ニューノーマル時代に多角化経営で成功する方法。森泰一郎氏のニューノーマル時代の経営学 世界のトップリーダーが実践している最先端理論の書評


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ニューノーマル時代の経営学 世界のトップリーダーが実践している最先端理論
森泰一郎
翔泳社

本書の要約

ニューノーマル時代、新規事業にチャレンジし、多角化を行うことは生き残りのためには必要不可欠です。多角化経営を安易に行うのではなく、 自社の持っている経営資源と新規事業先でどのような経営資源が必要なのかを、顧客や市場分析をもとに冷静に考えて行う必要があります。

多角化戦略が企業を成長させる!

経営戦略上重要な要素として、コアとなる強みがなければならない。(イゴール・アンゾフ)

多角化戦略を経営戦略論の中で最初に位置づけたのは、『戦略経営論』の著者のイゴール・アンゾフです。彼はこの中で、多角化戦略の重要な要素として広く利用される「競争優位」や「シナジー」「成長マトリックス」の概念を提唱しました。

「戦略経営の父」と呼ばれるアンゾフは、企業の経営戦略上重要な要素として、コアとなる強みがなければならないと考え、以下の4つの要素が重要だと指摘しました。
①製品・市場分野
企業がそもそもどの事業や製品に力を入れていくのかをきちんと理解します。

②成長のベクトル
企業がどのように成長していくかを方向づけします。そのひとつとして多角化戦略が挙げられます。

③競争優位
企業が優位に競争を進めるための強み。

④シナジー(相乗効果)
協働的に作用することによって、相乗効果を生み出すこと。

シナジーには以下の4つの効果があります。
■販売面のシナジー
既存の流通・販売チャネル、ブランド名を新製品/新事業でも利用できる場合に生まれるシナジー、プロモーション戦略が共通な製品・事業間のシナジーが考えられます。

■生産面のシナジー
既存の生産設備や生産要員が余剰だった場合に、その余剰時間を活用したり、原材料の大量購買によって生産コストが減少したりすることで、他社よりも低い原価で生産できるような場合に生まれるシナジーが生産面のシナジーになります。

■投資面のシナジー

ノウハウや人材への投資で生まれる知識面でのシナジーや研究開発で得た成果を別の領域でも活用することで生まれる事業間のシナジー。

■マネジメント面のシナジー
経営者の能力やノウハウを新規事業でも活かせる場合に生まれるシナジー。

以上の4つのシナジーを活用することが、多角化戦略を成功させる前提条件となります

その上で、アンゾフは以下の有名な「成長マトリックス」を提示しました。 
(1)市場浸透戦略
既存の製品を既存市場でより良く売るための戦略。市場浸透戦略は、効果的なマーケティングを中心に顧客が製品を買う頻度や量を向上させることで、売上拡大を図る戦略であり、売上幅は小さいものの、リスクも低くなります。

(2)新市場開拓戦略

既存製品を新市場で販売するのこと。製品のチャネルを変更したり、別のカテゴリーに販売したり、海外市場に製品を投入したりするなど、採り得る戦略は比較的広くなります。

(3)新製品開発戦略
新製品を既存市場に投下することで売上拡大を目指します。製品のサイズやカラーの追加、新しい機能や用途の追加などが該当します。

(4)多角化戦略

新製品を新市場に投下することで売上拡大を目指すします。多角化戦略は既存の製品や既存の市場と何ら関連性がない未開拓な市場をゼロから製品開発を行って、切り開いていくものです。こちらは、アンゾフが唱える4つのシナジーが効きにくいため、最もリスクの高い戦略となります。

アンゾフはこの多角化戦略をさらに4つのパターンに分類しました。

(1)垂直的多角化
既存チャネルの川上もしくは川下の事業に参入することで、生産性を改善したり、より低コストでより品質の高い製品を製造していったりするために行われる多角化経営。最近では、メーカーが直販店を出したり、飲食店やコンビニエンスストアが野菜栽培事業に参入したりする事例がこれに該当します。

(2)水平的多角化
自社の既存顧客と類似した顧客に対して、既存技術を活かして製品を開発します。アップルが高品質なイヤホンを販売したり、スーパーがコンビニエンスストア事業を展開したりする事例が水平的多角化に当たります。

