ミッションは売上に影響を及ぼすのか?森泰一郎氏のニューノーマル時代の経営学の書評


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ニューノーマル時代の経営学 世界のトップリーダーが実践している最先端理論
森泰一郎
翔泳社

本書の要約

ミッションステートメントを掲げる会社が好業績であることが明らかになりました。変化が早く、先が見通しづらい「ニューノーマル時代」であるからこそ、経営者は基本となるビジョンとミッション、特に自社の「経営哲学」「経営コンセプト」「公的なイメージ」を明確にする必要があります。

ミッションは売上に影響を及ぼすのか?

好業績な企業と低業績の企業との有意な差は、「自社の経営哲学」「経営のコンセプト」「公的なイメージ」に含まれる要素であることが明らかになった。(森泰一郎)

「ニューノーマル」時代に役に立つ経営理論は何なのか?を森経営コンサルティング代表取締役の森泰一郎氏が明らかにしてくれました。著者は本書でミッション、戦略、組織に至るまでの最先端の経営理論をわかりやすく解説しています。今日は、ミッションの重要性について考えてみたいと思います。

私はベンチャー・スタートアップの役員やアドバイザーを生業にしていますが、経営者にMTP(MassiveTransformativePurpose、MTP)やビジョン・ミッションを基軸に経営を行うべきだとアドバイスをしています。一部の経営者からMTPを作成したら、業績が上がるのかという質問を受けることがありますが、そんな時に私はシンギュラリティ大学の飛躍型企業に共通する11の特徴を紹介します。(シンギュラリティ大学の関連記事

著者はジョアン・ピアースなどの学術的エビデンスから、ミッションを掲げる会社が好業績であることを説明しています。ジョアン・ピアースらは、1987年にビジョンが戦略策定の第一歩であると理解されている一方で、ミッションステートメントは企業業績に影響しないという書籍や研究も登場してきたことから、統計的な研究によって、ミッションと企業業績との関係性を明らかにしようとしました。

彼らはフォーチュン500社の企業に対して問い合わせを行い、218の企業から回答を得て、ファイザーやダウ・ケミカル、ジョンソン・エンド・ジョンソンなど61の企業からミッションステートメントを入手しました。

これらの企業のミッションステートメントを「自社の経営哲学」「経営のコンセプト」「公的なイメージ」「ターゲット顧客や市場」「主要な製品やサービス」「地理的立地」「コア技術」「生存、成長、収益性への関心」という8つの要素に分解し、営業利益の高い企業と 低い企業でどのような差があるのかについて調査したのです。

その結果、好業績な企業と低業績の企業との有意な差は、「自社の経営哲学」「経営のコンセプト」「公的なイメージ」に含まれる要素であることが明らかになりました。 一方で、「ターゲット顧客や市場」や「主要な製品やサービス」といった要素は、むしろ低業績の企業のほうが多く記載されていました。

つまり、低業績企業のミッションステートメントは好業績企業とは異なり、企業の経営哲学やコンセプトを明確に語っておらず、あくまでも市場や製品について紹介するだけにとどまってしまっていたのです。

ニューノーマル時代にミッションが重要な理由

マクマスター大学教授だったクリストファー・バートらもミッションステートメントと企業業績との関係性を研究しました。バートらは、ピアースらの研究も含め、ドラッカー以降に発表されたステートメントについて研究した8つの論文を分析しました。その上で、カナダにある売上上位500社を示す「フイナンシャルポスト500」に掲載された企業のうち、136名の経営者から郵送で調査票を回収し、CEOにインタビューを行いました。  

その結果、ミッションステートメントがある企業とない企業とでは売上高利益率、成長性、社員満足度については統計的に有意であったものの、総資産収益率(ROA)については差がなかったと結論づけました。

ピアースやバートの結果とは異なり、ビジョン/ミッションが企業業績と関連しないのではないかと指摘する論文も多数あります。ピーター・アトリルの企業のミッションステートメントと財務パフォーマンスの調査では、イギリスの143の企業を対象に、ミッションステートメントがあるかないかによって、3年間のROEにどのような影響があるかを調べました。

その結果、3年間のROEの数値において統計的に有意な差はなかったと結論づけています。しかし、3年間の株式リターンにおいては、ミッションがある企業のほうがない企業よりも高いリターンを示していました。

ミッションステートメントがある企業は社員の満足度が高く、企業の成長につながり、結果として企業の収益性も高まると考えられる。一方で、資産を効率的に活用して収益を上げられるかどうかについては、経営戦略やビジネスモデルの影響が強いため、ミッションステートメントだけでは説明できない。したがって、総資産収益率(ROA)については有意な結果が出なかったということであろう。ROEについても、ROAと同様に資本の大小が関係しており、具体的な資本戦略が重要となってくる。収益性だけでは測ることができない指標であるから、統計的に有意ではなかったと解釈できる。

株式リターンについては、ミッションステートメントが明確に表現されている企業のほうが株主が投資をしやすく、それによって株価が上がったと考えるとよいでしょう。

ピアースらが示したように「自社の経営哲学」「経営のコンセプト」そして「公的なイメージ」の3つを明らかにすることで、社員はそれを実現するために自ら動けるようになり、結果、組織は強くなるのです。

ミッションステートメントを掲げる会社が好業績であることが明らかになりました。変化が早く、先が見通しづらい「ニューノーマル時代」であるからこそ、経営者は基本となるビジョンとミッション、特に自社の「経営哲学」「経営コンセプト」「公的なイメージ」を明確にする必要があります。

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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