DBSのDX戦略、なぜ面白い銀行は生まれたのか?REWIREDの書評

マッキンゼー REWIRED―デジタルとAI時代を勝ち抜く企業変革の実践書
エリック・ラマール, ケイト・スマージュ
東洋経済新報社

マッキンゼー REWIRED(エリック・ラマール)の要約

DBSは、データ主導型の組織への移行を進めるために、データガバナンスの近代化や新しいデータプラットフォームの導入、データ主導の意思決定を促進する文化変革を実施しました。これにより、顧客へのサービス方法が根本的に変化し、顧客体験が向上し、売上アップと利益改善の原動力になったのです。

銀行を面白い存在に変えたDBSのDX戦略とか?

銀行のように考えるのではなく、スタートアップのように考えよ。(ピユシュ・グプタ)

DBSのCEOであるピユシュ・グプタは、急速に進化するデジタルな世界において、企業がテクノロジーに適応する必要性を認識していました。彼は、テクノロジー企業から学び、革新的なアイデアや最先端のテクノロジーを取り入れることで、「未来のDBS」を形作ることを決意しました。

DBSは、スタートアップのようなアプローチで考え、常に新しいアイデアやテクノロジーにオープンである姿勢を示しました。その結果、顧客のニーズに適したサービスを提供することが可能となり、競争力を維持し、成長を遂げることができたのです。

銀行業界において、DBSは顧客を幸せにするために独自のビジョンを持ち、その実現に向けて具体的な取り組みを行ってきました。その学びは、「銀行をおもしろくする」という明確なビジョンに具体化されていったことが挙げられます。

このビジョンは、銀行業務を簡略化し、DBSを”見えない”存在にすることで、顧客を幸せにするという目標を反映しています。DBSは他の銀行ではなく、世界のトップテクノロジー企業をベンチマークすべきだという認識を持っており、その志は同社のニーモニックである”GANDALF”に反映されています。

このGANDALFには、グーグル、アマゾン、ネットフリックス、アップル、リンクトイン、フェイスブックが含まれており、DBSが象徴的なテクノロジー企業のリーグに参加する大胆な志向を示しています。

DBSは映画「ロード・オブ・ザ・リング」からもインスピレーションを受け、野心的なDXのための合言葉としてGANDALFを採用しています。DBSの取り組みは、銀行業界におけるイノベーションの典型例と言えるでしょう。

DBSの取り組みは、他の企業にも示唆を与えるものであり、テクノロジーを活用したイノベーションがビジネスに与える可能性を示す良い例と言えます。デジタル化の波に乗り遅れないためには、常に新しいアイデアやテクノロジーにオープンであることが求められます。

DBSのリーダーは、DXの道筋を開発する際に、まず最も重要なカスタマージャーニーに焦点を当てました。これは、深い分析によって最大のインパクトを持ち、最大のペインポイントに対処できることが判明していたためです。

特に、アカウント開設やATMでの待ち時間などの象徴的なジャーニーが重要視され、これらを改善することでDXの第ニフェーズに迅速に移行するための基盤となりました。DBSは、ファイナンスや従業員の経験など、ビジネスの様々なドメインで100のジャーニーを分析しました。それぞれの分析は、組織の最も経験豊富なリーダーによって率いられました。

DBSは顧客に焦点を当てるために、Customer Experience Councilというステアリングコミッティを設立しました。このコミッティはCEOやビジネスユニットの責任者、サービスの責任者などの主要なリーダーで構成され、すべてのジャーニーの進捗をレビューしました。特に顧客体験指標とEATE指標(early engagement, acquisition, transacting, and deepening engagement)に焦点を当て、四半期ごとに開催されました。

DBSは、プラットフォームを中心に構築されたオペレーティングモデルを導入しました。このモデルでは、33のプラットフォームが事業セグメントや商品に沿って構築され、それぞれに100のカスタマージャーニーが統合されました。

さらに、「2-in-a-box」リーダーシップ・モデルを導入し、ビジネス部門のリーダーとIT部門のリーダーが共同で指揮を執りました。これにより、効率的かつ効果的なビジネス展開が可能となり、顧客ニーズに合わせたサービス提供や顧客関係の強化が実現されました。また、ビジネス部門とIT部門の連携により、ITの活用を最大限に引き出し、ビジネスの成長を促進しました。

