
書籍:乱読御免
著者:今村翔吾
出版社:毎日新聞出版
現代のビジネスパーソンは、日々大量の情報に接しています。新しいビジネス書やAI関連の専門書、経営者が読むべきとされる古典的名著など、学びたい本は次々と増えていきます。
しかし、仕事に追われて十分な読書時間を確保できず、買ったまま読んでいない本が増えている人も少なくありません。 読書は、新しい知識を身につけ、仕事に役立つ考え方を学ぶための有効な手段です。
しかし、「仕事に役立つ本を読まなければ」「もっと知識を増やさなければ」と考えすぎると、読書が楽しみではなくなり、やがては義務になってしまいます。
本来、読書は自分の興味や好奇心に従って楽しむものです。ところが、成果や効率ばかりを重視すると、好きな本を自由に読むという大切な楽しさを忘れてしまいます。 こうした読書に対する思い込みを見直すきっかけになるのが、直木賞作家・今村翔吾氏の『乱読御免』(毎日新聞出版)です。 今村氏は、歴史上の出来事や人物を独自の視点から描き、多くの読者を魅了してきた歴史小説家です。
膨大な資料を読み込み、数々の作品を生み出してきた著者が、本書で伝えているのは、「読みたい本を自由に読み、読書そのものを楽しめばよい」というシンプルな考え方です。 読書を義務にするのではなく、自分の好奇心を大切にする。本書は、情報があふれる時代だからこそ見直したい、読書本来の楽しさを教えてくれます。
本書を貫くテーマは「自由」です。何を読むかだけでなく、読まないことや途中で読むのをやめることも、読者自身が決めてよいと今村氏は考えています。 読書を特別に高尚な行為と捉える必要はありません。
好きなジャンルを楽しみ、興味を持てない本は無理に読まなくてもよいのです。 この考え方が示しているのは、読書を他人の評価や競争から切り離すことの重要性です。年間何冊読んだか、どれほど難しい本を理解したかといった基準よりも、自分が本に何を求め、そこから何を得たのかを大切にすべきだということです。
生成AIが普及し、膨大な情報の収集や要約が容易になった現在、私たちが本を読む意味も改めて問われています。 AIは文章の要点を整理し、複数の情報を比較することに優れています。
しかし、読書を通じて自分の経験を振り返り、著者の考えに共感したり、疑問を抱いたりする体験には、情報の要約だけでは得られない価値があります。
同じ本を読んでも、年齢や経験、置かれた環境によって受け止め方は異なります。大切なのは、単に著者の主張を理解するだけでなく、「自分はこの本をどう感じたのか」「これまでの考え方を見直すきっかけになったか」と問い直すことです。
こうした読書体験は、自分自身の思い込みに気づき、物事を多面的に捉える力を養うことにつながります。ビジネスにおいても、過去の成功体験や業界の常識にとらわれず、異なる視点から課題を考えることは、判断の質を高めるうえで重要です。
本書は、単におすすめの本を紹介するブックガイドではありません。今村氏がどのような本と出会い、そこから何を感じ、自身の人生や創作活動にどう生かしてきたのかを紹介する読書エッセイです。
時代・歴史小説から実用書、絵本まで、著者に影響を与えた48冊を通じて、読書が一人の作家の思考や創造性をどのように形づくってきたのかが見えてきます。
また、多忙な中でも読書や執筆を続けるための時間管理や、異なるジャンルから新しい発想を得る姿勢にも、多くの学びがあります。 特に注目したいのが、作品を客観的に評価する「書評」だけでなく、読者自身の感情や経験を大切にする「書感」という考え方です。
本を読む価値は、知識を増やすことだけではありません。自分の思い込みに気づき、新しい視点を獲得し、それを仕事や人生の判断に生かしていくことにもあります。
本記事では、今村氏の自由な読書スタイルを紹介しながら、『天才たちの日課』にも通じる習慣化の重要性、異なるジャンルから学ぶことの意義、そしてAI時代における「書感」の価値について考察します。
読書を単なる情報収集で終わらせず、創造性や判断力を高めるためにどう活用できるのか。キャリアや企業経営、知的生産の視点から、本書の示唆を読み解いていきます。
この記事でわかること
・「読書は崇高な義務である」という思い込みから解放される「読まない自由」
・「書評(評価)」ではなく「書感(私的な感情)」がAI時代に価値を持つ理由
・偉大な天才たちと著者に共通する「圧倒的な自己規律」の正体
・忙しいビジネスパーソンでも実践できる「隙間時間」の読書術
