エニシング・ユー・ウォント―すぐれたビジネスはシンプルに表せる デレク・シヴァーズの書評

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エニシング・ユー・ウォント―すぐれたビジネスはシンプルに表せる
デレク・シヴァーズ
東洋経済新報社

エニシング・ユー・ウォント (デレク・シヴァーズ)の書評

起業家が自分の情熱に従うことは、個人の幸せとビジネスの成功の鍵となります。「エニシング・ユー・ウォント」(自分の好きなようにやる、やりたいことはすべてやる)を実践することで、優れた製品やサービスが生まれ、顧客満足度も向上します。結果として、起業家自身の充実感と事業の成長が同時に実現できるのです。

起業の目的は幸せになること

僕はずっと同じことをしてきただけだ。つまり、自分がその時点で、一番興味のあることをしている。(デレク・シヴァーズ)

デレク・シヴァーズは、プロミュージシャンから億万長者の起業家へと異色の経歴を持つ人物です。彼が創設したオンライン音楽配信サイト「CDベイビー」は、わずか10年で2200万ドルでM&Aされるという驚異的な成功を収めました。本書の核心は、ビジネスにおけるシンプルさの重要性です。

シヴァーズは、複雑な問題をシンプルな解決策に落とし込む能力こそが、ビジネスの成功につながると主張します。彼は10年間の起業経験から得た教訓を48のレッスンとしてまとめ、読者に実践的なアドバイスを提供しています。

まず、シヴァーズは起業の究極の目的が幸福であると主張します。ハッピーになることにフォーカスすることで、顧客やパートナーであるミュージシャンの幸福度を高められます。一般的に、ビジネスの主な目的は利益の追求やサービスの提供と考えられがちですが、シヴァーズはそれらさえも、突き詰めれば自分や顧客を幸せにするためのものだと指摘します。この観点から、彼は幸福を最優先させることの重要性を説いています。

興味深いのは、シヴァーズがこの幸福追求のために、時には利益を減らすことも厭わない姿勢を示している点です。自分と顧客を幸せにすることをビジネスの中心に据えるという考え方は、短期的な利益よりも長期的な満足度や持続可能性を重視するものです。

著者が提唱する2つ目の目的は、他人の真似をせず、自分だけの独自のビジネスモデルを構築することです。彼は、起業家が自分の会社で自由にルールを作り、思い通りに夢を叶えることができると主張します。これは単なる差別化戦略ではなく、ビジネスを通じて小さなユートピアを創造するという壮大なビジョンです。

シヴァーズは、他の企業がしていることを無視し、自分にとって理想的な世界はどのようなものかを考えることを奨励しています。この考え方は、画一的なビジネスモデルや業界の慣習にとらわれず、真に革新的で独自性のある企業を創造する可能性を秘めています。他者にコントロールされるのではなく、自分らしく生きるべきです。

これら2つの目的は、互いに密接に関連しています。幸福を追求することで、他社とは異なる独自のアプローチが生まれ、それがさらなる幸福につながるという好循環を生み出すのです。彼は「ビジネス=お金」という一般的な認識を覆し、ビジネスの真の目的は夢の実現にあると説きます。

起業は、自分を成長させながら世界をより良い場所に変えていくための、すばらしい方法になる。

起業を通じて自己成長を遂げながら、世界をより良い場所に変えるという考え方には強く共感します。自分の抱える問題とその解決策が他人に共感されることで、社会は確実に良くなっていきます。

起業家が成功するためにすべきこととは?

成功とは、改善と発明を繰り返すことによってもたらされる。うまくいかないことを繰り返してもたらされるのではない。忍耐力は、改善と発明を繰り返すことに費やすべきなのだ。

プロダクトやサービスをローンチすることは、単なる始まりにすぎません。真の成功は、顧客の反応を注意深く観察し、そのフィードバックを元に製品やサービスを絶えず進化させる能力にあります。 最初の試みが期待通りの結果をもたらさなくても、それは貴重な学びの機会です。この経験を糧に、アイデアを磨き、新たな方向性を模索することが重要です。

成功への道筋は直線的ではありません。それは、顧客のニーズと市場の動向に応じて、絶えず軌道修正を行う旅路です。このプロセスには、柔軟性と創造性が不可欠となります。

自分本位の考えではビジネスは成功しません。顧客からのポジティブなフィードバックがない限り、一つのアイデアに固執するのは賢明ではありません。その代わりに、エネルギーを新しい可能性の探求に向けるべきです。真に価値あるイノベーションは、顧客の熱狂的な反応によって証明されます。

このような反応が得られたときこそが、全力を注ぐべき方向性のサインです。 起業の旅は、継続的な学習と成長の過程です。どんな計画がうまく行くかはわからないのですから、さまざまなプランを考えておくことが起業家には求められます。最初のアイデアは数ある選択肢の一つに過ぎないのです。

