ルトワックの日本改造論
エドワード・ルトワック(著), 奥山真司(翻訳)
飛鳥新社
本書の要約
国家が戦略を実行するためには、若い世代のパワーが欠かせません。若者の絶対数が少ない状況では、国家のために戦おうとする戦力そのものが足りなくなります。国防という視点で考えても、少子化対策の優先度が高いことがわかります。日本は北朝鮮、中国、ロシアという独裁者に囲まれた国であることを忘れないようにすべきです。
少子化対策こそが優先課題である理由
日本人が再び幸せを手に入れたいのであれば、再び若返らなければならないのであり、それこそが戦略の最高の目的なのだ。 (エドワード・ルトワック)
戦略国際問題研究所の上級顧問のエドワード・ルトワックは、日本の課題を明確にし、何を優先すべきかを明確にしています。
日本においてもっと重要な政策は少子化対策であるにも関わらず、政治家や官僚は今までここに予算を割かずに来ました。他国が無料の不妊治療やチャイルド・ケアに予算をかけ、人口を増やす努力を行う中で、日本の無策が目立ちます。
実際、イスラエルの女性は平均3.1人、メキシコの2.15人の子供を産んでいます。子育てに対する予算を増やすことで、少子化という未来の危機を未然に防いでいます。
国民は税金を納める見返りに、政府があらゆる外敵の脅威から国民の生活を守り、安心感を得る権利がありますが、日本政府は国民の期待に応えていません。日本が国民に提供しなければならないのは、「安心して子供を産み、育てられる制度」であるにも関わらず、そこを軽視してきました。
日本が国民に提供しなければならないのは、「安心して子供を産み、育てられる制度」だとルトワックは力説します。 戦略のスペシャリストが国防と同じレベルで、少子化対策を行うべきだと述べています。
日本全国で、5歳になるまでの完全な保育・育児の無料化を進めることである。 社会を維持するためには市民を生み、育てなければならない。
少子化は先進国に共通する問題ですが、スウェーデン、フランス、イスラエルの3国は大学で教育を受けた女性が生涯に3人近く子供を産んでいます。この3国に共通するのが、「5歳までの育児の完全無料化」という政策です。
スウェーデンでは半数の女性が結婚していません。結婚したくなくても子供は欲しい女性は数多くいます。5歳まで育児が完全無料化となれば、女性は仕事を続けながら、一人でも出産して育児ができます。日本でもシングルマザーや子供を産みたい未婚の女性へのサポートを積極的に行うべきですが、右寄りの政治家がこれを妨害しています。
少子化対策を行わなければ、日本の未来が暗くなるという事実を日本の政治家は忘れています。子供がいなければ、安全保障政策の議論など何の意味もないと著者は指摘します。
安全保障の備えであれ、少子化対策であれ、その他の様々な福祉サービスであれ、「国民に安心を提供する」という観点は変わらないのです。
独裁者はなぜ隣国を攻めるのか?
国家が戦略を実行するためには、若い世代のパワーが欠かせません。若者の絶対数が少ない状況では、国家のために戦おうとする戦力そのものが足りなくなります。国防という視点で考えても、少子化対策の優先度が高いことがわかります。
国家の本性は敵対的であり、独裁者は自国の領土を拡大することで、自らの力を誇示します。特に内政で問題がある場合には、その失政を隠すために隣国への攻撃を躊躇しないと言います。
経済面での国民の不満が膨れ上がって対処不能となった時、解決できない経済問題から国民の目を逸らすために、あえて対外的な冒険主義を実行し始める可能性がある。状況が悲観的になるほど、過激な対外政策に転換するスイッチを、習近平がある日突然、押す危険性が高まる。
人類の歴史上、国民の目を逸らすために、問題解決能力の欠如したリーダーがあえて冒険を犯すことは何度もありました。ルトワックは本書で、習近平が暴走する可能性を指摘しましたが、実際に行動を起こしたのは、プーチンでした。偉大な帝国を取り戻すというビジョンのためにウクライナに攻め込み、ウクライナ国民だけでなく、ロシアの国民も不幸にしています。
日本は中国、北朝鮮、ロシアという独裁者に囲まれています。危機が起こる可能性が高いにも関わらず日本は、ウクライナ危機を傍観するだけで、国防に対する意識を変えられずにいます。日本が置かれている状況を分析し、戦略的に動くべきだと迫るルトワックのメッセージが響きました。
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