Read Write Own シリコンバレートップクラスVCが語るインターネットの次の激戦区
クリス・ディクソン
日経BP
Read Write Own (クリス・ディクソン) の要約
ブロックチェーンネットワークは、現在のプラットフォーマー主導のインターネットから、「みんなのための」インターネットへの転換を可能にする技術なのです。これは、インターネットを本来あるべき姿、つまり誰もが自由に参加し、公平に恩恵を受けられる場所に戻すための重要な一歩となるでしょう。
クリエイターの力を削ぐプラットフォーマーという存在
企業所有のネットワークの問題は許可制であることに起因する。クリエイターやスタートアップが新しい製品を提供し、成長させるには、運営企業という権力を持つ門番の許可が必要だ。(クリス・ディクソン)
現代のインターネットでは、大手プラットフォーム企業が圧倒的な力を持っているとアンドリーセン・ホロウィッツ（a16z）のゼネラルパートナーを務めているクリス・ディクソンは指摘します。
GAFAなどのプラットフォーマーは、新規参入するスタートアップ企業の活動を様々な形で制限し、抑制する立場にあります。例えば、アプリストアでの審査基準の厳格化や、プラットフォームのAPIアクセス制限などを通じて、新しいサービスの展開を実質的に妨げることができます。 さらに深刻な問題として、クリエイターへの影響が挙げられます。
動画配信やコンテンツ販売プラットフォームでは、クリエイターに対して高額な手数料を課し、彼らの利益を奪っています。これはクリエイターの収入を大きく圧迫し、創作活動の継続性を脅かす要因となっています。 また、ユーザーの権利という観点からも重大な懸念があります。
プラットフォーム企業は利用規約を一方的に変更したり、アカウントを停止したりする権限を持っています。ユーザーが長年かけて築き上げたフォロワーや投稿内容が、企業の判断一つで失われるリスクに常にさらされているのです。
こうしたネットワークの集中化された設計は、３つの深刻な悪影響をもたらしています。第１に、イノベーションの停滞です。新規参入の障壁が高く、革新的なアイデアを持つスタートアップが成長できない環境となっています。
第２に、創造性への課税とも言える高額な手数料体系により、クリエイターの自由な表現活動が制限されています。
そして第３に、権力と資本が少数の企業に集中することで、インターネットの民主的な性質が失われつつあります。 このような状況は、インターネットが本来持っていた「誰もが自由に参加できる」という理念から大きく外れています。プラットフォーム企業による支配は、デジタル空間における創造性と革新性を徐々に蝕んでいるのです。
インターネットの発展の３つの大きな変化
インターネットの中央集権化により、分散型だったはずのネットワークの権力が一点に集まってきているのだ。この一極集中化の動きはイノベーションを阻害し、インターネットの面白さ、ダイナミックさ、公正さを損なわせている。
インターネットの発展は、３つの大きな時代を経て進化してきたと著者は言います。それぞれの時代は、特徴的なネットワーク構造によって形作られ、人々とデジタル世界との関わり方を根本的に変えてきました。
1990年から2005年頃までの第一幕は、「読み取り（リード）時代」として知られています。この時期、プロトコルネットワークが情報へのアクセスを劇的に民主化しました。ウェブブラウザに単語を入力するだけで、世界中のウェブサイトから必要な情報を瞬時に見つけられるようになり、知識の共有における革命的な変化が起こりました。検索エンジンの登場により、誰もが世界中の情報にアクセスできる時代が幕を開けたのです。
続く2006年から2020年頃までの第二幕は、「読み取り／書き込み（リード／ライト）時代」でした。この時期には、企業が運営するネットワークプラットフォームによって、情報発信の民主化が進みました。ソーシャルメディアの台頭により、専門的な知識や技術がなくても、誰もが自由に情報を発信し、世界中の人々とつながることができるようになりました。ブログやSNSを通じて、個人の声が地球規模で響き渡る可能性を手に入れたのです。
