ロケットの1段目はこれまで何十年も、ペイロードに宇宙まで達する推進力を与えたあとは、海に没したままにされていた。マスクとべゾスにはこれがとんでもない無駄遣いに思えた。まるでニューヨークからロサンゼルスへのフライトのたびに、飛行機を捨てるようなものだ、と。そのふたりが今、ロケットは上に向かって飛ぶだけでなく、下に向かって戻り、目標地点に正確に着陸できることを証明してみせた。(クリスチャン・ダベンポート)
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2人の天才が宇宙を目指す理由
クリスチャン・ダベンポートの宇宙の覇者 ベゾスvsマスクが面白い。ジェフ・ベゾスとイーロン・マスクという対照的な2人の経営者が宇宙事業での成功を目指すノンフィクションは、波乱万丈でとても刺激的な内容になっています。
宇宙開発競争は2人の主人公が登場するまで停滞していました。しかし、今世紀に入ってから、状況は一変します。イーロン・マスクのスペースXとジェフ・ベゾスのブルーオリジンという2つのベンチャー企業がロケットのコンセプトを変えたのです。NASAが過去にできなかった使用済みロケットの垂直着陸を成功させ、再利用可能なロケット開発で、宇宙旅行のハードルを一気に下げたのです。
彼らはアマゾンやペイパルで得た莫大な私財を投じて、宇宙旅行を大衆の手に届くものにしています。これまで国主導で行なわれてきた有人宇宙飛行の限界を打ち破るために、様々なチャレンジを繰り返しているのです。新たな地平を切り拓こうとする2人のドラマチックなストーリーはスリリングで、読んでいて胸が踊ります。2人以外の登場人物も魅力的で、特にヴァージン創業者のリチャード・ブランソンの冒険談は本当にエキサイティングです。
マスクとべゾスの2人の天才は様々なシーンで戦います。訴訟やツイッター、発射台の奪い合いなどで熾烈を極めます。猛烈に突っ走る”兎”イーロン・マスクと秘密主義でゆっくり歩む”亀”ジェフ・ベゾスの行動は対照的ですが、宇宙への思いは共に子供時代に育まれ、ビジネスで成功を築いた後は一気に宇宙ビジネスにシフトしていきます。
将来、子どもたちにこれが精一杯だったなんていいたくない。わたしは子どもの頃、月に基地ができる日や火星旅行が始まる日を心待ちにしてた。それがそうならず、進歩が止まってしまってる。こんなに残念なことはない。(イーロン・マスク)
元々はNASAが行なっていた宇宙産業に2人が参加したのにも理由があります。 NASAによる宇宙開発が遅々として進まなくなった所に2人の天才が宇宙旅行を当たり前にするために加わったのです。宇宙旅行という巨大なビジネスを追求する裏には、子供もの頃からの宇宙への憧れがあったのです。
先行するのはマスクですが、ベゾスも宇宙旅行という夢の実現に向かって、一歩一歩前進を続けています。
このミッションを成し遂げるのには、長い時間がかかるでしょう。わたしたちは順を追って進めていきます。少しずつ前進し、持続可能なペースで投資を続けたいと考えています。ゆっくり着実に行なうことこそ、成功の秘訣です。先に進むほど楽になるなどという誤った期待は抱きません。ステップを小さくし、その数を多くすることで、学習のスピードを速められ、方向を正しく保て、最新の機体が飛ぶのを早く見られます。(ジェフ・ベゾス)
失敗を繰り返しながら、地球の重力との戦う2人の行動は感動的で、登場人物の言葉を読むことで、命をかけた戦いの壮絶さを理解できます。また、このプロジェクトからベンチャー起業家に必要なマインド=あきらめない姿勢の重要性も学べます。
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宇宙旅行実現のために必要なものは、フロンティアスピリット!
