経済学者のすごい思考法 子育て、投資から臓器移植、紛争解決まで(エリック・アングナー)の書評

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経済学者のすごい思考法 子育て、投資から臓器移植、紛争解決まで
エリック・アングナー
早川書房

経済学者のすごい思考法 (エリック・アングナー)の要約

エリック・アングナー教授は、経済学を社会全体の幸福を追求する学問として定義しています。本書では、経済学が提供する選択肢の判断材料を活用することで、私たち一人一人の幸せと社会全体の発展を両立できることを示しています。時間や人間関係の価値も考慮した総合的な視点から、より良い未来への道筋を提示しています。

経済学が未来をよりよくできる理由

経済学は、わたしたちはいまどこにいるのか、どうやってここまでたどり着いたのかについて示唆に富む分析を行なうだけでなく、世界をよりよいところにする、つまり、人間が豊かに繁栄していけるところにするのを後押しする道具も提供してくれる。(エリック・アングナー)

ストックホルム大学のエリック・アングナー教授は、経済学を「社会全体の幸福を追求する学問」だと定義し、私たちの日常生活から社会の大きな課題まで、幅広い視点で経済学の可能性を示しています。

25年以上の研究教育経験を持つアングナー教授は、赤ちゃんの寝かしつけという身近な課題から、仕事選び、貯金や投資の方法、さらにはコミュニティ作りまで、私たちの人生における重要な選択に経済学がどのように貢献できるかを具体的に解説しています。これは経済学が単なる市場分析や利益追求の手段ではなく、私たちの生活をより豊かにする実践的な知恵を提供できることを示しています。

現代社会は気候変動、格差、飢餓、パンデミックなど、複雑な課題に直面しています。教授はこれらの課題に対して経済学的な視点から解決策を見出そうとしています。

経済学は個人の行動とそれが社会にもたらす結果を研究する学問である。人類が直面している大きな課題はどれも、個人であれ集団であれ、人間の行動によってもたらされている面がある。戦争、気候変動、汚染、差別などは、人間が引き起こしたものだ。たとえそうでなかったとしても、解決策には人間の行動がかかわってくる。

従来の育児書とは一線を画すアングナー教授の著書は、経済学者独自の視点で育児を捉え直すことから始まります。これは単なる育児指南にとどまらず、人間の行動と社会システムの相互作用を理解するための新たな視座を提供しています。

本書の特徴は、様々な分野の研究成果を見事に融合させている点です。貧困撲滅の章では、ノーベル経済学賞受賞者のアビジット・バナジーとエステル・デュフロの研究が詳しく紹介されています。彼らの実証的なアプローチは、政策立案者や現場の実務者に大きな影響を与え、具体的な成果を生み出しています。

実際、貧困層は現金を給付することで、食費の割合が高まり、影響状態がよくなり、教育費や医療費も増えているといいます。

介入だけで貧困が魔法のように解消するわけではない。全員が救われるわけでもない。それでも、欠乏の罠から逃れる手助けをすれば、平均すると、その人たちの人生が変わり、持続的な貧困から抜け出せるようになる。

「介入だけで貧困が魔法のように解消するわけではない。全員が救われるわけでもない」とアングナー教授は指摘します。しかし同時に、貧困層に足りないお金を与えることで、その人たちの人生が変わり、持続的な貧困から抜け出せるようになるという希望も示しています。

この視点は、経済学が冷徹な数値分析の学問ではなく、人間性に根ざした実践的な知恵を提供する学問であることを明確に示しています。

アングナー教授は、人間が必然的に犯す間違いについて、それを完全に避けることは不可能だと説きます。 しかし、認識的な謙虚さを持つことで、私たちは自信過剰になることを防ぎ、重大な失敗を回避できる可能性が高まります。人間は認知バイアスにより、自分の能力や判断を過大評価しがちです。

この傾向に対して、教授は具体的な対処法を提示しています。 フィードバックしてくれる仲間に感謝を伝えることで、自信過剰は防げます。

トラブルが起こった際には、「いったい何が起きたのか」「どういった経緯でこのような結果になったのか」という事実関係の把握から始めます。次に「どうすれば防げたのか」という予防的な視点での分析を行います。そして最後に、「同じことが二度と起きないようにするために何ができるか」という未来志向の対策を考えます。このプロセスをチームで共有し、実践することで、エラーを最小限に抑えることができます。

お金持ちになるためにも経済学は役立ちます。幸せな生活を手に入れるためには、「貯金」「インデックスファンドへの投資」「借り入れの慎重な管理」「スキルの向上」の4つが大切だと著者は指摘します。これらを意識し、合理的な選択をすることで、経済的な安定と心の余裕が生まれ、より豊かな人生につながります。

まず、貯金は将来の安心感を生み出します。急な出費にも落ち着いて対応できるため、日々のストレスが減り、心の平穏を保ちやすくなります。

次に、インデックスファンドへの投資は、長期的に資産を増やし、経済的なゆとりをもたらします。市場全体の成長に合わせた堅実な投資は、安心感とともに未来への期待感も高めてくれます。

借り入れは慎重に管理することで、無駄なストレスや返済の重圧を避けられます。計画的に利用すれば、経済的な自由を保ちながら、人生の選択肢を広げることができます。

そして、スキルを磨くことは、自分自身の可能性を高め、将来の収入源を増やす助けになります。金融リテラシーを向上させれば、賢いお金の使い方や投資ができるため、心の安定と自信を手に入れやすくなります。

