裏道を行け ディストピア世界をHACKする(橘令)の書評


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裏道を行け ディストピア世界をHACKする
橘令
講談社

本書の要約

「進化論的制約」から、人間はしばしば不合理な選択や行動をし、社会・制度のバグは簡単にはなくならないと著者は指摘します。人生をハックすることは生き残るためには重要なことですが、むやみやたらに大きなリスクをとるのではなく、経済合理的に考え、行動することが正しい選択になるのです。

ハックしなければ、生き残れなくなるのか?

ハッカーとは、常識やルールを無視して「ふつうの奴らの上を行く」者たちのことなのだ。(橘令)

前作「無理ゲー社会」で、残酷な現実を明らかにした橘令氏が、本書でその解決策を明らかにしました。知識社会化が進み、人生の難易度がますます上がっていく中で、生存していくためには人生を正しくハックする必要があるのです。

世界はいま、知識社会化、グローバル化、リベラル化という三位一体の巨大な潮流のなかで、今までの勝ち組が負け組に陥っています。 ホワイト・ワーキングクラスが仕事を失い、自尊心を奪われ、ドラッグ、アルコール、自殺で「絶望死」することが増加しています。

世界中で平均寿命が延びているときに(コロナ前)、アメリカでは低学歴の白人の平均寿命が短くなっていました。その怒りが、「右派ポピュリズム」となってトランプ現象を生み出したのです。

知的スペックのハードルは高まり、大学を卒業しても望むような仕事に就くことが難しくなっています。「不満だらけのエリート・ワナビーズelite wannabes(エリートなりたがり)」が、レフト(左翼)やプログレッシブ(進歩派)と呼ばれる「左派ポピュリズム」を形成し、富裕税やベーシックインカムのような急進的な政策を主張してりベラル穏健派のバイデン政権を揺さぶっています。

Winner Takes Allの時代には、一部の勝ち組が勝利します。ベルカーブの世界とは異なり、ロングテールの世界では、「ふつう」に生きているだけでは、ショートヘッドの「下級国民」にならざるをえません。そこから抜け出すには、「ふつう」ではないことをして、ロングテール(上級国民)を目指すしかないのです。

このような社会・経済環境の変化によって、「ふつうの奴らの上を行く」ハックが注目されるようになったと著者は指摘します。ロングテールの世界(格差社会)では、漫然と常識に従い、ルールを守っているだけではショートヘッドから抜け出せません。だからこそ現代社会では、さまざまなハックが行なわれるようになったのです。

しかし、ハックをしても厳しい現実からなかなか抜け出せない実態があります。恋愛のハックでモテる技術を身につけても、幸せになれないハッカーの様子が書かれています。高度なナンパテクニックだけでは、本当の恋愛はできず、長期的な関係を作れない男たちにの様子が描かれています。女性の高学歴と彼女たちが求めるデータを見れば、ハックだけでは戦えないことがわかります。

 

経済合理的に思考し、行動しよう!

英語のハイパーガミーは上昇婚のことですが、身分のちがいがなくなった現代社会では、自分よりも学歴、収入、社会的地位の高い相手に魅かれると言います。洋の東西を問わず、女性には強いハイパーガミーの傾向があることがわかっています。

アメリカでは、女性は男性の約2倍、相手に経済的な余裕があることを重視しています。日本でも、20 代で年収600万円以上の男性はほぼ全員に交際経験があるが、年収200万円未満では半分程度になっています。

欧米の婚活サイトのデータを分析すると、女性が自分より高い学歴の男性を好む傾向がはっきりします。女性が修士号をもつ男性のプロフィールに「いいね!」を押す割合は、学士号の男性より91%(約2倍)も多くなっています。

ここで男性と女性の学歴の変化が問題として浮上します。アメリカでは1990年代以降、大学進学率と大学修了率の両方で女性が男性を上回っているのです。1960年には、4年制大学を卒業した女性1人に対して男性は1.6人でしたが、2003年にはこれが逆転して、男性の大学卒業者1人に対して女性が1.35人になったのです。2013年には、25~29歳の女性の37%が学士号以上を、12%が大学院や専門職の学位を取得しているのに対し、同年代の男性は30%と8%で、その結果、20代では女性の平均収入が男性を上回りました。

