日常に多様性を取り込むために重要な3つのこと


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多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織
著者:マシュー・サイド
出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン

本書の要約

多様性のある組織をつくることで、イノベーションを起こせるようになります。著者は日常に多様性を取り込みたければ、①「無意識のバイアス」を取り除く②「陰の理事会」(Shadow Board)③与える姿勢の3つの要素を取り入れるべきだと指摘します。

多様性がチームにイノベーションをもたらす理由

チーム作りそのものに限らず、チームワークやコラボレーションにも多様性は大きく関わる。多様な意見は秩序を乱す脅威ではない。組織や社会を活性化する力だ。率直な反対意見も成長には欠かせない。第三者に意見を求めるのは、チームへの忠誠心が足りないからではなく、忠誠心が高いからこそ。新たなアイデアを融合して、新たな挑戦のために結束力を高めていくためだ。今や融合のイノベーションを起こさずに、急速に変化する世界についていくことはできない。(マシュー・サイド)

マシュー・サイド多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織書評を続けます。『タイムズ』紙の第一級コラムニストである著者のマシュー・サイドは、多様性という視点を取り入れることで、さまざまな社会課題を解決できると言います。

多様性のない組織はイノベーションを起こせないことがわかっています。同じ考え方の人間ばかり集めても目標達成の足かせになるだけです。同じ視点の人間ばかりでは、物事を新たに学ぶチャンスをなくしてしまい、イノベーションをもたらす「反逆者のアイデア」は出てこないものです。

逆にイノベーションを起こす多様性のある組織をつくりたければ多様性の本質を理解すべきえす。世界的なヘッジファンド運営会社、ブリッジウォーター・アソシエーツでは、新入社員に多様性の重要性を教えると言います。同社では、率直に反対意見を述べる者、人と異なることを恐れない者、第三者から新たな知恵やアイデアを求めようとする者が評価されています。

同社の創業者のレイ・ダリオは「素晴らしい企業文化では、問題や意見の相違が水面下に潜ることなくうまく解決される」と述べています。同社では、誰もが率直に発言できる環境をつくり、透明性を徹底して、有意義な仕事、有意義な人間関係につなげることを常に目指しています。

企業にとって重要なことは社会にとっても重要です。新たなアイデアを奨励し、異論を排除せず、強力なネットワークを広げて反逆者のアイデアを生み出し、融合のイノベーションを起こすことで、組織は強くなります。同じ意見の集団に囲まれたままでは、同調圧力に屈してしまい、組織は進化できなくなります。

イノベーションはたった1人の天才が起こすわけではない。人々が自由につながり合える広範なネットワークが不可欠なのだ。

イノベーションを起こしたければ、リーダーは次の質問を繰り返し、組織に多様性を生み出すべきです。
■集団の中で人々が自由に意見を交換できるか?
■互いの反論を受け入れられるか?
■他者から学ぶことができるか?
■協力し合えるか?
■第三者の意見を聞き入れられるか?
■失敗や間違いを許容できるか?

日常に多様性を取り込むために重要な3つのこと

著者は日常に多様性を取り込むために重要な3つのことを明らかにしています。
①「無意識のバイアス」を取り除く
②「陰の理事会」(Shadow Board)
③与える姿勢

①「無意識のバイアス」を取り除く  
自分では気づかないうちに持っている偏見や固定観念という「無意識のバイアス」が多様性を妨げます。世の中の才能ある人々が、人種や性別に関する無意識のバイアスによって理不尽にチャンスを奪われるケースが多々あるのです。

1970年代のオーケストラでは、入団審査で男性が優先されていました。ハーバード大学の経済学者クラウディア・ゴルディンとプリンストン大学の労働経済学者セシリア・ラウズは、演奏者をカーテンで仕切ってオーディションをすることを提案します。結果、女性演奏者の1次審査通過率は1.5倍に上がり、最終審査通過率は4倍にも達しました。それ以降、主要なオーケストラにおける女性演奏家の割合は5~40%近くにまで増えています。

審査員たちは、この制度が取り入れるまで、性差別の自覚が全くありませんでした。自分たちが演奏の腕ではなく固定観念で選別をしていたことに、それまでまったく気づいていなかったのです。無意識のバイアスを取り除くこと、組織は外見に惑わされず才能ある社員を採用できるようになります。

②「陰の理事会」(Shadow Board)
重要な戦略や決断について、若い社員が上層部に意見を言える場をつくることで、年功序列の壁を崩してくれます。世代によって、文化的な背景も異なりますが、それが無意識のうちにものの見方や考え方にさまざまな影響を及ぼします。

