ゾーンに入る EQが導く最高パフォーマンス
ダニエル・ゴールマン, ケアリー・チャーニス
日本経済新聞出版
ゾーンに入る EQが導く最高パフォーマンス (ダニエル・ゴールマン)の要約
オプティマルゾーンは、フローより現実的で持続可能な最適状態を目指します。仕事に意味を見出し、自律性を持つことで、完全な集中が促されます。その結果、創造性と生産性が高まり、楽観的な気持ちで目標に向かって進めるようになります。しなやかなマインドセットと諦めない力によって、結果を出せるようになります。
フローではなく、オプティマルを目指そう!
フローという理想の状態をめざせば、「完璧主義者のベスト」という、高すぎる基準を自分に課すことになる。これに対して、オプティマルゾーンを基準にすれば、つねに自分に厳しくあたる代わりに、リラックスして楽しみながら仕事ができる。自分を責める頭の声を黙らせて、目の前のタスクに集中できるのだ。(ダニエル・ゴールマン, ケアリー・チャーニス)
EQ(Emotional Quotient)、の専門家であるダニエル・ゴールドマンが、オプティマルな状態が人生をより豊かにするという考えを提唱しています。
オプティマルゾーンを理解することは、私たちの仕事と人生における新たな視点を与えてくれます。これまでのフロー状態への過度なこだわりは、完璧主義という重荷を私たちに背負わせることがありました。しかし、オプティマルゾーンという考え方は、より現実的で持続可能な卓越性への道を示してくれています。
オプティマルゾーンへの到達には、課題と能力のバランス以上に重要な要素があります。それは、自分の活動に意味を見出せることと、その遂行方法について一定の裁量を持てることによってもたらされる「完全な集中」の状態です。
この状態に入ると、様々な前向きな変化が現れてきます。 まず創造性が著しく向上し、困難な状況も成長のチャンスとして前向きに捉えられるようになります。
さらに、生産性が上がり、より質の高い仕事を生み出せるようになります。気分も明るく保たれ、心身ともに良好な状態を維持できます。 思考も冴えわたり、大きな目標に向かって一歩一歩着実に前進していく感覚を味わうことができます。楽観的な展望を持ちながら、仕事に全力で取り組むことができるようになります。また、周囲の人々との関係も深まり、互いに支え合える関係性が自然と築かれていきます。
オプティマルゾーンにおいて、自己認識は特に重要な役割を果たします。まず第一に、それは私たちの集中力を高め、注意を散らすような誘惑に気づき、それらを適切に回避する助けとなります。このゾーンに入ると仕事中のSNSの通知や、緊急性の低いメールへの対応など、集中を妨げる要素に気づき、意識的にそれらを制御することができるようになります。
第二に、自己認識は私たちの身体が発する微細なシグナルに気づく感覚を磨いてくれます。現在取り組んでいる課題が自分にとってオプティマルな状態をもたらしているかどうかを、体の反応を通じて察知できるようになります。
例えば、肩の力が抜けている感覚や、呼吸のリズム、心拍の変化など、様々な身体的な手がかりから、自分の状態を正確に把握できるようになるのです。 この身体感覚への気づきは、単なる物理的な状態の認識以上の意味を持ちます。それは、私たちが最も効果的に機能できる状態を見つけ出し、維持するための羅針盤となります。
疲労や緊張が蓄積してきた時、あるいは逆に意欲が高まっている時など、その時々の自分の状態を的確に把握し、適切な対応を取ることができるようになります。 このように、オプティマルゾーンは単なる高パフォーマンスの状態を超えて、私たちの仕事と生活の質を全体的に向上させる可能性を秘めています。
それは完璧を追求する苦しみからの解放であり、持続可能な充実感と達成感を得られる道筋を示してくれているのです。
感情知性(EI)の4象限モデルは、このような状態を実現するための重要な枠組みを提供してくれます。自己認識、自己管理、社会的認識、社会的実践という4つの要素が相互に作用し合い、個人と組織の成長を支えているのです。
自己認識は、オプティマルゾーンを維持する上で基盤となる能力です。それは私たちの集中力を高め、注意を散らす要素への気づきを促してくれます。また、現在の状態がオプティマルゾーンにあるかどうかを、身体感覚を通じて認識することができるようになります。
オプティマルゾーンとはなにか?
