ありえない出来事は、実はありえる──『まさか!?』と「ありえなさの原理」を仕事の武器にする

white and black dice on brown wooden table

書籍:偶然の統計学
著者:デイヴィッド・J・ハンド
出版社:早川書房
ISBN-10 ‏ : ‎ 4150505101

30秒でわかる本書のポイント

【結論】:「ありえない偶然」は奇跡ではなく、5つの数理法則(不可避・超大数・選択・確率てこ・近いは同じ)が組み合わさって生まれる統計的必然です。
【原因】:人間の認知バイアスと統計的リテラシーの欠如により、私たちは偶然を過大評価し、存在しないパターンに意味を見出してしまいます。
【対策】:5つの法則を日常に適用する訓練、分母思考、批判的データ読解、試行回数の増加を実践し、偶然を設計する側に回ることです。

本書の3行要約

「ありえない偶然」は、不可避・超大数・選択・確率てこ・近いは同じ、という5つの法則が組み合わさって生まれる統計的必然です。私たちは認知バイアスによって偶然を過大評価し、存在しないパターンに意味を見出してしまいます。この仕組みを理解し、分母思考・批判的データ読解・試行回数増加を実践することで、運に振り回されない意思決定が可能になります。

おすすめの人

・データに基づいた意思決定を求められるビジネスリーダーや経営者
・リスク管理やマーケティング戦略に携わるプロフェッショナル
・占いやジンクス、スピリチュアルな説明に頼りがちな人
・統計学や確率論に苦手意識があるが、実用的に理解したい人
・「運が悪い」と嘆くのではなく、科学的に状況を改善したい人

読者が得られるメリット

・偶然を冷静に分析し、感情に流されない判断力が身につく
・生存者バイアスや確証バイアスといった認知の罠を回避できるようになる
・ビジネスにおけるリスク評価の精度が劇的に向上する
・「試行回数を増やす」という科学的アプローチで成功確率を高められる
・オカルトや陰謀論に惑わされず、理性的な思考を維持できる 

ありえなさの原理の5つの法則

ボレルの法則によれば、(十分に)起こりそうにない出来事はとにかく起こらないものと思うべきだ。なのに、そんな出来事が現に起こったところが何度も目撃されてきた──その理由はありえなさの原理が教えてくれる。私たちがそうした物事を目にするのは、何かが必ず起こるはずであること(不可避の法則)、かなり多くの可能性が調べ上げられていること(超大数の法則)、目を向ける先が事後に選ばれていること(選択の法則)といったありえなさの原理のより糸を私たちが考え合わせていないからである。(デイヴィッド・J・ハンド)

宝くじで2回連続の大当たり。生涯で7回も雷に打たれた男。ワールドカップの試合結果を次々と的中させたタコのパウル。そして、「100年に1度」のはずなのに、なぜか数年おきにやってくる金融危機——。 こうした話を聞くと、私たちはつい「奇跡だ」「運命に違いない」とついつい考えます。

人間の脳は、世界を理解するために「物語」を求めるようにできています。だからこそ、本来なんの意味もない偶然の出来事にまで、つい筋書きを読み取ってしまうのです。

でも、ちょっと立ち止まって考えてみると答えは変わります。 直感的には信じがたいこれらの出来事。本当に「奇跡」なのでしょうか? それとも、私たちの直感のほうが間違っているのでしょうか?

インペリアル・カレッジ・ロンドンの数学名誉教授であり、統計学の世界的権威であるデイヴィッド・J・ハンドは、偶然の統計学The Improbability Principle)でこうした現象をわかりやすく説明します。

本書を読み終えるころには、日常の「まさか」に対する考え方が変わります。 結論から言えば、奇跡は「低確率だから起きない」のではありません。試行回数、見方、条件のゆらぎが揃うと、奇跡はむしろ起きるのが当たり前になります。

