SLOW 仕事の減らし方――「本当に大切なこと」に頭を使うための3つのヒント
カル・ニューポート
ダイヤモンド社
SLOW 仕事の減らし方(カル・ニューポート)の要約
スローワーキングとは、「仕事を減らす」「心地よいペースで働く」「クオリティにこだわる」という3原則に基づく働き方です。現代社会では多くの知的労働者が会議やメール対応に追われる「ニセモノの生産性」の罠に陥っています。スローワーキングは単に仕事をサボることではなく、戦略的に仕事量を削減し本質的な業務に集中することで、持続可能かつ質の高いアウトプットを生み出す方法です。
生産性を高めてくれるスローワーキングとはなにか?
ゆっくりと、静かに働くほうが生産性が高い可能性もある。(カル・ニューポート)
現代社会において、多くの知的労働者が「ニセモノの生産性」という状況に陥っているとジョージタウン大学准教授のカル・ニューポートは指摘します。私達はToDoリストやオンライン会議、メールやチャットへの対応に追われ、常に多忙であるにもかかわらず、本当に重要なことに時間を使えていません。
このような状況は、知的労働者を疲弊させ、燃え尽き症候群へと導く可能性があります。 どれだけ時間を使っても、満足のいく成果を上げられず、焦燥感だけが募ります。これはまさに「ニセモノの生産性」の罠にはまっていたと言えるでしょう。しかし、重要なのは、この状況に気づき、そこから抜け出すための戦略を立てることです。
本書の著者のカル・ニューポートは、このような状況に対する有効な解決策として、「スローワーキング」という働き方を提案しています。スローワーキングとは、やるべきことを減らし、余裕のある心地よいペースで働くことで、クオリティにこだわり抜く働き方です。これは単に「仕事をサボる」こととは全く異なります。
むしろ、戦略的に仕事の量を減らし、本当に重要なタスクに集中することで、より質の高い成果を生み出すことを目指すものです。 以前、私も仕事の効率化を追求するあまり、目の前のタスクをただこなすだけの状態に陥っていました。しかし、それでは創造性や深い思考は生まれません。スローワーキングの考え方を取り入れることで、仕事に対する姿勢を根本的に見直す必要があると感じました。
ニューポートは、スローワーキングを実践するための具体的な方法として、「スローワーキング3原則」を提唱しています。これは、「仕事を減らす」、「心地よいペースで働く」、「クオリティにこだわり抜く」という3つの原則から構成されています。
第1原則:削減 ── やるべきことを減らす やるべきことを大幅に減らし、すべて終えてもたっぷり時間があるくらいにしておこう。少数の重要な仕事に力を注ぎ、大きく前進しよう。
まず、「仕事を減らす」ためには、自分の仕事を徹底的に見直し、本当に必要なものとそうでないものを区別する必要があります。不要なタスクや会議を削減し、重要な仕事に集中するための時間を作り出すのです。仕事量が増えてくると、やがて間接作業のコストが臨界点を超え、タスクを管理するための作業が1日のスケジュールの大半を占めるようになります。
既存のタスクを終わらせるだけの時間がとれなくなると、負のスパイラルに陥ります。やるべき仕事はどんどん積み重なり、何ひとつ前に進まず、間接作業だけで1日が終わっていくのです。 興味深いことに、引き受ける仕事を減らすほうが、アウトプットは明らかに増えます。本来の仕事に使える時間が増えるだけでなく、やるべきことを減らせば、仕事をする時間の「質」も高まります。
仕事を規模別に「ミッション」「プロジェクト」「ゴール」の3つに分類し、それぞれに上限を設けることで、成功率が高まります。 スローワーキングを実現するためには、小さなタスクの束縛を逃れ、大きな目標に取り組む自由を手に入れる必要があります。
1日に取り組むプロジェクトはひとつだけに絞り、それ以上は手をつけないという方法も効果的です。もちろん、一日中それだけをやるという意味ではありません。必要なミーティングやメールの返信、書類仕事はこなしつつも、「今日達成すべきゴール」をひとつのプロジェクトに絞り込むのです。
小さなタスクは、ある程度の量が積み重なると、まるでシロアリのように生産性を食いつぶします。ほんのちっぽけなタスクが、大きな仕事の土台をすっかり揺るがしてしまうのです。だから小さなタスクをあなどってはいけません。全力で手なずける必要があります。
非同期のコミュニケーションをやめ、たった30分の同期セッションをするだけで、集中を途切れさせるメールチェックや何時間もの返信の応酬からチーム全員が解放されます。コミュニケーションの同期化はシンプルですが、非常に効果的な手法です。場当たり的なコミュニケーションをなくして仕事の中身だけを抽出すれば、それ自体は思ったほど時間も労力もかからない可能性があります。
仕事をするのは人間なのだから、スローワーキングが必要
