
書籍:100歳まで食事を楽しめる蘇味覚
著者:小垣佑一郎
出版社:新流舎
ASIN : B0HFFYCG49

【書評】『蘇味覚』なぜ今読むべきか?自分の意思決定と判断の質を上げる「うま味」と腸内環境の最強戦略
味覚が低下したとき、その原因として「亜鉛不足」がよく挙げられます。しかし、味覚障害の原因はそれだけではありません。薬の副作用、風邪などの感染症、口腔内の乾燥、歯周病、貧血、全身疾患、加齢、ストレスなど、さまざまな要因が関係します。
さらに、味そのものではなく、嗅覚が低下したことで食べ物の風味を感じにくくなっている場合もあります。 味覚は、単に食事のおいしさを判断するための感覚ではありません。食欲や栄養摂取、心身の健康、生活の満足度にも深く関わっています。
味を感じにくくなると、食事への関心が薄れ、摂取量が減ることがあります。反対に、濃い味を求めて塩分や糖分を過剰に摂取する可能性もあります。
仕事や日常生活で安定したパフォーマンスを維持するには、運動、食事、睡眠といった基本的なコンディション管理が欠かせません。そのなかでも食事は、身体に必要な栄養を補給するだけでなく、緊張を和らげ、気持ちを切り替える時間でもあります。味覚が損なわれれば、栄養状態だけでなく、食事がもたらす喜びや人との交流にも影響が及びます。
今回紹介する『100歳まで食事を楽しめる 蘇味覚』(小垣佑一郎著、新流舎)は、味覚を入り口に、口腔環境と全身の健康との関係を考える一冊です。著者は、これまで多くの患者を診療してきた歯科医の立場から、味覚、嗅覚、咀嚼、唾液、歯や歯ぐきの状態が、食べる意欲や健康にどのような影響を与えるのかを解説しています。
健康管理では、血糖値、血圧、コレステロールなど、数値で把握しやすい指標に注意が向きがちです。一方、「食事がおいしく感じられない」「以前より味が薄く感じる」といった感覚の変化は、年齢や疲労のせいだと見過ごされることがあります。
しかし、こうした変化の背景には、栄養不足だけでなく、服用している薬、口腔内の疾患、唾液量の低下、嗅覚の異常、心身の不調などが隠れている可能性があります。
また、本書では、甘いものをやめられないといった食行動についても、本人の意志の弱さだけで判断せず、糖質の摂取習慣や口腔環境、腸と脳の関係など、身体全体の仕組みから捉える必要性が示されています。
ただし、個々の症状や食行動の原因は一様ではなく、本書の説明だけですべてを判断することはできません。 味覚を守ることは、単に食事を楽しむためだけではなく、適切な栄養を取り、心身の健康と生活の質を維持することにつながります。本記事では、本書の知見をもとに、味覚が低下する背景と、長く食事を楽しむために見直したい生活習慣や口腔環境について考えていきます。
この記事でわかること
・「味覚=舌の機能」という大きな誤解と、歯・唾液・嗅覚・腸管まで網羅する全身ネットワークの真実
・甘いものや脂っこいものを「頭ではやめたいのにやめられない」本当の理由(腸内細菌と報酬系の関係)
・糖質過剰が引き起こす血糖値の乱高下とホルモンバランスの崩れが、いかにメンタルと判断力を破壊するか
・うま味(だし)が脳内のGABAやセロトニンを分泌させ、情緒を安定させる脳科学的メカニズム
・予防は「我慢」ではなく「感度の回復」であるという、行動変容の新しいアプローチ
30秒でわかる本書のポイント
【結論】
・「味覚=舌の一部で感じるもの」というのは根本から誤りであり、味わいは舌全体、歯や歯茎、唾液、嗅覚、腸管にまで散らばる味蕾を含めた複雑なシステムの上に成り立っている。
・味覚からの信号が歪むと、脳の島皮質などを含むネットワークがあまり働かなくなり、食の意思決定が雑になる。
・「食べられること」と「食事を楽しめること」は異なり、料理や食事を楽しむことは、主観的幸福度を約20%も高める。
【原因】
・味覚低下の予備軍は「4人に1人」とされ、濃い味・甘いものを欲し続ける状態や、肉・魚を重く感じて避け始める状態が問題の入口となる。
・人間の食欲や嗜好の3〜5割は腸内環境に左右されており、悪玉菌が生み出す炎症性物質(LPS)が血流に乗って脳の報酬系を刺激し、さらなる糖分・脂質摂取を誘発する。
