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多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織
著者:マシュー・サイド
出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン
本書の要約
イノベーションは漸進的イノベーションと融合のイノベーションに分類できます。課題が複雑になっている現代においては、関連のなかった異分野のアイデアを融合することが重要になります。融合のイノベーションには、アイデアの交配が欠かせないため、組織は多様性を取り入れるべきです。
経営者は過去の常識にとらわれ、イノベーションを見過ごしてしまう!
マシュー・サイドの多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織の書評を続けます。『タイムズ』紙の第一級コラムニストである著者のマシュー・サイドは、様々なケーススタディが認知的多様性のある組織が結果を出すことを明らかにしています。逆にメンバーは偏っている硬直した組織は、大きな失敗を起こしがちだと言うのです。
今日はイノベーションについて考えてみたいと思います。2010年イギリスの考古学者イアン・モリスは、イノベーションの歴史に関する画期的な研究結果を発表しました。モリスは紀元前1万4000年から今日にいたるまでの人類文明の発展について徹底的に調べ尽くしたのです。
彼は、人類の社会的発展の突破口となったさまざまな歴史上の出来事を定量化し、「社会発展指数」として示しました。この指数は経済的発展とも密接に関連しています。社会発展指数は何千年もの間、緩やかに上昇を続けていましたが、「産業革命」が起こった時に数字は一気に上がります。
1800年以降に起こった西洋主導のイノベーションは、それ以前のあらゆる歴史上のドラマを茶番にした。(イアン・モリス)
その後、19世紀後半の第2次産業革命では、電気の分野で技術革新が進み、古い蒸気機関に代わって、もっと効率のいい電動機が登場しました。結果、生産性が大幅に高まり、社会には第2の発展の波が押し寄せたのです。
電動機が使われるようになってから、実際に社会が発展し始めるまでには、奇妙なタイムラグがあったことがわかっています。実は電動機が発明されてから、すぐに変化は起こらず、25年の間、大きな変化は見られませんでした。
アメリカの数ある大企業は、莫大な利益を享受する絶好の立場にあったにもかかわらず、実際にはそうらなかったのです。それどころか、その多くが破綻した。勝利を目の前にしながら大敗を喫したと言います。電動機という発明によって、電力で効率良く製品を製造できるだけでなく、製造工程の改革も果たせるはずなのに、多くの経営者はこのイノベーションを見過ごしました。
電気を動力源にすることで、製造機械ごとに電動機を設置し、工場内の配置を自由に変えて、効率的な製造ラインを設計できるようになります。ここから工場は「集団の力」を使えるようになり、生産性を一気に高めることが可能でした。しかし、多くの工場はそうせずに、過去の常識に縛られていたのです。
アメリカの大企業の多くが従来の考え方から逃れられませんでした。彼らは電動機を導入こそしたものの、それをーつ工場の真ん中に置いて、たんなる蒸気機関の代替品のようにして使っていたのです。製造工程の合理化という、重要なポイントを完全に見失うことで、チャンスをものにできなかったのです。
経済学者のショー・リバモアによれば、1888~1905年にトラスト(企業合同)に参加した企業の40%超が1930年代前半までに破綻したと言います。
こうしたパターンの失敗は、終わりなく繰り返されている。実に多くの企業が、勝利を手にできる絶好のポジションにいるにもかかわらず、わざわざ負けに行くのだ。
バーナード・サドウがキャスター付きスーツケースの特許をとったときも、市場からは全く見向きもされませんでした。百貨店は消費者の気持ちに寄り添えず、大きな利益を得るチャンスを失ったのです。
百貨店のバイヤーやかつての大手製造会社の幹部たちは決して無知なわけではありませんでした。むしろ彼らの多くは、明晰な頭脳を買われ て雇われた経営管理のプロでした。それなのに成功のまたとないチャンスを見送り、歴史的な大惨事へと向かっていったのです。変化の兆しを見逃し、リスクを冒さければ、やがてイノベーションの波から取り残されてしまうのです。
