独裁力 ビジネスパーソンのための権力学入門
木谷哲夫
ディスカヴァー・トゥエンティワン
独裁力 ビジネスパーソンのための権力学入門 (木谷哲夫) の要約
現代の組織における意思決定と実行の本質は、ビジョンとリーダーシップの調和にあります。明確なビジョンを示し、それを強力に組織全体に浸透させるリーダーこそが、具体的な成果を生み出す鍵を握っています。このようなリーダーには、迅速かつ質の高い意思決定を行い、組織を成功へと導く力(独裁力と動員力)が求められます。
リーダーに権力が必要な理由
意思決定しても権力がなければ何も実行できない。 (木谷哲夫)
現代のビジネス環境において、組織が持続的に成長し、競争力を維持するためには、迅速かつ的確な意思決定と、それを確実に実行する力が重要です。市場の変化は急速であり、従来の方法では追いつけなくなってきています。単なる目標設定や戦略の策定に留まらず、組織全体を一つにまとめ、実質的な成果を生み出すための「権力」の行使が不可欠です。
京都大学産官学連携本部イノベーション・マネジメント・サイエンス(IMS)寄附研究部門の木谷哲夫教授が提唱する「独裁力」という概念は、リーダーシップに新たな視点を提供しています。
独裁力とは、単なる命令や支配ではなく、組織を正しい方向に導き、実質的な結果を生み出すための力です。独裁という言葉にはネガティブなイメージを持つ方もいると思いますが、リーダーには欠かせぬものだと著者は指摘します。
著者はリーダーの力を以下のように定義します。
リーダー力=コンセプト力(構想力)+独裁力(組織を動かす力)
リーダーシップには、「コンセプト力」と「独裁力」の2つの力が求められます。コンセプト力は、未来を見据えたビジョンを描き、組織に方向性を示す力です。
しかし、ビジョンを実現するにはそれを具体的な行動に移す独裁力が欠かせません。この独裁力こそが、組織を動かし、成果を上げるための推進力となります。
参謀にはコンセプト力が重視される一方で、リーダーに最も必要なのは独裁力です。権威を確立し、組織を一体化させることで、変化の激しい環境でも迅速な意思決定と行動が可能になります。このようにして、リーダーは組織のパフォーマンスを最大化し、競争力を維持していくのです。
独裁力を発揮するには、2つの重要なステップがあります。まず、「権力基盤を構築する」ことが求められます。これは、リーダーが信頼を築き、周囲の支持を得ることで、組織内での影響力を確立するプロセスです。
次に「動員力を高める」ことが必要です。リーダーは組織内のメンバーを適切に動員し、組織全体を一致団結させて、ビジョンを現実のものとする力を持たなければなりません。
このような独裁力を体現したリーダーの一例が、アップル社の共同創業者スティーブ・ジョブズです。ジョブズは革新的な製品ビジョンを描き、それを社内で共有し、製品開発から市場投入まで組織全体に浸透させました。
一人の意思決定権者の意向が製品の細部にまで反映されているアップルのような製品なのか、それとも組織が細分化し、それらの組織間の力関係で物事が決まっていく「中心不在の組織」によって生み出された製品なのかが、成否を分けているというのが今の状況です。
彼は、単なる独裁者ではなく、ビジョンを現実のものとするための強力なリーダーシップを発揮し、アップルを世界有数の企業に押し上げました。
彼のリーダーシップは、単なる権威や命令ではなく、従業員を巻き込み、共に目標を達成する独裁力の好例です。 現代のビジネス環境では、迅速な意思決定が競争優位を確立する上でますます重要になっています。変化の激しい市場においては、即座に対応し、結果を出すことが企業の存続に直結します。
そのためには、リーダーが確固たるビジョンを持ち、それを組織全体に浸透させ、実行力を高めることが求められます。単にビジョンを掲げるだけでなく、それを実現するための実質的なリーダーシップ、つまり独裁力が欠かせないのです。
このように、現代のリーダーにはコミュニケーション能力やビジョン構築能力だけでなく、組織を動かすための実質的な力、つまり独裁力が強く求められています。変化を嫌う抵抗勢力は常に存在しますが、リーダーはそのような障害を乗り越え、組織全体を動かす力を発揮しなければなりません。こうしたリーダーシップがあって初めて、組織は変化に対応し、持続的な成長と競争力を維持することができるのです。
権力の原則を活用し、独裁力を身につける方法
正しい戦略を立てるだけでは、部下も上司も生き延びられない。
正しい戦略を立てるだけでは、組織を成功に導くことはできません。企業が成長を続けるためには、リーダーが迅速に意思決定を行い、組織全体を動かす力が必要です。従来の日本的な経営は、関係者の合意形成を重視する慎重なプロセスが特徴ですが、急激な市場変化やテクノロジーの進展には対応が遅れがちです。
この状況を打破するには、リーダーが独裁力を発揮し、迅速な決断と即時の実行を促す必要があります。 変革が求められる場面では、迅速なリーダーシップが競争力の鍵となります。決断が遅れると機会を逃し、組織全体が変化についていけなくなるリスクが高まります。
しかし、独裁力には大きな責任が伴います。リーダーは組織の利益を最優先に考え、意思決定が個々のメンバーに与える影響も慎重に見極める必要があります。権力を振るうだけではなく、その結果に責任を持ち、必要に応じて修正を加える柔軟性が求められます。
権力が目的化すると、リーダーの判断が個人的な利益に左右され、組織の目標達成を妨げる危険性もあります。 したがって、権力は組織のビジョンを実現するための手段として、冷静かつ慎重に行使されるべきです。
自分の権力基盤を強化するにはコア・メンバーの数を絞り、少数のメンバーに利益を配分し自分のコントロール下に置いたほうがいい。しかし、組織の戦闘力を高めるには、幅広い支持、意欲や参加意識が必要、ということです。
