「アドラー」だから自分で動ける部下が育つ 上司の教え方 (永藤かおる)の書評

書籍:「アドラー」だから自分で動ける部下が育つ 上司の教え方
著者:永藤かおる
出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン
ISBN-10 ‏ : ‎ 4799332805

【書評】『「アドラー」だから自分で動ける部下が育つ 上司の教え方』なぜ今、AI時代にこのマネジメント術が必要なのか

「何度説明しても部下が自分で考えて動いてくれない」
「ミスが続くたびに、自分の教え方が悪いのかと悩んでしまう」
「褒めても響かず、任せても考えない」

リーダーや管理職として部下を持った瞬間、多くのビジネスパーソンがこのような壁にぶつかります。この「教え方の悩み」を根本から解決する鍵が、アドラー心理学です。

生成AIが瞬時に最適な答えや解決策を提示できる現代において、マネージャーに求められる役割は「正しい答えを教えること」から、「部下自身の思考を引き出し、自走させること」へと大きく変化しました。

本書「「アドラー」だから自分で動ける部下が育つ 上司の教え方」は、約20年にわたり1万人以上のビジネスパーソンに研修を行ってきた永藤かおる氏が、アドラー心理学における「目的論」や「横の関係」といった本質的な考え方を、ビジネス現場ですぐに使える形に落とし込んだ極めて実践的な一冊です。

こんな人におすすめ

  • 何度教えても部下が同じミスを繰り返し、教え方に悩んでいる管理職・リーダー
  • 褒めても叱っても部下のモチベーションが上がらないと感じているマネージャー
  • プレイングマネージャーとして多忙を極め、部下に仕事を任せきれない人
  • 変化の激しいAI時代における「人間ならではのリーダーシップ」を模索している経営者

30秒でわかる本書のポイント

【結論】: 部下を自走させるには、過去の原因追及をやめ、未来の「目的」を共有し、「横の関係」から勇気づけを行うことが不可欠である。褒めるでも叱るでもなく、対等な立場から貢献の価値を伝えることが、持続的な自発性の源泉となる。
【原因】: 上司が「縦の関係」で正解を教えすぎるため、部下は自分で考える機会を奪われ指示待ちになる。ミス時の原因追及も挑戦意欲を萎縮させ、上司が指示を出し続けなければ回らない悪循環を生む。
【対策】: 教える方は聞き役に徹し、部下の自立自走をサポートする。失敗には「次に何ができるか?」と未来志向で問いかける。日常的に「Iメッセージ」で主観を伝え、自己効力感と共同体感覚を高めていく。

本書の要約

本書は、アドラー心理学の「目的論」「横の関係」「勇気づけ」「共同体感覚」といった概念を、ビジネス現場での「部下の教え方」へと応用した実践書です。著者の永藤かおる氏は、従来のマネジメントで陥りがちな「なぜできないのか?」という原因追及型のアプローチを明確に退けます。人は過去の原因ではなく、「どうなりたいのか」という未来の目的によって動くからです。

また、上司と部下の関係を「縦」ではなく「横(対等)」と捉え、上から目線の評価(褒める・叱る)ではなく、主観や感想を伝える「勇気づけ」の重要性を説いています。「教えすぎると部下は考えなくなる」ので聞き役に徹し、彼らの力を引き出すようにします。

「ソリューションフォーカス」「リフレーミング」や「Iメッセージ」など、現場で直面する困った場面での具体的な対話手法も網羅されており、指示待ち部下を自律型人材へと変革する道筋が体系的に学べます。

本書から得られるメリット

・アドラー心理学に基づいた、部下の「自発性」を引き出すコミュニケーション術が自然と身につく
・「Iメッセージ」や「ソリューションフォーカス」など、即効性のある対話スキルを獲得できる
・トラブル時に「原因」ではなく「目的」に焦点を当てることで、前向きな課題解決力が高まる
・チーム内に「共同体感覚」が育まれ、組織全体のエンゲージメントとパフォーマンスが向上する

「原因」ではなく「未来の目的」に焦点を当てる。

アドラー心理学では、人間関係を「横の関係」として見なすことを大切にしています。「教える側」と「教わる側」ももちろん例外ではなく、それぞれひとりの人としてはあくまでもフラットな関係です。(永藤かおる)

多くの企業では、上司と部下の関係を「上」と「下」で考えがちです。しかし、この関係が強くなりすぎると、部下は緊張し、萎縮してしまいます。その結果、自分で考えるよりも、上司の顔色をうかがうようになります。

公認心理士の永藤かおる氏は、役割としての上下関係は必要だと認めています。上司には責任があり、部下には担当する仕事があります。しかし、人間関係まで上下にしてはいけないと述べています。人としては対等であり、互いに尊重し合う「横の関係」をつくることが大切なのです。

そのために上司に求められるのは、部下をリスペクトする姿勢です。部下に先に変わることを求めるのではなく、上司のほうから相手を尊重し、信頼する行動を起こす必要があります。

