数学の言葉で世界を見たら (大栗博司)の書評

written equations on brown wooden board

数学の言葉で世界を見たら
大栗博司
幻冬舎

数学の言葉で世界を見たら (大栗博司)の要約

変化の激しい現代社会において、論理的に考える力が重要になっています。本書は、数学を「世界を読み解く言語」として捉え直し、確率論やガロア理論などを通じてその思考法をやさしく解説します。専門知識がなくても理解できる構成で、ビジネスや日常にも役立つ数学的視点を提供してくれる一冊です。

数学が現代人に重要な理由

このように変わりつつある世界で必要とされるのが、自分の頭で考えることのできる能力だ。(大栗博司)

変化のスピードがますます加速する現代社会において、求められるのは状況を柔軟に捉え、自分の頭で考え抜く力です。そのための基盤となるのが、幅広い教養、すなわちリベラルアーツの素養です。なかでも論理的思考を支える数学は、複雑な現実を整理し、構造的に理解するための有力な手段として、その重要性が高まっています。

古代ローマでリベラルアーツ(自由七科)と呼ばれていた学問体系は、「論理」「文法」「修辞」「音楽」「天文」、そして「算術」と「幾何」の7つに分類されていました。このうち、最初の3つは言葉を用いて説得力ある主張を行うための技術であり、考えを明確に伝える能力の土台とされていました。人間が思考を深めていくには、それを言葉として表現し、他者と共有する力が欠かせません。

そして数学もまた、「言葉」の一つです。単なる計算の技術ではなく、世界の成り立ちを記述し、現象を抽象的・体系的に捉えるための普遍的な言語として、科学・技術のみならず社会のあらゆる分野で活用されています。

物理学者・大栗博司氏の数学の言葉で世界を見たらは、そうした数学の本質を、やさしい語り口で伝えている一冊です。 本書は、著者が自身の娘に語りかけるような形式で構成されており、専門用語や数式に不安を感じる読者でも、無理なく読み進められるように工夫されています。

私のように、数学に久しぶりに触れる読者にとっても、本書は再入門の書籍として非常に有用です。専門的な知識がなくても理解できるよう丁寧に構成されており、数学の考え方や面白さをあらためて思い出すきっかけになります。

 

健康で長生きするためには、特別な方法よりも、当たり前のことを地道に続けることが大切です。バランスの良い食事、適度な運動、喫煙を控えることやシートベルトの着用など、こうした日々の小さな選択が、将来の健康に大きな影響を与えます。 この積み重ねの効果は、確率の考え方を使うとよくわかります。

たとえば、コインを投げるようなシンプルな場面でも、成功する確率がほんの少し高くなるだけで、長い目で見た結果は大きく変わります。勝つ確率が49%のときと51%のときでは、最終的な成果に圧倒的な差が生まれます。 生まれつきの体質など、自分では変えられない要素もありますが、それは「スタート地点の違い」のようなものです。

一方で、毎日の選択によって少しでも有利な方向に確率を傾けることができれば、結果として大きな違いを生み出すことができます。 大きな成功を収めた人も、特別な才能だけでなく、こうした小さな選択を積み重ねてきた結果であることが多いのです。健康に関しても、特別な方法に頼るより、当たり前のことを続けることが、もっとも確実で効果的な方法だと言えるでしょう。

本書に登場するさまざまなテーマは、数学の理論と、私たちの日常にある問題解決をつなぐものです。たとえば第1話では、「先が見えない状況でどう判断するか」という問いに対して、確率の考え方からアプローチしています。ギャンブルの勝ち方や経済の仕組みなどを例に挙げながら、現代社会には「すべての情報がそろっている」場面のほうが少ないことを示しています。だからこそ、確率的にものごとを考える力が、これからの時代にますます重要になっているのです。

第4話では、素数の性質とその応用について紹介されています。素数とは、1と自分自身以外に約数を持たない自然数のことで、古代から現代に至るまで、多くの数学者たちの関心を集めてきました。その出現の仕方には規則性が見いだしにくく、定義は非常にシンプルでありながら、多様な性質を持つことから、数学における研究対象として重要な位置を占めています。

