老後ひとり難民
沢村香苗
幻冬舎
老後ひとり難民 (沢村香苗)の要約
老後難民を避けるには早めの準備が必要です。地域の人々との関係づくり、計画的な貯蓄と制度活用、そして具体的な老後プランの作成が大切です。著者は、小さな行動から始め、自分らしい老後を描きながら準備を進めることの重要性を説いています。今から一歩ずつ取り組むことで、不安の少ない充実した老後生活を実現できると言います。
「老後ひとり難民」とはなにか?
身寄りのない高齢者の老後や最期には、解決の難しい問題が山積しています。(沢村香苗)
少子高齢化が進む現代日本において、老後の生活に対する不安は多くの人が抱える共通の課題となっています。高齢者心理学、消費者行動論のスペシャリスト沢村香苗氏は、まさにこの問題に焦点を当て、高齢化社会における孤立という現実を深く掘り下げています。
本書は、身寄りのない高齢者が誰にも頼ることができず、困難な状況に陥る状況を「老後ひとり難民」と定義し、私たちに警鐘を鳴らしています。人生100年時代と言われる中で、誰もが直面しうるこの問題について、深く考える必要がああります。私も60歳を越えたあたりから、高齢化のリスクについて真剣に考えるようになりました。
かつては家族や地域社会が支えとなっていた高齢者も、現代ではその繋がりが希薄になり、頼れる人がいない状況が増加しています。結婚しない人、離婚や死別で伴侶を失った人、子供を持たない人が増加する中で、「老後ひとり難民」は決して他人事ではありません。
2023年の統計では、亡くなった高齢者のうち約15人に1人が身寄りがないか、身元が判明しない状態で行政によって引き取られ、火葬されていると言います。
高齢者の居住形態にも大きな変化が見られます。世帯主が65歳以上では、2020年には「単独」の割合が35.2%、「夫婦のみ」の割合が32.2%と、高齢者だけで暮らす世帯が実に7割近くにのぼっています。
「夫婦で暮らしているなら、さほど心配はいらないのでは?」と思う方もいるかもしれませんが、高齢の夫婦2人暮らしは、一見普通に生活しているように見えても、実は大きなリスクを抱えていると著者は指摘します。
老老介護が問題になっていますが、いずれかが亡くなれば独居になってしまいますし、夫婦で支え合っている状態では、どちらかが入院するだけでも、たちまち日常生活に支障が出るのです。
「老後ひとり難民」が直面する困難は「入院や入所のときに身元保証人がいないこと」だけではありません。本当の問題は、老後のさまざまな場面で、寄り添い、支えてくれる人がいないことです。 75歳以上の高齢者に限れば535万人、実に「3人に1人」は食料品の買い物に困難を抱えています。
また、国立社会保障・人口問題研究所の「生活と支え合いに関する調査」(2019年)によれば、高齢の独居男性では約3割が、日常的な「ちょっとした手助け」さえ頼める人がいないと回答しています。これが「介護や看病の際に頼れる人」となると、そのような人がいない割合は、高齢の独居男性の約6割にのぼります。
「夫婦のみ(どちらかが高齢者)」の世帯や高齢者以外も含む複数人世帯でも、介護や看病の際に頼る人がいないという回答が3割ほどにのぼり、より手間のかかる支援を必要とする場面で、頼れる人が不足している実態が浮き彫りになっています。日常生活が立ち行かなくなったとき、取れるすべはあまり多くないというのが現状なのです。
身元保証が大きな問題!
医療や介護が必要になったとき、重大な意思決定が求められるとき、亡くなるとき、そして亡くなったあとに生じるさまざまな問題を解決するには、高齢者を支援したり、ときには代わりに問題を解決したりする人の存在が不可欠です。身寄りのない高齢者の老後や最期には、解決の難しい問題が山積しているのです。
「老後ひとり難民」が、いずれ直面せざるをえないのが「身元保証」の問題です。高齢期は、心身機能の低下にともなって、入院や転居、施設入所など「居場所の移動」が避けられない場面が多くあります。そして、このような場面では、一般に「身元保証人」が求められます。高齢者の身元保証人が、大きな問題として浮上しやすいのはこのためです。
高齢期に身元保証人が求められる主な場面は、入院するときと、介護施設や新しい賃貸住宅などに移るときです。身元保証人がいないと、金銭面での未払いリスクに直面しますし、入院先では意思疎通ができなくなった場合に治療計画が決められなかったり、死後の手続きができなくなったりします。身体が不自由になったときに、身のまわりの世話や退院時の手続きができないリスクもあります。
身元保証人には、本人の意思決定を支援したり、本人のこれまでの考え方や意向など、治療チームが方針を検討するのに必要な情報を伝えることが求められます。また、病状が悪化して延命治療が必要になった場合なども、本人の意思を推測するための情報提供や、本人の意思伝達などの支援が重要な役割となります。
さらに、入院中の日常的なケアについても、身元保証人の助けが必要となることがあります。病院内でのつき添い、差し入れ、洗濯物の交換など、家族がいれば当然サポートしてもらえるようなことも、「老後ひとり難民」の場合は、誰がやるのかが問題になるからです。 身元保証人のような役割を果たす人は確かに必要ですが、保証人として署名できる人がいなければ入院が認められないというのは、やはり問題があるとらえられています。
