第三次世界大戦はもう始まっている(エマニュエル・トッド)の書評

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第三次世界大戦はもう始まっている
エマニュエル・トッド

本書の要約

①ロシアの解体 ②アメリカとロシアの緊張関係を維持し、ヨーロッパとロシアの接近を阻止というアメリカの2つの戦略目標から、ウクライナ危機を捉えることで、今回の衝突に別の意味づけができます。アメリカが「反ロシア」という立場なのは、西側の基軸のドイツと日本をロシアから遠ざけるためなのです。

ウクライナのNATO加盟準備が今回の危機をもたらした?

この戦争がいつまで続くのか、今後どうなるのか。事態は流動的で、信頼できる情報も限られ、現時点で先を見通すのは困難です。ただ、世界が重大な歴史的転換点を迎えているのは明らかで、歴史家として見れば、極めて興味深い局面に立ち会っていると言えます。(エマニュエル・トッド)

今回のウクライナ危機は、ウクライナという戦略的な要衝を西側が抑えるか、ロシアが抑えるかという戦いです。今年2月の侵略前から、ロシアは「ウクライナのNATO入りは絶対に許さない」と警告を繰り返しましたが、西側がこれを無視し、ウクライナの支援を続けたのが、今回の危機の原因だとエマニュエル・トッドは指摘します。

個人的にはロシアの暴挙を許せないと断った上で、冷酷な歴史家の視点によると、戦争の責任はアメリカとNATOにあるというのがトッドの立場です。

東西ドイツが統一されて以降、ロシアとアメリカはNATO加盟に関して、NATOは東方に拡大しないと約束しましたが、多くの東側国家が実際にはNATO入りを果たしています。ウクライナはロシアにとって最後の砦でしたが、それすら守られない状況となり、ロシアは態度を硬化させます。2014年にロシアはクリミアを編入し、今年になると遂にウクライナへの侵略を行なったのです。

アメリカとイギリスが、高性能の兵器を大量に送り、軍事顧問団も派遣して、ウクライナを「武装化」していたからです。「ウクライナをすぐにNATOの一部にするとは誰も言っていない」というレトリックを用いながら、ウクライナを「武装化」し、〝事実上〟NATOに組み入れていたわけです。

ロシアにとって、ウクライナはNATOに編入された形となり、予想以上の抵抗ができたのも英米の軍事的支援があったからなのです。

ウクライナの今回の「武装化」は、クリミアとドンバス地方をロシアから奪還を目指したものだったため、ロシアはウクライナの軍隊を破壊するという行動に出たのです。日々、増強されるウクライナ軍に対して、プーチンは相当の危機感を抱いていたと言うのです。

アメリカの目的とロシアの目的のぶつかり合いが、今回の危機を引き起こしました。
・アメリカの目的👉ウクライナをNATOの事実上の加盟国とし、ロシアをアメリカには対抗できない従属的な地位に追いやること。
・ロシアの目的👉アメリカの目論見を阻止し、アメリカに対抗しうる大国としての地位を維持すること。

アメリカのウクライナのNATO化という今回の政策によって、ウクライナ問題がグローバルな戦争となり、トッドはもはや第三次世界大戦が始まっていると指摘します。

武器の供与という面から見れば、ロシアとアメリカはすでに軍事的に衝突しています。しかし、リスクを取らないアメリアやイギリスの軍事顧問団は、ロシアの侵攻が始まるとポーランドに退避してしまいます。アメリカはウクライナ人を“人間の盾”にして、アメリカ製の最新の武器を供与し、ロシアと戦わせているのです。

地政学的リスクが高まる中、日本はどう行動すべきか?

アメリカを始めとする西側諸国は、ロシアに対する経済制裁やウクライナに対する軍事的、財政的支援など、直接的な軍事介入以外のあらゆる手段を用いて、ロシアの侵攻を食い止め、ロシアを敗北させようとしています。 これでもし、ロシアの勝利を阻止できなかったとしたら、どうなるのか。アメリカの威信が傷つき、アメリカ主導の国際秩序自体が揺るがされることになるでしょう。

「強いロシアが弱いウクライナを攻撃している」と多くの日本人は考えていますが、地政学的により大きく捉えれば、「弱いロシアが強いアメリカを攻撃している」と見ることができますが、今回の紛争によって、アメリカの地位も揺るぎ始めています。アメリカがロシアの勝利を阻止できなければ、アメリカの威信が傷つき、国際秩序にも悪影響を与えます。中国がロシアを支援することで、アメリカの思惑通りに事態が進行していないことに、アメリカは焦りを感じていると言うのです。

冷戦後のアメリカの戦略目標を整理すると以下の2つになりますが、今回のロシアのウクライナ侵攻が失敗することで、2つの戦略目標が同時に叶うのです。
①ロシアの解体
②アメリカとロシアの緊張関係を維持し、ヨーロッパとロシアの接近を阻止

アメリカの戦争の”真の目的”は、アメリカの通貨と財政を世界の中心に置き続けることにあります。だからこそ、早期の停戦をめざすのではなく、この戦争にどんどん突き進んでおり、この戦争にさらに深くコミットする覚悟でいるはずです。

ヨーロッパとロシアの接近、日本とロシアの接近、ユーラシアの再統一は、アメリカの戦略的利益を損なうことを忘れてはいけません。ユーラシアに平和的関係が築かれることで、アメリカの役割は後退します。アメリ力軍の”プレゼンス”を維持するために、ユーラシアにおいてアメリ力軍が”必要”とされる状況を作り出す必要があるのです。ユーラシアにおける軍事的・戦略的緊張を維持することが、アメリカの国益になるという視点を忘れないようにしましょう。

NATOや日米安保は、ドイツや日本という「同盟国」を守るためのものではなく、アメリカの支配力を維持するためのものだとトッドは指摘します。

アメリカが「反ロシア」という立場に立つ動機の大部分も、ドイツと日本をロシアから遠ざけ、アメリ力陣営に残ってもらうためなのです。

領土の保全や維持を考えると、ロシアはウクライナ以外の領土への侵攻を考えてないとトッドは言います。ただ、エストニアとラトビアというロシア人が2等国民として差別されている国には、侵攻の可能性が残っています。この話を読んで、以前、エストニアに訪問した際、エストニア人がロシア人に対して相当ネガティブであったことを思い出しました。ソ連時代にエストニア人に対して、ロシア人が行なった暴挙が問題を複雑にしているのです。

中国や北朝鮮にアメリ力本土を核攻撃できる能力があれば、アメリカが自国の核を使って日本を守ることは絶対にあり得ません。自国で核を保有するのか、しないのか。それ以外に選択肢はないのです。ヒロシマとナガサキは、世界でアメリカだけが核保有国であった時期に起きた悲劇です。核の不均衡は、それ自体が不安定要因となります。中国に加えて北朝鮮も実質的に核保有国になるなかで、日本の核保有は、むしろ地域の安定化につながるでしよう。

トッドはその上で地政学リスクが高い日本はアメリカから独立し、核兵器を保有すべきだと述べています。西側に追い込まれたロシアが中国に軍事技術を提供する可能性が高まる中で、日本人は冷静に国益を考え、どう行動すべきかを考える必要があるのです。

フランスの知識人であるトッドの対米感を鵜呑みにすることは危険ですが、アメリカの情報を過信するのもやめた方がよさそうです。今回、政治、経済、地政学、家族形態、国民性、歴史、文化などさまざまな視点から、ロシアとウクライナの対立の原因を知ることができました。当然、ロシアの暴挙は許されませんが、なぜ危機が起こったかを客観的に理解できました。


この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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