NOISE 組織はなぜ判断を誤るのか?(ダニエル・カーネマン)の書評


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NOISE 上 組織はなぜ判断を誤るのか?
ダニエル・カーネマン, オリヴィエ・シボニー, キャス・R・サンスティーン
早川書房

本書の要約

同じ人や同じ集団が同じケースについて下す判断に、その時々でばらつきが出てしまうノイズによって、結果が左右されることが多々あります。重要な判断をする際には、バイアスだけでなく、ノイズにも意識を払う必要があります。予期せぬノイズがエラーを引き起こすことを忘れないようにしましょう。

ノイズを減らさなければいけない理由

ヒューマンエラーである。バイアスすなわち系統的な偏りと、ノイズすなわちランダムなばらつきは、どちらもエラーを構成する要素だ。(ダニエル・カーネマン)

ノーベル経済学賞受賞者のダニエル・カーネマン、フランスHEC経営大学院教授オリヴィエ・シボニー、ハーバード大学ロースクール教授、キャス・サンスティーンという豪華執筆陣が、ヒューマンエラーの原因が「ノイズ」にあることを明らかにしました。

判断のエラーを理解するには、バイアスとノイズの両方を理解することが必要ですが、私たちはバイアスにばかり注意を向けます。しかし、人間の下した判断を調査・分析した結果、バイアスだけでなく、ノイズがヒューマンエラーに影響を及ぼしていることがわかりました。

判断の質を高めるには、バイアスだけでなくノイズを排除する必要があります。人間の判断にはバイアスだけでなくノイズも多く、両者はほぼ対等だと著者たちは指摘します。たとえば、同じ人や同じ集団が同じケースについて下す判断に、その時々でばらつきが出てしまいます。こういったばらつきを著者たちはノイズと呼んでいます。

フェアな社会を実現するためには、バイアスだけでなく、ノイズにも意識を払うべきです。私たちは日々色々な判断に影響を受けますが、正しい結果を得るためには、ノイズを少なくしなければなりません。しかし、ノイズに気付かないために、私たちは大きな被害を被っています。それは、裁判や医療・保険など様々な領域に及んでいます。

著者たちは損害保険会社でノイズ検査を実施しました。保険料率の算定や損害額の査定のばらつきは、事前に経営者が見積もっていたより、5倍以上も上回っていました。主観的な要素が入り込む手続きには、一定のノイズは避けられず、それが会社や顧客に悪い結果をもたらすのです。

著者らは、こうしたばらつきの要素を「レベルノイズ」「パターンノイズ」「機会ノイズ」の3つに分けて説明しています。
■レベルノイズ→判断者ごとの判断の平均的なレベルのばらつき(たとえば厳しめの裁判官と甘めの裁判官)。 
■パターンノイズ→特定のケースにおける判断者の反応のばらつき(再犯者に厳しい、共犯者に甘いなど)。
■機会ノイズ→集団の中の誰かの発言によって、結果が左右されてしまう。

判断のあるところノイズあり

同じ種類の罪を犯した同じような人が全然ちがう刑を宣告されたら、不公平で許しがたいと誰もが感じますが、実際の裁判ではそれが結構な確率で起こっているのです。刑事司法制度にはバイアスも蔓延していますが、そこにはノイズも数多く存在しています。

マービン・フランケルという連邦裁判所の判事が、 架空の事案を数種類用意し、 さまざまな地方の裁判官50人に 各事案の被告人の量刑を決定するよう求める実験を行いました。 その結果、多くの判断は一致せず、量刑のばらつきは、度肝を抜かれるほどだったと言います。
●ヘロインの売人の量刑→懲役1年から10年
●銀行強盗→5年から18年
●恐喝→最も軽くて懲役3年罰金なし、 最も重いと懲役20年プラス6万5千$の罰金。
※20件中16件では、 そもそも刑務所に送るべきかどうかで、意見が一致しませんでした。

1977年にはウィリアム・オースティンと トーマス・ウィリアムズが裁判官47人を対象に、 いずれも軽度の犯罪事案5件について 量刑を決定してもらう調査を行いました。 結果はやはり「驚くほど大幅な量刑の差」でした。 たとえば窃盗では、軽ければ懲役30日プラス罰金100ドル、 重いと懲役5年、 大麻所持では執行猶予から懲役刑までのばらつきがあったのです。