イノベーションを起こすためには、多様性が欠かせぬ理由。
イノベーションには主に2つの種類があります。
1、漸進的イノベーション
特定の方向に向かって1歩ずつ前進していくタイプのイノベーション。
2、融合のイノベーション
それまで関連のなかった異分野のアイデアを融合する方法だ。たとえばスーツケースと車輪、電動機と製造機械など。
2つの異なるアイデアを融合したイノベーションは劇的な変化をもたらすことが多い。互いの垣根が取り払われ、新たな可能性の扉が大きく開かれる。この2種類のイノベーションはどちらも生物の進化の過程に似ている。漸進的イノベーションは、自然淘汰(自然選択)のようなもので、世代ごとに起こる小さな変化だ。融合のイノベーションは、いわば有性生殖だろう。2つの個体の遺伝子がーつに組み合わさって、新たな個体が生まれる。
ケロッグ経営大学院のブライアン・ウッツィ教授は、ウェブ・オブ・サイエンス上の8700誌に掲載された1790万本の論文を分析しました。 結果、極めて反響の大きかった論文は、どれも「標準的とは言えない組み合わせ」をしていたことが明らかになりました。互いに極めて異なる分野のアイデアが、従来の垣根を越えて組み合わされることで、新たなアイデアが生まれていたのです。
19世紀には、特許の大半がそれぞれたったーつのコードにのみ分類されていました。これは当時の発明の多くが典型的な漸進的イノベーションの賜物だったことを示唆しています。しかし現代では、1つのコードにのみ分類されている特許案件は全体の12%にまで減っています。残りの大半は、従来の壁もコードも超えた組み合わせによる発明になっています。このように融合のイノベーションには、多様性が欠かせないのです。
融合はいわば「異種交配」であり、それまで関連のなかったアイデア同士を掛け合わせて、問題空間を広くカバーする手段だ。「反逆者の融合」と言っていいだろう。古いものと新しいもの、既知のものと未知のもの、内と外、陰と陽の組み合わせだ。
2017年12月に発表されたある論文では、フォーチュン500社の43%が、移民もしくは移民の子孫によって創業あるいは共同創業されており、上位35社だけで見るとその割合は57%にまで上昇することが明らかになりました。
2016年に『Journal of Economic Perspectives』誌に掲載された論文によれば、ここ数十年でノーベル賞の65%がアメリカに拠点を置く研究者に授与されましたが、その半数以上がアメリカ国外で生まれているという。移民とアメリカに住む学者が出会い、ともに研究することでイノベーションを起こしていたのです。
エスティ・ローダー、ヘンリー・フォード、イーロン・マスク、ウォルト・ディズニー、セルゲイ・ブリンの共通点も移民であると著者は指摘します。移民は新天地で新たな文化を経験し、それに順応していきます。その中でビジネスのアイデアや何かしらの技術に出くわしても、彼らはそれを不変のものだとは思いません。変化させたり、修正したり、何かと組み合わせたりすることができると考えることで、新たな融合が生まれます。
融合が進化の原動力になりつつある現代において、重要な役割を果たすのは、従来の枠組みを飛び越えていける人々だ。異なる分野間の橋渡しができる人々、立ちはだかる壁を不変のもの、破壊不可能なものとは考えない人々が、未来への成長の扉を開いていく。 ここでカギとなるのが第三者のマインドセットだ。
移民してきた人たちは、「第三者のマインドセット」(アウトサイダー・マインドセット)を持っていたのです。彼らは特定の思考の枠組みから抜け出して、別の新たな角度から物事をとらえる力を持っています。そこから反逆者のアイデアが生まれていたのです。
2つの異なる文化の中で暮らし、多様な経験をしている彼らは、広い視野でアイデアを組み合わせることができます。第三者の視点が現状に疑問を投げかける力をもたらすのと同様に、多様な経験が新たな融合のアイデアをもたらす一助となります。
移民がイノベーションに大きな役割を果たしているのは、リスクを冒すことを恐れず行動するからです。さらに彼らは、新たな生活でさまざまな困難に遭遇するうちに、レジリエンスも身に着けます。彼らは現状に疑問を呈して、反逆者のアイデアによって従来の枠組みの外へと飛び出していくのです。
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