SHARP BRAIN たった12週間で天才脳を養う方法
サンジェイ・グプタ
文響社
本書の要約
人は適切なライフスタイルを築くことで、たとえ遺伝的な危険因子をもつ人でもアルツハイマー病を含む深刻な神経疾患の発症リスクを低下させることがわかりました。DNAがどうであろうと、良い食事、定期的な運動、禁煙、アルコールの制限、その他のさまざまな生活習慣の変革によって、運命を変えることができるのです。
脳のレジリエンスを高めることが重要な理由
脳がすっきりとスムーズに動くようになれば、他のすべてのことがついてくる。判断力や立ち直る力が強化され、物事を楽観的に捉えられるようになるだけでなく、体の能力も向上する。実際に、痛みへの耐性が高まり、薬の必要性が減り、治癒能力が向上することを示した研究も複数ある。(サンジェイ・グプタ)
心臓などの内臓の健康や心の健康を意識することがあっても、脳について考える人は少ないというのが実態です。脳の研究が進み、脳の実態が明らかになる中で、その重要性が認識されてきました。最近では、脳のレジリエンスを高めることで、人生を豊かにできることが明らかになってきました。
レジリエンスの高い脳は、継続的なトラウマに耐え、これまでとは違った考え方をし、うつ病などの神経疾患を回避し、最高のパフォーマンスを発揮するための認知・記憶力を保持することが可能になります。ジョージア州エモリー大学医学部脳神経外科准教授の著者はレジリエンスの高い脳を持つことで、戦略的で先見性のある人になれると指摘します。
著者と同僚の研究者は、2019年のアルツハイマー病協会国際会議において発表された研究データをすべて集めて分析しました。その結果、人は適切なライフスタイルを築くことで、たとえ遺伝的な危険因子をもつ人でもアルツハイマー病を含む深刻な神経疾患の発症リスクを低下させることがわかりました。
DNAがどうであろうと、良い食事、定期的な運動、禁煙、アルコールの制限、その他のさまざまな生活習慣の変革によって、運命を変えることができるのです。
脳の健康を維持するためには、運動、睡眠、食事に気をつけることが重要ですが、そのメソッドについて本書では詳細に紹介されています。(興味がある方は著者の12週間プログラムをご参照ください)
認知レベルで記憶力を高め、維持するためには、脳のすべての機能に働きかける必要があります。認知症やアルツハイマーにならずに脳の可塑性を高めることができれば、脳の健康寿命を伸ばせ、高齢者になっても豊かな時間を過ごせるようになるのです。
脳の力を引き出し、記憶力を高める方法
記憶の構築は、①「符号化」、②「保持」、③「想起」の3段階に分けて理解することができる。
記憶の構築①「符号化」…五感による体験認識
記憶の構築は、まず、五感を使って体験を認識する「符号化」から始まります。過去の体験の個々の感覚はすべて、脳の海馬に伝わり、得られた知覚や印象が1つの体験として統合されます。
記憶は脳全体の作用により調整されていますが、その中枢は海馬にあります。この海馬が小さくなると、記憶力も低下するということがわかっています。海馬は前頭葉と連携し、さまざまな知覚情報を分析することで、その情報を記憶する価値があるかどうかを判断します。
あらゆる知覚情報の分析と選別は、脳内の言語である電気信号と化学伝達物質を介して行われます。神経細胞(ニューロン)は末端部で、他の細胞につながるシナプスという接合部を形成しています。メッセージを伝える電気信号がシナプス前部に伝わると、神経伝達物質と呼ばれる化学物質が放出され、これが細胞間の非常に小さな隙間を飛び越えます。
ドーパミン、ノルエピネフリン、エピネフリンなどの神経伝達物質は細胞間の隙間を移動し、隣接する細胞に付着します。神経細胞間の接合部は、きわめてダイナミックな性質をもっています。これらは絶えず変化し、成長(または縮小)しています。神経細胞は、1本の長い軸索と複数の複雑に分枝した樹状突起を持っています。この樹状突起は他の細胞からの情報の受け手として働きます。
