経営改革大全 企業を壊す100の誤解
名和高司
日経BP
本書の要約
従業員の心に火をつけるには、動機付け要因が不可欠です。従業員が高いレベルで仕事をするためには、従業員のモチベーションを上げ、生産性を2倍、3倍に高めるためには、「働きやすい会社」(衛生要因基軸)から「働き甲斐のある会社」(動機付け要因基軸)へ発想を転換すべきです。
働き方改革から働き甲斐改革へ
本来目指すべき方向は、働き甲斐改革なのだ。WorkとLife(自己実現)が切り離されるのではなく、Work in Life、あるいは Life in Work という WorkとLife が融合する状態をいかに作り上げるかが、21世紀的な働き方の本質となるはずである。(名和高司)
著者は、「グローバル・スタンダード」ということば自体、欧米に対して卑屈になりがちな日本人の和製英語にすぎないと言います。アメリカ流の経営理論やベストプラクティスを日本に輸入することが本当に正しいのでしょうか?
名和氏は世の中に出回っている経営モデルの間違いを指摘し、それらをいかに正しく理解すべきかを本書で説明します。巷に溢れる経営の100の通説を疑い、真説という形で経営改革の道筋を示してくれました。今日は、働き方改革・ワークライフバランスについて考えてみたいと思います。
この数年、日本では長時間労働が問題視されています。OECDの国別労働時間比較では、日本の男性の一日当たりの平均労働時間は、突出して世界一となり、ドイツと比べると、1,5倍以上長くなっています。労働時間が長いということは、生産性は低いと言うことで、OECDの調査では、日本はG7のなかで最下位になっています。悲しいことに日本の生産性はドイツの3分の2しかなく、1.5倍長く働くことでつじつまを合わせています。
働き方改革では、まずこの長時間労働の撲滅を目指す。しかし、時短だけに終われば、当然ながら企業の生産性はそれだけ低くなる。たとえば、ドイツ並みにすれば、生産性も3分の2になってしまう。同じ生産性を確保するためには、時間当たりの生産性を1.5倍にしなけれ ばならない。
生産性を高めるためには、働き方というHowを論じる前に、働く中身というWhatを見直す必要があります。働く中身にやりがいを感じるかどうかで、従業員の生産性は大きく変わることがわかっています。
コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーは、やる気溢れる社員は、「不満」社員の3倍以上、「満足」社員の2倍以上、そして当事者意識のある社員の1.5倍高いパフォーマンスを出すということを明らかにしています。 日本の企業にはやる気溢れる社員は10%にも満たないのに対して、「不満」社員は30%に上ります。社員のモチベーションを上げることこそが、生産性向上のカギとなるのです。
そのために最も重要なレバーは、仕事そのものにやり甲斐を感じられるかどうかだ。いくら時短を進めても、8時間の仕事にやり甲斐を感じられない限り、大きな生産性向上は期待できない。
日本電産の永守重信会長は、これまで64社をM&Aし、そのすべてを成功させてきました。その秘訣は、従業員の心に火をつけることにあると言います。永守氏は「優秀な社員と普通の生産性の差は1.5倍程度。しかし、やる気にさせることができれ ば、普通の社員が2倍、3倍の生産性を発揮する」と述べています。経営者はパーパスを明らかにし、従業員のハートに火をつける必要があります。
従業員のハートに火をつけるためには、パーパスが欠かせない。
従業員の心に火をつけるためには、企業の志そのものに従業員が共感できるかどうかが勝負となる。
働き方改革という看板を、働き甲斐改革に書き換えることが重要になります。日本ではワークライフバランスという言葉が流行っていますが、ワークとライフを切り分け、ワークはやらされ仕事、ライフは大切な自分事と位置付けることに意味があるのでしょうか?ワークライフバランスという言葉には、やりがいの視点が欠け、自分の時間を会社のために切り売りしている印象を与えます。
ブルシットジョブや「やらされ仕事」ばかりでは、人は働き甲斐を感じることはできません。仕事が自分事となったときにこそ、人は最高のパフォーマンスが出せるのです。自分の力を発揮でき、世の中に貢献できると実感できれば、仕事は人生のかけがえのない一部になっていきます。
仕事に働き甲斐を感じるときには、働き甲斐と生き甲斐は、同心円を描くはずだ。Work のなかに Life があり、Life のなかに Work がある状態こそが、本来あるべき姿である。だとすれば、Work-Life Balance などという時代錯誤な言葉は封印し、Work in Life あるいは Life in Work という21世紀にふさわしい標語を掲げるべきだろう。
『フォーブス』誌と提携している Best Places to Work ランキングによると、経営コンサルティング会社のベインがトップ、ボストン・コンサルティング・グループが5位にランクされています。これらのコンサルティング会社は、「きつい会社」の典型ですが、従業員の満足度が高いのは、動機付け要因が圧倒的に優れているからです。
従業員の心に火をつけるには、動機付け要因が不可欠です。従業員が高いレベルで仕事をするためには、従業員のモチベーションを上げ、生産性を2倍、3倍に高めるためには、「働きやすい会社」(衛生要因基軸)から「働き甲斐のある会社」(動機付け要因基軸)へ発想を転換すべきです。
そこには、企業のパーパス(使命感)が欠かせなくなっています。世の中に貢献するために、自分の力を発揮できるようなパーパスを従業員に与えられない会社は、やがて従業員からも見捨てられるはずです。飛躍的に成長する会社は、顧客や従業員に感動体験を与えていますが、そこには必ずパーパスがあるのです。
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