・つまらない本を途中でやめる(損切りする)決断力とマインドセット
・漫画など他ジャンルからの刺激を利用し、自社の強みを再定義する思考法
・AI時代において「偏読(偏った読書)」が独自の競争力を生むメカニズム
30秒でわかる本書のポイント
【結論】
・読書は自由な娯楽であり、「自分と本との関係」こそが最も重要 読書は数ある娯楽の一つであり、高尚なものだと神格化する必要はない
・何を読むかだけでなく、「読まないこと」も含めて認めるスタンスが大切
・客観的な評価(書評)よりも、「貴方だけの感想(書感)」を持つことが価値になる
【原因】
・なぜ私たちは「本を読まねば」と焦り、読書が窮屈になるのか
・昭和の時代からの「TVや漫画より本が偉い」という記憶が読書のハードルを上げている
「読書=成果を上げるための自己研鑽」という固定観念が、純粋な好奇心を奪っている
・途中で読むのをやめることに「負け」や「罪悪感」を感じてしまう構造がある
【対策】
・情報過多の時代を生き抜くための「乱読・偏読」の実践法
・環境に左右されない盤石なルーティンを持ち、移動などの隙間時間を徹底活用する
・本の世界に入り込めない時は「作家の責任」と割り切り、1冊だけで見切りをつける
・他ジャンル(実用書や漫画、絵本など)に触れる際も、そこからの刺激を「自分の本業」の力に変換する
本書の要約
直木賞作家・今村翔吾氏の『乱読御免』は、読書に対する固定観念を見直し、自分らしい読書の楽しみ方を考えるきっかけを与えてくれるエッセイ集です。
毎日新聞の連載をまとめた本書には、時代・歴史小説から実用書、絵本まで、著者の人生や創作活動に影響を与えた48冊が登場します。 多忙な日々を送る今村氏は、書斎でまとまった読書時間を確保することが難しくなった現在、移動中の車内や控室などの隙間時間を活用して、読書や執筆を続けています。
また、歴史関連の本を好む「偏読」を自認しながらも、漫画をはじめとする異なるジャンルの作品から積極的に刺激を受け、新しい発想を創作に取り入れています。
本書を貫くテーマは「自由」です。何を読むかだけでなく、読まないことや途中で読むのをやめることも、読者自身が決めてよいという考え方が示されています。読書を高尚な義務として捉えるのではなく、自分の好奇心に従って楽しむことの大切さを教えてくれます。
また、本書の特徴は、作品を客観的に評価する「書評」よりも、読者自身の感情や経験を重視する「書感」にあります。大切なのは、何冊読んだかではなく、その本から何を感じ、どのような気づきを得たかということです。
読書を通じて自分の思い込みに気づき、異なる価値観に触れ、知識を新しい発想へとつなげられるようになります。 本書は、AI時代における読書の意義を見直し、自分らしい知的生産のスタイルを築くためのヒントを与えてくれる一冊です。
こんな人におすすめ
・毎日忙しく、まとまった読書時間を確保できないと悩んでいるビジネスパーソン
・「本は最後まで読まねばならない」という呪縛から積読を抱えてしまう人
・読書を「仕事に役立てるための課題」として捉え、窮屈さを感じているリーダー
・ビジネス書ばかり読んでおり、自分の思考が均質化していると感じる経営者
・AI時代における自身の「判断の質」や「人間らしい思考力」を高めたい人
・これから「学び直し(リスキリング)」を始めたいが、何から手をつけていいか迷っている人
本書から得られるメリット
・どんな環境でも結果を出すプロフェッショナル独自の「自己管理術・ルーティン」が学べる
・「読まない自由」を受け入れることで、精神的な身軽さと情報の取捨選択力が得られる
・1日10分の隙間時間を資産に変える、実践的な知的生産の習慣が身につく
・異なる業界や他ジャンルからインスピレーションを得る「相対化の思考」が身につく
・サンクコスト(埋没費用)にとらわれず、つまらないものから撤退する「意思決定のスピード」が上がる
・本からの知識を構造で捉え、自らの記憶と結びつけることで、AIには代替できない教養が形成される
「読むべき本」に追われる時代、「読まない自由」を知る
要するに読書は自由なのだ。(今村翔吾)
AIの普及によって、情報収集の方法や時間の使い方が大きく変わり、ビジネスパーソンには常に新しい知識を学ぶことが求められています。しかし、日々の仕事に追われ、読書の時間を十分に確保できず、買ったまま読んでいない本が増えている人も少なくありません。
