田中世紀氏のやさしくない国ニッポンの政治経済学 日本人は困っている人を助けないのかの書評


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やさしくない国ニッポンの政治経済学 日本人は困っている人を助けないのか 
田中世紀
講談社

本書の要約

「助け合いの国ニッポン」を取り戻すためには、一人一人のマインドセットと行動を変えればよいのです。人は、誰かから助けてもらったときに感謝の気持ちを抱きます。この感謝は向社会的な行為を伝播させる効果をもつと言われています。人助けと感謝の連鎖を作ることで、日本人の幸福度がアップするはずです。

日本人は利他的な行動ができなくなっている?

2019年の「世界人助け指数」によれば、「人助け」の項目で126ヵ国中、日本は最下位。「寄付」の項目では64位、「ボランティア」の項目では46位となっている。右のような美談に反して、こうした調査によれば、日本はどうやら「他人にやさしくない国」らしい。(田中世紀)

利他的な国民だと世界から評価されていた日本人ですが、さまざまな調査結果から、それほど他者にやさしくないことが明らかになってきました。オランダ・フローニンゲン大学助教授の田中世紀氏は、なぜ日本が利己的になってしまったのかを追いかけ、その処方箋を本書で提言しています。

2019年に行われた第7回「世界価値観調査(World Values Survey)」の「社会の多くの人は信頼できるか?という質問に対し、「信頼できる」と答えた人の割合は、オランダでは58.5%、ドイツでは41.6%でした。一方、日本の数字は33.7%で、「信頼できるか」どうかの対象を「他国の人」に変えると、オランダの15.4%に対して、日本は実に0.2%という驚くべき結果になりました。今の日本人は人を信頼する力が他国の人に比べ、明らかに劣っているのです。

現代の日本では、個人が「他の個人」と「社会」から断絶される傾向が高まっています。「他の個人」と「社会」から切り離された日本人は、日本人としての連帯感を高めることができずにいます。この結果、自分と社会の関係、あるいは自分と他の日本人の関係に基づいて行う「公助」についての合意形成が、日本では他の国以上に難しくなっている可能性があると著者は指摘します。

「他助」や「公助」ができなければ、日本人は「自助」を基本に生きなければなりません。一国の総理が自助を国民にお願いするほど、心が貧しくなっている日本で生き残るためには、それ相応の体力が必要です。国力が低下し続け、貧しくなる人が増える中、公助への風当たりが強くなり、日本では弱者の逃げ場がなくなっています。

感謝が幸福度アップの鍵

「自分さえよければいい」という考えは、その公助の量と質を低下させてしまう可能性がある。

政府の提供する社会保障などのセーフティーネットを考えてみると、多くの先進国でお金をもっている人ほど、社会保障支出への支持が低い傾向にあることがわかっています。裕福であれば、みずからが生活保護などの対象になる可能性は小さく、利己主義の観点から考えれば社会保障は必要ないと富裕層は考えがちです。

裕福な人の中には他人の社会保障のために税金を払うことを厭わない人もいますが、その理由にしても、利他的というよりは、貧しい人に生活保護を与えなければ犯罪率が上がり、自分も犯罪に巻き込まれてしまうかもしれないと考える人が多いのです。

社会の多くの人が利己的に行動すると、長期的には政府の財源が減り、公共財を含めた政府サービスの量と質が低下してしまう可能性が高くなってしまうのです。

国際比較調査によれば、他国に比べて日本人の多くは税負担が高すぎると感じています。日本では、連帯の仕組みであるはずの税が非常に嫌悪されており、公助の十分な財源確保についての合意形成が難しくなっています。

他者に頼り、依存することを「恥」だと日本人は考えてしまいます。そんな風潮のために、自己責任論が日本の財政のあり方に影響を及ぼしています。

財政とは「共通の利益」、「共通のニーズ」を満たすために作られた社会的、国家的連帯の仕組みですが、現在のの日本社会は細分化され、自己責任の考えが強くなっています。そのため「共通の利益」「共通のニーズ」も多様になり、合意の形成が難しくなっています。

生活保護を受けずに自分で自助努力をする。確かに、自助努力の国では、こうした行為は素晴らしいものとして賞賛されるだろう。だが、他方で、こうした社会的スティグマの結果、生活保護を受けないと、最悪の場合は餓死、餓死には至らないまでも、精神疾患に罹り、さらには自殺にまで至る場合もあることが分かっている。

澤田康幸らの経済学者と政治学者の合同研究チームによると、自殺の主な要因は精神疾患ですが、その精神疾患は社会経済的要因と密接に関係していて、所得格差や貧困が自殺の一因として考えられます。貧困が精神疾患と密接に関係していることは、マサチューセッツ工科大学のマシュー・リドリーらの研究グループも指摘します。

公助が減り、自殺が増えることで、社会的なコストも増加しています。
●自殺が引き起こす遺族や友人(有名人の自殺の場合は、その他大勢)への心理的・精神的影響や経済的な負担
●自殺が発生した場合に必要となる医療行為や警察の実況見分、鉄道自殺の場合には列車の遅延などのコスト
●自殺した人が経済活動にこれ以上参加できないコスト

自己責任の国に住んでいながら、日本人の一人一人が知らず知らずのうちに、その間接的なコストをみずから負担しているのです。

日本社会が分断されて個人と個人が社会でつながっておらず、日本人同士で何が「共通の利益」であり、何が「共通のニーズ」なのかが合意できていないことと無関係ではないかもしれない。合意形成が難しければ、政府サービス、公的な制度を使って他者を(だけでなく自分も含めて)助ける、という公助は整いにくいだろう。

10年後の日本が今より利己的な社会になると想定するのなら、自助や自己責任論とも親和的なベーシック・インカムを検討することも視野に入れなければなりません。

やさしさを失っていると言われる日本人ですが、その6割の人が社会に貢献したいと潜在的には思っています。「思いやりの国ニッポン」、「助け合いの国ニッポン」を取り戻すためには、一人一人のマインドセットと行動を変えればよいのです。人は、誰かから助けてもらったときに感謝の気持ちを抱きます。この感謝は向社会的な行為を伝播させる効果をもつと言われています。

人助けと感謝の連鎖を強化することで、日本は利他的な国家に戻れるという著者の主張に共感を覚えました。

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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