不毛な時間をゼロにする
佐藤悠希
サンマーク出版
不毛な時間をゼロにする(佐藤悠希)の要約
一生懸命働いているのに成果や満足感が得られず、日々の時間の使い方に疑問を感じている人にこそ、『不毛な時間をゼロにする』は必要です。本書は「心のズレ」を【費やした時間】×【心の角度】×【情熱の量】という数式で可視化し、主体性・未来・多様性の問いで行動の軸を整える方法を提示します。特にWill×Can(×Must)に集中し、情熱と能力を生かせる領域に時間を投資することの重要性を説いています。
心のズレを修正し、成果を出す方法
不毛な時間 =【費やした時間】×【心のズレた角度】×【情熱をかけた量】 (佐藤悠希)
朝起きて、今日もまた同じように忙しい一日が始まります。仕事に向かい、家事をこなし、周囲の期待に応えながら精一杯の努力を積み重ねているはずなのに、なぜか心には虚しさが残ります。目の前のタスクを着実にこなしているにもかかわらず、成果が出ている実感がないという方が多いのではないでしょうか?
「こんなに努力しているのに、なぜか成果が見えない」と感じる瞬間があるかもしれません。計画通りに物事を進め、与えられた課題にも誠実に取り組んでいるのに、充実感や納得感が伴わない。このような状況が続くと、「この時間は本当に意味があるのだろうか」と自らに問いかけたくなります。
真剣に向き合っているからこそ、その問いは深く、重くのしかかります。そして、明確な答えが見つからないまま時を過ごすことで、やがて自信を失い、自分の努力に疑念を抱くようになってしまいます。
こうした現象の背景には、現代社会の構造が密接に関わっています。膨大な情報の波、終わりの見えない会議、判断基準が曖昧なまま進められる業務。それらが私たちの集中力と時間を断片化し、本来の目的を見失わせてしまいます。結果として、日々をこなしているはずなのに、人生の本質的な充実からは遠ざかってしまいます。
さらに深刻なのは、この「不毛な時間」が私たちの心と体、そして人生そのものに与える影響です。不毛な時間を過ごすことで、私たちは自分自身への信頼を失います。「また今日も何もできなかった」「また今日も時間を無駄にしてしまった」という自己否定の循環に陥り、やがてそれが慢性的な疲労感や無力感につながっていきます。そして最も恐ろしいのは、自分の人生の主人公としての実感が薄れていくことです。
まるで自分の人生を傍観しているかのような感覚になり、「本当はどうしたいのか」という基本的な問いに答えられなくなってしまうのです。 この状況を放置していると、10年後、20年後のあなたはどうなっているでしょうか?
今の延長線上にあるのは、さらに深刻な時間の空洞化です。テクノロジーの進歩により、私たちの注意力を奪う仕組みはますます巧妙になっていくでしょう。AI がさまざまなタスクを代替するようになっても、人間の時間の使い方そのものが変わらなければ、結局のところ新しい形の不毛な時間が生まれるだけです。
そして最も恐ろしいのは、この不毛な時間の蓄積が、あなたの人生から本来持っているはずの可能性と創造性を完全に奪い去ってしまうことです。 しかし、ここに希望があります。実は、この「不毛な時間」の正体を理解し、それに対処する具体的な方法を身につけることで、あなたの人生は劇的に変わるのです。
このような問題に対して、佐藤悠希氏の不毛な時間をゼロにするは、理論と実践の両面から具体的な処方箋を提示しています。著者はアドラー心理学を背景に、人間は誰もが自分の人生の主人公でありたいという本能的な欲求を持っていると説きます。
アドラー心理学の核心である「自己決定性(主体性)」の考えに基づき、自分の生き方や時間の使い方を自ら決めるという姿勢こそが、人生の質を決定づけるのです。主体的な選択を重ねる人は、不毛な時間に囚われることなく、自分らしい豊かな人生を歩むことができると著者は力強く語ります。
佐藤氏は、まず「不毛な時間」を【費やした時間】×【心のズレた角度】×【情熱の量】という方程式で定義します。本書は多くの人が自覚しにくい“心のズレ”に着目し、それが原因で時間と情熱がまるで無駄に消費されてしまう構造を明らかにしています。