・気分の浮き沈みやイライラは、糖質過剰による血糖値の乱高下やビタミンB1不足、ホルモンバランスの乱れが引き起こす。
【対策】
・健康寿命を延ばすための予防は、塩分制限などの「我慢」ではなく、薄味でもおいしいと感じられる
「味覚の感度を取り戻すこと」である。
・タンパク質の一日の摂取量は体重1kgあたり1〜2gが理想であり、うま味(だし)を日常に取り入れることで、GABAやセロトニンの分泌を促し情緒を安定させる。
・味覚障害の治療は「亜鉛サプリ単独」では不十分であり、「粘膜」「神経」「代謝」を同時に支える多角的な栄養アプローチと口腔ケアが欠かせない。
本書の要約
本書『100歳まで食事を楽しめる 蘇味覚』は、2万8000人以上の患者を診療してきた歯科医師・小垣佑一郎氏が、医学的な知見と臨床経験をもとに、「最高の味わい」を取り戻す方法を解説した一冊です。
多くの人は味覚の低下を「年齢のせい」と考えがちですが、著者は、加齢だけで片づけるべきではないと指摘します。味覚の変化には、口腔環境だけでなく、腸、鼻、脳、ホルモン、免疫、栄養状態など、さまざまな要因が関係している可能性があるからです。
つまり、味覚の低下は、身体全体の状態を見直すためのサインとも捉えられます。 本書の重要な論点は、「食べられること」と「食事を楽しめること」の違いに注目している点です。高齢期の健康管理は、体重や血圧、血糖値などの数値に偏りがちです。
しかし、肉や魚をおいしく食べ、旬の食材に季節を感じられることも、人生後半の幸福を支える大切な要素です。 また著者は、「甘いものがやめられない」「気分が安定しない」といった状態を、意志の弱さだけで説明するのは適切ではないと述べています。
その背景には、糖質の過剰摂取やホルモンバランス、腸内環境、炎症性物質であるLPSなどが関係する可能性があると解説しています。 一方、日本人が古くから親しんできた「だし」のうま味についても、食事の満足度を高め、心身の状態を整える可能性が紹介されています。
本書は、日々の食事と味覚を見直し、100歳になっても大切な人と食卓を囲む喜びを維持するための、実践的なヒントを与えてくれる一冊です。
こんな人におすすめ
・日々の食事が以前ほど「おいしい」と感じられなくなってきたビジネスパーソン
・ストレスから無意識に甘いものを食べてしまい、食後のパフォーマンス低下(血糖値スパイク)に悩む人
・健康診断の数値は正常だが、最近食べ物の好みが極端になり、肉や魚を避けるようになった人
・サプリメント(亜鉛など)を飲んでいるが、体調や味覚の根本的な改善が見られない人
・AI時代において、人間特有の「感覚」や「直感」を研ぎ澄まし、高いパフォーマンスを維持したいリーダー
本書から得られるメリット
・腸内細菌と脳のメカニズム(LPSや報酬系の働き)を理解し、食欲を構造的にコントロールできるようになる
・「味がわかりにくい=亜鉛不足」といった思い込みから脱却し、正しいタンパク質摂取や腸内環境改善の知識が手に入る
・うま味(だし)を日常に取り入れることで、GABAやセロトニンの分泌を促し、ストレス耐性と集中力を高めることができる
・健康法を「我慢や制限」ではなく「感覚の再生」として捉え直し、無理なく持続可能な行動変容を起こせる
・食事の楽しみを取り戻すことで、日々の主観的幸福度が向上し、AIには代替できない創造性や活力が湧いてくる

味覚は、人生の「経営資源」である:「食べられる」と「楽しめる」の決定的違い
「味覚=舌の一部で感じるもの」というのは根本から誤りであり、味わいは舌全体、歯や歯茎、唾液、嗅覚、さらには腸管にまで散らばる味蕾までも含めた複雑なシステムの上に成り立っています。 (小垣佑一郎)
ビジネスの世界で優れた経営者は、自社のバランスシートには表れない「無形資産」の価値を理解しています。ブランド力、知財、組織文化、顧客との信頼関係といった目に見えない資産が、企業の長期的な成長を支えるからです。 これを個人の人生に置き換えたとき、重要な無形資産の一つとなるのが「五感」になると感じています。
