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リビング・シフト 面白法人カヤックが考える未来
著者:柳澤大輔
出版社:KADOKAWA
本書の要約
今回のコロナ禍でテレワークが一気に普及する中で、新しい働き方が模索されています。私たちは好きな場所に住んで、楽しく働く自由を得たのです。この「リビング・シフト(住み方の変化)」によって、様々な場面で自分の価値を提供することで、人生をより豊かにできます。
リビング・シフトとは何か?
もはや自宅を固定する必要さえなくなるかもしれません。自分の好きな場所に移り住んだり、季節ごとに快適な地域を選んで住むことだってできるようになるのかもしれない。ある時代において、あたりまえとされているものの見方や捉え方のことを、パラダイムと言います。インターネットの進化によって、自宅やカフェで仕事ができるようになったことで、ワークスタイルはもちろん、どうやって住む場所を選ぶか、どうやって暮らすかという価値観もまた大きく変わっています。まさにパラダイムが変わろうとしているのです。そのパラダイムの変化を、僕たちは「リビング・シフト(住み方の変化)」と呼んでいます。(柳澤大輔)
今回のコロナ禍は私たちの働き方を一気に変えました。満員電車に乗らずに、自宅をオフィスにすることが当たり前になり、リモートワークが一気に加速しました。長期的に続いた「東京一極集中」が崩れ、「東京も選択肢のうちの一つ」の時代にシフトすることで、ローカルに住む人が増えそうです。大学でもZoomで授業が行われ、東京に住まずに、地方で学ぶ学生が増えていますから、彼らが就職する頃には、東京で働くことは過去の常識になっているかもしれません。
このニューノーマルの働き方を創業時から実践しているのが、柳澤氏が代表をつとめる面白法人カヤックです。鎌倉という素敵な場所で働くことを決め、価値観の同じ社員を集め、楽しい会社を経営しています。
テクノロジーの進化と移動コストが安くなったために、私たちはどこでも働ける自由を手に入れました。場所の制約から解き放たれ、自由に働くことができるようになったのですから、この「リビング・シフト」を実践してみましょう。
「どこに住むか?」「どこで働くか?」にこだわる新しい働き方が当たり前になれば、楽しく働ける人が増えるはずです。東京中心の価値観で考えるのをやめ、旅をしながら働くことで、自分だけでなく、会社や地域もよりよくできます。人が移動し、様々な出会いがデザインされることで、ビジネスやコミュニティが変わっていきます。
テクノロジーのおかげで、どこでも仕事ができることに気づいた私は2014年ぐらいから、月に一度は海外に出かけていました。(今回のコロナ禍でこの働き方はストップしていますが、秋ぐらいからこの働き方を復活したいです)。実は、移動すれば移動するほど、脳が活性化し、アイデアが浮かびます。移動中の体験が過去の知識と体験と結びつき、新たなアイデアが生まれます。東京とそのエリアのギャップを見ることで、脳が刺激され、面白い考えが思いつくのです。当然、旅することで、人との出会いもデザインできます。
旅するだけでなく、そこに居住し、働くことで、コミュニティとの距離が縮まります。東京という時間効率が高いエリアに住むのもありですが、時間軸の異なる場所に住み、ゆったりとした環境で働くことで、見えてくることもあります。
アフターコロナのおかげで、テレワークが当たり前になれば、自分のライフスタイルに合わせて、住む場所を選べるようになります。今後、好きな場所に住み、そこで働き方を組みたてるリビング・シフトが加速していきそうです。
リビング・シフトによって、自分と会社、地域が成長する?
リモートワークや多拠点居住というのは、地域との関係性を育むための重要なツールになってくると思うのです。
リモートワークや多居住拠点を持つことで、様々な会社やコミュニティに属せるようになります。フリーランスとして一人で働くだけでなく、会社に所属することで、刺激を受け、自分を成長させられます。
都市と地方や海外を移動することで、多様な視点を持て、課題を解決できるようになります。多くの組織に加わることで、仲間に出会えるようになります。人とのコミュニケーションや価値を提供し、感謝される機会を持つことで、より楽しく働けるようになります。
私は今、社外取締役やアドバイザリーとして、10の組織で仕事をしていますが、多くの仲間と日々アイデアをやりとりしています。A社でうまくいったノウハウや働き方をB社に応用することで、経営がうまくいくようになります。会社を閉じた空間にするのではなく、プロジェクトベースで、様々なメンバーを加えることで、化学反応が起こり、良いアイデアが生まれるようになるのです。
テレワークが当たり前になる中で、会社に来る意味も作らなければなりません。テレワークで生産性を高めながら、会社に行く時にはコミュニケーションを楽しみ、お互いの価値を認めあえる組織をつくることで、良い会社が生まれそうです。コロナが収束したからと言って、ビフォアコロナの働き方に戻すのではなく、テレワークと移動の自由を社員に与えることで、自社の可能性を広げられます。
現在、カヤックでは社員の9割がリモートワークをしていますが、一緒に働く仲間とのチームワークやコミュニケーションの円滑さを考え、社員が楽しくオフィスで働けるように3密回避を考えたオフィス「NO密(ノーミツ)オフィス」をスタートしています。席数を減らすために、週に2、3日程度の分散出勤を推奨していますが、楽しく働くことを目指せば、どこで働いても構わないのです。
住む場所、働く場所をシフトすることで、他社やエリアとのコラボが起こります。様々な仲間との共生から新たなビジネスが生まれたり、クラウドファンディングを通じた資金調達が可能になります。
リビング・シフトによって、お金の形そのものも変わっていくのではないでしょうか。なぜなら、自分の好きな地域に住む時代が来ると、その地域に対する帰属意識や愛情が強くなるので、地域通貨、つまり地域に密着したお金が進化していく可能性が高いからです。今、さまざまな地域通貨が生まれています。
属しているコミュニティや好きなものによって、さまざまな種類の地域通貨を持つことが当たり前になります。例えば、「横浜スポーツタウン」の地域通貨を使ってベイスターズを応援して、三陸では漁業を応援するための地域通貨を使って、新鮮な海の幸を楽しむなど、様々な「まちのコイン」を持つようになると著者は指摘します。
カヤックが発行する「まちのコイン」は鎌倉や小田原で実験がスタートしていますが、地域内消費を増やすのではなく、コインを使うことでコミュニケーションが加速することを目指しています。使えば使うほど、地域の人と仲良くなれる通貨ができれば、その街に行くのが楽しくなります。このコインは使わなければ、円に換金できないこと、時間と共に価値が減るという仕掛けによって、地域経済が活性化するようにデザインされています。持っているだけでは意味がなく、使うことで人と仲良くなれるコンセプトが支持されれば、地域からの疎外という移住の課題も解決できます。
「まちのコイン」のアプリをSDGsのゴールと結び付けることで、自分の行動がSDGsに貢献していることを体感できます。この通貨を使えば、地域の社会的課題も自動的に解決できるのです。その地域でしか使えないコインを持つことで、再びそこを訪れようというインセンティブも働きます。
このように楽しい機軸に働くことと旅することを組み合わせることで、自分だけでなく、会社やエリアの可能性を広げられます。パソコンやスマホ、Slack、Zoomなどのテクノロジーによって、私たちはリビング・シフトにチャレンジできるようになったのです。旅をしながら働くことで、人生を今まで以上にエンジョイできるようになるのです。
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