ERROR FREE 世界のトップ企業がこぞって採用したMIT博士のミスを減らす秘訣 (邱強)の書評

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ERROR FREE 世界のトップ企業がこぞって採用したMIT博士のミスを減らす秘訣
邱強
文響社

本書の要約

経営者だけでなく、すべての従業員がエラーフリーの意義を知り、エラーは防げるということを理解すれば人は自分のエラーを未然に防げるようになるだけでなく、同僚のエラーも防げるようになります。組織のメンバー全員がエラーフリー思考を身につけることで、企業は体質を強化でき、業績をアップできるようになります。

ヒューマンエラーを防ぐ5つのステップ

「失敗は成功の母」とよくいわれる。だが私は、「エラーは失敗の父、失敗は成功の母。エラーを研究しなければ成功はできない」と考えている。(邱強)

単純なヒューマンエラーがのちに思いがけない巨大な損失をもたらしたり、大きな犠牲を払う事態につながることがあります。企業の経営者はこのヒューマエラーを防ぐことで、業績をアップできるというのが著者邱強の主張です。

エラーのほとんどは過去に発生例があり、企業はこれを見逃したり、改善を先送りしがちです、 著者は弱冠25歳でMIT博士号を取得した危機管理のスペシャリストですが、ミスを防ぐ方法を本書で明らかにしています。彼らが多くの企業とした構築した8万件のデータベースを使い、ビッグデータ分析を行った結果、個人であろうが企業であろうが、成功と失敗を分ける要素はーつしかないことがわかりました。それがヒューマンエラーだったのです。

聡明な人と愚かな人のあいだには、たった一つの違いしかないと著者は言います。
・聡明な人→エラーを犯したら、それを分析して再発を防ごうとする。
・愚かな人→エラーを犯したら愚痴をこぼして他人を責める。

聡明な人は毎晩、自分のエラーを分析して、どうすれば防げるか検討し、エラーフリーによって幸せな日々を送れるようになります。日々の小さなエラーをチェックし、それを改善することを習慣化しましょう。

14のテクノロジー・ポイントは、著者たちが開発したヒューマンエラーの発生を防ぐために開発されたものです。これを実行すればエラーの根源を絶つことができます。

1、エラーフリーのプロセスとフロー
2、エラーフリーの審査
3、エラーフリーの単一脆弱点の発見と保護層の設計
4、エラーフリーの従業員
5、エラーフリーのリーダーと管理職
6、遠隔検証
7、従業員パフォーマンスについてのエラーフリーの根本原因分析
8、組織とフローについてのエラーフリーの根本原因分析
9、エラーフリーの横断的原因分析
10、エラーフリーの設備・システム設計
11、エラーフリーの設備購入基準
12、エラーフリーの運転操作
13、エラーフリーの現場検証、設備の不具合の前兆察知
14、エラーフリーのトラブル・シューティング

ヒューマンエラーは3つに分類されます。この3つのタイプの中で発生率が最も高いのは、 ①知識型エラー ②規則型エラー ③スキル型エラーになります。

知識型の仕事を規則型の仕事に転換し、規則型の仕事をスキル型の仕事に転換すれば、エラー率は大幅に低下します。  知識型作業を複数の小さなブロックに分割することで、ミスを防げるようになります。変数の少ないブロックから規則型作業に変えていくのです。

また、次の5つのプロセス管理を徹底すすることで、ミスを防げるようになります。
①14のエラー防止テクノロジー・ポイントを実行する
②エラーを定義して発見する
③AIを用いてエラーの根本原因分析を行う
④テクノロジー・ポイント実行時の不備を特定する
⑤脆弱点を改善する

本書の狙撃手のための注意力回復方法「SLLS」が紹介されています。注意力を長時間集中させるために、このSLLSを使えば注意力をすぐに回復できます。
■停止(Stop)・・・任務を中断して心を落ち着かせる。
■周囲を見渡す(Look around)・・・注意力を周囲の環境に向け、あたりに目をやる。
■聞く(Listen)・・・頭を空っぽにして周囲の音を聞く。頭が本当に空になるまで鳥の鳴き声や塵が落ちる音などに耳を澄ませる。
■においを嗅ぐ(Smell)・・・今、ここのにおいを嗅ぐ。

エラーフリー思考を身につけよう!

あらゆるヒューマンエラーの中でも、発生する確率が高いのが慢心だ。ビジネスの世界でも、成功した企業ほど慢心というエラーを犯しやすいことが明らかになっている。致命的なエラーをたったーつ犯したがために、世界一の企業があっという間に転落するようなケースも増え続けている。

ノキアはかつて世界シエアナンバーワンを誇る携帯電話メーカーでしたが、経営者の慢心によってほんの数年間で業界トップから谷底へと転がり落ちてしまいました。スマートフォンが登場すると、メーカー各社は端末のOSとして、グーグルが開発したアンドロイドOSを使用するか、それとも新たなOSを自主開発するかという大きな選択を迫られました。

ノキアは自主開発を選択し、2012年にマイクロソフトと共同で新たなOSの開発に着手しました。 しかし、スマートフォンの買い替えサイクルは約3年のため、OSもそれに合わせて3年ごとに新バージョンをリリースする必要があったのです。

実際にはソフトウエアを新規開発するには最短でも7年の開発サイクルを要するため、ノキアはこの選択によって負けることが明らかでした。ノキアの致命的なエラーとは、OSの自主開発に過剰な自信を抱き、アンドロイドやiOSと競合するには新OSの開発に時間がかかりすぎることに気づけなかったことだったのです。

