9プリンシプルズ 加速する未来で勝ち残るために(伊藤 穰一, ジェフ・ハウ)の書評

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9プリンシプルズ 加速する未来で勝ち残るために
伊藤 穰一, ジェフ・ハウ
早川書房

本書の要約

イノベーションを起こすためには、失敗を恐れず、チャレンジし続けることがとても重要になります。世界中の才能を引き出すためにプル戦略で、有能な人との出会いをデザインし、失敗した際にも彼らの力を借りれば、すぐに回復できます。本書の9つの原理を組み合わせて、自のマインドと行動を変えましょう。

9プリンシプルズでイノベーションを起こす方法

みなさんの脳を現代に引き出し、個人や組織を共に、課題の多い不確実な未来を乗り切りやすくする、9つの原理を説明する。(伊藤 穰一, ジェフ・ハウ)

ベンチャーキャピタリストとして世界的に知られる元MITメディアラボ所長の伊藤 穰一氏とジャーナリストのジェフ・ハウ9プリンシプルズ 加速する未来で勝ち残るためにを再読しています。2人は変化が激しい時代を生き抜くためには、次の9つのプリンシプルズを大事にすべきだと指摘します。

・権威より創発
・プッシュよりプル
・地図よりコンパス
・安全よりリスク
・従うより不服従
・理論より実践
・能力より多様性
・強さより回復力
・モノよりシステム

絶え間なく変化する現代の特徴は、「非対称性」「複雑性」「不確実性」の3つで説明可能です。この「非対称性」「不確実性」「複雑性」という条件を観察するだけではなく、私たちは9つの原理を活用し、行動することで、正しい課題を定義し、解決策を手に入れられるようになります。

現代はテクノロジーの発達により、創発が起こりやすくなっています、イノベーターにして起業家はクラウドソーシングを通じて簡単に資源を拡大し、自分でも不足していると気がついていなかった資源を発見できます。ネット上の世界中の多様な才能に、私たちは一瞬で出会えるようになりました。アイデアを実現するためのコストは圧倒的に下がっていて、自然発生的にイノベーションを起こせるようになっています。

人的資源の最高の使い道は、必要なものだけを、必要とされるときだけに使って、人々をプロジェクトに引き込むことだ。タイミングが鍵となる。創発は問題解決に多くの人々を使うという話ではあるけれど、プルは、この発想をもう一歩先に進め、必要なものを、それがまさに最も必要とされているときにだけ使う。

マーク・グラノヴエッター博士が指摘した「弱い紐帯の強み」をSNSのおかげで、現代人は活用できるようになり、他者の能力を引き出せるようになりました。

マルコム・グラッドウェルは「知り合いこそが友人ではない新しいアイデアや情報の最大の源」だと述べ、紐帯の重要性を私たちに教えてくれています。弱い絆によって生まれたコミュニティを強化するためには、強い絆も同時に活用すべきです。

MITで市民メディアセンターを監督するイーサン・ズッカーマンは、国際ネットワークが持つ強い絆は橋渡しの絆としても機能して、ネットワークが大きくなるにつれて、使える資源も多くなると指摘します。

現代通信技術とイノベーション費用の低下を活用して、力を中心から周縁に動かし、ひらめきによる発見を可能にして、イノベーターたちが自分の情熱を探り出す機会を提供する。最高の場合には、これは人々が自分の必要としていたものを見つけられるようにしてくれるだけでなく、自分が必要だとも知らなかったものを見つけさせてくれる。

イノベーションはいまや周縁(エッジ)で起こるようになっています。資源は必要に応じてプルされるようになりました。最も大きな価値を提供してくれるのは、自分の通常のつながりの外側にあるコネクションだったりするのです。「プッシュよりプル」では、完全に意識を開き、その場にいて、探究と好奇心を通じたきわめて広いネットワークを開拓すべきです。その際、弱い紐帯と強い紐帯の両方を組み合わせましょう。

さまざまな関心事のポートフォリオを持ち、機会や脅威に対してその都度素早く対応できる能力を持つことで、イノベーションを起こすスピードが早まります。過去や未来にこだわりすぎると視野が狭まり、変化や機会や脅威への対応力が弱まります。結果を出すためには、今ここに集中し、他者への献身とオープンな心を持つことを意識しましょう。

リスクを取り、回復力を重視すべき理由

地図は、その土地についての詳細な知識と、最適経路の存在を含意している。コンパスは、はるかに柔軟性の高いツールだし、利用者が創造性と自主性を発見して自分の道を見つけなければならない。地図を捨ててコンパスを取るという決断は、ますます急速に動くますます予測不能な世界では、詳細な地図は無用に高いコストをかけて、人を森に深く引き込んでしまいかねない、という点を認識している。でもよいコンパスは、常に行くべきところに導いてくれる。

伊藤氏は成功への鍵はルールや、「戦略ではなく文化だ」と述べています。リーダーはミッションステートメントやスローガンよりは、むしろ神話体系のような文化を築き、行くべき場所を示すべきです。

グーグルの共同創設者ラリー・ペイジは、「[ほとんどの]企業がだんだん劣化するのは[かれらが]以前にやったのとだいたい同じことを、マイナーチェンジしただけで続けようとするからだ。絶対に失敗しないとわかっていることをやりたがるのは自然なことだ。でも漸進的な改善は、やがて陳腐化する。これは特に、確実に漸進的でない変化が起こるとわかっている技術分野ではそうだ」という言葉を残しています。  

私たちはアジャイルであり続け、回復力を維持できるように、リスクを活用し、環境の変化に応じて自分たちの戦略や製品の力点を変え続けなければなりません。現在の延長線上からビジネスを考えることが、もはやリスクなのです。

創造的な不服従の文化を築くことで、イノベーターは活躍できます。ルール遵守よりは不服従という原理を体現するイノベーターたちは、自分の創造性を高めるだけじゃない──他の人々も啓発して傑出した存在に変えてくれるのです。最も成功する人々は、疑問を述べ、直感を信じ、ルールが邪魔なときには、ルールに従うのを拒否し、チームに正しいことを教えてくれるのです。

これからの数十年で成功する人々は、新しい課題が生じるにつれて自分のネットワークを活用し、課題に対応するために必要なものを学習できる人々となるはずだ。これぞ、「教育より学習」が、「プッシュよりプル」と出会うところだ生徒たちに知識をため込むよう求めるかわりに、必要に応じてネットワークから必要なものをプルする力を与える。

MITメディアラボでは、教育よりも学習を重視しています。ネットワークを拡大し、そこから学習する機会を得る人が成長を手に入れます。

本書の翻訳者の山形浩生氏は、9つのプリンシプルをイノベーションのガイドラインだと言い、それを以下のように書き換えています。
・自然発生的な動きを大事にしよう
・自主性と柔軟性に任せてみよう
・先のことはわからないから、おおざっぱな方向性で動こう
・ルールは変わるものだから、過度にしばられないようにしよう
・むしろ敢えてルールから外れてみることも重要
・あれこれ考えるより、まずやってみよう
・ピンポイントで総力戦やっても外れるから、取り組みもメンバーも多様性を持たせよう
・ガチガチに防御をかためるより回復力を重視しよう
・単純な製品よりはもっと広い社会的な影響を考えよう

5年前に書かれた9つの原理は今も使えます。イノベーションを起こすためには、失敗を恐れず、チャレンジし続けることがとても重要になります。世界中の才能を引き出すためにプル戦略で、有能な人との出会いをデザインし、失敗した際にも彼らの力を借りれば、すぐに回復できます。本書の9つの原理を組み合わせて、自のマインドと行動を変えましょう。


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