正しいコロナ対策と経済対策をポール・クルーグマンから学ぶ。


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コロナ後の世界
著者:ポール・クルーグマン
出版社:文藝春秋

本書の要約

今回のコロナパンデミックからの回復は時間がかかりそうです。経済を慌てて再開するよりも、感染症対策を優先させ、拡大を抑えることが効果があることがわかっています。景気は徐々に回復に向かいますが、その回復基調もスムーズではないため、政府による財政支援が欠かせません。

人工的な昏睡状態をどう打破するか?

今回のようなパンデミックによるリセッション(景気後退)は、2008年のリーマンショックのような世界的な金融危機によるものとは、性質がまったく異なります。新型コロナウイルスによるリセッションを比喩的に表現すれば、「人工的な昏睡状態」でしょうか。医学では事故などで脳に重篤な損傷を負った患者を、回復するまでの問、脳機能の一部を停止させて昏睡状態にしておく治療法があります。経済活動のシャットダウンは、これに似ていると思います。(ポール・クルーグマン)

今回のコロナパンデミックによる経済に対する影響は、2008年のリーマンショックに喩えられますが、経済学者のポール・クルーグマン(2008年度ノーベル経済学賞受賞)は、今回のコロナ禍で行ったリセッションは金融危機ではなく、人工的な昏睡状態だと指摘します。

アメリカの都市は感染拡大を防ぐため、ロックダウンされ、レストランやイベントなど「不要不急なもの」で、人との接触機会の多いビジネスは、瀕死な状態になっています。パンデミック対策として経済が一時的に昏睡状態に置かれましたが、多くの経済学者は疫学者の意見に従うことをコンセンサスにしました。

ただ、この一時的措置は波及効果が大きく、失業率や倒産を高めます。突然仕事を奪われ、収入がなくなった人たちに財政援助をすることが、喫緊の課題になっています。今後、秋口には売上がなくなり困窮する企業が続出して倒産が相次ぎ、さらなる金融危機を引き起こす危険性が高まるとクルーグマンは指摘します。

今回、アメリカ政府は2兆ドル以上の緊急経済対策を実施しました。今はこれが功を奏していますが、この対策によって、財政赤字を4兆ドル以上増やすという懸念も広がっています。しかし、クルーグマンは国の借金は問題ではないと反論します。

金利が成長率よりも低ければ、最終的にはGDPに対する借金の割合は徐々に減っていきます。莫大な借金を抱えている日本よりも少ないですし、日本はあれだけの借金を抱えていても問題ありません。しかし、それでも失業者への支援はまだまだ足りません。本当のリセッションは、新型コロナの猛威が収束した後に来るものであり、しつこいほど長く続くと考えるべきです。

ソーシャル・ディスタンスを実行して自己防衛できるか否かは、社会階層に深く関係しています。通勤するのに地下鉄やバスなどの公共交通機関を利用しないといけない人や、郊外ではなく人口が密集した地域に住んでいる人は、ウイルスに感染するリスクが高くなります。テレワークで働けるホワイトカラーよりもブルカラーの人たちの方が、感染リスクが高く、経済的な被害も大きくなります。

今後は、都会よりもローカルでの感染リスクが高まりそうです。地方の感染拡大のスピードは遅いため、だんだんと被害が増えていくことが予想されます。病院などの医療インフラが十分でない地域も多く、都市と地方の格差問題が問われることになります。

スペイン風邪の大流行に学べ。経済再開より、医療優先!

では、今後、感染対策と経済再開のどちらを重視すればよいのでしょうか?今回の新型コロナによるパンデミック不況を考えるにあたって、歴史を振り返ると1918年から大流行したスペイン風邪からヒントをもらえます。

実は、スペイン風邪から経済的に比較的早く立ち直った地域は、流行当初に経済的な打撃を大きく受けたものの、ソーシャル・ディスタンスをきちんと守った所であることがわかっています。経済よりも人命を優先した方が、効果があったのです。新規の感染者数がある程度落ち着いたからといって、早まって経済活動を再開してしまうと、裏目に出てしまうのです。今の日本政府の対応は完全に失敗であることが、ここから学べます。中途半端な経済再開は最悪の選択だったのです。

たとえば福祉国家として知られるスウェーデンは都市をロックダウンしない方針を選びましたが、フィンランドやノルウェーなどの近隣諸国と比較すると、明らかに死亡者数が多いのです。スウェーデンは経済的パフォーマンスが特に良いわけはないので、間違った選択をしたのかもしれません。

経済を回すことを優先させるよりも、まずは感染症対策の最前線にいる医療関係者と、経済的シャットダウンで打撃を受けている人たちをサポートするべきなのです。早すぎる経済活動の再開は、かえってダメージを大きくするだけです。

また、クルーグマンは初期対応の失敗が問題を大きくしたと述べています。WHOの対応が後手後手になり、中国に振り回され、拡大を止められませんでした。エボラ出血熱や豚インフルエンザのとき、アメリカはウイルスを封じ込めることができましたが、今回は明らかに失敗しました。これはCDCに責任がありますが、さらに責任を負うべきは中国とWHOなのです。今回のパンデミックから学ぶべき教訓は、迅速に強固な国際協力態勢を築くことの重要性なのです。

何が正しいコロナ対策なのか?