このため国や自治体は医療機関に対し、身元保証人がいないことだけを理由に入院を拒否してはいけないという通知を出したり、身元保証人がいない場合の医療機関の対応のガイドラインを示したりしています。しかし日々の医療の現場では、身元保証人の役割を担う人が欠かせないこともあり、ガイドラインが現場の対応に反映されているとは言い難い状況が続いています。
本来、高齢者施設の設置には行政の認可や届け出が必要ですが、そういった手続きを踏まずに運営されている施設は少なくありません。そのような無届け施設のなかには、サービスの質が低かったり、利用者の権利が守られていなかったりするところもあります。
低所得者向けの施設のなかには、入居者の預金通帳等を管理する契約になっているところもあり、いわゆる「貧困ビジネス」に近い構造になっているケースも見受けられます。特に行き場のない「老後ひとり難民」の場合、年金や生活保護の範囲で入居できる無届け施設に入らざるをえなくなることもあるようです。
平均寿命の延伸により「老後」が長くなるなか、配偶者や子が先立つケースもめずらしくなく、「必ず支えてくれる誰か」を確保するのは容易ではありません。また、離婚や未婚が増え、既婚であっても子どもをもたないケースもあるなど、家族構成の多様化もこの問題を複雑にする要因の一つといえます。
ライフスタイルの多様化により、家族や地域のしがらみにとらわれることなく、人生の選択肢を自由に選べるようになったことが、個人の幸福追求につながっていることは確かでしょう。自分らしい生き方を選択できることは、とても価値のあることです。しかし、それは同時に、助けが必要なときに頼る人がいない状態に陥るリスクとも、表裏一体なのです。
老後難民にならないための準備とは?
仕事であれボランティアであれ趣味であれ、常に顔を出す場所を持っておくことは、もしものときに周囲の人が「どうして今日は来ていないのだろう」と気づいてくれる可能性を高めます。高齢になっても働いたほうがいいといわれると、「いくつまで働かせるつもりなのか」と思うかもしれません。しかし、社会のなかで誰かの役に立ち続けることができるのは精神的にも張り合いになりますし、そのうえ対価ももらえるのですから、働けるのなら働き続けたほうが幸せなのではないかという気もします。
私たちが老後を安心して過ごすためには、いくつかの準備が欠かせません。老後ひとり難民にならないために、以下の準備を怠らないようにすべきです。
まず、自分に関する情報を整理し、確実に伝わる仕組みを作りましょう。連絡先や医療情報、資産情報を一つのファイルにまとめ、緊急時に必要な情報を財布に入れておくなど、いざというときに自分の情報が適切に伝わるよう工夫することが大切です。
併せて資金管理と社会保障制度の活用も重要です。老後のための貯蓄はもちろん必要ですが、それだけに頼るのではなく、高額療養費制度や成年後見制度などの社会保障制度を理解し活用することで、医療費の負担を軽減し、より安定した生活を送ることができます。
次に重要なのは、地域社会とのつながりを築くことです。町内会やサークル活動、ボランティア活動に参加することで、支え合いのネットワークが生まれます。定期的に同じ場所に顔を出すことで、「今日は来ていないな」と周囲が気づいてくれる関係性ができます。
また、働ける間は何らかの形で働き続けることも有効です。社会との接点を持ち続けることは精神的な健康維持につながるとともに、生活に張り合いをもたらします。人とのつながりは、いざというときの大きな支えとなるでしょう。 これらの準備を早いうちから少しずつ進めることで、より安心して老後を迎えることができます。
さらに、終活やアドバンス・ケア・プランニング(ACP・人生会議)を進めることも重要です。エンディングノートを活用して、延命治療の希望や財産分与、葬儀の形式などを記録しておくことで、緊急時に周囲が適切に対応しやすくなります。事前指示書を準備し、自分の意思を明確にしておくことも、医療や介護の選択において役立ちます。
「もしバナゲーム」は、人生の終末期に関する希望や価値観を、友人や家族と自然に共有できる対話型ゲームです。普段なかなか話題にしづらい「もし意識不明になったら」「延命治療を望むか」といった重要な問いを、カードゲーム形式で気軽に話し合えます。
参加者はカードを引き、そこに書かれた質問について自分の考えを述べていきます。「余命わずかと診断されたら最後の時間をどう過ごしたいか」「何を大切にして生きてきたか」など、深い問いかけを通して、自分の価値観を見つめ直すと同時に、周囲の人にその考えを知ってもらう貴重な機会となります。
最後に、信頼できる専門家や支援サービスとつながっておくことが大切です。弁護士や司法書士、行政書士、身元保証等高齢者サポート事業者と契約しておくことで、一人では解決できない問題が発生したときに適切な支援を受けることができます。
老後の不安を減らし、より豊かな生活を送るためには、これらの対策を早めに講じることが重要です。地域とのつながりを大切にし、資金を適切に管理しながら、自分の将来について具体的な準備を進めることで、安心できる老後を迎えることができるのではないでしょうか。今から少しずつ行動を起こし、自分らしい老後の姿を描いていくべきだと著者は提案します。
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