この「心のズレ」を是正するための方法として、著者は「魔法の問いかけ」という3つの視点を紹介しています。第1は「主体性を問う問いかけ」です。「本当はどうしたいのか」「どうしたらできそうか」「そのために何ができるか」と自分自身に問いかけることで、内面からの動機に気づき、行動の軸を再確認するきっかけになります。
これはまさに、スティーブン・R・コヴィーの『7つの習慣』で述べられている「主体性の原則」にも通じます。コヴィーは「私たちは反応する存在ではなく、選択する存在である」と語り、状況や環境に左右されるのではなく、自らの価値観に基づいて行動を選ぶプロアクティブ(自発的)な姿勢の重要性を強調しています。
プロアクティブであるとは、責任を自らの手に引き受け、自分の人生を自分の選択で動かしていくことです。自分の価値観と目的を明確にし、自らの選択によって行動を決めるという姿勢が、現代の混沌とした環境においてこそ、より一層求められているのです。
第2は「未来を問う問いかけ」です。「どうだったら最高か」「数年後どうなりたいか」「10点満点の状態はどんな姿か」といった問いを通じて、理想のビジョンを描くことができます。脳は空白を埋めようとする性質があり、明確な目標があればあるほど、そこに向かって自然と行動が定まっていくのです。
私自身も過去に断酒を決意したとき、「子どもが誇れる親になる」「著者として本を出版する」という目標を掲げました。そのビジョンがあったからこそ、日々のインプットとアウトプットが自然と習慣になり、数年後には夢であった出版を現実のものとすることができたのです。
第3は「多様性を問う問いかけ」です。「なぜそう思うのか」「何が大事なのか」「それは何のためか」といった問いを重ねることで、価値観の根源を探り、他人軸ではなく自分軸に立脚した行動へとつながります。
自分のWillのために時間を使おう!
【Will(やりたい)】 自分がモチベーション高く取り組めること。
【Can(できる)】 自分の経験や能力であればやれること。
【Must(やらなきゃ)】 仕事や家庭などで、どうしてもやる必要があること。
これらの問いかけによって得られた気づきを実行に移す手段として、著者は「will(やりたいこと)」「can(できること)」「must(やらねばならないこと)」の3つの円を使ったフレームワークを提案しています。それぞれのタスクを分類することで、自分がどこにエネルギーを注ぐべきかが視覚的に明確になり、不毛な努力を手放し、本当に価値ある行動に集中できるようになります。
特に注目すべきは、「will×can(×must)」の領域です。ここに該当するタスクは、自分がやりたいことでもあり、能力的にも実行可能なため、積極的に取り組むべき中核領域となります。
一方で、willがあってもcanに乏しい領域については、自分のスキルを磨く努力や、周囲に協力を求めることが必要です。目指すべき未来のために、意図的に能力を育てていく意識が重要になります。
また、willが存在しないタスクについては、たとえcanやmustが重なっていたとしても、その必要性を一度立ち止まって再検討すべきです。やりたくもなく、内面的な動機もないままに惰性でこなしているタスクが、実は不毛な時間の大きな要因となっているかもしれません。
そうしたタスクは、自分が本当に担うべきなのか、他者に委ねる選択肢はないのか、あるいはやめるという選択が適切ではないかを見極めるべきです。
この中でも「will」の領域、すなわち自分が心からやりたいと思えることに着目することは、特に重要です。「やりたいこと」に時間と労力を投じることができれば、それは自己肯定感やモチベーションを大きく引き上げます。しかし、日々の忙しさに追われていると、私たちはこの「will」に目を向けることすら忘れてしまいがちです。
著者は「willを見つめ直すことが、自分自身の可能性を広げる第一歩になる」と述べています。 たとえば、「やりたいけれど今は忙しくて無理」と思っていたことに対して、ほんの少しでも時間を確保して取り組むだけで、自分の時間の質は劇的に変化します。
私は毎朝、自分のWill(ビジョン)とその日の予定を確認し、自分のやりたいことに時間を使っているかをチェックするようにしています。もし時間が割けていないと感じたら、たとえ短時間でもその時間を意識的に確保するようにしています。自分の情熱を注げることに触れる時間を持つことで、心に余裕が生まれ、結果的に他のタスクにも良い影響を与えることができるのです。