これらの行動は、個人の幸せだけでなく、周囲の人々やコミュニティ全体にも良い影響を与えます。経済的に自立し、安心感を持った人が増えることで、社会全体が健全で幸福感に満ちたものになるでしょう。アングナー教授も、金融リテラシーの向上が人生の質を高め、より豊かな未来につながると述べています。

幸福になるための経済学の活用法とは

経済学者は、信頼できる情報とそうではない情報を選り分ける訓練を積んでいる。信頼できる情報は、適切に設計された調査から生まれる。信頼できない情報は裏づけに乏しく、体系化されていない。また、データから因果関係を導く、つまり、なにがなんの原因であることを明らかにする訓練を受けている。

経済学者は信頼できる情報を見分け、因果関係を導き出す訓練を受けており、情報過多の問題に対処する手助けができます。また、個人の選好の違いを認識することで、より生産的な対話が可能になることを示唆しています。

幸福度の測定に関して、ホーネル・ハートは「多幸感メーター」を考案し、人々の幸福度を追跡調査することを提案しました。その後、リチャード・イースタリンは、社会内では裕福な人のほうが貧しい人より幸福度が高いものの、社会全体が豊かになっても幸福度はあまり上昇しないという「イースタリンのパラドクス」を発見しました。

幸福と経済学についての議論は、私たちの生活に直接的な示唆を与えています。世界中で行われた大規模な調査では、幸福度は国や経済状況に大きく左右されることがわかっています。ギャラップ社が実施した調査によると、幸福度の評価には「キャントリルのはしご」という手法が用いられ、参加者は自身の幸福度を0点から10点で評価します。調査対象となった149カ国のうち101カ国で、平均幸福度が中間点の5点を上回りました。

最も幸福度が高かったのはフィンランドで、穏やかな社会が特徴です。一方、アフガニスタンは戦争の影響で最下位でした。

幸福に関する科学は、人間の幸福が不幸よりも遥かに多いと説いています。データによれば、繁栄する地域に住む大多数の人々は既に幸福を達成しており、不幸よりも幸福の総量が多いことが示されています。 経済学は幸福とお金の関係についても詳しく調べています。一般的に、貧しい人よりもお金持ちのほうが幸福度が高いことがわかっています。

1974年にリチャード・イースタリンが示したように、社会的地位が高い人は、平均して低い人より幸福度が高いのです。この関係は因果的に解釈され、貧しい人が突然裕福になれば、幸福度は大幅に向上します。 しかし、所得と幸福の関係には限界もあります。

経済学者ダニエル・カーネマンとアンガス・ディートンは、アメリカでは世帯所得が7万5000ドルに達すると、それ以上の収入が幸福度に与える影響は少なくなると結論づけました。所得が増えても幸福度が頭打ちになる「飽和点」が存在するという考え方です。

一方、スティーヴンソンとウォルファーズは、飽和点は存在せず、収入が増えれば幸福度も上昇し続けると主張します。ただし、お金で得られる幸福の増加は、豊かになるにつれて少なくなっていくことは間違いありません。

幸福の経済学が示すもう一つの重要なポイントは、富の再分配の効果です。お金の限界幸福が逓減するため、貧しい人にお金を渡すほうが、社会全体の幸福度を向上させることができます。古典的功利主義者のジェレミー・ベンサムも、富の平等が幸福の総量を増加させると指摘しました。したがって、政治家が貧困層の支援を優先する政策を行うことは、幸福の経済学にかなった行動です。

個人レベルで見ると、働く時間と幸福度の関係も重要です。働く時間を増やすことで収入が上がる一方、家族との時間や余暇が減ることで幸福度が下がる可能性があります。

経済学では、働く時間を増やすことによる利益と、その代わりに失うものを比較する「機会費用」という概念が重要です。例えば、貧しい人が働く時間を増やすことで得られる利益は大きいですが、すでに裕福な人にとってはその利益は小さく、機会費用が大きくなります。

研究によると、長時間労働はストレスや疲労を増加させ、仕事と家庭のバランスを崩します。余暇を重視する国ほど幸福度が高いことも確認されています。オランダやオーストラリア、イギリスなどはその好例です。

幸福の経済学を活用するためには、自分にとって何が最も価値のある選択かを冷静に判断する必要があります。働く時間を増やすことによる収入と、そのために犠牲にする時間や活動のバランスを考慮し、最適な選択をすることが重要です。

アングナー教授の視点は、経済学が冷徹な数値分析の学問ではなく、人間性に根ざした実践的な知恵の宝庫であることを示しています。それは、私たち一人一人が自分らしい幸せを見つけ、より良い社会を築くための強力なツールとなります。

特に注目すべきは、経済学が提供する選択肢の多様性です。同じ課題に対しても、個人の状況や価値観に応じて異なるアプローチが可能であることを示しています。これは、画一的な解決策ではなく、個々の文脈に即した柔軟な対応を可能にします。

本書を通じて、経済学は私たちの日常生活における意思決定から、社会全体の課題解決まで、幅広い場面で活用できる実践的な知恵を提供していることが明らかになります。それは、より幸福な個人生活と、より良い社会の実現に向けた確かな道標となるのです。

経済学の真価は、人々の幸福追求と社会の持続可能な発展を両立させる方法を示すことにあります。アングナー教授が提示する新しい経済学の視点は、私たちが直面する複雑な課題に対する包括的な解決策を見出すための重要な指針となっているのです。

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この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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