『100歳まで食事を楽しめる蘇味覚』で歯科医の小垣佑一郎氏は、五感の中でも特に味覚の重要性を指摘します。著者が提示する重要な問題提起は、「食べられること」と「食事を楽しめること」は異なるという点にあります。
現代の医学や高齢期の健康管理では、血糖値、血圧、コレステロール、BMIなど、数値で把握しやすい指標が重視されがちです。健康診断で「異常なし」と言われ、問題なく食事ができていれば、自分は健康だと考えてしまうこともあります。
しかし、毎日の食事から必要な栄養を摂り、食欲と生活の満足度を維持するためには、味覚、嗅覚、咀嚼、唾液、歯や歯ぐきの状態、さらに食べる意欲までが相互に機能している必要があります。
味を感じにくくなると、より強い刺激を求めて、濃い味や甘味、脂質の多い食品を選びやすくなる可能性があります。素材本来の味がわかりにくくなり、食事の内容も偏りがちです。
さらに、肉や魚などの重要なタンパク質源を「胃がもたれる」「重い」「おいしくない」と感じて避けるようになれば、食事量や栄養の質が低下するおそれがあります。 その状態が続けば、筋力や活動量が落ち、人と食事をする機会まで減ってしまうかもしれません。
「食べる楽しみ」の喪失は、単なる趣味の問題ではなく、生活への意欲やQOL(Quality of Life)に関わる重要な課題なのです。 経営の視点で捉えれば、味覚は日々のQOLを支える重要な資産です。
企業が従業員の健康を考える際には、睡眠、運動、メンタルヘルスなどが注目されますが、「きちんと食べ、食事を楽しめているか」という視点は見落とされがちです。 多忙な人ほど、早食い、加工食品、濃い味、過度な飲酒、ストレスによる過食に傾きやすく、口腔ケアも後回しになりがちです。
こうした習慣は、将来の食欲や栄養状態、身体機能に影響を及ぼす可能性があります。味覚が低下してから回復を目指すよりも、早い段階から口腔環境や食生活を整え、感覚の衰えを予防するほうが合理的です。
ビジネスでは、問題が起きたときに、個人の「やる気」や「気合い」だけに原因を求めず、システムや構造に欠陥がないかを検討します。しかし、自分自身の健康や食生活については、「甘いものをやめられない自分が悪い」「深夜に脂っこいものを食べるのは意志が弱いからだ」と、個人の責任だけで考えがちです。
本書は、こうした思い込みを見直す必要があると指摘します。ジャンクフードや夜食をやめられない背景には、本人の意志だけでなく、腸内環境、血糖値の変動、ストレス、睡眠不足、食習慣など、複数の要因が関係している可能性があるからです。
著者は、腸内細菌が人間の食欲や嗜好に影響を与える可能性について解説しています。ただし、その影響の大きさや具体的な仕組みについては、研究途上の部分もあります。 糖質や精製された小麦粉、アルコール、脂質の多い食品に偏った食生活は、腸内環境のバランスを乱す一因になり得ます。
また、腸内細菌に由来する物質の一つであるエンドトキシン(LPS)は、体内の炎症との関連が研究されています。 本書では、こうした腸内環境と脳の相互作用が、食欲や報酬系に影響を与える可能性が紹介されています。
食生活の乱れを単なる意志の弱さとして片づけず、身体の仕組みや生活環境を含めた「構造」の問題として捉えることが重要です。
さらに、糖質の過剰摂取にも注意が必要です。甘いものを食べた後に、眠気、空腹感、いら立ち、気分の変化などを感じる人もいます。その背景には、血糖値の急激な変動や栄養状態、ホルモンなどが関係している可能性があります。
味覚や食欲に関係する脳の情報処理がうまく働かなければ、「何を食べたいのかわからない」「食事を考えることが負担になる」といった状態が生じることもあります。感覚や感情の変化は、仕事への集中力や判断にも影響を与えかねません。
重要なのは、自分を責めることではなく、どのような条件が食行動を乱しているのかを把握することです。食事、睡眠、ストレス、腸内環境などを構造的に捉えることが、行動を改善する第一歩になります。
ストレス社会の罠――「食べて落ち着く」習慣を見直す
