クリスティーン・ポラスのThink CIVILITY(シンク シビリティ) 「礼儀正しさ」こそ最強の生存戦略であるの書評

無礼な態度は人の健康にも大きな悪影響をおよぼすことが、最近の科学的研究によって明らかになってきた。まず、無礼な態度は、人の免疫システムを害することがある。(クリスティーン・ポラス)


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無礼な態度が社員の健康や生産性を蝕む?

クリスティーン・ポラスはジョージタウン大学マクドノー・スクール・オブ・ビジネス准教授で、職場における礼節の研究を20年にわたって行ってきました。その彼女の集大成である一冊が、Think CIVILITY(シンク シビリティ) 「礼儀正しさ」こそ最強の生存戦略であるで、本書を読むといかに礼節が重要であるかを理解できます。

日本だけでなく、アメリカでもパワハラが問題になり、「職場の無礼さ」によって、多くのビジネスマンが影響を受けています。無礼な態度によって、循環器系の病気、ガン、糖尿病、潰瘍などにかかる恐れがあることがわかりました。

ハーバード公衆衛生大学院が女性の集団を10年間追跡した調査の結果、ストレスのかかる仕事が、喫煙や肥満と同じくらい、女性の健康にとって良くないことが明らかになったのです。仕事上のストレスなど、心理社会的な要素が、その人の寿命を決める最も重要な変数であるという調査結果もあるほどです。

テルアビブ大学のアリー・シロムらは、職業の様々に違う(金融機関で働く人もいれば、工場や医療機関に勤務する人もいた)820人の大人を20年にわたり、追跡調査しました。その間、彼らは被験者となった人たちに、職場の環境は?上司の態度はどうか?同僚は友好的に接してくれるか?など、同じ質問を何度も繰り返し、同時に全員の健康状態の変化を詳しくチェックし続けたのです。勤務時間の長さ、仕事の負荷、与えられている権限、裁量の大きさなどは、直接、寿命の長さには影響していませでした。ともに働く人たちの態度が協力的、友好的かどうかが、寿命に影響を及ぼしていたのです。

また、職場に友好的でない人がいると、死亡リスクが高まることもわかりました。たとえば、中年と呼べる年齢の会社員の場合、同僚が友好的でない人は、友好的な人に比べ調査期間だけで約2.4倍の人数が死亡していたのです。職場に無礼な人がいると、そこで働く人たちの心の健康にも悪影響があることが、調査によって明らかになったのです。

無礼な人が多いと会社に損害をもたらし、アメリ力経済全体にも悪影響を与えています。アメリ力心理学会(APA)の試算によれば、職場のストレスによってアメリカ経済にかかるコストは1年に5000億ドルにものぼることがわかりました。仕事上のストレスが原因で、毎年5500億日もの就業日が失われ、職場で発生する事故の60~80パーセントはストレスが原因で、アメリ力人の通院の約80パーセント以上がストレスに関係しているとも言われています。アメリ力国立労働安全衛生研究所(NlOSH)の報告によると、日々ストレスを感じながら仕事をしている労働者は、そうでない労働者に比べ、医療にかかるコストが46パーセント高いと言います。

著者とクリスティーン・ピアソンの調査で、職場の無礼な態度によって、次のことが明らかになりました。
・48パーセントの人が、仕事にかける労力を意図的に減らしている。
・47パーセントの人が、仕事にかける時間を意図的に減らしている。
・38パーセントの人が、仕事の質を意図的に下げている。
・80パーセントの人が、無礼な態度を気に病んでしまい、そのせいで仕事に使うべき時間を奪われている。
・63パーセントの人が、無礼な態度を取る人を避けるために仕事に使うべき時間を奪われている。
・66パーセントの人が、自分の業績は低下していると答えている。
・78パーセントの人が、組織への忠誠心が低下したと答えている。
・12パーセントの人が、他人の無礼な態度が原因で転職をした経験があると答えている。
・25パーセントの人が、無礼な人にストレスを感じたせいで顧客への対応が悪くなることがあると答えている。

無礼な態度の人が職場にいると、管理職の時間もそれによって奪われ、生産性が下がるのです。人材派遣会社アカウンテンプスの調査結果によれば、フォーチュン1000企業の管理職、幹部は、社員間の人間関係の修復、あるいは無礼な人間による悪影響への対応のため、職場での時間の実に13パーセントを奪われています。これは、1年のうち7週間をそれに費やしている計算になります。

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無礼さは顧客体験を壊し、ビジネスに悪影響を及ぼす!

