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Think Smart 間違った思い込みを避けて、賢く生き抜くための思考法
著者:ロルフ・ドベリ
出版社:サンマーク出版
本書の要約
対象を「好き」だと感じると、あなたは、「リスクは少なく利益は大きい」と確信するようになり、これを感情ヒューリスティックと言います。世の中の動きは意外にこの感情ヒューリスティックに左右されていますから、相手の感情をよくすることを意識しましょう。
決定理論とヒューリスティックをどう使い分けるか?
「プラス面」と「マイナス面」をきちんと分けて考察することだ。(ロルフ・ドベリ)
物事を評価する際に、プラス面とマイナス面をしっかりと分けて考察すべきです。そこから得られる「プラス面」をすべてリストアップし、それらの重要度を数値であらわし、そこにそのプラス面が現実のものとなる確率を掛けます。そうすれば、期待値(起こりうる値の平均値)のリストができあがります。
次に「マイナス面」でも同じことをします。考えられるマイナス面をすべてリストアップして数字に置きかえ、そこにそのマイナス面が現実のものとなる確率を掛けます。「プラス面」の数値をすべて足したものから「マイナス面」の数値をすべて足したものを引いた値が、正味の期待値になります。その値がゼロより大きければあなたはそのアイデアの賛成派になります。逆に、ゼロ以下なら反対派ということになります。この決定理論を活用すれば、判断が楽になりますが、こんなふうに、ものごとを決める人はそう多くありません。
著者はその理由を3つあげています。
1、私たちは、「プラス面」と「マイナス面」をすべてリストアップできるほどの想像力を持たない。
実際に、思い浮かぶことには限りがありますし、これまでの経験の範囲を超えてメリットとデメリットを思いつくこともほぼありえません。
2、ほんのわずかな可能性まで予測することは不可能。
めったに起こらない出来事に関してはデータも少ないために、判断できない場合があります。
3、私たちの脳はそうした計算に適していない。
進化の過程において、何ごとに対してもじっくり思案を重ねた人は、肉食動物の腹のなかに消えてしまいました。私たちは即時に決断を下した人たちの子孫であり、回答にいたるまでの時間を短縮できる思考法を使っています。この思考法は「ヒューリスティック」と呼ばれています。英語のHeuristicという言葉は時間のかかる確実さよりも、過去の経験則などに基づき、ある程度のレベルで正解に近いものを見つける方法のことを言います。
定式化された手順で答えを出す問題解決手法とは異なる方法が、ヒューリスティックです。既知の条件が整った環境であれば、決定理論で問題解決すべきですが、未知の問題への対応は、ヒューリスティックの方が有利です。既存のデータを参考にできない場合には、ヒューリスティクスで問題解決を行うようにしましょう。
感情ヒューリスティックとは何か?
もっともよく用いられるヒューリスティックのひとつに「感情ヒューリスティック」があります。私たちは、「とっさに湧き起こった感情」によって、好きか嫌いかの判断を下します。たとえば、「飛行機の騒音」という言葉はネガティブな感情を引き起こしますが、「豪華」という言葉はポジティブな感情を引き起こします。
こうした感情が無意識のうちに生じると、「リスク」と「利益」を分けて考えることができなくなります。実際にはそれらはまったく別ものなのですが、「リスク」と「利益」が同じ感情の糸にまとめられることになります。対象が原子力であろうが、有機野菜であろうが、私立の学校であろうが、バイクを運転することであろうが、あなたがそれらの「リスク」と「利益」をどのように評価するかは、あなたの感情によって決まるのです。対象を「好き」だと感じると、あなたは、「リスクは少なく利益は大きい」と確信するようになります。
「感情ヒューリスティック」がなければ、「リスク」と「利益」を別々に評価できているはずです。例えば、あなたがハーレーダビッドソンを所有し、ある日、ハーレーダビッドソンを運転するときのリスクは、これまで推測されていたよりも大きいという調査結果を読んだと仮定します。そうすると、あなたの注意は無意識のうちに、そこから読みとれる「メリット」のほうに向かいます。「じゃあ、ハーレーで得られる解放感は、これまで考えていたよりももっと大きいってことじゃないか」というように、メリットを評価しようとします。
このような「最初に湧き上がる感情」は、どのようにして生じるのでしょうか?ミシガン大学の研究者たちは、3枚ある写真のうちの1枚を、100分の1秒以下という短い時間だけ光らせる実験をしました。「笑顔の写真」と、「怒った顔の写真」と、「どちらでもない写真」があり、被験者は光ったどれか1枚の写真を見たあとに、無作為に選ばれた言葉が好きか嫌いかを答えなくてはなりませんでした。ほとんどの被験者は、笑顔を見たあとは「その言葉が好き」だと回答しました。
私たちの感情は、一見なんでもなさそうなことに左右されます。「株式市場のムード」と私たちが呼んでいるものも例外ではありません。経済学者のハーシュライファーとシャムウェイは、主要株式市場26か所における、1982年から1997年までの「午前中の日照時間」と「株式指数」の関連を調べました。するとそこには、自然現象や生物の動きから天気を予測する相関関係が認められました。午前中に晴れると、日中の株式市場は上昇します。もちろん必ずしもそうなるというわけではありませんが、上昇することが多いのです。午前中の日光は、どうやら笑顔と同じような作用を人に及ぼします。
世の中の動きは意外にこの感情ヒューリスティックに左右されているのです。対象物への感情によって、人の選択が左右されるなら、自分のビジネスにもこれを活用すべきです。笑顔を意識したり、相手の感情をよくするように自分の態度や行動を変えるようにしましょう。
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