読書は、教養を深め、仕事に役立つ知識を身につけ、新しい視点を得るための有効な手段です。しかし、「仕事に役立つか」「自分の成長につながるか」という基準ばかりで本を選んでいると、読書が楽しみではなく、こなすべき課題になってしまいます。
本来、読書は自分の興味や好奇心に従って、自由に楽しむものです。 成果や効率を意識するあまり、読書そのものの楽しさを失ってしまっては、本末転倒ではないでしょうか。こうした読書に対する固定観念を見直すきっかけになるのが、直木賞作家・今村翔吾氏の『乱読御免』です。
読書の価値は、知識を増やすことだけではありません。異なる価値観に触れ、新しい視点を獲得し、自分の考え方を広げられることにも大きな意味があります。
私自身、ビジネス書や経営書だけでなく、小説も積極的に読んでいます。なかでも歴史小説は、異なる時代を生きた人々の価値観や意思決定を知ることができ、現代のビジネスを考えるうえでも多くの気づきを与えてくれます。
私の好きな小説家の一人が今村翔吾氏です。新作が刊行されると、忙しくても時間をつくって読むようにしています。今村氏の作品の魅力は、歴史上の出来事や人物を、従来とは異なる視点から描いていることです。よく知られた歴史にも新たな解釈を加えることで、読者に新鮮な発見をもたらしてくれます。
最近読んだ『未だ本能寺にあり』も、その魅力を感じられる作品でした。同じ歴史的事実でも、誰の立場から見るか、何に注目するかによって、物語の意味は大きく変わります。こうした視点の転換は、既存の常識を見直し、新しい事業や価値を生み出すビジネスの世界にも通じています。
その今村氏が、自身の読書体験をまとめた『乱読御免』を刊行したことから、今回のブログで取り上げることにしました。 本書は、毎日新聞の連載をもとにした読書エッセイです。
歴史・時代小説をはじめ、漫画、ビジネス書、絵本など、著者の人生や創作活動に影響を与えた48冊が紹介されています。
本書で一貫して語られているのは、読書は義務ではなく、自分の意思で自由に楽しむものだという考え方です。話題になっているからといって無理に読む必要はありません。興味のある本を選び、合わなければ途中で読むのをやめてもよいのです。何を読むか、どこまで読むかは、読者自身が決めることです。
読書の自由を取り戻し、思い込みから抜け出す
我々も多くの独断と偏見に囚われて生きているらしい。やはり本は気付きをくれる。
本書の中でも、特に印象に残った言葉です。 私たちは、自分の経験や知識に基づいて物事を判断しています。しかし、その判断が常に正しいとは限りません。過去の成功体験や慣れ親しんだ価値観が、知らず知らずのうちに思考を制約していることがあります。
特に経営者やビジネスパーソンは、経験を重ねるほど、自分なりの判断基準が確立されていきます。それは意思決定のスピードを高める一方で、異なる意見や新しい可能性を見落とす原因にもなります。 読書の価値は、こうした思い込みを見直す機会を与えてくれる点にあります。
自分とは異なる時代や環境で生きた人々の考え方に触れたり、これまで関心のなかった分野の知識を得たりすることで、当たり前だと思っていたことに疑問を持てるようになります。
今村氏は、読書を特別に高尚な行為として捉えていません。本を読むことは数多くある選択肢の一つであり、読者が自分の関心に従って自由に楽しめばよいと考えています。
特にビジネスの世界では、読書が自己成長や成果を上げるための手段として位置づけられています。経営者が推薦する本や話題のビジネス書を読むことが、成功に近づく方法の一つとして紹介されることもあります。 もちろん、専門知識や教養を身につけることには意味があります。
しかし、それが過度な義務感につながると、本を読む楽しさが失われてしまいます。 年間何冊読んだか、どれほど難しい本を理解したか、話題の本を読んでいるかといった基準は、必ずしも読書の価値を決めるものではありません。
むしろ大切なのは、自分が本に何を求め、どのような体験を得ているかです。 この考え方は、ビジネスにおける情報の取捨選択にも通じます。 新しい経営理論やフレームワークが注目されると、多くの企業が導入を検討します。
しかし、どれほど優れた手法であっても、自社の課題や組織の成熟度に合っていなければ、十分な成果は期待できません。 重要なのは、世間で評価されているから採用するのではなく、自分や組織に必要かどうかを判断することです。 読書でも同様に、話題になっている本を無理に読む必要はありません。