同じ裁判官でも一日の始まりと昼食後には、 昼食直前よりも寛大な判断を下す傾向にあることがわかりました。 たとえば多くの裁判官は、一日の始まりと昼食後には、昼食直前よりも寛大な判断を下す傾向にあります。お腹の空いた裁判官は判決が厳しくなるのです。

未成年の被告人を扱った事案数千件を分析した調査では、週末に地元のフットボールのチームが負けた場合、月曜日の判決は厳しくなることがわかっています。黒人の被告人は、ひいきのチームが負けて不機嫌な裁判官のとばっちりを受けやすいそうです。

現実の刑事裁判においては、ノイズの量はまちがいなくはるかに多くなります。現実の裁判官は、調査参加者のために注意深く用意された状況説明よりずっと多くの情報にさらされています。驚くことに、さまざまなノイズが判決に影響を及ぼしているのです。

大勢の人が順番に前の人の選択情報を参照しながら判断する場合に、自分自身の持つ情報に基づかず、多数派の選択肢を選ぶ傾向があります(情報カスケード)。この情報カスケードが、集団にノイズを起こす可能性があります。

アメリカなどの陪審員制度における評決においても「集団極性化(group polarization)」と呼ばれるノイズが生じることも分かっています。集団で何かを決める際に極端な結論に振れる可能性があること、最初の発言者の意見によってその後の議論の流れが決まってしまうこともあります。

例えば、6人の中で中位にあたる陪審員があまり怒っておらず、 寛大な懲罰でよしと考える場合には、 最終的な評決はこの中位の陪審員以上に寛大なものになりがちです。 対照的に、中位の陪審員がかなり怒っていて 厳罰に処すべしと考える場合には、 陪審員団全体の怒りがつのり、 厳しい判決が下されると言います。

どんな組織でも、情報カスケードと集団極性化のせいで、同じ問題に取り組む複数の集団がまったく異なる結論に至ることがあるのです。集団で何かを決める際に、極端な結論に振れる可能性があることを覚えておくべきです。

■ノイズが抱える4つの問題
①世界は複雑で不確実であり、 判断はむずかしい
判決を下すことが複雑でむずかしいことは、誰の目にもあきらかです。裁判だけでなく、専門家としての判断が求められる他の状況についても同じことが言えます。 

②不一致の度合いは 一般に予想されるよりはるかに大きい
裁判官に裁量の余地を与えることには、大方の人が賛同するはずです。 それでも、実際の判断に どれほど開きがあるかを知ったら、 誰もがそれを容認できないと感じるでしょう。 理想的にはつねに同一であるべき判断に 不可避的に入り込む好ましくないばらつきを 「システムノイズ」と言います。 システムノイズは 不正義の蔓延、金銭的コストの増大を始め、 さまざまなエラーを引き起こします。

③ノイズは減らせる
フランケルが勧告し量刑委員会が実行したアプローチであるルールとガイドラインの導入は、 ノイズを減らすよい方法の一つです。 ルールとガイドラインの導入は裁判官には嫌われますが、ノイズを減らすことには効果があります。

④ノイズを減らそうとすると反対が起きて、ノイズ退治が困難になりかねない
反対意見にも適切に対応しなければなりません。 反対意見が強まるとノイズとの戦いは失敗に終わってしまいます。

ノイズの存在を知り原因を理解しても、解決するには時間がかかりますし、組織を挙げての努力が必要になります。同じ人や同じ集団が同じケースについて下す判断に、その時々でばらつきが出てしまうノイズによって、結果が左右されることは多々あります。重要な判断をする際には、バイアスだけでなく、ノイズにも意識を払う必要があります。予期せぬノイズがエラーを引き起こすことを忘れないようにしましょう。

様々なノイズを軽減するための努力を重ねなければ、不公平な結果が蔓延してしまうことになります。判断を下す際に、ノイズがエラーを起こすこと、また、どんな場合にエラーが起こるかを知ることで、私たちはよりよい結果を得られるようになります。

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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