著者は、デビー・マシニス教授、ヴァレリー・フォルクス教授とともに調査を行い、「顧客は無礼な扱いを嫌う」ということを明らかにしました。被験者となった学生たちに、「学生向けクレジットカードに関するアンケート調査への協力を銀行から依頼されている」と告げ、調査チームの2人に銀行員を演じてもらいました。被験者たちには、彼ら銀行員が、クレジットカードの新しいロゴと、サービス内容について学生に意見を求めている、と説明しました。この実験では、被験者の半数に、2人の「銀行員」のうち一方が、もう一方に対し、ひどい態度を取るところを見せました(クレジットカードの見本がいくつかあるのだが、一方の銀行員が、それを被験者に提示する順序が誤っていると言って、もう一方の銀行員を厳しく叱責する)。残りの半数には、ひどい態度は見せずに、両グループの反応を見ました。

ひどい態度を目にしなかった被験者のうち、約80パーセントは、その銀行のクレジットカードを将来、利用したいと思う、と答えましたが、ひどい態度を目にした被験者では、クレジットカードを利用したいと答えたのはわずか20パーセントにとどまりました。また、ひどい態度を目にした被験者の3分の2近くは、その銀行の行員と取引をするのは、たとえ相手がどの行員であっても不安だと答えたのです。

ひどい叱責を受けた原因が本人の能力不足にあったとしても、また重大なルール違反(障害者用のスペースに車を停める、など)にあったとしても、それはまったく無関係で、ともかく中の誰かが誰かをひどく叱責するだけで、その企業に対する印象は極端に悪化します。事情はどうであれ、無礼な態度を見てしまうと、顧客はその企業に悪い印象を抱くことになるのです。

無礼な人はまわりの思考能力を下げることも明らかになりました。著者はフロリダ大学の経営学の教授、アミール・エレズと共同調査を行いました。まず被験者となる大学生を集め、それを2つのグループに分け、一方のグループには、無礼な態度を取る(大学生全般を貶める発言をする)人を見せました。もう一方のグループには、無礼な態度は見せないことにし、その他の点では、2つのグループはまったく同じ扱いを受けるようにしたのです。

実験は他にも何種類か実施しました。それぞれ、体験する無礼な態度の種類、あるいは無礼な態度の体験の仕方を変えて行いました。たとえば、そのうちのひとつでは、実験を行う側の人間が、遅刻をした被験者に対して厳しい態度を取るのを見せました。また、被験者にまったく見ず知らずの人間が無礼な態度を取るという実験も行いました。さらに、実際に無礼な態度を見せるのではなく、何種類かの無礼な態度の例を提示して、それぞれについてどう思うかを被験者に尋ねる、という実験も行ったのです。

この実験でわかったのは、無礼な態度をたった一度、体験しただけでも、それがたとえさほどひどいものでなかったとしても、被験者の集中力は低下してしまうということです。被験者に何か作業をしてもらうと、明らかに目の前の作業に集中できず、気が散っている人が増えたのです。

最初の実験で、大学生全般を貶める発言を聞いた(誰も個人的に貶められたわけではない)グループは、そうでないグループに比べ、アナグラムのテストの結果が33パーセントも悪くなり、ブレーンストーミングでも思いつく創造的なアイデアの数が39パーセント少なくなったのです。また、後半の実験では、見ず知らずの人間に無礼な態度を取られた(忙しい教授の手を煩わせたといって叱責される)被験者は、そうでない被験者に比べ、アナグラムのテストの結果が61パーセント低下し、プレーンストーミングで思いつくアイデアの数も半分以下になってしまったのです。単に自分以外の人間への無礼な態度を目にしただけでも、アナグラムテストの成績は20パーセント低下し、ブレーンストーミングで思いつくアイデアの数も30パーセント減ってしまいました。

誰かの無礼な態度に接すると、認知のための資源が奪われてしまうということだ。その結果、作業の能力も創造性も下がる。このことは、おそらく仕事の業績にも悪影響をおよぼすだろう。たとえ最大限の力を発揮したいと望んでも、無礼な態度に注意を奪われ、心を乱されると、それができなくなってしまう。

職場の無礼な態度を減らさないと、社員や管理職のパフォーマンスは低下してしまうのです。

無礼な単語を見せるだけで、人の認知に影響を及ぼすこともわかりました。提示された単語を使って文を作る( 5つの単語を提示し 、そのうちの4つを使って文を作る)作業をしてもらいました。半数の被験者には 、無礼な態度を連想させる単語を見せたのです。たとえば、「aggressively(攻撃的に )」 「 bold(厚かましい)」
「 bother(嫌な思いをさせる )」 「 obnoxious(不愉快な )」「 annoying(いらだたしい)」「 interrupt (妨害する )」といった単語です。「 they」「her」 「bother」 「see」 「usually」という単語のリストを提示されたら、 「They usually  bother  her. (彼らはいつも彼女に嫌な思いをさせている)」という文を作ることになります。