フィルムメーカーの巨人コダックも、スマホやインスタグラムが変えた人々の行動変容に気づけず、マーケットから駆逐されました。

コダックとノキアの事例は「省略エラー」(omission error)と「誤処理エラー」(commission error)という2つの主要なエラー形式によって説明できます。 省略エラーとは、なすべきことや下すべき決断があるのに、驕りや迷い、怠慢から、あるいは現状変更に対する恐れから、何もしなかったために起こるエラーです。

実際には、何もしないことこそが最大のエラーだ。目の前の機会をつかもうとせず、事態が悪化の一途をたどるに任せ、ついには手の施しようもなくなる。機会を逸することそれ自体がエラーだと言える。企業の失敗のほとんどは、この省略エラーに起因している。省略エラーの発生率は誤処理エラーの発生率の2倍から3倍に上ることが私たちの研究から明らかになっている。  

ノキアが犯したのは誤処理エラーでした。ノキアは確かに行動して決定も下したが、その決定が間違っていました。競合他社が、ソフトウェアの開発サイクルが市場サイクルに追いつけないという問題を回避するには、アンドロイドOSを選択するしかないと正しい選択を下す中、ノキアだけが自社開発にこだわりました。ノキアはコダックのように何もしなかったわけではありませんが、意思決定でエラーを犯したため、結局は同じように惨敗しました。

ヒューマンエラーの悪循環を断ち切るためには、「エラーフリー思考」を身につける必要があります。 エラーフリー思考には以下の4つの重要な命題があります。
①人間は誰でもエラーを犯す可能性がある。
②すべてのエラーは防ぐことができる。
③エラーにはさまざまな発生源と形式があり、それに応じた解決策がある。
④組織の全員が、エラーフリーで仕事を進める方法と、エラーフリーの社内システムを構築する方法を知る必要がある。

一見すると複雑そうなエラーでも、複数の要素に分けて分析すれば、すべてのエラーのタイプを判別することができる。つまり、すべてのエラーを防ぐことができるということだ。 企業の事例を多数分析したところ、成功した企業は常にエラーの防止策を考えていて、社内の仕組みを改善するために知恵を絞っていた。それに対し、失敗する企業は過去に犯したエラーの後処理に忙殺されていた。

 エラーはさまざまな形で発生します。手順におけるエラー、従業員のうっかりミス、リーダーの意思決定エラーなどさまざまなものがありますが、これらのエラーを防止するときは、エラーを個別につぶし、エラーの出所に照準を絞って対処する必要があります。

経営者だけでなく、すべての従業員がエラーフリーの意義を知り、エラーは防げるということを理解すれば人は自分のエラーを未然に防げるようになるだけでなく、同僚のエラーも防げるようになります。組織のメンバー全員がエラーフリー思考を身につけることで、企業は体質を強化でき、業績をアップできるようになります。

エラーフリー・メソッドを活用すると、従業員のエラーと事故の発生件数が減るほか、無駄な出費が減り、不適切なメンテナンスが行われなくなります。設備の不具合によって生じる生産ロスが減って、企業の収益も上がり、業績の改善につながります。

一般的な企業の場合、エラーフリーのための従業員教育に費やしたードルが、10ドルの利益となって戻ってくると著者は指摘します。ミスを減らすことで、企業の財務体質も強化できるのです。

一人ひとりがエラーフリーを実現したときに、企業は成功を収めます。 意思決定のたびに単一脆弱点を明らかにすることで、大きな失敗を防げるようになります。たった一つの脆弱点によって、組織全体が影響を受ける単一脆弱点が、企業経営に大きな影響を及ぼします。福島原発の事故も大津波の発生が予測できていたにもかかわらず、改修工事を行うことを経営者が無視していたことが原因だと言われています。

優秀なリーダーは次のようなエラーフリー習慣を身につけていることが分かっています。
①欠点を探し出す習慣
②仮説を疑う習慣
③単一脆弱点を管理する習慣
④機会を創造する習慣
⑤知識を追求する習慣
⑥人材を育成する習慣
⑦メンバーが補い合うチームを構築する習慣
⑧エラーを見つけて分析する習慣
⑨公正な賞罰制度を構築する習慣
⑩制度を簡略化する習慣

小さなエラーの一つひとつに気を配り、検証と分析を行う方法と習慣を身につけて、救済や防止の方法、あるいは原因を改善する方法を見つければ、大きなエラーにはつながらず、壊滅的な結果を招くこともない。よって、エラーフリーを実現したければ、初めは小さなエラーに対処する練習から始めることだ。小さなエラーの一つひとつを修正する機会をしっかりと生かし、エラーフリー思考とエラーフリー能力を身につければ、大きなエラーを防げるようになる。

小さなエラーが発生する原因を直ちに修正できれば、大きなトラブルを避けることができます。私たちはもっと失敗した人のケースを学び、エラーという落とし穴を回避する方法を見つけ出すべきです。エラーには強い共通性があるのですから、似たようなエラーを見つけ、それを防ぐことができれば、成功する可能性を高められます。

「エラーは処理するもの」という発想を「エラーは防ぐもの」という発想にシフトすることで、エラーフリー文化が組織に根づきます。メンバー全員がエラーフリー思考を身につけることで、企業はエクセレントカンパニーに生まれ変われるのです。


 

この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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