みんな若くて、恐れ知らずで、数々のロマンチックな幻想を抱いていた。ケネディ大統領が掲げた目標が達成不可能なものだと思う者はいなかった。
ケネディ大統領が月を目指した時代は、NASAのスタッフも大統領同様若かったのです。アポロ11号の月面着陸ミッションのとき、管制室のスタッフの平均年齢はわずか26歳で、フライトディレクターを務めたジーン・クランツも35歳の若さでした。この頃のNASAはパイオニアであり続け、火星に探査車を送ったのをはじめ、探査機を宇宙へ送って、次から次へと大計画を成功させ、太陽系の探査を進めました。
しかし、数十年後、スペースシャトル時代の全盛時には、NASAの平均年齢は50歳近くまで上昇し、リスクを避けようとする傾向が強まりました。特に、チャレンジャー号の事故で7人が亡くなり、さらにコロンビア号の事故でふたたび7人が亡くなったあとは官僚主義に陥り、新たなビジョンを掲げられず、宇宙開発は事実上ストップしたのです。
その一方、マスクはNASAにとって変わる存在になりました。スペースXを創設し、火星への移住をめざすと同時に、宇宙旅行を史上最高の冒険、失われた古代都市を探すこと以上に素晴らしい冒険だと捉えたのです。
わたしが何より興奮するのは、想像しうる最も壮大な冒険だってことだ。最高に胸が躍る冒険だ。火星に基地をつくることよりわくわくすること、楽しいこと、未来への夢が広がることはわたしには思いつかない。(イーロン・マスク)
マスクはとてつもない困難にチャレンジし、なんども失敗を繰り返しますが、その度に不死鳥のように蘇ります。
特に、1億ドルという莫大な資産と大量の開発時間を費やした最初のロケット発射(2006年)が、失敗に終わった時のマスクの落胆ぶりは有名です。頑丈だったロケットがわずかな時間で粉々になるのはつらいものですが、彼はその失敗を乗り切り、スタッフを元気づけるのです。その後、彼のスペースXはNASAからの出資を受け取り、ロケットビジネスでの地位を固めていきます。ボーイングやロッキードはこの時大きな判断ミスを犯し、マスクに宇宙旅行のビジネスの陣地を奪われてしまうのです。
マスクはアメリカの建国時と同様、フロンティアスピリットを持ち、チャレンジを続けることで、自由に宇宙旅行が行われるようになると信じていました。3回目の失敗では資金ショートの危機に陥りましたが、4つ葉のクローバーをミッションワッペンに付け足した4回目の実験で、スペースXのファルコン1は見事に軌道に到達します。実況中継した際に使われた言葉は、彼らの幾多の困難を短く凝縮しています。
スペースXはゼロからこの宇宙機を設計し、製造しました。真っ白な紙に図面を書くことから始まった設計も、あらゆる試験も、すべて、自社で行ないました。外部には委託していません。わたしたちは従業員わずか500人の一企業の力でこれを成し遂げました。それも6年のあいだにここまでのことをすべて行ったのです。
このマスクの成功によって、宇宙プロジェクトが、国家ではなく民間でも可能であることが証明されたのです。
しかし、マスクがNASAから認められた頃、ある男から横槍が入ります。2013年にベゾスがNASAの発射台(第39A発射台)の入札に参戦し、マスクとの戦いがスタートします。秘密裏に実験を重ねていたベゾスのブルーオリジンが表舞台に登場し、この頃から宇宙ビジネスの世界が俄然面白くなります。実際、この時にはベゾスはロケットを用意できずに、マスクが発射台の権利を得ます。しかし、その後、ベゾスは訴訟や特許申請で戦略的に動き、マスクを苛立たせます。
マスクやベゾスという宇宙起業家が熱い思いで切り開く未来を同時代に体験できることは、本当に幸せなことです。2人はNASAの過去のストックを探し出し、それを再利用し、コストを落とすことに執念を燃やします。兎と亀はコストカッターという面では、実は似た者どうしだったのです。本書は宇宙産業の今を実感できる良書で、様々な登場人物からイノベーティブな発想法を学べます。ぜひ、2013年以降の両者のせめぎ合いを本書でお楽しみください!
まとめ
マスクとベゾスという2人の天才が繰り広げる宇宙旅行の軌跡は、とてもエキサイティングで刺激的です。2人の進め方と考え方は兎と亀のように正反対ですが、子供の頃からの夢である宇宙旅行を実現させるための2人のチャレンジスピリットから、私たちは多くのことを学べます。
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