今の自分に必要な本を選び、関心のない本は読まないという判断も尊重されるべきです。 本書では、本を途中で読むのをやめることについても、読者を作品に引き込めなかった場合、その責任を読者だけが負う必要はないという考え方が示されています。
これは、行動経済学でいうサンクコスト(埋没費用)の問題とも関連します。 購入した本が期待していた内容と異なっていた場合、購入代金を取り戻すことはできません。それにもかかわらず、「せっかく買ったのだから最後まで読まなければ損だ」と考えると、さらに時間を使い続けることになります。
このとき、本を読み続けるかどうかは、過去に支払った金額ではなく、これから得られる価値によって判断する方が合理的です。
企業の投資判断でも、すでに多額の資金を投入した事業であっても、今後の収益性や成長可能性が乏しい場合には、継続の是非を再検討する必要があります。 ただし、少し難しいからといって、すぐに読むのをやめることが常に正しいわけではありません。
難解な本に向き合うことで、新しい知識や考え方を獲得できる場合もあります。 大切なのは、何のためにその本を読んでいるのかを考えることです。
また、今村氏の読書が歴史小説だけに限定されていない点も参考になります。 今村氏は歴史小説を中心に読書を続ける一方で、漫画などの異なるジャンルからも積極的に刺激を受けています。漫画を読む際には、単に物語を楽しむだけでなく、小説という表現方法の特徴や可能性についても考えているのです。
漫画には、絵によって人物の表情や動きを直感的に伝えられるという特徴があります。一方、小説には、登場人物の内面を言葉で描き、読み手の想像力によって情景を広げられるという特徴があります。 異なる表現方法に触れることで、それぞれの強みや限界が見えてきます。
これは企業経営においても参考になる考え方です。 企業は競争環境を分析する際、同じ業界の企業を比較対象にすることが一般的です。
しかし、同業他社の事例だけを参考にしていると、発想が既存の業界構造に制約されることがあります。 そこで有効なのが、異業種のビジネスモデルや顧客体験から学ぶことです。 異業種の成功事例をそのまま導入するのではなく、なぜ顧客に支持されているのかを理解し、自社の課題に応用できる部分を見極めることが重要です。
今村氏が漫画を通じて小説の可能性を考えるように、企業も異業種と比較することで、自社の強みを再認識できます。 専門分野を深く学ぶ「偏読」と、未知の分野に触れる「乱読」を組み合わせることで、知識の幅と深さを両立させることができます。
自分の専門領域に閉じこもらず、異なるジャンルから学び、これまでの常識を疑うことが、新しいアイデアを生み出すための重要な条件なのです。
『天才たちの日課』に学ぶ、好きな仕事を続けるための習慣
予定があろうが、無かろうが、決められた時間に起きて執筆を始める。
今村氏の読書や執筆に対する姿勢を理解するうえで、参考になるのがメイソン・カリーの『天才たちの日課』です。本書では、作家や芸術家、思想家など161人の創作者たちの生活習慣が紹介されています。(メイソン・カリーの書評記事)
興味深いのは、優れた作品を生み出す人々に、共通する唯一の成功パターンが存在しないことです。小説家のアンソニー・トロロープは早朝の時間を執筆に充て、多くの作品を残しました。
一方、トーマス・ウルフは深夜から夜明けまで執筆を続けていました。村上春樹は規則正しい生活を重視し、創作に集中できる環境を整えています。
こうした事例が示すのは、創造性を発揮するための方法は人によって異なるということです。成功者の習慣をそのまま模倣するよりも、自分の特性を理解し、無理なく継続できる生活を設計することが重要になります。
この考え方は、今村氏の仕事への向き合い方にも通じています。今村氏は、予定の有無にかかわらず決まった時間に起き、執筆を始める習慣を大切にしています。専業作家になってから、むしろ仕事に費やす時間が増えたとも述べています。
組織を離れて独立すると、時間の使い方を自由に決められるようになります。しかし、自由な時間が増えることと、生産性が高まることは同じではありません。自分で仕事の優先順位を決め、生活のリズムを整える必要があるからです。
私自身も、50代前半で独立し、コンサルタントや社外取締役、大学の特任教授として活動する中で、習慣の重要性を実感してきました。出張や会議などで予定が変わりやすいからこそ、朝の読書や日記、瞑想などを日課にしています。基本となる習慣を持つことで、忙しい日でも自分の時間を確保しやすくなります。
