厚利少売  薄利多売から抜け出す思考・行動様式 (菅原健一)の書評

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厚利少売  薄利多売から抜け出す思考・行動様式
菅原健一
匠書房

厚利少売  薄利多売から抜け出す思考・行動様式 (菅原健一)の要約

従来の薄利多売から、価値を最大化し適正な対価を得る「厚利少売」への転換が進んでいます。顧客の深いペインに向き合い、本質的な価値で課題を解決することで、共感者が集まり、持続可能な成長が実現します。それは単なる商売を超えた、価値創造の営みとなり、結果、安売りから脱却できるようになります。

利益を重視する「厚利少売」とはなにか?

「厚利少売」は、その逆です。「提供する価値に徹底してこだわり、少なく売って、大きく儲ける」が特徴です。 製品・サービスの価値を高めるとともに、その高い価値を提供するために、あえて供給数をしぼる。(菅原健一)

近年、ビジネスの潮流は大きな変化を迎えています。従来の「薄利多売」型のビジネスモデルから脱却し、より持続可能で利益率の高い「厚利少売」型のビジネスモデルが注目を集めています。この新しい考え方は、単なる売り方の変化にとどまらず、企業と顧客の関係性や価値の在り方を根本から再構築するものです。

株式会社Moonshotの菅原健一氏が提唱する「厚利少売」のコンセプトは、こうした時代の流れに即した考えで、ビジネス成長を加速してくれます。 ビジネスにおいて利益を追求することは、決して恥ずべきことではありません。むしろ、適切な利益を確保することこそが、持続可能なビジネスの基盤となります。

利益がなければ、企業は従業員の生活を支えることも、製品やサービスの品質を向上させることも、社会に貢献することもできません。「厚利少売」は、この当たり前の事実に正面から向き合い、価値に見合った適切な対価を得ることの重要性を説いています。

従来の「薄利多売」は、大量生産・大量消費の時代を象徴する戦略でした。スーパーマーケットの特売品や100円ショップに代表されるように、低価格で大量に販売することで利益を確保するモデルです。この戦略は、規模の経済を活用し、販売量の増加によってコストを下げることで成立していました。

しかし、現代の市場環境では、このモデルは多くの課題に直面しています。大量の在庫リスク、価格競争による利益率の低下、ブランド価値の毀損、そして環境負荷の増大などが挙げられます。

一方、「厚利少売」は、これらの課題を解決する新しいアプローチを提示しています。商品やサービスの価値を最大限に高め、選ばれる存在になることを目指します。具体的には、価格を上げ、顧客数を減らし、限られた顧客により良い価値を提供することが軸となります。このプロセスを繰り返すことで、持続的な成長と利益率の向上を両立させるのです。

適切な利益を確保することは、顧客にとっても利点があります。企業が健全な利益を得ることで、製品やサービスの継続的な改善が可能となり、より良い価値を提供し続けることができます。また、十分な利益があれば、企業は存続でき、顧客は安心してその製品やサービスを利用し続けることができます。

商売の本質は「困っている人を助ける」です。「自分がこうしたい」よりも「この人たちを助けたい」と思えると、相手目線での価値提供になりますし、仲間やファンも増えやすいので持続可能性が高まります。

商売の本質的な価値は、相手が抱える本当の課題を解決することにあります。「困っている人を助ける」という視点は、単なるビジネスの手法を超えて、持続可能な価値創造の根幹となります。相手が抱える深いペイン(痛み、悩み、課題)に向き合い、それを解決する本質的な価値を提供することで、顧客の人生や事業に大きな変化をもたらすことができます。

「自分がこうしたい」という自己中心的な発想ではなく、「この人たちを助けたい」という他者への真摯な関心から生まれるビジネスは、自然と共感者や支援者を集めます。そうした仲間やファンの存在は、ビジネスの持続可能性を高める重要な要素となります。

なぜなら、本質的な価値を理解し、共感してくれる人々は、単なる顧客以上の存在として、ビジネスの成長を支える力となるからです。 顧客の人生や事業により大きな変化をもたらすことができれば、それに見合った対価を得ることも可能になります。

これは、提供する価値と受け取る対価の自然な均衡であり、決して高額な価格設定を正当化するものではありません。むしろ、真に価値ある解決策を提供することで、顧客自身が進んでその価値に見合った対価を支払う関係性を築くことができるのです。

アップルウォッチも厚利少売の好事例

誰しも最初は高い値付けに躊躇しますが、「本質価値によって相手に訪れる変化量」と「責任をもって提供すること」を伝えれば、買ってくれる相手が1人(1社)は必ず見つかります。

価格設定は多くの事業者にとって最も悩ましい課題の一つです。特に、高い価格を設定することへの不安や躊躇は、誰もが経験する感情です。しかし、「厚利少売」の考え方は、この価格設定の問題に対して新しい視点を提供しています。 商品やサービスの価値は、単なる機能や性能だけでなく、それによって顧客の人生や事業にもたらされる変化の大きさによって決まります。