第2原則:余裕 ── 心地よいペースで働く 重要な仕事を急いではいけない。自然で無理のないペースを心がけよう。遊びと変化を取り入れて、最高の成果につながる環境を作りだそう。
「心地よいペースで働く」ためには、重要な仕事を急がず、自然で無理のないペースを心がけることが大切です。遊びと変化を取り入れて、最高の成果につながる環境を作りだしましょう。重要な仕事にたっぷりと時間を割り当て、ときには集中し、ときには休みながら、無理のないペースで働くアプローチは、持続可能で人間的であるだけでなく、大きな成果を上げるための長期的戦略としてもすぐれています。
スローワーキングは、無理をせず自然なペースで働くことを提案しています。そのために大事なのは、「時間がかかる」という現実に慣れることです。重要なプロジェクトが形になるのを焦らずゆっくりと待てばいいのです。
過去70年のあいだ、私たちは急ぎ続けてきましたが、うまくいっているとはいいがたい状況だと著者は言います。そろそろ、ゆっくりしてもいい頃合いなのかもしれません。私は最近ワーケーションを取り入れ、定期的に自然に触れ合える環境で仕事を行っていますが、これによりゆっくり考える時間が持てるようになり、生産性が高まっています。
第3原則:洗練クオリティにこだわり抜く仕事の品質を徹底的に追求しよう。短期的にはチャンスを逃すことになったとしても、の成果は長期的に仕事の自由度を大きく広げてくれる。
著者は、クオリティにこだわり抜き、仕事のレベルを徹底的に高めるべきだと言います。短期的にはチャンスを逃すことになったとしても、質の高い成果は長期的に仕事の自由度を大きく広げてくれます。クオリティの追求は多くの場合、仕事のペースを落とすことに直結しています。質を高めるために必要な集中は、多忙さと両立しないからです。
スローワーキングの第1原則では、非人間的で非効率な過重労働から逃れるために、やるべきことを減らすことを学びました。一方、クオリティを重視する第3原則の観点からいうと、仕事量の削減は選択肢ではなく、必須条件となります。何かをうまくやろうと決めたなら、多忙さを許容するわけにはいきません。実は、第3原則は第1原則を補強するのです。
クオリティを高めるためのひとつの方法として、自分の専門以外のことに没頭することも効果的です。自分の仕事の分野についてはすでに知識があるため、誰かのすぐれた仕事を見ると、力量の差に圧倒されてしまいがちです。しかし、仕事と関係ない分野なら、もっとリラックスして、好奇心をもって新たな知識を吸収できます。
私は人的なネットワークを多様なプロフェッショるに広げていますが、これは本当に効果があります。ビジネス書に加え、仕事には直接関係のない小説や歴史本を読むことで、アイデアの引き出しが広がります。
また、同じ志を持つプロフェッショナルが集まり、たがいに高めあうグループを結成するのも、自分のセンスを磨くための最短の近道です。めざすクオリティの基準が一気に引き上げられます。優秀な人達とプロジェクトベースで仕事をすることで、確実にパフォーマンスが高まります。
スローワーキングを実践することで、私たちは「ニセモノの生産性」から解放され、より充実した働き方を実現することができます。仕事に追われる日々から解放され、本当に大切なことに時間を使うことができるようになるでしょう。
また、心の余裕が生まれることで、創造性や思考力が向上し、より質の高いアウトプットを生み出すことができるようになります。テクノロジーを駆使して次から次へとタスクをこなす疑似生産性に比べると、その進みはむしろ「のんびり」しているくらいかもしれません。
しかし、有意義で価値のある成果は、スローな働き方から生まれてくるのです。 スローワーキングは何よりもまず、日々の慌ただしい激務から距離を置くことをめざしています。その仕事が不必要だと言っているのではありません。
多忙な日々の業務には、たしかにやらなくてはならないタスクや予定が含まれています。でも目がまわるような忙しさは、本当に重要な仕事をやりとげる助けにはなっていないのです。それに気づけば、世界の見え方が変わり始めます。
仕事をするのは人であり、仕事は人間にとって持続可能でやりがいのあるものでなければない。
私自身の経験を振り返ると、40代の頃は目の前の仕事に追われ、心身ともに疲弊していました。しかし、50代になり、独立し、仕事のやり方を見直しました。「好きな人と好きな仕事をする」というルールをつくることで、モチベーションが高まり、以前よりも少ない時間で、より大きな成果を上げられるようになりました。
スローワーキングを真に習得すれば、仕事はたえまないプレッシャーではなく、豊かな意味を与えてくれるものになります。重すぎる負担やストレスから解放され、より価値のある成果を生みだすことができるはずです。これからの時代に求められる新しい働き方、それがスローワーキングなのです。
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