今村氏も、まとまった読書時間が取れないときには、移動中や仕事の合間を活用しています。読書は、必ずしも静かな場所で長時間集中して行う必要はありません。短い時間でも本を開く習慣があれば、日常生活の中で読書を続けられます。ただし、すべての空き時間を有効活用しようとする必要はなく、休息とのバランスも大切です。
今村氏は、長年にわたり作品を発表し続ける先輩作家である林真理子氏の姿から、書くことを楽しみ、自分が書きたいものを書き続けることの大切さを自問します。
この姿勢は、ビジネスにも当てはまります。仕事では売上や利益、社会的評価などの成果が求められます。しかし、外部からの評価だけを動機にしていると、長期的に意欲を維持することが難しくなる場合があります。 そこで重要になるのが、仕事そのものに面白さや意味を見いだす「内発的動機づけ」です。
顧客の課題を解決すること、新しい事業を考えること、仲間との対話から発見を得ることなど、仕事の過程に楽しさを感じられれば、学びや挑戦を続ける動機になります。
私自身、企業経営に関わり、学生と議論し、毎日読書や書評を続けられる理由の一つは、学ぶことや考えること自体が好きだからです。新しい知識が仕事に役立ち、仕事で得た経験が次の読書への関心につながる。こうした循環が、知的活動を継続する原動力になっています。
私は本を読んで何を考えているのか。面白いなあ。つまらないなあ。勉強になるなあ。哀しいなあ……といったもの。書評という観点に当て嵌めるならば、恐ろしいほど稚拙なものと言わざるを得ない。つまり、私のそれは感想なのである。そのような語彙は存在しないが、「書感」といったところか。
もう一つ、『乱読御免』で注目したいのが、今村氏が重視する「書感」という考え方です。 一般的な書評では、作品の内容や特徴、著者の主張などを整理します。一方、書感では、その本を読んで何を感じ、どのような経験や記憶と結びついたのかが重要になります。
同じ経営書でも、起業したばかりの経営者と事業承継を経験した経営者では、注目する部分が異なります。前者は顧客獲得や資金調達に関心を持ち、後者は組織文化や人材育成に目を向けるかもしれません。本の内容が同じでも、読者の経験によって得られる気づきは変わるのです。
生成AIの普及によって、書籍の要約や情報整理は容易になりました。しかし、本の内容を短時間で理解することと、読書を通じて自分の考え方を深めることは同じではありません。
読者は本を読みながら、過去の経験を振り返り、著者の主張に共感したり、疑問を抱いたりします。AIは論点の整理や別の視点の提示を支援できますが、何を重要と考え、実際の行動にどう生かすかは読者自身が判断する必要があります。
そのため、読書の後に印象に残った考え方や、自分の経験との共通点、仕事で試したいことなどを簡単に記録する習慣は有効です。知識を自分の経験と結びつけることで、読書は単なる情報収集から、思考を深める活動へと変わっていきます。
また、幅広いジャンルの本を読むことにも意味があります。歴史から学んだことが経営判断に役立ち、心理学の知識が組織マネジメントの理解につながることがあります。異なる分野の知識を組み合わせることで、物事を多面的に捉えられるようになるからです。
今村氏が紹介する48冊も、それぞれが独立した読書体験であると同時に、著者の人生や創作活動と深く結びついています。読書は知識を蓄積するだけでなく、自分の経験を振り返り、価値観を更新する機会にもなるのです。
『乱読御免』が伝えるのは、読書に唯一の正解はないということです。何を読むか、どこまで読むか、何を感じるかは人それぞれです。大切なのは、他人の評価や成果を気にしすぎず、自分の好奇心を大切にすることです。
そして、読書を楽しみながら続けるためには、『天才たちの日課』が示すように、自分に合った習慣を見つけることも欠かせません。 AIが情報を瞬時に整理できる時代だからこそ、人間には、自ら問いを持ち、異なる視点に触れ、自分なりの考えを育てることが求められます。
読書によって思い込みに気づき、新しい知識を自分の経験と結びつけ、それを仕事や人生の判断に生かしていく。こうした積み重ねが、変化の激しい時代を生きるための知的な力になります。 『乱読御免』は、読書本来の楽しさを再発見するとともに、好きなことを学び続ける価値を考えさせてくれる一冊です。
コンサルタント 徳本昌大のView
