どうすれば異なる集団が互いを理解できるようになるのか?


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多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織
著者:マシュー・サイド
出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン

本書の要約

エコーチェンバー現象によって、「認識の壁」というフィルターを通じて世の中を見てしまい、自分とは反対の意見を持つグループの考えを排除してしまいます。この状態を脱するためには、多様な情報や人々の考え方に触れることが不可欠で、熟議や熟考を繰り返す必要があります。

エコーチェンバー現象とフィルター現象

インターネットは、その多様性とは裏腹に、同じ思想を持つ画一的な集団が点々と存在する場となった。まるで狩猟採集時代に舞い戻ったかのようだ。情報は集団間より、むしろ集団「内」で共有される。(マシュー・サイド)

マシュー・サイド多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織書評を続けます。『タイムズ』紙の第一級コラムニストである著者のマシュー・サイドは、多様性という視点を取り入れることで、さまざまな社会課題を解決できると言います。

インターネットによって多様な情報や意見に触れることができるようになりましたが、人は同じ意見の者同士でコミュニケーションを繰り返し、特定の信念が強化される現象が起こるようになりました。このエコーチェンバー現象によって、私たちは狩猟採集時代に舞い戻ったように、自分と似たような人の意見を信じるようになっています。

政治問題など複雑な話題について情報を探す場合、多様性を排除してしまうと、エコーチェンバー現象によって、現実が歪んだものに見え始めてしまうと著者は指摘します。たとえばFacebookやその他SNSから情報を得ようとすると、友人がシェアする情報を優先してしまいます。

私たちは自分と考え方が合う人の意見、あるいは自身の意見を裏付けてくれる情報に触れる機会を増やし、反対意見に触れる割合を下げてしまい、自分の認知を歪めてしまう可能性を高めています。この傾向はいわゆる「フィルターバブル」によってさらに強化されてしまいます。

インターネットでは、Googleに代表される検索サイトのアルゴリズム(つまり特定のフィルター)が、利用者の好みに合わせて検索結果をふるいにかけている。そのため利用者が好む情報、すでに信じている情報ばかりが表示されやすくなる。

私たちはまるで泡(バブル)の中に閉じ込められたようになり、多様な意見や視点へのアクセスが制限されてしまいます。インターネットのつながりの強さが、逆にこうした細かい選り好みをもたらしたのです。

エコーチェンバー現象が及ぼす影響の大きさについては、研究者の意見が分かれています。コンピューターサイエンスの専門家エマ・ピアソンは、2014年にミズーリ州で起きた白人の警官(ダレン・ウィルソン)が黒人の青年(マイケル・ブラウン)を射殺した事件に関するツイートを調査し、2つのグループに意見が分かれることを明らかにしました。

①青い集団
黒人青年の射殺をおぞましいと受け取り、白人警官を批判する集団。[黒人青年]より[白人警官]に会うほうが安心だと言い、 ブラウンは撃たれたとき武器を携帯していたと主張しました。警官に対する集団リンチや人種攻撃が行われていると訴えたのです。さらにこの集団は、ミズーリ州が非常事態宣言を出すはめになったのはオバマ大統領が状況を悪化させる発言ををしたからだと批判しました。

②赤い集団
白人警官はスケープゴートになっていると考え、抗議デモをしている人たちは略奪行為に走っているではないかと主張。彼らは黒人たち武器など持っていなかったと言い、警察組織の解体を求めました。また、平和的デモまで禁じる非常事態宣言は人権侵害だと声を上げました。

どちらの集団も自分の意見に合うツイートばかりを見て、集団の「中」だけでやりとりをしていました。政治的・人種的な背景が極めて異なる2つの集団は、互いを無視していたのです。両者の考え方は極端に違っており、そうした状況自体が問題を引き起こしていると考えています。

インペリアル・カレッジ・ロンドンのセス・フラックスマン博士とビュー研究所の共同研究では、現代のデジタル社会についてまた別の見解をもたらしてくれます。博士らがインターネットの全体的な利用状況を見てみると、利用者は自身の考えに合う情報のほうを選択的に見ている率が平均して高かったものの、反対意見も目にしていたと言います。しかし、両者がわかりあうことはありませんでした。十分な裏付けや証拠を目にすれば、それまでの自分の意見を多少な りとも和らげるはずですが、反対意見を目にした後で、自分の意見を極端に信じるようになっていたのです。

デューク大学の社会学者、クリストファー・ベイル教授の調査によると2つの集団が相反する意見を読むことで、より一層今までの意見を信じるようになることがわかりました。被験者はTwitter利用者のうち、共和党支持者と民主党支持者の計800人で、教授はそれぞれの支持者に、社会的影響力の高い人物の政治的見解をただし、被験者自身の意見と相反する見解をリツイートするBotをフォローしてもらいました。

結果、両支持者の意見はさらに二極化していったのです。特に共和党支持者はそれまで以上に保守的になったと言います。自分と異なる意見を目にしたあとのほうが、彼らはより自分の信念をを強化したのです。

多様性が「認識の壁」を壊す!