神経細胞はネットワークを形成して働き、異なる種類の情報処理を行うための専門グループを組織します。ある神経細胞が別の神経細胞に信号を送ると、2つの細胞間のシナプスが強化されます。ある信号が頻繁に送信されるほど、そのつながりは強くなります。「習うより慣れよ」が重要な理由がここにあります。
何か新しいことを経験するたびに、脳はそれに応じて少しずつ配線を調整する。新しい経験や学習は新しい樹状突起を形成する一方、繰り返しの行動や学習は既存の樹状突起を定着させる。もちろん、いずれも重要である。新しい樹状突起が(たとえ弱いものであっても)生成されるのは、神経可塑性と呼ばれる現象による。万一、脳が損傷を受けた場合でも、神経可塑性があることによって脳の配線の再構築が促される。また、この神経可塑性は、より良い脳を作るために必要なレジリエンスを構築するうえで重要な要素でもある。
あなたが世の中で新しいことを学ぶたびに、シナプスや樹状突起に変化が起こり、あらたな接合が生まれたり、あるいは逆に弱まったりします。脳は、あなたの経験、教育、直面する課題、そしてあなたが作る記憶に応じて、常に編成あるいは再編成を繰り返しているのです。 こうした神経の変化は、脳を使うことでより強化されます。あなたが新しい情報を学び、新しい技術を練習するたびに、脳は知識と記憶の複雑な回路を構築します。
しかし、脳に入ってきたものをすべて記憶していたら、脳は正常に働かず、創造的な思考力や想像力が低下し、日常生活も困難になってしまいます。脳は記憶するスペースを確保するために、不要な情報の忘却を促します。脳の忘却を促す役割を担っている神経細胞群が夜間、自らを再編成し、翌日に入ってくる情報に備えている睡眠中に、最も活発に活動します。
2019年に科学者たちがこの「忘却促進ニューロン」を発見したことで、睡眠の重要性と忘却のメリットについての理解が進みました。記憶するためには忘却が必要でそれを睡眠によって行なっているのです。睡眠によって、私たちは重要な情報と忘却してよい情報を整理しているのです。
記憶の構築②「保持」
私たちの記憶は、「短期記憶」と「長期記憶」の2つに分類されます。短期記憶は海馬が担い、長期記憶は脳の外側にある大脳皮質の働きと密接に関係しています。
一旦、長期記憶となった情報は、長期間にわたって思い出すことができます。感覚記憶や短期記憶は容量が限られているため、すぐに消えてしまういますが、長期記憶は多くの情報を保持し、いつでも取り出すことができます。
アルコールや睡眠不足が、短期記憶から長期記憶への移行を妨げることがわかっています。お酒を飲みすぎると短期記憶に留まっていたときには鮮明だったことが、数日後にはなかなか思い出せないといったことが起こります。飲酒によって情報が長期記憶として保持されていないために、記憶を保管庫から取り出すことができなくなります。
記憶力を強化したければ、過度の飲酒や睡眠不足にならないように気をつけるべきです。脳の状態をよくするためには、生活習慣を改善することが重要になります。
記憶の構築③「想起」
記憶を呼び起こすためには、まず無意識レベルで情報を探し当て、それを意識レベルに落とす必要があります。人にはそれぞれ、記憶するのが得意なことと苦手なことがあります。
自分の苦手な分野を克服するためには、自分の記憶の弱点となっている要素、たとえば符号化や想起といったスキルを磨くことが効果があります。
私たちの記憶のスピードや正確さは、20代から自然に低下していきます。特に、日常生活で適切な処理や判断を行うために、必要な情報を一時的に保存する「作業記憶」には、この傾向が見られます。しかし、脳の可塑性を信じ、脳の力を引き出すことで、加齢による記憶力の低下を防ぐことも可能です。本書のノウハウを活用することで、記憶力を強化でき、自分の人生をより良いものにできるのです。
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