ひらめきはカオスから生まれる(オリ・ブラフマン , ジューダ・ポラック)の書評

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ひらめきはカオスから生まれる
オリ・ブラフマン , ジューダ・ポラック
ディスカヴァー・トゥエンティワン

ひらめきはカオスから生まれる(オリ・ブラフマン)の書評

カオスを活用し、組織の創造性を高めるには、「余白」「異分子」「計画されたセレンディピティ」の3要素が重要です。「余白」は自由な発想を促し、「異分子」は新たな視点をもたらします。「計画されたセレンディピティ」によって偶然の出会いを意図的に生み出し、革新を促進します。これらを組み合わせることで、効率性と柔軟性を両立した「穏やかなカオス」を組織に取り入れることができます。

イノベーションと創造性を育むためのカオスの3要素

カオスを構成する3要素「余白」「異分子」「計画されたセレンディピティ」を上手に生かすことで、組織に「穏やかなカオス」を導入できる。(オリ・ブラフマン , ジューダ・ポラック)

現代社会においては、效率性と管理が最優先とされる傾向が強く、すべてが細かく規範化され、予測可能なシステムの中で働くことが正しいとされています。しかし、オリ・ブラフマンジューダ・ポラックひらめきはカオスから生まれるは、そのような思考のフレームを挑む姿勢を見せています。

本書の核心となるメッセージは、真のイノベーションと創造性を育むためには、組織に意図的に「カオス」――ある程度の無秩帯と予測不能性――を取り入れる必要があるという点です。

では、組織が意図的にカオスを充分に使うためには、どのような要素が必要なのでしょうか。本書では「余白」「異分子」「計画されたセレンディピティ」の3つが主な要素として提続されています。

「余白」とは、単なる空白ではなく、意図的に作られた創造のための空間を意味します。これは、既存の構造やルールの隙間に生じる、自由な思考や発想が生まれるための領域です。余白があることで、私たちは新しいアイデアを試し、これまでの枠組みを超えた視点を得ることができます。

企業の中には、この余白の力を積極的に活用している例があります。Googleや3Mといった企業では、社員に自由時間を与え、その間に個人プロジェクトに取り組むことを許可しています。3Mの「15%ルール」やGoogleの「20%ルール」は、まさにこの余白の概念を体現したものです。ポストイットの開発やGmailの誕生も、こうした自由時間の中から生まれた成果です。

論理的思考への没頭をいったん中断し、「デフォルト・モード・ネットワーク」を大いに働かせる必要がある。ペンを置き、脳を縛る手綱を放したとき、驚くべき発見の瞬間が私たちに訪れるのである。

このように、余白があることで、既存の業務に縛られない発想が促され、革新的なアイデアが育まれるのです。 歴史を振り返ると、科学や芸術の分野でも、余白の存在が大きな発見や創作を支えてきました。

アインシュタインは、スイスの特許庁で働いていた時期に、学術的な束縛から解放され、自由に思考を巡らせる時間を得ました。この「余白」があったからこそ、彼は後に相対性理論という革命的なアイデアにたどり着くことができたのです。

同様に、文学の世界でも、J・K・ローリングは列車の窓の外を眺める何気ない時間の中で、『ハリー・ポッター』の構想を思いついたと語っています。もし彼女がスケジュールに追われる日々を送っていたら、このアイデアは生まれなかったかもしれません。

余白の価値は、単に「何もしない時間」を持つことではなく、既存のルールや常識から解放され、思考が自由に飛躍する機会を作ることにあります。現代社会では、効率や生産性が重視されるあまり、余白を確保することが難しくなっていますが、創造的な発想を求めるならば、意識的に余白を作ることが不可欠です。余白があるからこそ、新しい発見が生まれ、私たちは未知の可能性へと踏み出すことができるのです。