現代のビジネスパーソンは、プレッシャーと不確実性にさらされています。慢性的なストレスは、味覚や食行動に影響を与える要因の一つです。 仕事の緊張で交感神経が優位になると、呼吸が浅くなり、心拍数が上昇することがあります。
こうした状態から一時的に離れるために、無意識のうちに食べる行動を選ぶ人もいます。食事によって安心感を得ること自体は、不自然な反応ではありません。
しかし、ストレスが慢性化すると、「不安や緊張を感じるたびに食べる」という行動が習慣になる可能性があります。そこに、糖質や脂質の多い食品による強い満足感、血糖値の変動などが重なれば、過食や甘いものへの依存的な行動につながりかねません。
さらに見落とせないのが、服薬による影響です。高血圧や糖尿病、心疾患の治療薬、胃薬、抗うつ薬など、一部の薬には、唾液の分泌低下や味覚の変化が副作用として現れる場合があります。
ただし、自己判断で服薬を中断するのは危険です。味覚の変化や口の渇きが気になる場合は、医師や歯科医師、薬剤師に相談し、薬の種類や服用方法を確認する必要があります。 ストレスケア、食生活、口腔環境、服薬状況を個別に考えるのではなく、相互に関連する要素として見直すことが大切です。
味がわかりにくくなると、「亜鉛が不足しているのではないか」と考え、すぐにサプリメントを摂ろうとする人もいます。しかし、味覚障害の原因は亜鉛不足だけではありません。
本書では、味覚障害のうち亜鉛欠乏症が占める割合として14.6%という数値が紹介されています。味覚の低下には、口腔内の乾燥、薬の副作用、感染症、鼻や脳の疾患、鉄やビタミンなどの栄養不足、加齢など、さまざまな要因が関係します。
味蕾や口腔粘膜の維持には、亜鉛や鉄などのミネラルだけでなく、タンパク質を含む多様な栄養素が必要です。特定の栄養素だけを補うのではなく、粘膜、神経、代謝を総合的に支える視点が欠かせません。
著者は、タンパク質の一日の摂取量として、体重1kg当たり1〜2gを目安に挙げています。ただし、必要量は年齢、運動量、健康状態によって異なります。特に腎臓病などの持病がある場合は、医師や管理栄養士への相談が必要です。
タンパク質の摂取量やPFCバランスを確認することは、筋肉の維持や体調管理に役立ちます。しかし、数値だけを追いかけるのではなく、無理なく継続できる食事であることも重要です。
本書がもう一つ注目するのが、「うま味」です。昆布やかつお節などから取るだしは、素材の味を引き出し、塩分や濃い調味料を増やさなくても食事の満足度を高めるのに役立ちます。
著者は、グルタミン酸やイノシン酸などのうま味成分と、GABAやセロトニンを含む神経系との関係についても解説しています。ただし、だしを摂れば脳内の神経伝達物質が直接増え、情緒が安定すると単純に断定することはできません。
それでも、だしを活用して薄味でも満足できる食事をつくることは、味覚を守り、栄養バランスを整える実践的な方法です。日本のだし文化は、単なる調味技術ではなく、食材のおいしさを引き出し、食事を楽しむための知恵といえます。
予防とは、我慢ではなく「味わう力」を取り戻すこと
多くの健康法では、「塩分を控える」「糖質を減らす」「カロリーを制限する」といった禁止や制限が強調されます。こうした方法は必要な場合もありますが、我慢だけに頼ると長続きしにくいという課題があります。
本書の特徴は、食の楽しみを否定するのではなく、薄味でもおいしいと感じる感度、食材の違いを味わう力、よく噛んで食べる能力を取り戻そうとする点にあります。
単に「甘いものをやめる」と考えると、食生活の改善が苦痛になりかねません。一方で、素材本来の味やだしのうま味を楽しめるようになれば、健康的な食品を選ぶことへの抵抗感は小さくなります。
腸内環境を整えることで、食欲や嗜好が変化する可能性はあります。ただし、「善玉菌を増やせば甘いものや酒を欲しなくなる」とすべての人に当てはめることはできません。体験談と医学的に確立した効果は、分けて考える必要があります。
目標を一方的な制限ではなく、「味覚の感度を取り戻すこと」に置く。この発想は、無理なく行動を変え、健康的な食生活を継続するうえで参考になります。
