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座右の書『貞観政要』 中国古典に学ぶ「世界最高のリーダー論」
著者:出口治明
出版社:KADOKAWA
本書の要約
ダイバーシティを徹底し、多様な人材を登用することで、茶坊主のいない強い組織が作れます。リーダーが実現したいビジョンやミッションを掲げれば、メンバー全員がそれを目指すようになります。リーダーはメンバーを愛し、メンバーが働きやすい環境を作ることで、組織は強くなります。
ダイバーシティの組織がなぜ強いのか?
組織を硬直化させないためには、性別、国籍、年齢といった垣根を取り払うことが大事だと僕は考えています。要するにダイバーシティです。ダイバーシティを徹底して多様な人材で組織をつくれば、茶坊主が減って、「王様は裸だよ」と素直にいってくれる職員が増えてくるでしょう。性別も国籍も年齢も異なる職員を集めると、まとめるのが大変ではないかと思ん われるかもしれませんが、そんなことはありません。(出口治明)
出口治明氏の座右の書『貞観政要』 中国古典に学ぶ「世界最高のリーダー論」の書評を続けます。本書の中で出口氏は、多様な組織を作ることで、リーダーは正しい行動を行えるようになると指摘します。ダイバーシティの組織が力を発揮するためには、経営方針やマニフェストが必要になります。
「この職場をどういう職場にしたいのか」というトップの強い想いを明文化できれば、職員はその想いに共感して、自然とまとまると思うのです。欧米の職場だと、ボードメンバー(役員会のメンバー)がそれぞれ国籍の違う人で構成されていることが珍しくありません。
ミッションやコアバリュー、ゴールなどが明確に定められているから、チームは同じ目標に向かって行動できるのです。経営方針やマニフェストは、職場における憲法であり、法律です。
太宗は侍臣たちの前で、「法律は、できるだけ簡単なものがよい」と語りました。
国家の法令というのは、簡単であるべきで、
複雑なものであってはいけない。ひとつの罪に対して、 数種類の項目を設けてはいけない。項目が多くなると、 役人がそれらを覚えておくことができないので、 そこで不正が生じるゆる可能性がある。もし罪を赦そうと思えば、 刑が軽くなる項目を選ぶだろうし、罪を背負わせようと思えば、 重くなるような項目を選ぶだろう。また、 一度決めた法令を変更するのは、国を治める上で得策ではない。(李世民)
漢の高祖である劉邦は、秦の始皇帝が定めた厳しい法律を廃し、「法三章」という、たった3つの項目(殺人・傷害・窃盗)からなる法律を施行しました。法律を簡略化しても、この3つさえきちんと遵守されれば、世の中に争いごとなど起こらないと劉邦は考えたからです。
唐の太宗も劉邦を見習い、法律の簡略化を勧めています。法律があまりにも複雑で不明瞭だと、部下は自分の都合のいいように解釈します。法律はできるだけ少なくし、解釈の余地が生じないようにシンプルにすべきだというのが太宗の理念だったのです。
また太宗は、一度決めた法律を何度も変更してはいけないと考えていました。法律は、国の進むべき道を示す羅針盤のようなものです。羅針盤の示す方向がぶれると、人民はどっちに進んでいいのか、迷ってしまいます。熟慮した上でビジョンを決めたなら、めったなことでは変えないという確固とした姿勢がリーダーには求められます。
国の法律も、会社のマニフエストも、シンプルで、わかりやすく、簡単で、煩ざつ雑でないようにすべきです。そうでないと解釈に幅が生じ、組織の規範たり得ないからです。そして一度つくったら、何度もつくり変えてはいけません。
優れたリーダーがやるべきこと
私は宮中の奥にいなければいけないので、天下の出来事のすべてを知ることはできない。だから、その任務をあなたたちに任せ、私の耳や目の代わりをしてもらっている。今、天下は平和だが、だからといって、軽く考えてはいけない。書経には『君主が徳を以て人民を愛すれば、人民もまた君主を尊敬してくれる。反対に、君主が道理に合わないことばかりしていれば、人民は離反するから、恐ろしい』と書かれてある。君主が人の道を外れた行いをすれば、人民はすぐに君主からその地位を奪おうとするだろう。
太宗の問いかけに対し、部下の魏徴は「君は舟なり、人は水なり」という有名な言葉で答えます。この言葉は、『貞観政要』の中では有名な一句です。
陛下は国の内外が安泰でありながらも、用心深く政治を行っているので、わが国は長く続くことでしょう。私はまた、こういう一三口葉を聞いています。きみよまたくつがえ古語に『君は舟なり、人は水なり。水は能く舟を載せ、亦能く舟を覆す(君主は舟であり、人民が水である。水は舟を浮かべ前に進めるが、一方で、舟を転覆させるのもまた水である)』と。陛下は、人民のことを恐ろしいものだと考えていますが、そのとおりでございます。(魏徴)
この「君は舟なり、人は水なり」という古語には、2つの意味が含まれていると出口氏は言います。
1、易姓革命の思想
君主が人の道を外れると、天(神様)は洪水などの天災を起こして、「このざまは何だ」と警告します。そして、それでも君主が行いをあらためなければ、人民が反乱を起こして、君主を排除します。これが易姓革命の思想です。つまり、君主が正しい政治を行わなければ、水(人民)は荒れ狂い、あっという間に舟(君主)を転覆させる、ということです。
2、君主は寄生階級である
水があって、はじめて舟は機能を発揮できます。水のないところに舟をつくっても、浮かべることはできません。 人民が生産階級だとすれば、君主は人民に頼る寄生階級です。ということは、人民や部下から、「この人についていこう」と思われなければ、組織を維持できません。人民や部下が君主に協調しなければ、君主がその地位にとどまることは難しいのです。
良い水がなければ、舟は動きません。リーダーがどれほど権力を持っていても、部下がついてこなければ、組織は成り立たないのです。本当に強い組織をつくるには、「リーダーは舟であり、水があるからこそ浮くことができる」「水がついてこなければ、舟は役に立たない」ということを肝に銘じておくべきです。 多様な部下を集め、ビジョンやミッションを明らかにした上で、リーダーは乗組員を上手に動かし、目的地を目指す必要があるのです。
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