ものの見方が変わる 座右の寓話
戸田智弘
本書の要約
正解のないVUCAの時代には、新たな課題を定義する力が必要になっています。他者と同じように論理的に考えるだけでは、競合との差別化はできません。ロジカルな左脳に頼るだけでなく、直感的な右脳を使い倒すことで、イノベーションを生み出す力を鍛えることができるのです。
早合点を防ぐ3つの方法
京の蛙は「噂に聞いた難波の名所も、見てみれば何ら京と変わらない。しんどい思いをして大阪に行くよりも、これからすぐに帰ろう」と言った。大阪の蛙は「花の都と噂に聞いたが、大阪と少しも違わぬ。おれも大阪に帰る」と言い残し、のこのこと帰った。両方の蛙は向こうを見た心づもりであったが、実は目の玉が背中についているので結局は古里を見ていたのだ。(戸田智弘)
ものの見方が変わる 座右の寓話を読むことで、久しぶりに京都の蛙と大阪の蛙という昔話に触れました。寓話を読むことで、人生の教訓や真理を再確認できます。本書にはイソップの寓話や日本や世界の昔話が著者の視点で紹介されており、物事を多面的に考えられるようになります。
京都と大阪の蛙の話は、早合点を戒める話で、視野を広げることを忘れてはいけないという教訓が得られます。京都の蛙は大阪の町がは立派な町だと聞きつけ、大阪の蛙は京都の町が美しいという話を聞き、お互いの町を訪問することにしました。二匹の蛙は京都と大阪の真ん中にある天王山の頂上で出会い、挨拶を交わし、今までの旅の苦労話をします。そして、つま先で立ち上がり思い切り背伸びをして、天王山から町を見下ろすことにします。
京都の蛙は大阪を、大阪の蛙は京都を見ていたつもりでしたが、蛙の目玉は背中についていたため、それぞれの出身地を見ていたのです。二匹の蛙はここで旅をやめ、自分の街に帰ることを決め、旅をやめてしまうのです。
早合点とは「よく聞かないで分かったつもりになること。また、十分に確かめないで勝手に承知すること」すが、この早合点によって、人間関係が壊れることがあります。それを避けるために、著者は3つの方法を紹介します。
1、集中してよく聞くこと
何か別のことをしながら、あるいは何か別のことを考えながら話を聞くのはNG。相手の話を傾聴するようにしましょう。
2、人の話は最後まで聞くこと
途中で話に割り込むのはなによりも相手に失礼だし、早とちりのもとになります。
3、確認すること
自分はこのように理解したと伝え、それで間違いはないかと相手に確認するようにしましょう。
「聞く」場面に限らず、「見る」という場面でも私たちはしばしば早合点をします。物を見る際にも注意を怠らず、早合点しないようにしましょう。
経営者は左脳と右脳を組み合わせよう!
見ることは喋ることではない。言葉は眼の邪魔になるものです。例えば、諸君が野原を歩いてゐて一輪の美しい花の咲いているのを見たとする。見ると、それは菫(すみれ)の花だとわかる。何だ、菫の花か、と思った瞬間に、諸君はもう花の形も色も見るのも止めるでせう。諸君は心の中でお喋りをしたのです。菫の花という言葉が、諸君の心のうちに這入って来れば、諸君は、もう眼を閉ぢるのです。それほど、黙って者を見るといふ事は難しいことです。(小林秀雄)
忙しい現代人は観察することを忘れ、自分の体験よりインターネットの情報を重視ます。情報を知ることで、見ることをやめたり、思考を止めてしまうのはもったいないことです。早合点を防ぐためにも、他者の情報に左右されずに、自分の頭で考えるようにしたいものです。
本書には、「ナスルディンの鍵」の話と経営学者のヘンリー・ミンツバーグの「計画は左脳で、経営は右脳で」という言葉が紹介されています。ナスルディンはただ明るいからという理由から、鍵があるはずがない場所(街灯の下)を探していました。鍵がある可能性がないにも関わらず、明るく探しやすい場所を優先したのです。
ミンツバーグはこの寓話から、左脳のはたらきを明るさに、右脳のはたらきを暗さにたとえ、経営の重要なカギは左脳ではなく、右脳に存在すると主張しました。
多くの経営者は、ナスルディンのように経営のカギを「理論的な分析」という明るさの中のみで探しています。しかし、ミンツバーグは、経営のカギは直感的な暗闇の中に沈んでいるのではないかと考えたのです。優れた経営者とは、右脳の効果的な活動と左脳の効果的な活動を組み合わせることができる人だというのが、ミンツバーグのメッセージになります。
正解のないVUCAの時代には、新たな課題を定義する力が必要になっています。他者と同じように論理的に考えるだけでは、競合との差別化はできません。アートや哲学や歴史など人文学系の学問を学ぶことで、新たな課題を発見できるようになります。ロジカルな左脳に頼るだけでなく、直感的な右脳を使い倒すことで、イノベーションを生み出す力を鍛えることができるのです。
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