著者が歯科医師であることは、本書の視点を特徴づけています。食事は、栄養学だけで完結するものではありません。
歯の本数やかみ合わせ、口腔内の衛生状態、唾液の分泌量、舌の状態、噛む力などが整っていなければ、栄養バランスのよい食事が用意されていても、十分に咀嚼し、味わって食べることが難しくなります。
「何を食べるべきか」を考える前に、「それをおいしく、無理なく食べられる口の状態か」を確認する必要があります。ここに本書の実践的な価値があります。
健康診断の数値に大きな異常がなくても、以前より味がわかりにくい、食べ物の好みが極端に変わった、肉や魚を避けるようになったといった変化があれば、食生活と口腔機能を見直す契機になります。味覚の変化が急に起きた場合や長く続く場合は、歯科や耳鼻咽喉科などの医療機関に相談することも重要だと著者は指摘します。
AIやテクノロジーが進歩し、データ収集や論理的な分析が自動化されても、「何をおいしいと感じるか」「何に心が動くか」という主観的な体験の価値は失われません。
日々の食事で「おいしい」と感じることは、単なる娯楽ではなく、食欲を保ち、必要な栄養を摂り、人との交流を楽しむための基盤です。口腔環境と食生活を整え、年齢を重ねても食事を楽しめる状態を維持することは、健康寿命と生活の質を考えるうえで重要な戦略といえます。
コンサルタント 徳本昌大のView
味覚は、食事を楽しむためだけでなく、栄養状態や健康の変化に気づくための重要な感覚です。 味覚は、甘味・塩味・酸味・苦味・うま味などを識別し、何をどれだけ食べるかという判断に影響します。味を感じにくくなると、食欲が低下したり、味を補うために塩分や糖分を過剰に摂取したりする可能性があります。
その結果、食事の偏りや栄養不足につながることもあります。 味覚は舌だけで完結する機能ではありません。嗅覚、唾液、口腔環境、脳の働き、服用している薬、加齢など、さまざまな要因の影響を受けます。
また、食事の内容や体調、腸内環境との関係も研究されていますが、すべての仕組みが明らかになっているわけではありません。 本書『蘇味覚』は、「味わう」という行為を、身体全体の状態と深く関わるものとして捉えています。
特に、うま味を上手に活用することは、素材本来の味を引き出し、塩分や濃い調味料に頼りすぎずに、食事の満足度を高める方法の一つです。食事を「栄養を摂取する作業」として捉えるのではなく、香りや食感、温度、季節感まで含めて味わうことが、食欲を保ち、食生活を豊かにしてくれます。
大切なのは、単に長く生きることではありません。高齢になっても、旬の食材をおいしいと感じ、肉や魚、野菜などから必要な栄養を摂り、家族や友人と食卓を囲める状態を維持することです。食事には身体をつくるだけでなく、人との会話や交流を生み、日々の楽しみを支える役割もあります。味覚を守ることは、食欲や栄養状態だけでなく、人間関係や生活の質を維持することにもつながります。
私自身、健康寿命を延ばすために、運動や睡眠、食事管理など、さまざまな取り組みを続けています。しかし、本書を読むまで、「味覚を維持する」という視点を、健康管理の重要な要素として十分に意識できていませんでした。栄養バランスや摂取量を管理していても、食事そのものを楽しめなければ、長期的に続けることは難しくなります。
本書のアドバイスから学んだのは、健康管理を数値だけで考えるのではなく、「おいしいと感じられるか」という感覚にも目を向ける必要があるということです。口腔環境を整え、よく噛み、多様な食材に触れ、うま味を生かした食事を楽しむ。こうした日々の小さな習慣が、将来の食欲と健康を支えます。
100歳まで生きることを抽象的な目標にするのではなく、100歳になっても食事を楽しみ、大切な人と食卓を囲める状態を目指す。その意味で、本書は健康寿命を考えるうえで新しい視点を与えてくれる、実践的で参考になる一冊でした。
FAQ
Q1. 最近イライラしやすく、気分の浮き沈みが激しいのですが、これも味覚や食事と関係がありますか?