残りの半数の被験者も同じ作業をするものの、見せる単語のリストには、無礼な態度を連想させる言葉は入れません。 「send(送る)」 「watches(時計」 「rapidly(急いで)」といった中立的な言葉だけを使用しました。たとえば、「they」「her」「send 」「see」「usually」という単語のリストを提示されて、 They usually see her. (彼らはよく彼女に会う )」という文を作ります。

無礼な態度を単に言葉で連想させられただけでも、人間は注意力を削がれるのではないか。そのせいで重要な情報が提示されても見逃すことが増えるのではないかという仮説を著者のチームは立て、その仮説の正しさを検証するために、心理学者ダニエル ・シモンズとクリストファー・チャブリスの有名な「見えないゴリラ」の手法を借りることにしたのです。

単語の作業を終えた被験者たちに、何人かがバスケットボールをしている映像を見せました。その映像を見て、プレーヤーが何度パスをするかを数えるよう指示しました。途中、ゴリラの着ぐるみを着た人がプレーヤーの中を通り過ぎます。映像を見終わった被験者には、パスの回数が何回だったかを書くように言います。文を作る作業で無礼な態度を連想させる言葉を見ていた被験者は、映像に登場するゴリラを見逃すことが多いことがわかったのです。

実験では、中立的な言葉だけを見ていた被験者の5倍の頻度でゴリラを見逃すことがわかったのです。 これは、意志の力だけで無礼を「乗り越える」ことが不可能だということを意味します。

無礼さは、本人も気づかないうちに注意力を奪い、頭のはたらきに影響を与えてしまうからだ。無礼さが人間の認知能力に悪影響をおよぼすのは明らかなようだ。

著者たちはさらに、無礼さは人間が物事を実行するのに必要な能力にも悪影響をおよぼすのではないかと考えました。具体的には、計画を立てる、行動を起こす、決断を下す、不必要な情報をふるいにかけるといった能力が影響を受けるのではと考えたのです。これを検証するため、「見えないゴリラ」の実験のあと、同じ被験者に対して別の実験も行いました。

まず被験者に、コンピュータの画面に短時間映し出される文字を次々に見せ、それを記憶するよう指示したのです。次に、数学の問題をいくつか解かせたあと、先に見た文字を順に思い出すように言いました。その結果、単語の並べ替え作業の段階で無礼な言葉を見ていた被験者は、そうでない被験者に比べ、文字の記憶にも数学の問題を解くのにも苦労をすることがわかったのです。記憶できる文字の数は17パーセント減り、順に思い出すテストの成績はなんと86パーセントも悪くなりました。なんと、数学の問題では、43パーセントもミスが増えたのです。

あってはならないことですが、医療現場でも同じ現象が起こっていました。4500人の医師、看護師を対象にした調査によると関係する誰かに「破壊的な言動」があった場合(破壊的な行動とは、ここでは、他人を攻撃する、あるいは見下し、侮辱するような言動、あるいは著しく礼を欠くような言動のことである)、その実に71パーセントが何らかの医療ミスに結びついたとわかったのです。無礼な態度や言動が人の命を奪ってしまうとしたら、この状態を看過するわけにはいきません!

著者の調査によると、一度誰かに無礼な扱いを受けると、他人に協力しようとする人は3分の1に減り、他人と何かを分かち合おうとする人は半数以下に減ってしまうのです。

集団の中にひどい態度、無礼な態度を取る人間がひとりでもいると、それによって生じた悪感情は集団内に広が り、態度の悪い人は増える。中には攻撃的、好戦的とも言える態度を取る人も現れる。

たとえば、ある大規模なメーカーでは、外部からコンサルティング・チームを招き、助言を求めました。そのコンサルティング・チームは助言をしましたが、そこで使われた言葉が侮辱的、屈辱的なものだったため、幹部のひとりが激怒しました。誰かに否定的な言葉、侮辱的な言葉で攻撃を受けると、人間の思考回路はそれによって大きく変化してしまいます。悪い態度が職場の空気をどんどんネガティブなものに変えてしまうのです。

不機嫌が健康を損なったり、職場の生産性を下げてしまうのですから、礼儀正しい態度で人と接するようにしましょう。礼節のある人は仕事にも恵まれ、幸せに慣れることがわかっています。次回以降は礼儀正しく行動する秘訣を本書から学んでいきたいと思います。

まとめ

職場に不機嫌な空気が蔓延することで、様々な問題を引き起こします。企業が無礼な社員を放置すると、社員の健康を損なったり、顧客の購買行動にも影響を及ぼすことがわかっています。理不尽な態度は社員や管理職の思考力を奪い、企業のパフォーマンスにも悪影響を及ぼします。

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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