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多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織
著者:マシュー・サイド
出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン
本書の要約
人類の脳が大きいのは「結果」であって「原因」ではありません。知恵やアイデアの蓄積が脳の拡大をもたらしたのです。 優れた知恵やアイデア(そしてその蓄積や融合)こそが、私たちの祖先に大きな脳をもたらしました。祖先が築いてきたこの集合知を活用することで、私たちは現代のさまざまな課題を解決できるようになるのです。
なぜ、ホモサピエンスは進化できたのか?
集団脳、集合知、心理的安全性、融合のイノベーション、ネットワーク理論。こうしたコンセプトはみな部分ではなく全体から生まれている。現代社会において非常に重要なことばかりだ。今日の我々に差し迫る問題はあまりに複雑で、個人の力だけでは到底解決できない。これからは集合知の時代だ。(マシュー・サイド)
マシュー・サイドの多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織の書評を続けます。『タイムズ』紙の第一級コラムニストである著者のマシュー・サイドは、多様性という視点を取り入れることで、さまざまな社会課題を解決できると言います。
人類の繁栄の理由も多様性による集合知で説明がつくとマシューは指摘します。かつては「大きな脳が、優れた知恵やアイデアをもたらす」という考え方で人類の進化を説明してきましたが、「因果関係がまったく逆」であると著者は述べています。実は「優れた知恵やアイデアが、大きな脳をもたらす」と考えた方が、因果関係を正しく説明できると言うのです。多様性が人類に集合知をもたらすだけでなく、私たちの進化に重大な役割を果たしていたのです。
多様性の力は人類に集合知をもたらしたばかりでなく、ほかの種とは一線を画す独自の進化をもたらした。多様性はまさしく、人類の内なる原動力だ。
歴史を遡ると、遠い昔の人類の祖先であるホモ・サピエンスの脳は、ネアンデルタール人の脳と同じか少し小さいくらいだったとハーバード大学の人類進化生物学教授のジョセフ・ヘンリックは指摘します。私たち人類の祖先は競争相手のネアンデルタール人よりも、知能が低かった可能性が高かったのです。
しかし、我々の祖先のホモ・サピエンスには、重要な、しかし見落とされがちな強みである「社会性」がありました。人類の祖先はほかの種より大きな、より密につながり合った集団で生活していました。この社会性が人類に劇的な繁栄をもたらしたのです。
密な社会的集団によって、知識や体験が伝播し、その中で学習が進みます。たとえ一人ひとりは食物を探したり道具を作ったりといった初歩的な知識しかなくても、密な集団に属していれば多くの仲間からさまざまな知識を学べます。自然淘汰の原理によって、学習能力の高い者が生き残るようになるのです。一方、密な集団を構成していなかったネアンデルタール人の学習能力は低く、ホモサピエンスの進化に追いついて行けなくなったのです。
1人ひとりの知能はネアンデルタール人に劣っていましたが、融合のイノベーションが起こったことで、私たちの祖先はネアンデルタール人との戦いに勝利したのです。ネアンデルタール人がイノベーションを起こしても、それは周りに伝わらず、彼らの進化につながらなかったのです。
人類の祖先は、社会集団(ネットワーク)の中で、かつ世代から世代へと、それぞれがつながり合っていた。知恵やアイデアの共有や伝授が行われれば、イノベーションは失われにくい。それどころかさらに新たなアイデアが生まれていく。先史時代における情報のスピルオーバー効果だ。
ヘンリック教授によるとネアンデルタール人は、氷河期のヨーロッパにおける資源の乏しさや天候の劇的な変化に対処せねばならず、小さな集団でほうぼうに散って暮らしていました。一方、アフリカからの移住者である[人類の祖先]は、相互的なつながりが強く、もっと大きな集団で暮らしていました。
ネアンデルタール人は、ネットワークのあるホモサピエンスよりもより当初は賢かったのですが、イノベーションを起こす率は低かったのです。集団の中で個人の知恵やアイデアが積み重なれば、集合知が高まり、私たちの祖先を進化させました。 個人知から集合知への進化によって、知恵やアイデアの蓄積が飛躍的に進み、やがて人類には大きな遺伝的進化がもたらされました。集団の情報量が急速に増大した結果、その記憶や整理のために選択圧が働いて、脳の容量が拡大していったのです。
多様性がイノベーションを起こす理由