著者が最初に持ち出すのが、フランスの数学者エミール・ボレルが提唱した「ボレルの法則」です。 その内容は、驚くほどシンプルです。 「確率が十分に小さい事象は、事実上、絶対に起こらない」。 たとえば、サイコロを振って1が100回連続で出る確率。計算すれば数字は出ますが、その確率はあまりにも小さく、宇宙の年齢を何度繰り返しても実現しないレベルです。

ボレルはこうした「限りなくゼロに近い確率の出来事」に対して、「それは起こらないものとして扱っていい」と線を引きました。 ここまでは直感とも一致します。「そんなことは起こらないだろう」——私たちの日常感覚そのものです。

ところが、話はここからひっくり返ります。 ボレルの法則が本当に教えてくれるのは、「何が起こらないか」ではなく、「何が起こりうるか」の境界線です。裏を返せば、その境界線の内側にある出来事は——私たちがどれほど驚こうと——「起こりうる」どころか「いつか必ず起こる」のです。

<宝くじに2回連続で当選した人のニュースや、サッカーW杯の試合結果を次々と的中させたタコの話を聞くと、私たちは「奇跡だ!」と驚きます。しかし、実際に確率を計算してみると、これらはボレルが引いた「ありえない」のラインのはるか内側——つまり数学的には「十分に起こりうる」出来事に過ぎません。

数字は冷静に「想定内」と告げているのに、私たちの直感だけが勝手に「ありえない」と騒いでいるのです。つまり、バグっているのは確率のほうではなく、それを受け取る人間の脳のほうなのです。

では、なぜ「ありえない」はずのことがこれほど頻繁に起こるのか。著者はこの現象が生まれるメカニズムを「ありえなさの原理」と名づけ、5つの法則として整理しています。これらの法則は単独で作用することもあれば、複数が絡み合って「まさか」の感覚を一気に増幅させることもあります。

①不可避の法則
起こりうる結果を広く並べれば、そのうちどれかは必ず起きます。たとえば全人類でじゃんけんトーナメントをしたら、優勝者は何十回も連続で勝つことになります。確率は天文学的に低く見えても、トーナメントを開催した時点で「誰かが」優勝するのは構造上の必然です。奇跡は個人の神がかった力というより、システムの仕様から生えます。

②超大数の法則
試行回数が十分に大きければ、どれほどとっぴな物事も起こるのです。宝くじに2回当たる確率は「あなた」に注目すると限りなく低いですが、「世界中の誰か」に視点を広げると現実味が増します。膨大な人数が毎日くじを買う世界では、2回当選は“起こらないほうが不思議”のほうへ寄っていきます。

③選択の法則
人は結果が出てから、都合のいい事象だけを拾います。当たった占いは覚えていて、外れた占いは忘れます。語り継がれるのは「当たった物語」であり、「外れた沈黙」ではありません。私たちは当たった矢の周りにだけ、後から的を描いてしまうのです。

④確率てこの法則
前提条件の小さな差が、確率を劇的に変えます。モデルの世界ではコインは公正で、サイコロは均一です。しかし現実世界は、微細な歪みや偏りがいつも混ざっています。しかも、その偏りは往々にして見えません。見えないから、痛いのです。

⑤近いは同じの法則
人は「近い」ものを「同じ」とみなしてパターン認識します。性格診断が当たって感じるのは、曖昧な記述を自分用に翻訳してしまうからです。「完全一致」だけを求めれば確率は小さくても、「似ている」まで許せば確率は跳ね上がります。奇跡は、許容範囲を広げた瞬間に増産されます。 ここまでが「なぜ奇跡が起きるのか」の説明です。

細い糸が束になるとき——「ありえない」が「ありえる」に変わる構造

人間は概して、例を思い浮かべるのが簡単な場合に確率を過大評価しがちなのだ。

人間は、頭にパッと浮かぶ出来事ほど「よくあること」だと感じます。ダニエル・カーネマンが「利用可能性ヒューリスティック」と名づけたこの認知の癖には、厄介な増幅装置がついています。メディアの露出、SNSのループ再生、感情を揺さぶるストーリー。記憶の鮮度は現実の頻度ではなく、情報の浴び方で決まります。