いったん顧客と接したら、すべての当初計画は変更を余儀なくされる。

当初のプランにこだわるのをやめ、顧客との対話から得られるアイデアを、次なる改善に活用することが成功への近道となるでしょう。既存の顧客へのサービス向上に力を注ぐことで、顧客があなたの評判を広めてくれます。これこそが成功の秘訣なのです。

多くのことに手を出しすぎてしまう人には、「”絶対イエス!”と思えないなら、”ノー”と言う」というルールを実践するとよいと著者は言います。「これは絶対やりたい!」と心から思えないことには手を出さないことで、精神的・時間的余裕が生まれ、本当に大切なことに集中できるようになります。このアプローチにより、優先順位が明確になり、価値のあることに全力を注ぎやすくなります。

「自分のビジネスは安泰だ」仮にそうでなかったとしても、そう感じるようにすべきだ。自分のところにお金はやってくる。自分はうまくやっている。自分は幸運だ。世の中には、幸運に恵まれていない人も多い。だから、気前良く振る舞ってみよう。すぐれたサービスは、こうした寛大さや豊かさの感情から生まれる。

肯定的なマインドセットを持つ経営者は、「自分のビジネスは安泰だ」という信念を持つことで、より落ち着いて意思決定を行えるようになります。また、「お金は自分のところにやってくる」という考えは、経済的な不安を軽減し、寛大な経営判断につながります。

さらに、自分を「幸運だ」と認識することで、他者への思いやりや社会貢献の意識が高まります。 これらの要素が合わさることで、経営者は顧客により良いサービスを提供しようとする意欲がアップし、顧客との良好な関係を築けるようになります。

著者は「悪いサービスは、セコい考えから生まれている」と指摘します。常に経営に余裕がなく、リスクを感じている起業家は、長期的な戦略よりも目先の利益を優先しがちになり、顧客満足度を低下させてしまうのです。

また、経済的不安から革新的なアイデアや市場の変化に適応する柔軟性が失われる恐れもあります。 寛大な気持ちを持つ経営者は、顧客とのやり取りすべてにその姿勢が反映され、サービスの質を向上できます。そのためにカスタマーサービスには最高な人材を配置すべきです。

自分が持っているものをシェアすることから始めよう!

僕がこれまでにしてきたビジネスはすべて、コープ(co-op)/シェア型のモデルだ。その仕組みはこうだ。

著者は自分が持っているものをシェアすることから、起業を始めるべきだと言います。まず、自分が既に持っているもので、人々が求めるものを見つけます。それは、持ち物や知識、資源、場所、あるいは人にアクセスできることかもしれません。

次に、その何かを必要としている人々とシェアする方法を見つけます。これには、営利目的でなくても、友人のために無償でシェアすることも含まれます。そうすることが正しいと思える理由があるだけで十分です。

もしも、それを続けていくのが大変であれば、持続可能にするために労力に見合う対価を請求します。 このアプローチは、持続可能なビジネスモデルの構築と社会的な価値の創出に貢献します。

経営者は、世間が求めるとおりに行動し続けることはできない。自分が一番好きなことをしていないと、いずれはビジネスそのものに対する興味を失ってしまうからだ。

本書の原題「エニシング・ユー・ウォント」(自分の好きなようにやる、やりたいことはすべてやる)は、シヴァーズの哲学を端的に表現しています。これは単なる自己中心的な考えではなく、自分の人生を自分の思うとおりにデザインしていくという、より深い意味を持っています。

この考え方は、現代のビジネス環境において特に重要です。テクノロジーの進歩や市場の変化により、ビジネスの世界はますます複雑化しています。そんな中で、シンプルさを追求することの価値は高まる一方です。シヴァーズの教えは、この複雑な世界をナビゲートするための羅針盤となります。

本書の真価は、その実践的な価値にあります。読者は日々の業務や意思決定において、本書から学んだシンプルな原則を適用することができます。例えば、新しいプロジェクトを始める際に「本当に自分がやりたいことなのか?」と問いかけることで、より明確な方向性を見出すことができるでしょう。

また、本書は起業家やビジネスパーソンだけでなく、人生においてより良い選択を目指す全ての人にとって有益です。仕事や私生活において「自分らしさ」を失いそうになったとき、本書の教えを思い出すことで、本当に大切なものに焦点を当て直すことができます。

シヴァーズの哲学を実践することで、ビジネスの成功と個人の幸福の両立を可能にします。自分の情熱に従うことで、仕事への興味を維持し、創造性を発揮し、そして最終的には持続可能な成功を手に入れることができるのです。 複雑化する世界において、シンプルさを追求することは決して容易ではありません。

しかし、本書が示すように、それこそが最も強力な戦略となり得るのです。自分の直感に従い、本当にやりたいことに集中する。この単純な原則が、ビジネスと人生の両方において、予想以上の成果をもたらすかもしれません。

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この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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