また、部下がミスをしたときに「なぜこんなミスをしたのか」と責めても、あまり意味はありません。大切なのは、過去を詰問することではなく、「次にどうすればよいか」「何を目指すのか」を一緒に考えることです。 AIが原因分析を簡単に行える時代だからこそ、人間のリーダーには、未来に向けた問いを投げかける力が求められます。

本書が鋭いのは、「褒めること」さえも、上から目線のコントロールになり得ると指摘している点です。 「よくやった」と評価するよりも、「あなたが頑張ってくれて助かった」と感謝を伝えるほうが、部下は自分の貢献を実感できます。 これが、アドラー心理学でいう「勇気づけ」です。

ただし、その際に注意したいのが、いわゆる「ブリリアントジャーク」の存在です。高い成果を出していても、周囲を見下したり、他者を萎縮させたり、チームの信頼関係を壊す人を放置してはいけません。

成果だけを見て評価すると、「結果を出せば何をしても許される」という空気が組織に広がります。これでは、相互尊敬や相互信頼は育ちません。 これからのリーダーに必要なのは、部下を評価で動かすことではありません。

成果と同時に、他者へのリスペクト、協働する姿勢、チームへの貢献も重視することです。 相互尊敬と相互信頼を土台にし、部下が自分で考え、安心して挑戦できる関係をつくること。これこそが、AI時代のリーダーに求められるマネジメントです。

良かれと思って丁寧に教えすぎることが、結果として部下の「自分で考える力」を弱めてしまいます。上司に必要なのは、すぐに答えを与えることではなく、聞き役に徹し、部下の中にある力を引き出すことです。

上司が聞き上手になると、部下は悩みやトラブルを早い段階で相談しやすくなります。その結果、問題が大きくなる前に手を打てるようになり、組織全体のリスクも下げられます。

生成AIにプロンプトを投げればすぐに答えが返ってくる時代、私たちが意識的に「自ら考える」習慣を持たなければ、知的生産性は低下する一方です。それは組織においても同じです。

上司がすぐに答え(正解)を与えてしまえば、部下はAIの出力を待つユーザーと同じ状態になってしまいます。あえて教えず、自問自答を促すことは、部下の知的体力を鍛えるための最高のトレーニングなのです。

究極のゴールはチームの「共同体感覚」を醸成すること

メンバーが主体的に動くようになるには、「共同体感覚」を感じられる場が不可欠。その場をつくることこそが「教える側」の最初でもっとも重要な仕事。

リレーションづくりには、主に3つの目的があります。
1、安心感・所属感(ここにいて良いと思えること)
2、信頼感・共感(この人たちとなら話せると思えること)
3、貢献感(自分は役に立っていると思えること)

人は、安心できない場所では力を発揮できません。どれほど優秀なスキルを持っていても、「ここで失敗したら責められる」「自分は受け入れられていない」と感じていれば、挑戦よりも自己防衛を優先します。 その結果、発言を控える、失敗を隠す、上司の顔色をうかがう、といった行動が増えてしまいます。

一方で、安心感や所属感があるチームでは、メンバーは自分の意見を出しやすくなります。わからないことを素直に聞けるようになり、困ったときにも助けを求められます。これが、チームの学習力を高めます。 次に重要なのが、信頼感と共感です。

信頼感とは、「この人は自分を攻撃しない」「この人には相談しても大丈夫だ」と思えることです。共感とは、相手の立場や感情を理解しようとする姿勢です。 この2つがあると、上司と部下の関係は、単なる指示命令の関係ではなくなります。仕事の目的を共有し、一緒に考える関係へと変わります。

さらに大切なのが、貢献感です。 人は、自分が誰かの役に立っていると感じたときに、前向きに行動できます。「自分の仕事には意味がある」「自分の存在がチームに必要とされている」と感じられることが、主体性の源泉になります。

同じスキルを持っていたとしても、「共同体感覚」がある人とない人では、行動の質も成果も大きく変わります。 共同体感覚とは、「自分はこのチームの一員であり、仲間とつながり、チームに貢献できている」という実感です。

アドラー心理学では、この共同体感覚をとても重視します。なぜなら、人の悩みの多くは対人関係から生まれ、同時に、人が勇気を取り戻すのも対人関係の中だからです。 だからこそアドラーは、「すべての人が共同体感覚を持つこと」が対人関係のゴールだと考えました。 ここで整理しておきたいのが、「心理的安全性」と「共同体感覚」の違いです。

心理的安全性は、チームの環境です。 共同体感覚は、その環境の中で個人が感じる実感です。 安心して発言できる環境があるから、個人の共同体感覚は育ちます。そして、共同体感覚を持つ人が増えるほど、チームの心理的安全性もさらに高まります。

つまり両者は、一方通行ではありません。 心理的安全性が共同体感覚を育て、共同体感覚を持つ人が心理的安全性を高める。この循環が生まれたとき、チームは強くなります。 これからのリーダーに求められるのは、単に仕事を管理することではありません。

メンバーが「ここにいてよい」「この人たちとなら挑戦できる」「自分は役に立っている」と感じられる関係をつくることです。 その関係性こそが、メンバーの力を引き出し、チーム全体の成果を高める土台になります。