私たちは世界を「確率」で測っているつもりで、実は「印象」で測っています。 この癖が、本書の主題と正面からぶつかります。宝くじの連続当選も金融危機も、一度ニュースになれば頭の中に居座り、「また起きそうだ」というバイアスを静かに育てます。構造的に起こりうる出来事を、認知のフィルターがさらに過大評価する。二重のトラップです。

本書の真骨頂は、この二重構造をひとつずつ解体していく手際にあります。ハンドが提示する「ありえなさの原理」は、一本の数式ではありません。それは複数の法則という細いより糸の集まりです。一本一本は細くても、より合わさり、なわれ、互いを強め合うことで、あらゆる「ありえない」事象を説明する一本のロープになる。

「不可避の法則」——何かは必ず起きる。「超大数の法則」——試行回数が十分なら、低確率でも現実になる。「選択の法則」——当たりだけを拾う視線の偏り。「確率てこの法則」——前提のわずかなズレが結果を劇的に変える。「近いは同じの法則」——似ているものを同一視して奇跡を量産する心の癖。これらは独立した理屈ではなく、現実の中ではつねに複数が同時に撚り合わさって作用しています。

宝くじの連続当選は「超大数」と「選択」と「近いは同じ」がより合わさったロープであり、金融危機は「確率てこ」と「不可避」が束になった結果です。一本の法則では細くて頼りなく見える説明が、束になると、驚くほどの強度で現実を支えます。

さらに実務で切れ味を発揮するのが、ボレルの法則と尤度の法則です。ボレルの法則は「十分に起こりそうにないことは、起こらないものとして扱ってよい」と割り切ります。だとすれば、もしそれが実際に起きたなら、驚く前に疑うべきはサイコロの側です。データは汚れていないか。観測の定義がズレていないか。偶然を讃えるより、前提を点検するのです。

尤度の法則はさらに踏み込みます。結果がきわめて低確率なら、そもそもの仮定に誤りがある可能性が高いと考えるのです。奇跡を”神秘”として保存するのではなく、仮説修正のトリガーに変えるのです。

この二本もまた、ロープに撚り込まれることで実用的な判断基準として機能します。 私たちは毎日、データで意思決定しています。しかしそのデータは「事実」ではなく「編集済みの事実」です。集計の切り口ひとつで数字はいくらでも物語を変え、物語はたいてい気持ちのいい方向に流れます。

ここに利用可能性ヒューリスティックが重なると、事態はさらに歪みます。メディアで見た成功事例は過大評価され、派手に可視化されたリスクは実態以上に膨れる。確率ではなく想起のしやすさが、判断を引っ張っています、

「選択の法則」を知らなければ、成功事例だけを並べて勝ち筋を語る生存者バイアスに落ちます。同じ施策で静かに退場した企業の墓標は、資料には載りません。「確率てこの法則」を無視すれば、市場環境や規制、為替、競合の一手といった小さな偏りがモデルの外側で育ち、ある日突然、結果だけを書き換えます。

「近いは同じの法則」に気づかなければ、「似ている」を「同じ」に丸めた瞬間、違いのほうが消える。分析は綺麗に、そして確実に間違います。

これらはどれも、単独では「まあそうだろうな」程度の話に聞こえるかもしれません。しかし現実は、つねに複数のより糸が同時に絡み合って動いています。一本ずつほどいて名前をつけ、どの糸がどう撚り合わさっているかを見分けること。それが、偶然に振り回される側から、偶然の構造を理解し、使える側へ移るための技術です。

コンサルタント 徳本昌大のView

 経営者の仕事は、つまるところ「判断の精度を上げ続けること」です。しかも厄介なことに、経営の意思決定はほぼ検証不能なまま走り出します。

市場は動き、競合は黙ってくれず、準備が整うのを待ってはくれない。私たちは常に、不確実性の中で「正しそうな賭け」を繰り返しています。 そういう世界で一番危険なのは、意思決定そのものより、それを支える「前提」がいつの間にか変わっていることです。