たとえば、ある研修プログラムが受講者のキャリアを大きく前進させるものであれば、その価値は受講料をはるかに超えるものとなります。また、新しいソフトウェアが企業の業務効率を劇的に改善するものであれば、その投資は十分に正当化されます。

重要なのは、提供する価値に対して強い責任感を持つことです。高い価格設定は、提供者側にも高い責任が伴います。顧客の期待に応え、約束した価値を確実に届けることへのコミットメントが不可欠です。この責任感こそが、価値の裏付けとなり、顧客からの信頼を獲得する基盤となります。

従来の薄利多売型のビジネスモデルでは、価格競争が中心となり、結果として提供できる価値も限定的になりがちです。大量の広告投資や販促活動に資金を投じなければならず、本質的な価値向上への投資が困難になります。また、常に新規顧客の獲得に追われ、既存顧客との関係性が希薄化する問題も生じます。

一方、厚利少売型のアプローチでは、商品やサービスの本質的な価値を追求し、その価値に見合った適正な価格を設定します。たとえ最初は1人や1社しか理解者がいなくても、その価値を真に理解し、評価してくれる顧客は必ず存在します。

そして、その顧客との深い信頼関係を構築することで、持続的な成長の基盤を作ることができます。 価値の伝え方も重要です。単なる機能や仕様の説明ではなく、顧客にもたらされる具体的な変化や成果を明確に示すことが求められます。それは、売り手と買い手の関係を超えて、共に価値を創造するパートナーシップへと発展する可能性を持っています。

厚利少売のモデルが最も象徴的に体現されているのが、アップルウォッチの成功です。アップルウォッチの成功は、「厚利少売」から始まり、価値の浸透とともに幅広い顧客層に支持される製品へと進化していった典型的な例といえます。

初期のアップルウォッチは、最新テクノロジーを求めるイノベーター向けの高価格帯スマートウォッチとしてスタートしました。しかし、アップルは製品の本質的な価値を「健康管理」という普遍的なテーマに定めることで、価格の高さにも関わらず、より幅広い顧客層からの支持を獲得することに成功しました。

高度なセンサー技術と直感的なインターフェースの組み合わせにより、アップルウォッチは専門知識がなくても簡単に健康状態をモニタリングできるデバイスとなりました。この革新的な価値提案は、まず健康意識の高い層に強く支持され、製品の価値を市場に浸透させる原動力となりました。

注目すべきは、アップルウォッチの利用者層が時間とともに自然な広がりを見せた点です。最初はテクノロジーに精通した層が主要な顧客でしたが、製品の本質的な価値が口コミを通じて伝播するにつれ、健康に関心を持つ女性やシニア層へと支持基盤が拡大していきました。これは、アップルウォッチが提供する価値が、年齢や性別を超えて普遍的に受け入れられたことを示しています。

たとえば、アクティビティリングは、利用者が日々の活動量を視覚的に把握できるよう設計されています。この機能は、ただのデータ表示にとどまらず、健康的な行動を促すモチベーションツールとして働きます。また、心拍数や血中酸素濃度の測定機能は、個々の利用者にとって極めて個人的で重要な健康情報を提供します。これにより、アップルウォッチは利用者に対して深い感情的価値を与え、「なくてはならない存在」へと進化していきました。

広告戦略の違いも特筆すべき点です。薄利多売型のビジネスでは、大量の広告投資や販促活動が不可欠です。常に新規顧客の獲得を目指し、価格訴求型の広告を展開します。一方、アップルウォッチに代表される厚利少売型のビジネスは、口コミや利用者の実体験を重視したマーケティングを展開します。製品自体の価値が高いため、利用者自身が自然と情報を拡散し、新たな顧客を呼び込むのです。

厚利少売をするときは、「いまのお客さんに売らなきゃいけない」という思い込みを捨てることも重要です。薄利多売型のビジネスでは、既存顧客の維持に執着しがちですが、これは価値の向上を妨げる要因となります。より高い価値を求める新しい顧客層を開拓することで、ビジネスの成長が可能となるのです。

このように、「厚利少売」は単なる価格設定や販売戦略の変革ではなく、商品やサービスがもたらす価値そのものに焦点を当てたアプローチです。その根幹には、「価値とは相手にもたらす変化の大きさ」という考え方が流れています。

アップルウォッチが示すように、ストーリーや意味、本質的価値を持った商品やサービスは、顧客との深い関係性を生み出し、持続可能な成長を可能にします。 また、厚利少売型のビジネスは、環境や社会への配慮という面でも優位性を持ちます。必要以上の生産や在庫を持たず、資源の無駄遣いを抑制できます。

顧客との強い関係性は、製品の長期利用や適切なメンテナンスを促進し、結果として環境負荷の低減にもつながります。 この哲学的な転換は、現代の企業が直面する持続可能性の課題に対する解決策となると同時に、競争の激しい市場における新たな道筋を示しています。

それは、単なる利益追求を超えて、企業と顧客、そして社会全体の持続的な発展を実現する可能性を秘めているのです。

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この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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