エコーチェンバーは、いわば人間の弱さに巣食う寄生虫だ。(中略)フィルターバブルの中では、外部の声が聞こえない。エコーチェンバーの中では、聞こえるが一切信じない。(C・チ・グエン)

哲学者のC・チ・グエンは、フィルターバブルは社会からの孤立のもっとも極端な形だと言います。当事者はいわば丸い泡の中に閉じこもっている状態で、情報にはフィルターがかけられ、泡の内側の人間には自分の意見と似通った意見しか見えていないのです。当事者は泡の中にすっぽりと包まれ、反対意見から完全に隔離された状態で、現実を歪めてしまっているのです。

一方エコーチェンバー現象は、情報のフィルターは機能しているものの、自分たちの信条に沿わない意見を完全に遮断するわけではありません、彼らは「認識の壁」というフィルターを通じて世の中を見ていたのです。エコーチェンバーにもある程度情報のフィルターはあって、その内側では自分と同じ意見が常に大きくこだましているものの、外部の反対意見も入ってきます。

しかし、内側の当事者は、反対意見を聞けば聞くほど自分の信念を強めてしまいます。エコーチェンバーの内側の人々にとって、反対派の意見は新たな情報ではなく、フェイクニュースでしかないのです。反対派が提示するデータは、その1つひとつが自分自身を「正当化」する認識の壁を厚くする材料になっていきます。

著者は他者への信頼が、自分の意見を左右すると述べています。

人が何かを信じるときに欠かせないのは「信頼」だ。我々にはあらゆる物事の正当性をチェックする時間などない。だから場合によっては、相手を信頼して額面通りに受け取るほかない。医者や教師の言うことならそのまま受け入れる人も多いだろう。専門家もほかの専門家を信用し、その定理をもとに推論を組み立てる。今日の情報化社会も、いわばビジネスと同じ で、信頼という大前提の上に成り立っているのだ。

哲学者のアネット・ベイヤーが言う通り、信頼は人を無防備にしてしまいます。 エコーチェンバー現象は、この信頼に関わる人間の隙に付け込んで、歪んだフィルターをかけていきます。反対派の意見は徹底的に攻撃し、反対派自身には人身攻撃を行って、その人物もろとも信憑性を徹底的に貶めていきます。そうやって逆に自分たちを正当化していきます。反対意見やその根拠となるデータは、考慮の上で価値がないと判断するのではなく、見聞きした瞬間にはねつけてしまうのです。

エコーチェンバー現象によって人は狂信的になるとグエンは以下のように指摘します。

情報のフィルターに信頼のフィルターを重ねて認識の壁を築き上げれば、集団内には並外れた結束力が生まれる。これに対し、はじめから一方の主張しか耳に入らないフィルターバブルは本質的に脆い。しかしエコーチェンバー現象では、反対意見に触れることでいっそう狂信的になる。それによってすでに二極化した派閥はさらに溝を深める。

哲学者のグエンは自分の信条に沿わない部外者に対し、その人の信頼度を貶める行為を積極的に行っている集団には、ほぼ間違いなくエコーチェンバー現象が起こっていると言います。

法学者のキャス・サンスティーンは、 大勢の人々がインターネットを使い視野を広げている一方、逆に狭めている人もいると言います。後者は自身の関心や偏見に合う情報ばかりを集めた「デイリー・ミー」(Daily me)を作るのに懸命になっています。この偏った世界から抜け出すためには、多様な情報や人々の考え方に触れることが不可欠です。

著者はエコーチェンバー現象は、誰を信じるかが起点になり、客観的なデータよりもその人への信頼が重んじられると述べています。

エコーチェンバー現象は、カルト集団のように単純に泡の中に閉じ込められて起こるものではない。問題はもっと複雑だ。外部の見解は入ってくるものの、すべて「圧倒的にばかげたもの」として扱われる。そうやって情報が歪められる。すると信頼の形成過程そのものにも歪みが生じる。客観的なデータより、まず誰を信じるかが重んじられる。

エコーチェンバーは、反対意見の信用を貶める空間になっています。彼らは外のメディアに触れることは一歳禁じられていません。反対意見の信用を落とすメカニズムがうまく働いている限り、外の情報に多く触れれば触れるほど、逆に内部の人間の忠誠心が高められてしまうのです。

古代ギリシアの哲学者の多く、特にソクラテスは、民主主義がしかるべく機能するには熟議や熟考が欠かせないと説きました。さまざまなアイデアを試し、情報やデータを詳しく検証することによって初めて、理にかなった賢明な結論がもたらされるのです。

正統派ユダヤ教徒のマシュー・スティーブンソンは、人身攻撃をやめないと自分に悪影響を及ぼすと指摘します。

討論の相手に人身攻撃を仕掛けると、自身の信憑性も失うということを公人が理解すれば、もっとデータを重んじるようになります。そうすれば討論の調子が変わって内容の質も高まります。相手の信用を無闇に落とそうとすると、失うのは自分の信用です。(マシュー・スティーブンソン)

不信感を人から人に連鎖させるのではなく、信頼を人から人に伝染させることも可能です。多様性のネットワークを構築し、さまざまな意見に触れ、自分の頭で考えるようになることで、真に信頼できる人を見つけられるようになります。エコーチェンバース現象に惑わされなくなり、人生の質を高められます。多様な人と接し、コミュニケーションをはかることで、「認識の壁」を壊せるのです。

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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