50代前半で会社組織を離れ、コンサルタントや社外取締役、大学の特任教授として独立したキャリアを歩む中で、日々の時間管理や読書習慣の重要性を改めて実感しています。月の半分ほどを全国各地への出張に費やすモバイルワークでは、働く場所や時間を比較的自由に選べる一方で、自ら生活と仕事のリズムを整える必要があります。
こうした働き方を続けるうえで参考になるのが、著者が実践する「予定の有無にかかわらず、一定のルーティンを守ること」と「隙間時間を読書に活用すること」です。どちらも特別な才能を必要とするものではありませんが、継続することで知的生産性を支える重要な習慣になります。
一般的に、会社員から独立すると自由な時間が増えると考えられがちです。しかし、実際には、組織が提供していた時間管理の仕組みがなくなるため、仕事と生活の境界が曖昧になりやすくなります。会議や出張、資料作成などの予定が不規則に入る環境では、意識して時間を確保しなければ、健康管理や学習が後回しになってしまいます。
そのため、毎朝のストレッチやウォーキング、瞑想など、日常生活に一定のルーティンを取り入れることが有効です。こうした習慣は、体調や集中力を整えるだけでなく、仕事を始める際の心理的な負担を減らす効果も期待できます。
重要なのは、すべての行動を厳格に管理することではありません。むしろ、生活の基本となる習慣を定着させることで、仕事や読書、新しい経験に使える時間と精神的な余裕を生み出すことです。自由な働き方を持続させるためには、自分自身で一定の規律を設けることが欠かせません。
読書についても、著者の考え方には多くの示唆があります。著者が漫画を読みながら「小説の特権」について考えるように、一見すると仕事に直接関係のない分野から、新しい発想が生まれることがあります。
ビジネスの現場でも、異業種の成功事例や歴史、哲学、心理学、社会学などのリベラルアーツが、新規事業の構想や経営課題の解決に役立つことは少なくありません。特定の業界や専門領域の知識だけでは、既存の発想から抜け出すことが難しい場合があります。異なる分野の知識を組み合わせることで、それまで気づかなかった顧客ニーズや事業機会を発見できる可能性が広がります。
その意味で、「読むべき本」だけに対象を限定しない乱読には、実務的な価値があります。直感や好奇心に従って本を選び、そこで得た知識や感情、気づきを自分なりに整理することが、新しいアイデアを生み出す出発点になります。
ただし、幅広く読むだけで知識が仕事に役立つわけではありません。読書を通じて得られた発見を、現実の課題と結びつけるプロセスが必要です。
例えば、歴史上の出来事から組織変革のヒントを見つけたり、心理学の知見を顧客理解に応用したりすることで、異なる分野の知識を具体的な提案へと発展させられます。
特にコンサルタントや経営者にとっては、読書によって得られる知識そのもの以上に、異なる知識を関連づけ、新たな問いや解決策へと転換する能力が重要になります。読書中に生まれた自分だけの感想や気づき、いわば「書感」を大切にし、それをビジネスの文脈に置き換えて考える習慣は、知的生産の質を高める有効な方法です。
また、読書を義務として捉え、興味を持てない本を最後まで読み続けることが、必ずしも最善の選択とは限りません。限られた時間の中で何を読み、何を読まないかを主体的に判断することも、重要な意思決定です。
もちろん、理解しにくい本や、自分の考え方と異なる本に向き合うことにも価値があります。したがって、単につまらないという理由ですべてを途中で投げ出すのではなく、その本から何を得たいのかを考え、読み続ける価値を判断することが大切です。
情報があふれ、AIによって知識へのアクセスが容易になった現代では、情報を大量に集めることだけでは差別化が難しくなっています。むしろ、自分の関心に従って情報を選び、深く考え、異なる知識を組み合わせる力が、これまで以上に重要になっています。
『乱読御免』が伝えているのは、効率的な読書術だけではありません。他人が決めた正解や評価基準に縛られず、自分の知的好奇心を大切にする姿勢です。 日々のルーティンによって読書の時間を確保し、自由な乱読によって思考の可能性を広げる。この二つを組み合わせることは、変化の激しい時代に学び続けるための有効な方法です。
読書の価値は、何冊読んだかではなく、読んだ本によって何を考え、どのように行動を変えたかにあります。 本書は、自分に合った読書スタイルを見直し、主体的に学ぶ楽しさを取り戻すきっかけになる一冊です。
FAQ
Q1: 読書が苦手で、すぐに挫折してしまいます。ビジネスパーソンとしてどう克服すべきですか?
