ウクライナ戦争は世界をどう変えたか 「独裁者の論理」と試される「日本の論理」
豊島晋作
KADOKAWA
本書の要約
国際社会というのは互いに武器を持って睨み合い、対話し、時に戦うしかない社会なのですが、今回のウクライナ侵攻がその冷徹な事実を明らかにしました。今後プーチンと習近平の同盟が強化されることで、最も影響を受ける国が、我が日本であることを忘れてはいけません。台湾戦争のリスクが高まる中、対策を練ることが急務になっています。
なぜ、ロシアはウクライナ侵攻を行ったのか?
ウクライナ戦争は世界を変えた。 現地では、兵士も市民も、子供も大人も区別なく命が奪われている。ガソリンやパンの値段は大きく上がり、世界中の人々が高くなった生活費に苦しんでいる。(豊島晋作)
なぜロシアは、西側諸国の予測を裏切り、ウクライナ侵攻へ突き進んだのでしょうか?多くの日本人がこの侵攻に疑問を感じているはずです。その答えをわかりやすく解説してくれるのが、テレビ東京報道局所属のジャーナリスト豊島晋作氏です。
自由と民主主義が広がったこの21世紀のヨーロッパで、このように苛烈で残酷な戦争が起こるとはロシアの専門家も考えていませんでしたが、著者の豊島氏は事前に今回の戦争を情報を積み上げていくことで、正しく予測していました。
いくら平和主義を唱えていても、大国が戦争を選択すれば、国境は侵されてしまいます。ウクライナの戦場という現実が、日本の平和主義に対して不都合な事実を突きつけてきました。
ロシアとウクライナ、ヨーロッパの戦争の歴史を振り返ると同時に、プーチンの視点でロシアが置かれている立場を考えれば、今回の暴挙も説明が可能になります。
ウクライナでの戦いも、突然に何の前触れもなく始まったわけではない。今日起きていることの原因は昨日にある。今起こっていることは元をたどれば、数十年前、ひいては数百年前の歴史に由来する。だから私たちは歴史を学ぶのであり、戦争と平和の学問である国際政治学は分析対象の大部分を過去に置いている。世界の過去の物語が私たちの運命を決定づけている。
「国際社会というのは互いに武器を持って睨み合い、対話し、時に戦うしかない社会だ」と著者は指摘します。国際政治の社会では、相手が「あなたに危害は加えない」と言っても、手に銃を持っていればこちらも銃を持って対峙するより仕方がないのです。
国家の意図というのは常に変わります。NATOの東欧の切り崩しが進む中、当初西欧に有効的だったプーチン政権も態度を硬化させていったのです。ウクライナがNATOに取り込まれる前に、ロシアの領土にすることがプーチンにとっては正しい選択だったのです。
プーチンは国家の論理ではなく、独裁者の論理を優先することで、ウクライナに侵攻し、結果、フィンランドやスウェーデンのNATO加盟を許しました。NATOの拡大よりもロシアのかつての栄光を取り戻すことをプーチンは目指し、ウクライナやロシアだけでなく、世界中の人々を不幸に陥れたのです。
以前、エストニアを訪問した際に仲良くなった人たちがロシアへの恨みを口にしていましたが、本書により、ロシア人がバルト3国や北欧、東欧に対して如何にひどいことをしてきたかを理解できました。同時にロシアが他国から侵略されるという恐怖感をもっていることも認識できました。
台湾有事が予測される中、日本は今何をすべきか?
ロシアが「戦争はしない」と繰り返し言っても、そこに戦争を遂行できる規模の軍隊が集結していれば、戦争を想定するのが国際社会の常識だったのです。
一つの軍事侵攻は、一つの単純な理由によって起こるのではなく、歴史的な一つひとつの政治家や人々、国家の決断の積み重ねの結果として起きるのです。国際情勢を見極めるには、より長期的・俯瞰的な冷めた視座も必要なのです。現在、ロシアがウクライナに対して行っている侵略は、歴史においてロシアがフランスやドイツからされてきたことなのです。
国力が打撃を受け、ロシアが国際的な地位を低下させる可能性は高くなっています。軍事的にも経済的にも弱体化するロシアは、ますます中国に従属していきます。最悪のシナリオは、プーチン大統領と中国の習近平主席の同盟がますます強化され、西側と対峙することです。この影響を最も受ける国が、我が日本であることを忘れてはいけません。
「力なき国家は蹂躙される」という世界の常識が、今回のウクライナ侵攻で、日本人に突きつけられています。
ウクライナ戦争が起きてしまった世界で、日本の国防、安全保障は大丈夫なのか。戦争の悲惨な映像を見た多くの日本人が抱いた、素直な疑問だろう。 多くの日本人にとって、これまで戦争とは過去のものであり、どこか遠くの場所でしか起こらないものだった。つまり、自分たちの問題として考える必要はなかった。
日本は中国、北朝鮮そしてロシアという3つの重武装国家に囲まれています。しかも、どの国も独裁者が支配している上に、核保有国でもあります。世界の中で最も困難な条件に国土が位置している国が日本なのですが、政治家や国民の危機感は低く、有事への対策が先延ばしされています。
習近平の続投が決まり、台湾有事(戦争)がまことしやかに語られる中、日本の南西諸島が戦場になる可能性が高まっています。 習近平が”偉大な中国を取り戻すため”の戦争を行うことも考えられます。仮に習近平が合理的な選択をすることをやめ、プーチンのように自分のビジョンを実現しようとすれば、戦争は簡単に始まってしまうのです。
戦争を防ぐために重要なのは、台湾侵攻によって習近平と中国が強烈な反撃を受けることを、あらかじめ確実にすることであり、同時にそれを習近平に理解させることが重要だと著者は指摘します。台湾侵攻の代償があまりに大きいと理解させること、戦争は短時間では決して終わらず、膨大なエネルギーと時間をかけても達成困難だと習近平に思わせることが日米の政治家に求められています。
アメリカと日本による対中抑止が失敗し、中国が台湾への軍事侵攻を決断する事態となった場合、何が起こるのでしょうか?現状、日本の政治家、官僚は「曖昧戦略」をとっていますが、実際に戦争の危機が高まったときには、様々な決断をしなければなりません。本書のいくつかのシミュレーションは参考になります。
いざ、戦争が始まれば、南西諸島や日本の貿易路として重要な南シナ海が戦場となります。戦争が長期間にわたる場合、日本の貿易路、シーレーンをどう確保するかという課題も出てきます。台湾の邦人避難やその際の自衛隊や外務省の役割も明確にする必要があります。
これらの課題に加え、中国との戦争という前代未聞の規模に膨れ上がる米軍の後方支援を行う覚悟とそのための財政負担も日本政府の課題になります。台湾有事の際には、いくつもの困難課題を解決する必要がありますが、今の日本政府に正しい決断できるのかが本当に不安になります。
今回のウクライナ侵攻と過去の歴史を顧みれば、平和を維持するためには、中国に対抗するための軍事力を強化することが最適な選択肢になりそうです。中国の独裁者の野望を止めるために、今、何をすべきかを政治家と国民は真剣に考えなければならないのです。
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