権力を維持し、効果的に活用するためには、「権力の法則」に従うことが重要です。これらの法則は、組織の内部で権力基盤を強固にするための戦略的な原則として機能します。HPの元CEOであるカーリー・フィオリーナ氏が実施した一連の施策は、まさにこれらの法則を忠実に体現したものといえます。
法則1 コア支持層の数をできるだけ小さくする
権力を維持する上での基本は、最小限のコア支持層に依存することです。支持基盤を狭めることで、リーダーは自身の影響力を集中させ、統制を強化できます。フィオリーナ氏はこの法則を実践するために、HPの取締役会の人数を削減しました。
これは、意見の多様性や対立を減らし、自身の意志を迅速かつ確実に反映させるための動きでした。支持層を絞り込むことで、権力の集中化が実現され、意思決定のスピードが上がる効果を得ています。また、コアメンバーは常にモニターし、反対勢力をつくらないようにすべきです。
法則2 第一層を常に不安定な状態に置く
権力者は、直接の部下である第一層を不安定な状態に置くことで、リーダーシップを揺るぎないものにすることができます。これにより、第一層のメンバーは自分の地位を守るためにリーダーに忠誠を誓い続ける必要があるのです。フィオリーナ氏は、取締役の役職を不安定化する施策を採り、常にその地位が保証されない状況を作り出しました。これにより、取締役はフィオリーナ氏に対して依存せざるを得なくなり、彼女の権威はさらに強化されました。
法則3 第二層の予備軍を増やし、代わりがいくらでもいる状況をつくる
権力を持続させるためには、第一層にプレッシャーを与える存在として、第二層の予備軍を拡大することが重要です。フィオリーナ氏は、コンパックとの合併を通じてこれを実現しました。合併によって多くの新しい人材がHPに加わり、第一層のメンバーに「自分のポジションはいつでも誰かに取って代わられる可能性がある」という危機感を与えました。このような状況を作ることで、彼女は組織内の競争を活性化させ、全体の効率を高めつつ、自らの影響力を保持することに成功したのです。
法則4 コア支持層にはきちんと報いる
リーダーが忠誠心を確保し続けるためには、支持層に対して目に見える形での報酬を提供する必要があります。フィオリーナ氏は、自身のコア支持層に対して適切な報酬や昇進の機会を与えることで、忠誠心を維持しました。この戦略により、彼女の最も近いサポーターたちは、彼女のビジョンを支持し続け、組織全体を彼女の方針に従わせるための力となりました。
法則5 大きな支持連合をつくれ
リーダーのビジョンを共有し、それを実現するためのサポート体制を構築することが重要です。その一環として、大きな支持連合を作る必要があります。コア支持層だけでなく、それに続く一般社員の動員力が必要になります。
ブラック企業どころか、ダイナミックな意思決定を可能にする強い権力基盤と、幅広い従業員の動員を両立している優良企業と言えるのです。
動員力とは、リーダーの意思決定を補完し、組織の方向性を支える役割を担う力のことです。幅広い社員を動員することで、リーダーが一人で全責任を背負う負担が軽減され、組織全体が目標に向かって一体となる体制が整います。
独裁力における社外取締役の役割とは?
リーダーの権力基盤を社外に確保することにより、社内での権力行使を容易にする、という役割を果たすには、「社外」かつ「取締役」でなければならないのです。
現代の競争環境では、変化に迅速に対応できる組織だけが生き残ります。独裁にはその弊害が指摘されることが多いものの、適切に活用すれば強力な武器となります。特に、意思決定のスピードと一貫性を確保するためには、独裁的なリーダーシップが持つ決断力が重要です。
しかし、その実現にはリーダーの権力基盤をしっかりと構築する必要があります。 社外取締役は、従来の不祥事防止やガバナンス機能にとどまらず、リーダーの権力を強化するという新たな役割を果たします。彼らがリーダーの権力基盤を社外に構築することで、社内での改革や重要な意思決定がよりスムーズに行えるようになります。
社外に確固たる支持基盤があれば、社内の合意形成にかかる時間を最小限に抑えつつ、リーダーが求める方向性を迅速に推し進めることが可能になります。 社内でのみ権力基盤を維持しようとするリーダーは、改革を進める前に慎重なコンセンサスづくりを求められがちです。
しかし、その過程は時間がかかり、環境の変化に即座に対応できなくなる危険性を孕んでいます。また、社内の反発により独断的との批判が強まると、最悪の場合リーダーの解任につながる可能性もあります。このようなリスクを回避しつつ、強力なリーダーシップを発揮するために、社外取締役の存在は重要な意味を持つのです。
権力の保持は、目的を達成するための手段として不可欠です。その効用を冷静に評価すれば、権力を適切に強化し活用することの重要性が見えてきます。強力なリーダーシップは、時代や国を問わず成功する組織に共通する要素です。現代の競争環境においても、独裁力を恐れずに使いこなすことで、組織は変化に適応し、持続的な成長を遂げることができます。
社外取締役という存在を戦略的に活用することで、リーダーの権力基盤を強化し、組織全体を勝利へと導くことが可能になるのです。
現代の組織における意思決定と実行の本質は、ビジョンとリーダーシップの調和にあります。明確なビジョンを示し、それを強力に組織全体に浸透させるリーダーこそが、具体的な成果を生み出す鍵を握っています。このようなリーダーには、迅速かつ質の高い意思決定を行い、組織を成功へと導く力(独裁力と動員力)が求められます。
組織の目標を達成するためには、リーダーの強いリーダーシップとメンバーの協力が共に機能することが不可欠です。この連携によって、現代の企業は変革を続け、成長し続けることができるのです。
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