて自分のスキルを数値化・可視化することができます。

この仕組みの面白い点は、資格を取得することで、単価に応じたプロジェクトが実際にアサインされます。スキルと報酬が明確にリンクしているため、社員にとっては何を学べば、どのようにキャリアが開けるのか?年収が上がるのかが、明らかになっています。

また、これは育成制度であると同時に、SHIFTにおける文化形成の装置でもあります。社員一人ひとりが、自身の市場価値や強みを自覚しながら働ける環境は、モチベーションを高め、組織全体の自律性を育てる土壌にもなっているのです。 成長の方向性が可視化されているからこそ、人は動機づけされ、自ら学ぶ姿勢を持てるのです。

その結果として、2025年8月期には売上高1,298億円(前年同期比17%増)、営業利益156億円(同48%増)という実績を記録。2014年の上場時と比較すれば、売上は60倍、営業利益は126倍という驚異的な成長です。

この成長の原点には、SHIFTが解体してきた“2つのブラックボックス”があります。ひとつは、属人的で非効率だったソフトウェアテストという業務そのもの。

もうひとつは、曖昧な基準で人材が評価されていた人事のあり方です。SHIFTは、業務の構造を分解し、可視化し、再設計することで標準化を実現。さらにその思考法を人材にも応用し、適材適所の配置ができる仕組みに昇華させました。

SHIFTの採用は、たとえ過去に勤怠に難があったとしても、コミュニケーションが得意でなくても、CAT検定をパスできるなら積極的に門戸を開いています。この柔軟かつ合理的なアプローチは、SHIFTが単なる“制度優等生”ではなく、文化として人を活かす経営を実現していることを物語っています。

SHIFTは会社経営を「街の運営のようなもの」と表現することもある。人口流入(採用)を最大化し、人口流出(退職)を最小に、そして街で人が快適に暮らせるような施策(人的資本施策)を展開する、ということだ。

SHIFTの人事戦略は、文化づくりそのものでもあります。たとえば「街の運営」として企業経営をとらえる思想には共感を覚えました。

人口流入(採用)を最大化し、流出(退職)を最小限に。街の住人が快適に暮らせるよう、人的資本施策が整備されています。この比喩には、企業を一つのエコシステムととらえ、制度とカルチャーを有機的に連携させる発想が垣間見えます。

SHIFTの経営には、仕組み化、分解、数値化というDNAが深く根づいています。たとえば、必要な稼働時間や工数を精緻に計算し、個人単位でKPIを設定。何に時間を使い、どんな成果を期待されているのかを従業員が上司と綿密に擦り合わせる。評価が曖昧なまま宙ぶらりんになることがなくなります。ここまで解像度を上げるからこそ、人は目的意識を持ち、やりがいと報酬のバランスの中で主体的に動けるのです。

そしてSHIFTの強さを語るうえで欠かせないのが、ソフトウェアテスト業務の標準化という切り口です。属人的でブラックボックス化されていた領域に手を入れ、分解・再構築した結果、それを土台に新たなビジネスモデルを築きました。さらにこの分解思考は人材にも応用され、人の得意・不得意に合わせた配置や評価がなされる。これは単なる人事制度改革ではなく、“SHIFTという文化”そのものの形成過程と言えるでしょう。

また、元キーエンス社長の佐々木道夫氏がSHIFTに会長として参画し、トップ営業として活躍している点も象徴的です。「キーエンスと社風は違うが、プロセスを徹底的に分解し、データで経営するスタイルは共通している」と語るように、SHIFTは“カルチャーが違っても、構造的な強さを持つ組織”を体現しています。

SHIFTの人的資本経営は、人材マネジメントに悩む全ての企業に対して、希望とヒントを与えてくれる好例です。文化と制度が噛み合い、社員一人ひとりが意志を持って働ける環境が、どうすれば生まれるのか。本書はその問いに対する実践的な答えを、数値とエピソード、そして経営哲学によって教えてくれる一冊です。

人的資本経営を“単なる流行語”で終わらせないために——本気で組織を変えたい人にこそ手に取ってほしい本です。

最強Appleフレームワーク


この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

Ewilジャパン取締役COO
Quants株式会社社外取締役
株式会社INFRECT取締役
Mamasan&Company 株式会社社外取締役
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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