脳の地図を書き換える 神経科学の冒険
デイヴィッド イーグルマン
早川書房
本書の要約
脳は新たな知識や体験をインプットすることで、日々脳内の地図を書き換えています。無数の変化が、数分、数か月、数十年をかけて蓄積され、その総和があなたという存在になるのです。 脳はライブワイヤードとして日々変化を起こしているのですから、脳の力を信じて、インプットを続ける努力を怠らないようにすべきです。
脳の地図を書き換える!
私たちは成長とともに絶えず脳の回路を書き換えながら、難題に取り組み、機会を利用し、自分を取り巻く社会構造を理解している。(デイヴィッド・イーグルマン)
スタンフォード大学で「脳の可塑性」講座を教える神経科学者デイヴィッド・イーグルマンは、脳の領域はそれぞれが独立し、互いに競い合っており、自らの陣地を広げようとしていると指摘します。
私たちが夢を見ることに対して、著者はこの延長線上から仮説を展開します。体の部位のどれかひとつの感覚が失われると、脳は隣接領域を乗っ取ろうとします。夜、眠っている間は目を閉じることで、視覚野の活動が低くなるので、その部位の乗っ取りの危険性が高まります。そこで夜ごと夢を見ることで、脳はその危険性を低くしているのです。
新たな知識をインプットしたり、体験を積み重ねることで、私たちの脳は変化しています。気に入ったレストランの場所でも、上司に関する噂話でも、耳について離れないラジオの新曲などに脳は反応します。何か新たなことをひとつ学ぶたびに、脳は物理的に変化します。
脳のこうした無数の変化が、数分、数か月、数十年をかけて蓄積され、その総和があなたという存在になる。 少なくともいま現在のあなたに。昨日のあなたはわずかながらいまとは違っていたし、明日のあなたはまた別の人間になる。
日々の新たな体験により、複雑に絡み合った脳の広大なジャングルは、一瞬前とはわずかに違う存在へと自らをつくり替えているのです。こうした変化が積み重なって私たちの記憶ができ上がります。
ライブワイヤードとしての脳を活用しよう!
脳内の地図は何度も書き換えられて、その人の経験や目標がつねに脳構造に反映されるようになる。たとえば会計士が仕事を辞めてピアニストになったら、指の動きに充てられた脳領域が大きくなる。顕微鏡検査技師として働き始めたら脳の視覚野の解像度が上がり、細かな部分も探し出せるようになる。調香師の仕事につけば、嗅覚に割り当てられた脳領域が拡大する。
著者は「ライブワイヤード(livewired)」という言葉で脳の変化を表現します。脳をハードウェアとソフトウェアに分けて考えるのではなく、脳を一個の「ライブウェア」としてとらえた方が、脳の本質を正しく理解できると言うのです。脳は学んだり、新たなことを体験をすることで、日々、それに反応する領域を拡大しています。
何かのトラブルで身体的なハンディを持った人々が新しい補助具を使うことで、脳は新たな変化を始めます。人工内耳や人工網膜を使うと脳はやがてそれに反応するようになります。脳は外部からのデータを取り込み、臨機応変に自らの配線を変更し、それに適応するのです。人工内耳を使っているうちに脳が変化することで、最初は聞こえなかった音が徐々に聞こえるようになります。
外部の機器を使うことで、脳に新しい能力を授け、感覚強化(既存の感覚の限界を押し広げる)や感覚追加(まったく新しいデータの流れにアクセスする)を行い、人は能力を取り戻せるようになるのです。
現在、身体麻痺をもつ人のためにブレイン・マシン・インターフエース(BMI)の開発が進んでいます。「ウォーク・アゲイン・プロジェクト」は、脳の指令で動く全身スーツによって運動能力の回復を目指すものですが、身体に麻痺を持つ人がスーツを身につけ、脳に動作を考えさせることで体が動くようになります。
微小電極を高密度で配置したデバイスを脳の10か所に埋め込むことにより、患者が自らの脳活動を用いて複雑なロボットスーツをコントロールできるようになることも夢ではなくなりました。テクノロジーが進化し、人間の感覚を強化したり、追加したりすることで、ハンディキャップのある人も自ら行動できるようになるのです。
脳にデータが送られれば、脳はそれに反応し、自らの配線を変更し、新たな行動を行おうとします。脳はライブワイヤードとして日々変化しているのですから、自分のやりたいことを明確にし、脳のその領域を鍛えることで、私たちは結果を出せるようになるのです。
脳科学は絶えず進化し、脳の実態がわかり始めています。脳の可塑性を信じて、脳を使い倒すことで、自分の可能性を高められます。年齢を言い訳にするのではなく、脳に様々なデータをインプットし、脳に変化を起こしたいと思います。
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