「陰の理事会」では、組織内から広く集めた有能な若手の人材が、上層部の意思決定に関し定期的に意見を述べることが許されます。上層部にとっては、多様な意見に触れて視野を広げる「テコ入れ」の機会になります。その結果、反逆者のアイデアがスムーズに流入し、組織が活性化します。 

企業経営の専門家ジェニファー・ジョーダンマイケル・ソレルの両氏は、高級ファッションブランドのプラダとグッチの経営状態を比較する論文を発表しました。プラダは長年ずっと高利益を誇ってきましたが、2014~2017年には売り上げが落ち込みました。同社は2018年、「デジタル化の重要性(中略)に気づくのが遅かった」と公式に発表しています。CEOのバトリッツィオ・ベルテッリも「我々は間違いを犯した」と認めています。

一方のグッチは「陰の理事会」を設け、若い人材とベテランチームとの定期的なコミュニケーションを図っていました。役員会議で取り上げる問題について同社の若手社員が出す意見は、「上層部にとって警鐘となった」と言います。事実グッチの売り上げはインターネットなどのデジタル戦略が功を奏し、2014~2018年度において、34億9700万ユーロ(約4390億円)から82億8500万ユーロ(約1兆400億円)へと136%の伸びを見せました。

③与える姿勢
多様な社会において他者とのコラボレーションを成功させるには、それなりの姿勢で臨まなければなりません。自分の考えや知恵を相手と共有しようという心構えが必要になります。そうした「与える姿勢」があって初めて、受け取る機会を得られます。

600人以上の医学生を対象にした研究によると、ギバーの価値がわかります。他者にほぼ無関心な医学生(テイカー)は、1年生のときに非常に好成績を収めることができました。彼らはまわりの人間からうまく情報を抽出しますが、自分からはほぼ何も出さず、あらゆる努力を自身の進歩のみに使いました。

一方、人のために時間を割いて自分の情報を共有しようとするギバーは、成績で後れをとりました。しかし2年目になると、他者に協力的なギバーは成績を上げ、3年目にはテイカーを抜いたのです。そして最終年には、さらに大きな差をつけてギバーが優秀な成績を収めました。

心理学者のアダム・グラントは『Give &Take「与える人」こそ成功する時代』で次のように解説します。

メディカルスクールでは、学年が上がるにつれて、教室での座学から臨床実習やインターンシップ、患者のケアなどへと授業の形が変わっていく。進級すればするほどチームワークや奉仕が求められるようになり、それが評価のカギとなる。テイカーは、個人で結果を出せる場面で好成績を収めたが、ギバーはチームワークが重要な場面で本領を発揮した。つまり進級と同時に授業の形がシフトするにつれ、ギバーは得意の共同作業で底力を見せ始めたのだ。

当然、テイカーが勝利を収める場面もありますが、データによれば、幅広い場面において、ギバーが勝利を収めていることが明らかになっています。

ギバーの中でも、最大級の成功を収めた人々は、戦略的でもあり、常に有意義な多様性を求め、搾取されていると感じたときにはコラボレーションを断ち切るというデータも出ています。彼らは協力的な姿勢でチームワークを高めて結果を出す一方、パートナーに「ただ乗り」されるリスクを減らす努力もしています。

ラトガーズ・ビジネススクールのダニエル・レヴィン教授の実験結果を見るとどう行動すればよいかがわかります。被験者は200人以上の会社重役で、少なくとも3年以上連絡が途絶えていた知人と再び交流を始めます。その後、交流を再開した知人のうち2人に、被験者が会社で進行中のプロジェクトに関して助言を求めます。最後にその助言を、同プロジェクトのメンバー2人からのアイデアと比較して査定します。

実験の結果、交流が途絶えていた知人のほうが、はるかに価値の高い助言をしていたのです。交流が途絶えていたメンバーは、プロジェクトのメンバーではない2人とは異なる多様な意見を提供しました。

「与える人」は多様性豊かなネットワークを構築できる。つまりバラエティに富んだ知人がいて、視野の広い、反逆者のアイデアを数多く得られる。 自身の知識や創造的なアイデアを人と共有しようという姿勢でいると、大きな見返りを得られる。

「社会通念によれば、大成功を収めている人々はみな、モチベーション、スキル、チャンスの3つを持っているとアダム・グラントは言います。

できる限り「自分のために価値を得よう」とするか、それとも「他者に価値を与えよう」とするかの選択が成功を左右します。ギバーになり、他者に貢献することで、私たちはよりよい結果を得られるようになります。

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この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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