「will×can(×must)」の領域に集中することは、最も効果的で充実した時間の使い方であるといえます。やりたいことであり、かつ自分の能力で実行可能なタスクは、自信と成果の両方を生み出してくれる領域です。
一方、「willがあるがcanが足りない」領域、すなわち「やりたいけれどまだできないこと」へのアプローチも見逃せません。ここでは、自分のスキルを伸ばすための学習や、人に助けを求める姿勢が必要になります。できないからやらないのではなく、どうすればできるようになるのかを探る姿勢が、自分の成長を促進し、将来的には「できること」の幅を広げていきます。
そして「mustのみ」の領域、つまり「やらねばならないがやりたくない、あるいはできないタスク」は、最も注意が必要です。ここに時間を奪われすぎると、心の疲弊が大きくなり、自分の価値を見失いやすくなります。
本当にそのタスクは自分が担うべきものなのか。誰かに任せることはできないのか。やめるという選択肢はないのか。著者はこの領域の見直しを「不毛な時間を削減する最優先事項」としています。
さらに、AI時代を迎えた今、人間の役割はますます「共感」や「創造」に移りつつあります。単純作業はAIに任せ、人間にしかできない感情的なつながりや価値判断に時間と意識を集中する必要があるのです。著者はその未来に向けて、私たち一人ひとりが自分の時間をどう選び取るかが重要であると強調します。
先日、著者の佐藤氏と勉強会で同席した際には、アドラー心理学やコーチングに関する議論で盛り上がりました。私自身もコーチングの力を借りて理想のビジョンを描き、それを言語化・映像化することで、悪い習慣を良い習慣に変えることに成功した経験があります。そのため、佐藤氏のメソッドには強い共感を覚えています。
また、ポジティブ心理学でも「最高の自分(Most Possible Self)」を想像することが、幸福感や楽観性、前向きな感情を高めることが分かっています。30件以上の研究で裏づけられているこの効果は、未来を具体的に思い描くほどに、現実の行動を変える力として働きます。将来の理想像が明確になることで、私たちは今何をすべきかを自然と理解し、迷いや無駄を減らしていくことができるのです。
悩み続ける時間や、意図のない会話、意味の薄い行動を減らし、本当に大切な選択や決断に時間とエネルギーを注ぐ。そのためには、自分がどんな時間を生きたいのかを、自ら選び取る姿勢が欠かせません。そして、そこにどんな価値を見いだすのかも、他人ではなく自分自身にしか決められない問いなのです。
だからこそ、他者の期待や評価ばかりに従うのではなく、「自分はどうありたいか」と問い続けることが大切です。その答えを見つけたなら、自らの選択に責任を持ち、それを積み重ねていくことで、不毛な習慣は少しずつ手放されていき、やがては価値ある習慣へと置き換わっていきます。
『不毛な時間をゼロにする』は、現代のビジネスパーソンや家庭を支える人々にとって、時間との向き合い方を根本から見直すきっかけを与えてくれる一冊です。
私たちの人生も、ほんの小さな「心のズレ」を修正するだけで、想像を超えた未来へと近づくことができます。実際に私自身も、断酒を決意した2007年以降、読書とSNSやブログでの発信の習慣化、そしてコーチングを通じて心のズレを整えたことで、人生が大きく変わりました。
かつては成果の出ない日々に自己否定を繰り返していた私が、今では社外取締役やアドバイザー、大学教授、そして著者として複数の役割を担うまでになりました。この変化の核心にあったのは、「自分はどうありたいのか」という問いを絶えず投げかけ、それに誠実に向き合い続けたことです。 どんなに優れたノウハウや情報を手に入れても、時間の主導権を取り戻さなければ、本当の変化は生まれません。
本書は、まさにその主導権を自らの手に取り戻すための、知的で実践的なガイドとなる一冊です。もしあなたが今、「こんなに頑張っているのに、なぜか満たされない」と感じているなら、この本がその違和感を解きほぐし、あなた自身の時間と人生に新たな意味をもたらしてくれることでしょう。
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