「異分子」は、組織内に異質な視点をもたらす人材のことを指し、これによって定着化した考え方に疑問を投げかけ、新たな可能性を探求することができます。従来の枠組みにとらわれない発想を生むためには、異なる視点や専門性を持つ人々を積極的に取り入れることが重要です。

この「異分子」の考え方は、実際のビジネスやクリエイティブな分野でも多くの成功例があります。その代表的な例が、任天堂の「マリオ」というキャラクターの誕生です。マリオの生みの親である宮本茂氏は、当時のゲーム開発において主流だった技術畑の出身ではなく、デザイナーとしての視点を持ち込んだことで、まったく新しいキャラクターやストーリー性のあるゲームデザイン・空間を生み出しました。

このように、異分子が組織に加わることで、従来の常識にとらわれない新しいアイデアが生まれ、イノベーションの原動力となることが多くあります。企業においても、異業種の人材を積極的に登用したり、異なる分野の専門家を交えたチームを編成することで、思いもよらない発想が生まれ、競争力を高めることが可能になります。

「計画されたセレンディピティ」は、綿密にお膳立てされた出来事と、まったくの偶然との中間に位置する。

「計画されたセレンディピティ」とは、偶然の出会いや発見を完全に運任せにするのではなく、それが自然に生まれる環境を意図的に整えることを指します。これは、計画的な仕組みと予測不可能な偶然の中間に位置し、ビジネスや組織運営において新しいアイデアやコラボレーションを生み出す戦略として有効です。

企業がこの概念を活用する方法はいくつかあります。企業がこの概念を活用する方法はいくつかあります。その一つが、オープンスペースのオフィスや社内SNSの活用です。こうした環境は、セレンディピティを促進する重要な要素となります。 オープンな職場では、異なるチームのメンバーが自然に会話を始めやすく、思いがけないアイデアの共有が生まれる可能性が高まります。

実際、ニューヨーク市長だったマイケル・ブルームバーグは、自らの執務室を離れ、大部屋に移ることで、多様なメンバーとの議論を活発にし、改革を実践しました。

社内SNSでオンライン上での情報共有が活発になると、他部署のプロジェクトや課題を知る機会が増え、思いがけない協力関係が生まれる可能性も高まります。

「計画されたセレンディピティ」を成功させるためには、偶然の要素に頼るのではなく、意図的に偶然を生み出す仕掛けを作ることが重要です。企業文化の中に「開かれたコミュニケーション」を根付かせることで、社員同士のつながりが強化され、組織全体の創造性が向上します。このような環境を整えることで、偶然の出会いや発見が企業の成長やイノベーションの原動力となるのです。

イノベーションにカオスが不可欠な理由

私たちも、人生に創造性と革新性を呼びこもうとするなら、少しばかりの「カオス」が不可欠だ。それなのに私たちは、管理が行き届いているほうが効率的だと信じこまされている。

歴史を振り返ると、大きな混乱や破壊的な出来事が、新たな時代の扉を開く契機となることが少なくありません。14世紀のヨーロッパで発生したペストの大流行も、その一例です。人口の激減により社会のあらゆる構造が変容し、とりわけ聖職者の不足が教会の人材登用に大きな変革をもたらしました。

これにより、従来は聖職に不向きとされていた大学の卒業生などが採用され、彼らが持ち込んだ人文主義的な思想がルネサンスの礎を築いたのです。

この変化は、芸術や建築、学問の発展にも大きな影響を与えました。例えば、フィレンツェ大聖堂の壮麗なドームの完成は、単なる技術的な進歩ではなく、時代の思潮が生んだ革新の象徴といえます。同時期にバチカン図書館が設立され、知識の集積と普及が進んだことも、ルネサンス文化の爆発的な拡大に貢献しました。

また、ペストによる人口減少は社会全体の労働力を縮小させましたが、これが結果として手作業への依存を減らし、紙の流通拡大と相まって、グーテンベルクの印刷技術革新を可能にしたのです。つまり、ペストによる破壊が新たな知の伝播の仕組みを生み出すきっかけになったのです。

