Mockup psd created by Vectorium – www.freepik.com
わかりやすさの罪
著者:武田砂鉄
出版社:朝日新聞出版
本書の要約
わかりやすい情報が現代人を退化させています。わかりやすさを正しいと思うのではなく、その前提条件を疑わないと、わかりやすさの中に巻き込まれていきます。現代という乱暴な議論がまかり通る世界に、ストップをかけたければ、わかりやすさを疑ってみる必要があります。
要約サイトは価値があるのか?
情報が溢れる時代には、必要な情報を嗅ぎ分ける能力がビジネススキルとされる。そして、情報処理の速度や精度が、ビジネスマンとしての通信簿を決める。受け止めなければならない情報はいくらだって流れてくる。そこで、まずは、せめてハズレの情報には触れたくない、という願望が強まる。本など読まずに、的確な要約を提供してくれれば、ハズレに時間を割くことは無くなる。だから、要所だけを教えてくれればそれでいい。そういった怠惰な姿勢に向けたビジネスを、要約者たち(と呼んでみる)は「真の情報だけを厳選」と言い張る。要約者たちは、「養分」の生成がいかなる過程で行われるかを考えたことがあるのだろうか。(武田砂鉄)
日本人は極端な「わかりやすさ」を追求することで、様々なことを失っているとライターの武田砂鉄氏は言います。最近、武田氏のラジオ番組を聞くようになってから、彼の独特の思考法が気になっており、本書を手に取りました。
武田氏はビジネス書の要約サイトを 「真の情報」を書き手のためではなく、受け手のためのビジネスだと言います。要約サイトは本を通読し、ココがポイントであろうと加工する行為ですが、それによって、その本の「真」を掴めるわけではありません。
本を読むことで、私の頭の中にはいくつもの疑問符が浮かびます。著者のメッセージは読んだ本とは異なるが、本当に正しいのだろうか?この引用はどういう意味を持つのだろうか?など私は様々なことを考えながら、本を読み進めます。私は要約サイトをほとんど使いませんが、それは自分で考える時間を失ないたくないと考えているからです。
要約サイトなどの整理されている情報を斜め読みしても、考える時間は生まれません。デジタルが当たり前になる中で手軽なものを読む時間が増え、思考する時間がどんどん失われています。私がこの書評ブログを書いているのは、アウトプットするためには大量なインプットが必要で、読む時間を確保することが、考える時間につながると気づいたからです。本を通じて、著者との対話を続けることで、様々なヒントが見つかります。それはとても遠回りなことなのですが、要約サイトにそれを任せてしまうと自分のためになりません。
知識と体験を組み合わせることで、自分らしいアイデアが生まれます。本を読み、著者としつこいくらい対話することで、私たちは思考する時間を持てるようになるのです。
「わかりやすさ」は民主主義を退化させる?
検索できるのは自分の知っていることのみ、とはよく言われる。そうならないよう、検索未満のうっすらとした記憶や興味を、特定の場所を俳徊することによって形にしたい。
要約サイトやWEBニュースばかりを見ていると、自分の知らないことと出会えなくなります。好きな情報ばかりを選んでいると、新たなニュースとの偶然の出会いがなくなります。様々な情報を徘徊し、偶発性を求めなければ、知識や体験は積み上がらず、目の前の情報を鵜呑みにしてしまいます。結果、権力者たちに思い通りにコントロールされて、いつの間にか民主主義は退化していきます。
情報に対して受け身になることで、私たちの思考は停止します。わかりやすさを受け入れることで、私たちは国やメディアにコントロールされ、結局は自由を失ってしまうのです。
不便が生じるところには必ず、その状態ならではの思考が浮上する。「わかりにくさ」もこれに似ている。わかりにくいものをわかりやすくすることは難しいことではない。切り刻んで、口にしやすいサイズにすることはおおよそ達成することができる。でも、それを繰り返していると、私たちの目の前には絞り出された選択肢ばかりが提示される。選択肢が削り取られる前の状態を知らされなくてもそのことに慣れてしまう。
「わかりやすさ」は考えるという習慣を持つ人間の営みに反していると著者は指摘します。わかりやすさを正しいと思うのではなく、その前提条件を疑わないと、わかりやすさの中に巻き込まれてしまいます。現代という乱暴な議論がまかり通る世界に、ストップをかけたければ、わかりやすさを疑ってみる必要があります。わかりやすいニュースや要約サイトを受動的に受け入れることは、人間にとってとてもリスクのあることなのです。
ブロガー・ビジネスプロデューサーの徳本昌大の5冊目のiPhoneアプリ習慣術がKindle Unlimitedで読み放題です!ぜひ、ご一読ください。
|
コメント