DXで顧客体験を高めたDBS

DBSでは、ビジネス部門とテクノロジー部門の間の歴史的な部門間サイロがあり、真に機能横断的なアジャイルチームをサポートすること が不可能だった。このプラットフォームァプローチによりそのサイロを排除することができ、より効果的に取り組みをスケールすることができた。

多くのプラットフォームのリーダーは、該当分野の専門知識を持つ内部社員でした。プラットフォームリーダーとテクノロジーリーダーは、そのプラットフォームの目標を達成する共同責任を持ち、成長、収益、顧客体験に注力しました。

各ジャーニーのチームは、8〜10人のアジャイルチームを率いるジャーニーマネージャーで構成され、ジャーニーステートメントを作成しました。顧客体験デザインに焦点を当て、プロセスの改善を推進し、

例えばクレジットカードの発行プロセスを21日間から4日間に短縮するなど、顧客に利益をもたらす改善を実現しました。DBSのリーダーシップは、これらのチームが効果的に機能するためにタレントベンチの開発を重視したのです。

DBSはテックタレントの内製化率を70%に引き上げるという戦略的決定を下しました。これにより、ハッカソンなどの非伝統的な方法を活用して才能を見つける取り組みが強化され、技術者の採用が増加しました。DBSは3つのテクノロジーハブを設立し、10,000人以上の技術者を採用しました。

また、クラウドへの移行、自動化への投資、マイクロサービスの開発などの取り組みにより、テクノロジーサービスの90%が内製化され、アプリケーションのほぼ全てがクラウドベースになりました。

データ主導型の組織への移行を推進するために、データガバナンスの近代化や新しいデータプラットフォームの導入、データ主導の意思決定を促進する文化変革が行われました。これらの取り組みにより、顧客へのサービス方法が根本的に変化し、データ管理が大幅に改善されました。

DBSはAIを活用し、「インテリジェントバンキング」を提供し、毎日5万件以上のパーソナライズされたナッジを消費者に提供しました。また、AI/MLソリューションを使用して人事業務において従業員の退職可能性を予測し、人事担当者が介入できるようにしました。その結果、DBSの離職率は業界最低の10%に抑えられ、業界平均に対して15〜20ポイント低い水準となりました。

クラウドへの移行により、DBSはAIとMLをデータと共に複数のドメインで利用する規模とスピードを得ました。マーケティングでは文脈に合わせたパーソナライズされたソリューションを提供し、人事では従業員の退職をより的確に予測しました。

さらに、DBSはAIとアナリティクスを利用して、マネーロンダリング対策とテロ資金調達対策のための包括的な監視プロセスを開発しました。これにより、より迅速で優れた洞察が得られ、マネーロンダリングの脅威に対処できるようになりました。

DBSは、AIを活用して顧客へのナッジを提供し、損失防止や生産性向上から追加収益を創出し、データ専門家を1,000人以上採用するなど、革新を続けています。組織的な学習プログラムを通じてデジタルスキルを普及させ、DigiFYやDBS Tech Academyなどの学習パスを提供しています。これにより、DBSはデジタルカルチャーを構築し、顧客のデジタル利用率を大幅に向上させました。

DBSのAIを活用した取り組みにより、過去1年だけで約1億5,000万シンガポールドルの追加収益と、損失防止および生産性向上から2,500万シンガポールドルが生み出されたと推定されている。

DBSは、フォーマルなトレーニングやスケーリングイニシアチブに加えて、ワークスペースの再設計や頻繁なピアレビューなどのインフォーマルな取り組みを通じて、コラボレーションやイノベーションを促進しました。

その結果、DBSの顧客の約65%がデジタルツールやサービスを利用し、シンガポールと香港におけるDBSの消費者向け事業と中小企業向け事業では、デジタル顧客の割合が過去7年間で27ポイント上昇し、2022年には60%に達しました。

より多様な商品を保有し、より多くの取引を行うデジタル顧客は、常に従来型顧客の平均2倍以上の収入を生み出しています。その結果、デジタル顧客のコストインカムレシオは従来型顧客の半分となり、デジタル顧客のROEは39%で、従来型顧客よりも15ポイント高いです。

さらに、DBSは5年連続でいくつかの世界的なトップアワードを受賞しています。DBSの変革は終わらず、国境を越えた金融取引への参入や、ブロックチェーンに対応した数々の事業の立ち上げなど、テクノロジーケイパビリティを強化し、新たなビジネスチャンスに目を向け続けています。

これらの取り組みはすべて、新たな価値の源泉を解き放ち、顧客にとってバンキングを楽しいものにするという、DBSの約束を果たすためのものです。

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