このパンデミックからの回復には、かなり長期間かかることを覚悟するべきです。個人レベルから、企業、地方政府のレベルに至るまで、経済的に大きな打撃を受けました。そうなると、先行きの不安から人々は貯蓄をしようと考えます。それが消費に影響してしまうのです。景気回復のカーブはU字型でもV字型でもなく、スウッシュ型になるでしょう。ナイキのロゴマークのようなカーブのことです。最初は急降下でかなり下まで落ちます。それから徐々に回復に向かうわけです。その回復基調もスムーズではなく、二歩進んで一歩下がるというものかもしれません。

クルーグマンは新型コロナウイルスが流行する前から、世界経済は後退局面にいたと指摘します。2019年末、米中貿易戦争やイギリスのEU離脱など、長期にわたり世界経済に混迷をもたらしてきた政治イベントに大きな動きがありました。今年11月に行われる大統領選で、ドナルド・トランプ大統領の「再選リスク」を抱えるアメリカや、米中貿易戦争の影響で経済成長に陰りが見られる中国、リセッションの危機に直面しているEUなど世界経済は悲観論だらけです。すでに世界経済のいたるところにリスクが潜んでいて、予断を許さない状況に、今回のコロナが追い討ちをかけたのです。

日本経済も消費増税による景気の冷え込みが顕著です。昨年の消費増税は、「軽い景気後退」にあったにも関わらず実施され、日本経済に悪影響を与えました。新型コロナがなければ、日本は今頃東京五輪で盛り上がっていたはずですが、五輪効果は大したものではないとクルーグマンは言います。

日本は1億3000万の人口を持ち、5兆ドルに迫るGDPを誇る巨大経済国家です。五輪といえども、日本経済からみればひとつのイベントに過ぎません。日本経済にとって、やはり最大の懸念材料だったのは、2019年10月に行われた消費税率の引き上げです。はっきり言って増税はすべきではありませんでした。

日本政府は最悪のタイミングで消費税を上げたことになります。緊縮財政は、景気の過熱を抑えるために行うものです。これをデフレの局面で行っても、日本経済を悪化させるだけです。実際、2019年10月のGDPは前月比マイナスに落ち込みました。クルーグマンは、なぜこのタイミングで増税したのか、まったく理解できないと安倍政権の対応を否定します。

当たり前ですが、消費税率を上げるだけでは、税収の増加にはつながりません。景気が十分に回復していないときは、消費税の税収自体は上がったとしても、そのぶん景気の冷え込みで法人税や所得税などが下がり、全体の税収はかえって落ち込んでしまいます。

さらに安倍首相は消費増税に伴って、キャッシュレス決済によるポイント還元制度を導入しましたが、これも実質的な減税措置で意味がありません。安倍首相の政策には一貫性が見られず、効果が出るわけがありません。

消費増税のほかにも、日本経済は深刻な問題を抱えています。インフレ率の低迷です。安倍首相は、アベノミクスの「三本の矢」の一つ、「大胆な金融政策」のなかで、2%のインフレ目標を掲げましたが、これは実現できずに時間だけが経過しています。これでは、持続的な経済成長など望むべくもありません。

いまの日本にとって、インフレ率を上げることは急務です。経済を成長させるためには、まず、個人消費が十分でなければなりません。個人消費が不十分であれば、それを刺激するために利下げが必要となります。しかし、名目金利を下げることには限界がある。そこで重要となるのが、名目金利にインフレ率を加味した実質金利です。仮に名目金利が1%だとしても、将来的に2%のインフレが達成されると人々が期待すれば、実質金利はマイナス1%となります。インフレ率を上げれば、実質金利が下がり、個人消費は喚起されるのです。

また、インフレ率の上昇は、日本の財政も改善させます。日本は約1100兆円という世界最悪の借金を抱えています。インフレ率が上がれば、貨幣の価値が下がるわけですから、実質的な債務残高は軽減されます。

インフレ率が低迷している直接的な原因は、企業が賃金を十分に上げないことと、モノの価格を上げたがらないことにあります。また、日本の金融政策にも限界がきています。2013年4月、日本銀行はマネタリーベース(日本銀行が供給する通貨)を2年間で倍増させる「異次元の金融緩和」を打ち出しました。これまで、この金融緩和はある程度の成果を上げてきたことは事実ですが、ここにきてこの政策にも限界がきています。

そもそも、大胆な金融政策だけでインフレ目標を達成することは難しく、政府による減税や公共投資などの財政支出が求められます。いまの日本は異次元の金融緩和によって、マイナス金利ですが、この状況でインフレ率を上げるためには、戦争に匹敵するほどの爆発的財政支出が必要です。

しかし、安倍首相は財政支出の拡大を行わず、消費増税によって緊縮財政に踏み出しました。大規模な金融緩和をする一方で、緊縮財政をすることはアクセルとブレーキを同時に踏むようなものです。新型コロナの緊急経済対策として、リーマンショック後の対策を上回る39兆円の財政支出を決定しましたが、パンデミック収束後の需要喚起策(Go toキャンペーン)なども含まれており、効果が疑問視されています。

日本銀行には財政政策を司る権限はありませんから、爆発的な財政支出に踏み切れるかどうかは、究極的には安倍首相個人の問題です。日本が、今後の 10年、20年も持続的な経済成長を遂げることができるかどうか。ひとえに、安倍首相の決断にかかっているのです。

クルーグマンが指摘するように大きな財政支出が求められていますが、この政権は国会すら開くこともせず、自らの利権を追求するだけです。安倍政権によるコロナ対策と経済対策の失敗が、多くの日本人を苦しめることになりそうです。秋口の倒産件数や失業率が高まると予測される中で、この政権が続くことが日本人の不幸になっています。

この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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