本書の価値は、偶然を経営にとって扱える形に変えてくれる点にあります。 ボレルの法則は、十分に起こりそうにない出来事は「起こらない」と扱ってよいと割り切りました。尤度の法則はその先を引き受けます。

観測された結果がきわめて低確率なら、それは偶然ではなく、前提そのものが間違っている可能性が高い——つまり、驚くべきは結果ではなく、自分たちの仮定のほうだと告げるのです。

この二つを組み合わせると、「経営のアラート設計」が手に入ります。数字が想定から大きく外れたとき、「偶然か、前提の破綻か」を切り分ける手順です。

経営者が最もハマりやすいのは”好調の罠”です。業績が跳ねると、組織は自然と「なぜうまくいったか」の物語を編み始めます。そしてその物語は、ほぼ例外なく「自分たちの判断が正しかった」という結論に着地します。しかし尤度の法則は、別の可能性を示唆します。

想定を超える好結果は、実力の証明ではなく、前提のどこかが変わったシグナルかもしれない。市場の風向き、競合の失速、顧客層の静かな移動——。どれか一つが動いただけで、結果の確率は大きく変わります。喜ぶこと自体は健全です。ただし、原因の解像度を上げないまま喜ぶと、成長はあっという間に終わってしまいます。

もう一つ怖いのは、想定外の下振れが起きたときの反応です。現場はつい「予測不能でした」と口にします。気持ちはわかります。しかしボレルの法則に立ち返れば、十分に起こりそうにないことが現実に起きたなら、疑うべきは世界のほうではなく、自分たちのモデルのほうです。

市場が狂ったのではなく、前提が古くなった。顧客が変わったのではなく、こちらの観測がズレていた。危機のたびに環境のせいにすると、モデルは更新されないまま次の危機を迎え、傷はさらに深くなります。

 この本が経営者にとって特に重要なのは、「責任の所在」を個人の才能や努力から、仕組みと前提へ移してくれる点です。

成功を「実力だ」と信じれば、組織は再現できない勝ち方に賭け続けます。失敗を「運が悪かった」で片づければ、同じ構造の負けが繰り返されます。どちらも、学習の回路が止まっている点では同じです。結果に一喜一憂する前に、前提を再度点検すべきです。

だから経営者は、好調のときにこそ「前提の棚卸し」を習慣化すべきです。「この好調は再現可能な構造か」「偶然の組み合わせか」「どの仮定がズレた可能性があるか」。この問いを毎回あえて口にするのです。地味ですが、会社の足腰はこういうプロセスを経ることで強まります。

ボレルの法則と尤度の法則によって、経営の精度は高まります。奇跡に見える数字に出会ったとき、感情ではなく仮説で動けるか。喜ぶ前に点検できるか。恐怖の前に分解できるか。経営者の成熟は、派手な戦略ではなく、こういう小さな反応の積み重ねで決まります。

本書を読んだ後、世界の見え方は静かに変わります。電車で隣の人と服が完全に一致しても、「運命だ」とは思いにくくなるでしょう。

代わりに、「超大数と”近いは同じ”の合わせ技だな」と心の中で微笑む余裕が生まれます。 ただし、統計的に正しいことと、人間として正しい反応は別の話です。避けがたい不幸を「偶然だ」と割り切ることが救いになるとは限りません。

本書の価値は、偶然を否定することではなく、偶然のからくりを知ったうえで、自分の判断軸を持てるようになることにあります。

偶然は、恐れると振り回されます。仕組みとして捉えると、設計の対象になります。運の話で盛り上がるより、前提の解像度を高めることが重要です。結果、ビジネスがうまく回るようになります。

 

最強Appleフレームワーク
この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

Ewilジャパン取締役COO
Quants株式会社社外取締役
Mamasan&Company 株式会社社外取締役
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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