(3)同心的多角化
既存の市場と既存製品とに関連付けた周辺事業で多角化を行うことが、同心的多角化になります。富士フイルムが化粧品や医薬事業を展開したり、スクウェア・エニックスがアニメを手掛けたりする事例がこの同心的多角化に当たります。

(4)コングロマリット多角化
既存の市場や製品・技術とまったく関連のない多角化が、コングロマリット多角化になります。

ニューノーマル時代に成功したければ、自社の状況に合わせた多角化経営を考え、チャレンジする必要があります。

多角化をM&Aで行う際に注意すべきこと

ニューノーマル時代、新規事業にチャレンジし、多角化を行うことは生き残りのためには必要不可欠であろう。しかしながら、安易に多角化できるかできないかの判断を行うのではなく、 自社の持っている経営資源と新規事業先でどのような経営資源が必要なのかを、顧客や市場分析をもとに冷静に考えて行う必要がある。(森泰一郎)

リチャード・ルメルトカート・クリステンセンシンシア・モンゴメリーの研究をもとに、自身の過去の調査に1974年のデータを加えて調査を行いました。結果、集約ー関連型企業(関連比率が70%)の収益性が最も高くなった一方で、集約ー本業型中心企業(本業中心企業)の収益性は優位ではなくなることがわかりました。

さらに産業効果を含めて分析すると、集約-関連型企業のパフォーマンスの高さは、クリステンセンとモンゴメリーが指摘したように、産業自体の構造や収益性たる産業効果がもたらしたものであることが明らかになったのです。

研究結果から、多角化戦略を成功させる法則を導き出せます。
■非関連多角化は、関連多角化よりも収益性が低いために避けるべき。
■集約ー関連多角化はパフォーマンスとしては好ましいものの、集約ー関連多角化を選択できる企業は、本業にある程度の競争力があることが望まれます。したがって、メーカーやIT企業などが自社の優位性をもとに、30%から40%を本業以外で稼ぐ事業を作り上げていく多角化戦略が正しい選択になります。

既存の技術や市場と関連性のある集約型を軸とし、本業と新規事業の割合が7対3から6対4くらいになるのが、多角化戦略の理想形になることを忘れないようにしましょう。

現在、M&Aブームによって、多角化戦略を行う企業が増えていますが、失敗事例も散見されています。 マイケル・ポーターは、アメリカの著名企業33社が1950年から86年まで行ってきた多角化戦略の経緯とパフォーマンスを調査しました。

その結果、買収して新規事業を行った企業の大半が、その後事業を維持できず売却してしまったことが明らかになっています。対象企業は26年間の問に、平均して80の新規事業に挑戦し、27の新分野に参入しました。

新規参入の70%はM&Aによるものであり、22%が自社単独での新会社設立、8%が合弁事業でした。結果として新規事業のためにM&Aを行った企業の53.4%がその後事業を手放しており、まったく新しい分野に多角化した場合には、買収した事業から撤退した比率は61.2%まで上昇したのです。70%以上を手放した企業は33社中14社、非関連多角化をM&Aで行った場合においては、74%がその後失敗し、事業を売却しています。

このポーターの研究から、ニューノーマル時代の新規事業において、M&Aを活用した新規事業の成功確率は50%以下であること、それがまったく新しい分野である場合には40%以下となり、非関連分野になれば、30%以下になることがわかります。

ポーターの数字を冷静に見ると、そもそも自社単独で新規事業を行っても、10回に1回くらいしか成功しないので、30%以下などであっても、そこまで成功確率が低いとは言えません。しかし、M&Aを行う際には、慎重に検討を行わなければなりません。

昨今のM&Aブームを見ると、M&Aであれば新規事業よりも「時間が節約できる」「安上がり」といった安易な考えを持つ企業が増えつつある。M&Aを行っても新規事業の成功確率は多少増加するものの、その分大きな投資が必要になるので、自社で行うかM&Aで行うべきなのかを冷静に判断すべきである。

当然、M&A後、パーパスやビジョン・ミッションを設定し、組織を強くする必要があります。PMIに時間をかけ、シナジー効果を確実に狙っていくべきです。

ニューノーマル時代、新規事業やM&Aを活用した多角化は企業経営のべースになりますが、シナジーや競争優位が何なのかを冷静に判断し、どの分野にどのように多角化していくのか、その際に自社の技術やノウハウが活きるのかを客観視する必要があるのです。

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この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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