そして現在、私たちは第三幕である「読み取り／書き込み／所有（リード／ライト／オウン）時代」の入り口に立っています。
この新しい時代では、ブロックチェーンなどの革新的な技術により、ネットワーク自体の所有権が民主化されようとしています。これまでは企業の株主や従業員といった限られた関係者だけが独占していた権力と経済的利益を、ネットワークの参加者全員で共有できる可能性が開かれています。
ブロックチェーンは、従来のインターネットで見られるハードウェアとソフトウェアの力関係を逆転させる。ブロックチェーンでは、ソフトウェアがハードウェアデバイスのネットワークを管理する。素晴らしいことにソフトウェアが優位なのだ。
ブロックチェーンが提供する新しいモデルでは、ネットワークの参加者全員がその運営と発展に関与できます。これは単なる技術的な変更ではなく、インターネットの民主化を意味します。ユーザーは受動的なサービス消費者から、ネットワークの積極的な所有者へと立場が変わります。 この変化は、創造性とイノベーションの観点からも重要です。
中央集権的な管理がない環境では、新しいアイデアや実験的な試みが、大企業の承認を必要とせずに実現できます。これは、インターネット初期に見られた自由な実験精神の復活につながります。 さらに、経済的な側面でも大きな意味を持ちます。ネットワークの価値創造に貢献したユーザーが、その恩恵を直接受けられる仕組みが整います。
これは、現在のモデルで見られる、価値の一極集中を防ぐ効果があります。 このように、ブロックチェーンがもたらすソフトウェア優位の世界は、より公平で開かれたインターネットの実現に向けた重要な一歩となります。
それは、インターネットが本来持っていた、自由でダイナミックな可能性を現代に蘇らせる取り組みとして、大きな期待を集めています。
デジタルコンテンツの所有という概念は、単なる情報の閲覧や発信を超えて、私たちのオンライン活動に新しい価値をもたらします。例えば、クリエイターは自分の作品に対する真の所有権を持ち、適切な報酬を得ることができます。
また、コミュニティのメンバーは、その発展に貢献することで相応の見返りを受けることが可能になります。 インターネットの進化は、人々に「読む」力を与え、次に「書く」力を与えました。そして今、私たちは「所有する」力を手に入れようとしています。この新しい段階は、デジタル空間における個人の権利と可能性を大きく拡張し、より公平で創造的なインターネットの実現に向けた重要な一歩となるでしょう。
ブロックチェーンネットワークは、デジタルサービスの在り方を根本から変革する可能性を秘めています。まず、ソーシャルネットワークの革新が挙げられます。従来のプラットフォームでは、広告収入の最大化や個人データの収集が優先され、ユーザー体験が二の次になりがちでした。
しかし、ブロックチェーンを基盤とするソーシャルネットワークでは、ユーザーの利益を中心に据えた設計が可能になります。例えば、個人データの管理権をユーザー自身が持ち、コンテンツの価値に応じた報酬を直接受け取ることができます。 商取引の分野でも大きな変革が期待されます。現在のマーケットプレイスでは、プラットフォーム企業が高額な手数料を取ることが一般的です。
一方、ブロックチェーン上に構築された取引プラットフォームでは、中間業者を介さない直接取引が可能となり、手数料を大幅に抑えることができます。これは、売り手と買い手の双方にとって大きな利点となります。 メディアの世界でも新しい可能性が開かれています。従来の広告モデルやサブスクリプションモデルに依存せず、コンテンツの価値に応じた新しい収益化の仕組みを実現できます。
クリエイターは、自身の作品に対する真の所有権を持ちながら、より公平な形で収入を得られるようになります。 デジタル世界の構築においても、ブロックチェーンは重要な役割を果たします。異なるプラットフォーム間での相互運用性が確保され、ユーザーは自身のデジタル資産を自由に持ち運べるようになります。これにより、より豊かで没入感のある体験が可能になります。