A1: まず「克服しなければならない(読まなければならない)」という思い込みを捨てるのが良いと思います。本書の著者も言うように、無理をして読む必要はありません。「読まない自由」を受け入れましょう。仕事に役立つかどうかは一旦忘れ、自分が心から面白いと思えるジャンル(漫画や絵本でも構いません)を1日5分、隙間時間に本を開くことが良い習慣を築きます。
Q2: 忙しくて本を読むまとまった時間が全くありません。どうすればいいですか?
A2: 「まとまった時間(1時間〜2時間)」を探すのをやめましょう。天才的なクリエイターであっても、日々の細切れの時間を活用しています。著者が実践しているように、移動中や人を待っている5分間など、日常には「隙間時間」が溢れています。常に本を持ち歩き、隙間時間ができたら無意識に本を開く「習慣(ルーティン)」を作ることが最も効果的な対策です。
Q3: ビジネス書は読みますが、小説などの他ジャンルはどうしても途中で飽きてしまいます。無理してでも読破すべきでしょうか?
A3: 無理に読む必要はまったくありません。「つまらないのは作家の責任」と割り切り、合わないと思ったらすぐに損切り(読むのをやめる)して構いません。しかし、著者が漫画から「小説の特権」を学んだように、他ジャンルに触れることは「自分の専門領域(本業)の価値」を再定義する絶好の機会になります。いつか「読んでみよう」と思うタイミングが来るまで寝かせておき、今はご自身が夢中になれる本だけを楽しみましょう。
関連記事
【書評】天才たちの日課の書評(メイソン・カーリー)
メイソン・カーリーの『天才たちの日課』は、モーツァルトやピカソ、村上春樹ら161人の創造的な人物の日常を通じて、創造性と習慣の関係を解き明かす一冊です。天才たちの生活は驚くほど多様で、成功に共通する唯一のルーティンは存在しません。重要なのは、他人の習慣を模倣することではなく、自分の特性を理解し、創造性を発揮できる環境を整えることです。AI時代だからこそ、自分らしい習慣を設計する力が、新たな価値を生み出します。
→リンクはこちらから
【書評】『遅読家のための読書術』(印南淳史)
本は最初から最後まで読むべきだという思い込みを捨てれば、読書はもっと自由で実践的なものになります。本書が提案するのは、すべてを理解しようとするのではなく、自分に必要な知識やアイデアを効率よく取り出す読書法です。『乱読御免』の「つまらなければすぐやめる」という哲学にも通じる考え方です。重要なのは読破した冊数ではなく、得られた知識をどう活用するか。読書を義務から解放し、学びと行動につなげるための実践的な一冊です。 →リンクはこちらから
【書評】天才読書 世界一の富を築いたマスク、ベゾス、ゲイツが選ぶ100冊 (山崎良兵)
イーロン・マスク、ジェフ・ベゾス、ビル・ゲイツに共通するのは、読書を単なる知識の習得ではなく、現実の課題解決やイノベーションの原動力として活用してきたことです。彼らは子供の頃から歴史、科学、経済、SFなど幅広い分野の書籍に親しみ、そこから得た知識や視点を事業の構想や意思決定に生かしてきました。大成功した経営者になった今も学び続け、常に自らの知識と教養をアップデートしています。
→リンクはこちらから









コメント