現代では、この素数がインターネットのセキュリティ技術の基盤として活用されています。たとえば、RSA暗号と呼ばれる方式では、大きな数を素因数に分解することの難しさが暗号強度の根拠となっています。情報を暗号化し、安全にやり取りするための仕組みにおいて、素数の数学的性質が実用的に応用されているのです。

こうした応用の背後には、自然数に関する多くの数学的発見があります。素数が無限に存在することを示したユークリッドの証明や、どんな自然数も素因数の積として一意的に表されるという「素因数分解の一意性」、さらにはフェルマーの小定理やオイラーの定理なども、元々は純粋な探究心から生まれたものです。数の性質を深く理解したいという動機が、やがて社会のインフラを支える実用技術につながっていると著者は指摘します。

このように、抽象的で理論的に思える数学が、現実の問題解決や安全な通信手段として実際に使われていることは、非常に興味深い現象です。知的好奇心から始まった数の探究が、現代のインターネット経済を支える仕組みの一部となっているという事実は、数学の力の広がりをあらためて感じさせてくれます。

ガロア理論が学問の可能性を広げた!

難しい方程式を解くためには、使う数の範囲を広げる必要がある。整数係数の1次方程式なら、分数を使えば解ける。2次方程式を解くためには、整数の平方根が、3次方程式では立方根が必要になる。そして、5次以上の方程式では、べき根で表すことのできない数が登場する。

本書で取り上げられている「ガロア理論」は、数学が持つ深い構造性と応用力を実感できる優れた題材です。 ガロア理論とは、「方程式の可解性を“群”という抽象的な構造で捉え直した画期的な理論」です。

これは、代数方程式の解の構造を探る数学の一分野であり、「群」と呼ばれる抽象的な概念を使って、方程式の性質を分類します。 一次方程式や二次方程式であれば、分数や平方根を用いて比較的容易に解を得ることができます。しかし、五次以上の方程式になると、一般的にはべき根だけでは解くことができません。

フランスの数学者エヴァリスト・ガロアは、「どのような数を使えば解が得られるのか」「なぜある方程式は解けないのか」といった問いに対して、“群”という構造を用いて体系的な答えを示しました。 ガロア群は、方程式の中に潜む対称性を見つけ出し、その対称性をもとに、どのような演算や数を導入すれば解にたどり着けるのかを明らかにします。

これは単に解法を提供するにとどまらず、「そもそもその方程式は解けるのか」という根本的な判断基準を与える、画期的な成果でした。このようなアプローチは、単なるテクニックではなく、物事の本質を見抜く数学的思考そのものです。 興味深いのは、「群」という抽象的な概念が、数学の枠を超えて広く応用されている点です。

たとえば、アインシュタインは自然界の法則に対称性が存在すべきだという考えから、特殊相対性理論や一般相対性理論を構築しました。 化学の分野では、分子構造や結晶の分類に群論が活用されており、物質の性質解明に貢献しています。さらに著者の専門の素粒子物理学では、粒子の分類や相互作用の説明に群の理論が不可欠となっており、現代科学の基盤を支えています。

こうした背景を踏まえると、ガロアが生み出した抽象的な「群」の概念が、いかに多くの分野に影響を与えてきたかがよくわかります。

とくにビジネスの現場においては、複雑な問題の中から本質的な構造を見抜き、最適なアプローチを導き出す能力が求められます。ガロア理論に代表される数学的視点は、そうした思考力を養ううえで大いに役立ちます。

本書は、高度な数学理論を扱いながらも、常に一般読者の視点を踏まえて構成されています。数学に苦手意識を持つ読者に対しても、無理なく読み進められる工夫が随所に見られます。一部に難解な数式が登場するため、ハードな部分もありますが、それ以上に、著者の数学への深い愛情と平易な語り口によって、数学の世界への理解を自然に深めることができます。そのため、思考力や問題解決力を磨きたいと考えるビジネスパーソンにとっても、有益な一冊となっています。

数学はしばしば「難解な学問」や「日常とは縁遠いもの」と捉えられがちです。しかし本書は、そうした先入観をやわらげ、数学を「世界の構造を読み解くための言語」として捉え直す視点を提供してくれます。専門知識の有無にかかわらず、知的好奇心を刺激される内容となっています。

最強Appleフレームワーク


この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

Ewilジャパン取締役COO
Quants株式会社社外取締役
株式会社INFRECT取締役
Mamasan&Company 株式会社社外取締役
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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