ブロックチェーンが変える未来とは？
ブロックチェーンネットワークは、街の住民が地道に作り上げる都市開発に似ている。起業家は事業を作り、クリエイターはファンを育て、ユーザーは価値ある選択肢と権利をもとに主体性を持って行動できる。ネットワーク運営はコミュニティが担い、透明性がある。貢献した人たちは金銭的に報われる。すべての人によってすべての人のために作られたインターネットができるのだ。
ブロックチェーンネットワークの発展は、まさに市民による草の根の都市開発に似た特徴を持っています。このネットワークでは、起業家が新しいビジネスを立ち上げ、クリエイターが独自のファンコミュニティを育て、ユーザーが自らの意思で選択し行動する権利を持ちます。
特筆すべきは、ネットワークの運営がコミュニティによって担われ、その過程が透明性を持って進められることです。また、このネットワークに貢献した参加者には、適切な経済的報酬が与えられます。 この新しい時代のインターネットでは、デジタル空間における健全な市民生活の実現が約束されています。それは、私的財産と公共財産のバランスが取れた状態を目指すものです。
現実の都市では、公共の歩道が新しい店舗の発見を促し、個人の住宅改装が地域全体の価値を高めるように、デジタル空間でも私有財産と公共財産の共存が不可欠となります。
ブロックチェーンネットワークの技術的特徴は、既存のネットワークの長所を取り入れながら、短所を克服する優れた仕組みを提供します。トークンを通じた資金調達や開発者への報酬、共有台帳としてのデータ管理機能、自動化された法令準拠の取引システム、追跡可能な履歴など、多くの革新的な機能を備えています。
また、低い手数料率と安定した規約により、開発者は安心してサービスを構築できます。 決済システムにおいても、ブロックチェーンネットワークは画期的な解決策を提供します。現実世界の公道システムのように、誰もが利用できる公共インフラとしての決済システムの構築が可能となります。
コンテンツの真正性証明においても、ブロックチェーンは重要な役割を果たします。改ざん不可能な透明性の高い履歴の保存、中立的なデータベースの提供、そして様々なアプリケーションでの活用可能性（コンポーザビリティ）という3つの大きな利点があります。
これにより、ソーシャルネットワークでの信頼性の確保や、第三者による評価システムの構築が可能となり、ユーザーはコンテンツの信頼性を容易に判断できるようになります。
このように、ブロックチェーンネットワークは、単なる技術的なイノベーションを超えて、デジタル空間における新しい社会システムの基盤となる可能性を秘めています。それは、すべての参加者が公平に恩恵を受けられる、真に民主的なインターネットの実現に向けた重要な一歩となるでしょう。
|
関連記事
マシュー・ディクソン、ニック・トーマン、リック・デリシのおもてなし幻想の書評
隠れたキーマンを探せ！ (マシュー・ディクソン,ブレント・アダムソン,ニック・トーマン)の書評
読書会 恵比寿「too read」昨日４月７日実施して、気付きをいろいろいただきました！
デジタルテクノロジー図鑑 「次の世界」をつくる （comugi）の書評
生成AI生革命 社会は根底から変わる(野口悠紀雄)の書評
超進化経営 勝ち続ける企業の５つの型 (名和高司）の書評
ストーリーで学ぶ戦略大全 （方喰正彰）の書評
DBSのDX戦略、なぜ面白い銀行は生まれたのか？ＲＥＷＩＲＥＤの書評
「消費者ニーズ」の解像度を高める(犬飼江梨子)の書評
クリティカル・ビジネス・パラダイム――社会運動とビジネスの交わるところ （山口周）の書評
UAV あなたが知らない あなたの会社だけの強み ― 顧客に選ばれ続ける「最強ブランド」のつくり方 （彌野泰弘）の書評
エクスペリエンス・カーブの恩恵を享受する方法。瞬考 メカニズムを捉え、仮説を一瞬ではじき出すの書評
コメント