女性が社会的・経済的に成功すればするほど、(自分よりも「上位」の男性が少なくなるので)選択できる相手が少なくなってしまうのです。事態をより困難にしているのが、「仕事で成功している女性ほど、成功している男性を強く好む」ようになっていることです。この傾向はアメリカだけでなく、イギリス、スペイン、セルビア、ヨルダンなどでも確認されていて、宗教や文化に関係なく世界中で広く見られるようになっています。

イギリスで行なわれた研究では、女性のIQが16ポイント上がるごとに、結婚の可能性は40%低下したそうです。一方、男性の場合は、1Qが16ポイント上がるごとに、結婚の可能性が35%上昇しました。

アメリカでは2012年、大学教育を受けた未婚の若年女性100人に対して、学士以上の若年男性は88人しかいませんでした。大学院卒では女性100人に対し男性77人になっています。この傾向が続くと、2020年から39年の間に、同等の高等教育を受けた男性のパートナーがいない女性は、4510万人になると予想されています。女性にとっての理想男性が完全に不足しているのです。

アメリカでは、理想の男は「トリプルシックス」と呼ばれます。
■身長6フィート(約183センチ)以上
■収入6桁(10万ドル=1100万円)以上
■腹筋が6つに割れている

このトリプルシックスを女性が見つけるのはとても難しくなっています。34人の高学歴女性に対し、ハイパーガミーを満足させる「トリプルシックス」の男は1人しかいないのです。逆にいうと、(男女同数として)97%の男は恋愛の選択肢から外されてしまいます。

婚活サイトのビッグデータの分析では、魅力度が下位80%の男は下位22%の女を奪い合い、 上位78%の女は上位20%の男に集まっていました。その結果、30歳以下のアメリカの男性がセックスレスを報告する割合は、2008年の8%から18年の28%へと3.5倍になったと言います。

徹底的に自由化された現代の恋愛市場では、少数の成功した男が多くの女に望まれる一方で、多くの男が性愛から排除されてしまうのです。現代では結婚することも難しくなり、収入を高くし、腹筋を鍛えなければ、女性のハートを射止められなくなっているのです。

しかし、弱者が金持ちになる方法も限られています。エドワード・ソープは、普通の個人投資家が金融市場をハックするのは不可能であると指摘し、インデックスファンドや良い株への長期投資を薦めています。

膨大なデータから市場の歪みを発見し、エッジがある(統計的に勝率が上回る)状況で正しく賭け金を積まないかぎり、投資家は手数料コストの分だけ損をしてしまうと言うのです。短期トレードでこれを繰り返せば、損失が累積して手持ち資金をすべて失ってしまう可能性が高まります。

一般の投資家が市場に勝つためには、できるだけ手数料コストをできるかぎり払わないことです。これが、インデックスファンドと長期投資の組み合わせが有利な理由です。

株式市場の大きな特徴は、経済成長にともなって賭けの期待値が上がっていくことだ。これは、長くもっていると当たりくじが増えていく宝くじに似ている。だがこの大きなアドバンテージは、短期で売買を繰り返すことで消えてしまう。さまざまな波風はあるだろうが、「ゆたかになりたい」「幸せになりたい」というひとびとの欲望によってグローバル市場が今後も拡大していくのなら、この投資法が長期的にはもっとも高い確率で報われることになるはずだ。

ハッキングには一定の(あるいはとてつもない)効果があることは間違いありませんが、すべてのひとにその利益が公平に分配されるわけではありません。ハックを行っても一部の者だけしか大きな果実を得られなくなっています。

「進化論的制約」から、人間はしばしば不合理な選択や行動をし、社会・制度のバグは簡単にはなくならないと著者は指摘します。人生をハックすることは生き残るためには重要なことですが、むやみやたらに大きなリスクをとるのではなく、経済合理的に考え、行動することが正しい選択になるのです。

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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