A1. 大いに関係があります。これらは糖質過剰の症状である可能性があります。血糖値の乱高下(血糖値スパイク)やビタミンB1不足、ホルモンバランスの乱れが感情を不安定にさせます。糖質を適正にコントロールし、タンパク質や「うま味」を中心に摂取することで情緒の安定を図ることが推奨されます。
Q2. 健康のために塩分や甘いものを控えるのが苦痛です。どうすればいいですか?
A2. 本書が推奨するのは、無理な「我慢」ではなく「味覚の感度を取り戻すこと」です。腸内環境を整え、うま味(だし)を日常に取り入れることで、脳内のセロトニンやGABAが分泌され、強い刺激(濃い味や甘味)を過剰に欲する衝動が自然と鎮まっていきます。感覚が再生すれば、健康的な選択は苦行ではなくなります。
Q3. 味覚障害には「亜鉛サプリ」を単独でたくさん飲めば治りますか?
A3. それは危険な思い込みです。味覚障害の原因として亜鉛欠乏症が占めるのは全体の14.6%に過ぎません。味覚を回復させるには、単独で大量に亜鉛を摂るのではなく、必ず全体の栄養状態や食事内容とのバランスを考えることが重要です。体重1kgあたり1〜2gのタンパク質摂取を基本とし、「粘膜」「神経」「代謝」を支える多角的な視点が不可欠です。
関連記事
【書評】ケリー・マクゴニガルのスタンフォード式人生を変える運動の科学
現代人は座る時間が長くなり、活動量が低下しています。運動不足は体力の衰えだけでなく、気分や睡眠、ストレスへの対処にも影響します。適度な運動は脳内の神経伝達物質に働きかけ、幸福感を高め、うつ症状や不安、孤独感の軽減にも役立つと研究で示されています。また、人と一緒に体を動かせば、交流が生まれ、人とのつながりも深まります。無理のないウォーキングや筋力トレーニングから始め、毎日の生活に運動を取り入れましょう。
→リンクはこちらから
【書評】フランク・ラポルト=アダムスキーの腸がすべて
食生活を見直し、腸内環境を整えることは、便通や体調の改善、適正体重の維持に役立つ可能性があります。「アダムスキー式腸活法」では、食品を消化速度に応じて「ファスト」と「スロー」に分け、食べ合わせや摂取順序を工夫します。ただし、脂肪や毒素が自然に排出され、必ず痩せると断定できる科学的根拠は確認が必要です。一つの方法に頼り切らず、栄養バランス、食事量、運動、睡眠も含めて生活習慣を整えることが大切です。
→リンクはこちらから
【書評】ハーバード式 脳を最適化する食事法(ジョージア・イード)
『ハーバード式 脳を最適化する食事法』は、心の不調を脳の代謝や栄養状態から捉え、食生活の改善を提案する本です。著者は、インスリン抵抗性や栄養不足が脳機能を妨げる可能性を指摘し、ケトン食や「静かなパレオ食」を紹介します。原題「Change Your Diet, Change Your Mind」が示すように、食への思い込みを見直し、食の選択を変えることが、心身の状態を整える一歩になると説いています。
→リンクはこちらから
















コメント