このように、カオスが創造性の源泉となることは歴史的にも証明されていますが、現代の組織においても同じ原理が働きます。特に、数値化の誘惑には注意が必要です。ビジネスの場では、あらゆるものを数値で評価しようとする傾向が強いですが、創造性やモチベーションといった数値では捉えきれない要素も極めて重要です。

また、カオスを無秩序のまま放置するのではなく、コントロールする姿勢が求められます。自由な発想を促す環境を整えながらも、組織としての方向性を見失わないバランスを保つことが大切です。

イノベーションを求めるならば、同質性の高いチームの安定性だけではなく、異なる背景を持つ「異分子」の存在と、偶然の出会いがもたらす新しい刺激を積極的に受け入れることが不可欠です。同じ価値観や経験を共有する仲間と仕事をすることは、意思決定のスピードを高め、ストレスの少ない環境を生み出します。しかし、その快適さが思考の枠を狭め、新しい視点を見失う要因になり得ます。

異分子がチームに加わることで、異なる業界の知見や文化の違いが組み合わさり、予測できなかったアイデアが生まれることがあります。

異なる分野の視点が交わることで、既存の枠組みでは想像もつかなかった解決策が生まれるのです。 また、偶然の要素も重要です。歴史を振り返ると、多くの革新は計画的な努力だけでなく、予測不能な偶然の出会いや出来事によって生まれてきました。こうした偶然のチャンスを活かすためには、多様なメンバーが関わり合い、異なる視点を持ち寄る環境が必要不可欠です。

この異分子の活用について読んでいるうちに、「メディチ・エフェクト」を思い出しました。フランス・ヨハンソンは、創造性やイノベーションを研究する中で、「アイデアは異なる分野の交差点から生まれる」という考えに至りました。

その背景には、15世紀のイタリア・フィレンツェで芸術や文化の発展を支えたメディチ家の存在があります。メディチ家は、さまざまな分野の文化人や芸術家を支援し、彼らの交流を促すことで新たな創造性が生まれる環境を作り出しました。 ヨハンソンは、このような異分野の融合がもたらす創造的な効果を「メディチ・エフェクト」と名付けました。

つまり、異なる分野の知識や視点が交わることで、新しいアイデアが生まれるのです。 もし、あなたが創造的な発想を生み出したいと考えるなら、異なる分野の人々と積極的に関わることが重要です。多様な視点が交わる場に身を置くことで、新たなイノベーションのヒントが得られる可能性が高まります。

パーティでは、単にセレンディピティが起きるのを運に任せるのではなく、あらかじめ集まりの目的を定め、内向的な人ばかりではなく外交的な人も混ぜるなどの工夫をすることが重要だとされています。

一方、会議ではむしろ「沈黙」を取り入れるべきだと著者は述べています。私たちの多くは、意見が活発に交わされることが良い会議だと思い込みがちです。しかし、中には会議での沈黙を恐れ、気をつかってあえて発言する人もいます。

その結果、その場では活気が出るかもしれませんが、議論している問題について各メンバーがじっくり考える「余白」が生まれません。 そこで、会議の時間を半分程度に短縮し、冒頭で「一分間じっくり考えてみよう」と提案することで、それまでとはまったく違ったアイデアが生まれる可能性があります。

リーダーにとって最も重要なのは、カオスを完全に排除するのではなく、組織がそれを受け入れ、活用できる仕組みを整えることです。組織に変革をもたらすためには、秩序とカオスのバランスを見極め、柔軟に対応する力が求められます。

イノベーションを起こすためには、単に「異なる人材を集める」だけではなく、彼らが意見を自由に交わし、偶然の出会いが新しい価値を生むような場を設計することが求められます。異質な要素が交わることで、組織はよりダイナミックに成長し、想像を超える成果を生み出せるのです。

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