覚えてもらいたい仕事を依頼する場合に、相手に伝えるべき4つのポイントがあります。それは
①具体的なやり方・条件
②望んでいるゴール(完成形)
③いつまでにやるのか(期日)
④どの段階で確認を受けるか

 教える立場の人、リーダー・管理職こそ、「成長のプロセス」「目立たないけれど、当たり前が継続できていること」に目を向け、それを言葉にして相手に伝える姿勢がとても重要なのです。

「よりよく教えたい」という気持ちは、単なるスキル指導ではありません。 相手をコントロールするのではなく、「相手の成長に関わりたい」という意思であり、それ自体がアドラー心理学でいう「共同体感覚」の表れです。

メンバーが主体的に動く組織には、共通点があります。 それは、「評価される場」ではなく、「安心して参加できる場」になっていることです。 人は、命令されたから動くのではありません。 「ここにいていい」「自分の意見を出しても大丈夫だ」と感じたときに、自ら考え、行動し始めます。

だからこそ、教える側に求められる最初の役割は、正解を与えることではなく、“共同体感覚が育つ空気”をつくることなのです。 そのために必要なのが、共感力と観察力です。

共感力とは、単に優しくすることではありません。 相手の立場や感情、背景に想像力を持つことです。 観察力とは、表面的な言葉だけでなく、沈黙、違和感、温度感、小さな変化に気づく力です。 優れたリーダーや教育者は、「何を教えるか」以上に、「相手が今どんな状態なのか」を見ています。

だから一方的に話すのではなく、問いかけ、待ち、相手の内側から言葉が出てくる余白をつくれるのです。 AI時代になるほど、この力は重要になります。 知識やノウハウはAIが高速で提供できます。

しかし、「この人となら挑戦できる」「この場なら自分を出せる」という感覚は、人間同士の関係性の中でしか生まれません。 だからこれからの時代に価値を持つのは、“答えを持つ人”より、“人が動きたくなる場をつくれる人”です。

コンサルタント 徳本昌大のView

私は日々、IPOを目指すベンチャー企業の支援やコンサルティングに関わる中で、多くの経営者やリーダーが「部下が育たない」という壁に直面する姿を見てきました。 しかし実際には、「人が育たない」のではなく、「育つ構造」が失われているケースが少なくありません。

従来型のマネジメントは、「上司が正解を持っている」ことを前提に成立していました。 経験豊富な上司が答えを示し、部下はそれを効率よく実行する。このモデルは、変化が比較的緩やかだった時代には合理的でした。 ところがAI時代には、この前提そのものが崩れ始めています。
知識へのアクセスコストは急速に低下し、情報の非対称性は消えつつあります。 これまで「経験値」とされてきたものの一部は、AIによって代替可能になりました。 つまり、単純な知識量や過去の成功パターンだけでは、組織を牽引できなくなっているのです。

本書が説く「Iメッセージ(私を主語にして感情や考えを伝える)」や「聞き上手」な姿勢は、私自身がビジネスの現場でチームビルディングを行う際にも非常に有効だと実感しています。

思い込みや「こうあるべき」という原因論を捨て、未来に向けて「どうすればよくなるか?」をフラットに話し合える横の関係性をつくること。それは、これからの時代における最強の組織防衛策であり、成長戦略に他なりません。

マネジメントとは、部下を思い通りに動かすための技術ではなく、部下が自らの可能性に気づき、主体的に動きたくなる環境をデザインすることです。

私自身、毎日のタスク管理や知的生産のルーティンを徹底していますが、組織の自走化もまた、リーダーの「勇気づけ」という日々の小さなコミュニケーションの習慣から生まれます。
本書『「アドラー」だから自分で動ける部下が育つ 上司の教え方』は、リーダー自身のマインドセットを根本からアップデートしてくれる一冊です。

FAQ(よくある質問)

Q1: アドラー心理学の専門知識がなくても理解できる内容ですか?

A: はい、全く問題ありません。難解な心理学の専門用語は極力避けられており、「職場のよくある困ったシーン」に当てはめて解説されているため、ビジネスパーソンが明日からすぐに実践できる内容になっています。

Q2: 「教えすぎない」と、ミスが起きて仕事が回らなくなる不安があります。

A: 本書が提唱するコミュニケーション術は、単なる放任主義ではありません。前提として「いつでも相談に乗る」という厚い信頼関係と心理的安全性が必要です。最初は小さな業務から「あなたはどう思う?」と問いかけ、見守る範囲を少しずつ広げていくのがコツです。

Q3: ベテランで自分より年上の部下にも、この「教え方」は通用しますか?

A: むしろ年上の部下に対してこそ、「横の関係(対等な関係)」を前提としたアドラー心理学のアプローチが非常に有効です。上から目線で指導するのではなく、「助かりました」という感謝(Iメッセージ)や、相手の経験をリスペクトした関わり方が、心の壁を取り払ってくれます。

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🖋 書評:徳本昌大 書評ブロガー・ビジネスプロデューサー

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

Ewilジャパン取締役COO
Quants株式会社社外取締役
Mamasan&Company 株式会社社外取締役
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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