過去500万年の間に、人類の脳の容量は約350㏄から1350㏄にまで増えた。しかもこの進化の大半は過去200万年以内に起こっている。脳の拡大が止まったのは約20万年前で、 これはひとえに産道の広さとの兼ね合いによる。胎児の頭が大きくなりすぎると、産道を出ていけないばかりか、母体も危険にさらすことになるからだ。ちなみに柔らかい胎児の頭は、狭い産道から押し出される際にいったん細くなったあと急速に丸く戻る。こうした頭部の変形が脳に影響を及ぼすことがないよう、大脳皮質は自然淘汰によって多層構造になっている。
人類の脳が大きいのは「結果」であって「原因」ではありません。知恵やアイデアの蓄積が脳の拡大をもたらしたのです。 優れた知恵やアイデア(そしてその蓄積や融合)こそが、私たちの祖先に大きな脳をもたらしました。
なぜ、チンパンジーやその他の動物は人間のように進化しなかったのでしょうか?例えば、ゴリラは1家族単位(メスは複数いるが、オスは1頭のみ) で暮らし、集合知を形成する機会がありません。オランウータンは単独で生活し、つがいにならないことがわかっています。このため幼い個体にとっては、頼れるのは母親のみで、集合知を得られません。チンパンジーは群れをなすものの、研究によればやはり幼い個体にとってのロールモデルは母親のみであることがわかっています。 特定の個体がイノベーションを起こしても、その世代とともに消えてしまうのです。先程のヘンリックはこれを「スタートアップ問題」と呼んでいます。
他者とのつながりという社会性によって人類は文化的な進化だけでなく、遺伝的な進化を手に入れたと著者は述べています。
どの動物も遺伝的な進化の可能性を秘めているものの、文化的な進化は進まない。ネアンデルタール人も含めこうした種は、人類の祖先と比べて個々の知能が低かったわけではなく、集団としての知能が低かったのだ。しかし集団内で情報が蓄積・伝播され、それが文化として定着すれば、遺伝的な進化にも拍車がかかる。
火というテクノロジーが発見されたこと、それが集団で共有され、次の世代に受け継がれたことで、火は人類の文化の一部となりました。その結果、人類の祖先の体にも変化が生じました。火を使って調理するようになったため、それまでより消化しやすい解毒済みの食物に適応して、胃や腸が小さく進化しました。その分、脳の成長のために代謝エネルギーを回せるようになったのです。大きな口も歯も、強力な顎も不要になりました。
人類の祖先はヒョウタンやダチョウの卵やその他の動物の皮を「水筒」にして水を携帯する方法を発見しました。それが集団で共有され、やがて文化として定着すると、体内に大量の水を貯め込む必要がなくなったのです。
火を使った調理によって消化作業を体外で行うようになったのと同様に、水筒の発明によって水分も体外で保存(携帯)するようになり、人類のさらなる進化がもたらされました。人類が長時間の持久力を得たのは、水を携帯するというテクノロジーが先に生まれたからなのです。複雑で特殊な発汗による人類の体温調節機能は、水筒に水を入れて携帯するという発見があって初めて進化したのです。
テクノロジーや知恵やアイデアは、遺伝子的な進化ばかりでなく、生理的(機能的)な変化ももたらす。あなたの親や教師も同じように他者から学習した。しかしそうやって識字能力を得る過程で、脳には大きな変化が起こる。左脳の腹側後頭側頭領域が活性化され、左右の脳をつなぐ脳梁が太くなり、上側頭溝、下前頭前野の活動にもそれぞれ変化が生じる。しかしこれは識字能力が必要な社会で起こる脳の生理的な変化であって、遺伝子の変異ではない。
脳の違いは生理的、あるいは生態的な違いであって、遺伝子的な違いではありません。 文化的な進化は人類の脳や体、さらには社会や組織の在り方にさまざまな影響を与えてきました。
人類が、自分1人では一生かかっても学べないことを集団からどんどん学習するようになると、自然淘汰によって、他者から学ぶ能力に長けた人間が優位に立ち始めます。知恵やアイデアの蓄積によって文化的な進化が始まると、生存のためのスキルが集団の中で次第に洗練されていきます。
約200万年という長い歴史の中で、知恵の蓄積が文化的な進化を導き、脳の拡大をはじめとする遺伝的進化やさまざまな変化をもたらしました。いわば人類は、多様性という土台の上に築き上げられてきたのです。さまざまな知恵やアイデア、経験、幸運な発見、融合のイノベーションが社会的ネットワークの中で生まれ、共有されて、集合知が高まり、自然淘汰の軌道を変えていきました。
人類の発展は、どんな脳を持っているかということよりも、多様な人々とのつながりにかかっていたのです。 個人がそれぞれの知恵を持ち寄り、集団で共有し、その中でさまざまなアイデアが世代を超えて融合され、数々の驚異的なイノベーションが生まれました。閉じた世界に生きるのではなく、他者とのつながりを強化し、多様性の中で生きることで、私たちはイノベーションを起こせるようになるのです。
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