日本は小国になるが、それは絶望ではない
加谷珪一
本書の要約
かつて経済大国であった日本ですが、そろそろその幻想を捨て、小国であることを前提に経済政策を考えた方がよさそうです。著者はオーストラリアやニュージランドの消費主導型経済を取り入れるべきだと言います。そのためには生産性を高め、国民ひとりひとりの賃金をアップする必要があります。
もはや経済大国ではない日本
日本はこれまで経済大国であることを前提に、経営戦略や国家戦略を立案してきましたが、その常識は通用しなくなります。これからは、日本が小国であることを前提に、物事を進めていかなければなりません。(加谷珪一)
かつては経済大国であった日本。この数十年、低成長が続き、その座が危ういものになっています。国際競争力の低下と少子高齢化により、確実に経済が縮小していく日本は、そろそろ自国が経済大国であると考えるのをやめた方がよさそうです。
著者の加谷珪一氏は数々の統計から、今後、日本が大国としての地位を保つことができなくなると指摘します。
厳しい現実を直視し、日本人はマインドセットを変え、小国になるという選択肢を受け入れるべきだというのです。
著者は豊かな小国を3つに分類します。
①金融+最先端産業型立国・・・アイルランド、リヒテンシュタイン、シンガポール
②高付加価値製造業型立国・・・スゥエーデン、フィンランド、オランダ
③消費主導型経済・・・オーストラリア、ニュージランドがモデル
日本ではデフレが続き、低賃金が続くことで、個人消費の低迷が続いています。これを解決するためには、生産性を高め、賃金アップをはかる必要があります。製造業中心の「輸出主導型経済」から、「消費主導型経済」にシフトし、サービス産業に従事する多くの国民の賃金を高めなければなりません。
日本が自らの消費で経済を成長させるためには、労働者の賃上げを実現し、これを消費拡大につなげていく必要があります。賃上げを実現するためには、何としても企業の生産性を向上させなければなりません。
多くの企業で生産性が上がれば、経済圏全体での生産性向上につながり、賃金がアップし、日本人の消費マインドが改善されます。
生産性を高めるために、著者は以下の提言をしています。
■製造業の業界再編
■人材の流動化(400万人にも上る社内失業者の配置転換や転職)とそれに伴う社会人教育
■重層的な下請け構造の見直し
■大企業中心に適用されている租税特別措置の見直し
■IT投資
消費者のマインドを前向きにする3つの方法
基本的に景気がよく、将来、さらに年収が増えるという期待感があれば、人はかなりの水準まで活発に消費を行います。消費で経済を回している米国やオーストラリアにはこのメカニズムが働いており、所得の絶対値が大きいことに加え、将来の成長期待が高いことが旺盛な消費を支えています。
生産性の向上によって賃金の絶対値を増やすことと、消費者マインドの転換が企業経営者や政治家はもちろんのこと、日本人全てに求められています。かつての高度成長期に日本人の消費マインドは旺盛でした。低成長が続き、落ち込んでしまった日本人のマインドセットを前向きにするために、以下の3つのキーワードを意識する必要があります。
①全員参加
社会が全員参加型になれば、必要なサービスも増加し、そこにお金が支出されることで国民の所得総額も増え、結果的に消費も拡大していきます。多くの人が所得を得て、そのお金を自らの価値観に基づいて支出するという主体的な経済活動が行われなければ、消費は拡大しません。
②多様性
消費主導型経済では、多様化した価値観が存在し、その分だけ、多種多様なライフスタイルが存在することになります。企業はこうした多様化されたニーズに合致した製品やサービスを提供できなければ業績を拡大できません。経済を成長させるためには、顧客にニーズに基づいたマーケティングが欠かせなくなり、マス・マーケティングの考え方を捨てなければなりません。
③平等
多様化した価値観を製品やサービスに反映するためには、チーム全員が個性を存分に発揮する必要があります。多様なメンバーが正しい意見を述べられる「恐れのない組織」を作る必要があります。リーダー自社のパーパスやビジョンを実現するために、多様な組織をつくり、個々のメンバーの力を引き出すべきです。
日本は小国として豊かな経済を実現する十分な潜在力を持っていると著者は言います。今こそ、従来の価値観を捨てて、新しい経済の構築に向けて動き出す必要があります。
人口が減少する中、経済を成長させるためには、個々の生産性を高めることが求められています。そのためには人材の流動化とリカレント教育が欠かせません。自らに投資を行い、転職や複業、起業をすることで、自分を豊かにし、消費を高めなければ、日本はますます没落していきそうです。小国になることが避けられないのであれば、豊かな小国を目指したいものです。
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