完全に集中している時は、周りで何が起こっていても気が散らない。情報が氾濫し、デジタルの誘惑があふれる現代において、この能力は重要な強みになる。完全に集中していれば、そ何があってもやりがいのある目標から目を逸らさずにいられる。したがって、集中力の根幹にある自己認識は、オプティマルゾーンへの入口になるのだ。
スティーブ・ジョブズやオプラ・ウィンフリーのような成功者たちは、自己認識の力を見事に活用し、集中力を高めてきました。彼らは自分の感情や思考パターンを深く理解し、それを効果的な行動へと結びつけることができたのです。
自己管理の面では、環境の変化への適応能力が非常に重要となってきます。アンジェラ・ダックワースの「やり抜く力」やキャロル・ドゥエックの「成長マインドセット」、心理学者のスーザン・デイビッドの「感情の俊敏性」といった概念と共通する要素を持っており、どのような状況でもポジティブな感情を維持、あるいは速やかに回復できる能力が、持続的な高パフォーマンスを支えているのです。
体操トップ選手のシモーネ・バイルズのオリンピックでの中止の決断は、この自己管理の重要性を如実に示す例となっています。彼女は自身の状態を正確に認識し、適切な判断を下すことができました。また、クリス・ロックのオスカーでの対応も、困難な状況下での感情管理の重要性を私たちに教えてくれています。
ハーバード大学の研究によると、仕事における「よい日」は、意味のある目標に向かって進歩を感じられた時に訪れるとされています。これはオプティマルゾーンの重要な指標となります。
逆に、失敗や挫折を感じる日には、気分の低下や不安、イライラが生じやすくなります。 高い業績を上げる人々に共通する特徴として、継続的な自己改善への強い意欲が挙げられます。
彼らは積極的にフィードバックを求め、それを基に改善を重ねていきます。一見すると冒険的に見える行動も、実は慎重な判断に基づいているのです。これは、自身の能力への深い理解があってこそ可能となる行動なのです。
社会的認識と実践の面では、共感が極めて重要な役割を果たします。認知的共感、感情的共感、共感的配慮、そして組織感覚力という異なる側面を持つ共感は、それぞれが脳の異なる領域で処理されることが分かっています。これらの能力は、良好な人間関係の構築と、周囲への前向きな影響力の発揮を可能にしてくれます。
共感力を高めるためには、様々な実践的な方法があります。慈悲の瞑想を行うことや、良い聞き手になることでその良さを体験すること、そして他者に対して意識的に親切な行動を取ることなどが効果的です。日常生活の中には、これらの能力を育む機会が数多く存在しているのです。
ナイキの先端部門責任者のダーシー・ウィンズローの毒性物質ゼロの事例は、こうした能力の実践的な価値を見事に示しています。彼女は影響力を効果的に活用して変革を促し、最終的により環境に配慮した製品の開発に成功しました。この成功は、個人の能力開発が組織全体にポジティブな影響を及ぼす可能性を示唆しています。
思いやりや友情、帰属意識、忠誠心といった価値観を持つ人々は、単なる個人の成功を超えて、組織全体の発展に貢献することができます。このような人間性重視の価値観は、組織へのコミットメントや従業員エンゲージメントを高める重要な要因となっているのです。
最終的に、オプティマルゾーンを目指す取り組みは、個人の幸福感と組織の成功の両方を実現する可能性を秘めています。それは完璧な状態を追い求めるのではなく、持続可能な卓越性を実現する道筋を示してくれているのです。私たち一人一人が、この知見を活かして、より充実した仕事と人生を築いていくことができるのです。
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